No.767603

真恋姫無双幻夢伝 第八章6話『軍師の影』

夷陵の戦い第二戦後の軍議。この戦いに終わりが来るのか?

2015-03-29 17:10:02 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1774   閲覧ユーザー数:1630

   真恋姫無双 幻夢伝 第八章 6話 『軍師の影』

 

 

 2日目の戦いを終えた魏軍と汝南軍の軍議、そこに集まった彼らの表情は暗い。決して負けてはいない。しかしながら、疲れ切った彼女たちは、敗者の顔になっていた。

 華琳は、出来る限りの強がりを見せる。

 

「敵もなかなかね。ひさびさに歯ごたえある相手だわ」

 

 その言葉に反応する者はいない。風は勿論のこと、誰もが疲れ果て、瞼が重くなっていた。

 それでも明日も戦わなければならない。霞が、隣に座っていた春蘭に声をかけた。

 

「なあ、春蘭」

「………」

「春蘭?」

「………」

「おーい?」

「………………はっ。ね、ねてないぞ!寝ていないからな!」

「いや、なにも言うてへんけど」

 

 彼女たちの掛け合いに、アキラと華琳が笑った。それにつられて皆も笑い声を上げ、やっと議場が明るくなった。

 当事者の春蘭は、顔を真っ赤にして、隣でケラケラ笑う霞に憤然と聞き返した。

 

「それで、なんのようだ?!」

「あー、ごめんごめん。おもろかったから、つい。えーと、本題に戻るけど、江陵にいた5万の魏軍がおったやろ。あれと疲れた兵士を交代できるんちゃうかなって」

「それは…」

「それは駄目だ」

 

 春蘭のもう1つ隣にいた秋蘭が代わりに答えた。彼女は理由を説明する。

 

「あの部隊は呉軍への備えだ。無傷で残しておきたい」

「そんなこと言うたって、まずは目の前の蜀軍を倒さないといけないやろ?もうここにいる兵士で、傷ついていないやつはおらんで」

「それでも、あれは動かせない」

「でもなあ?!」

 

 立ち上がりかけた霞を、アキラが抑える。

 

「霞、その辺にしておけ。こちらが魏軍の陣容に口出すのは不粋だぞ」

「アキラ、そんなこと言っている場合ちゃう!うちらはもう限界や!」

「それでも!最悪の場合は考えておくべきだ。分かってくれ。相手も疲れている。終わりは近いさ」

 

 霞は唇を噛んで腰を下ろす。確かにアキラの言う通りだったが、霞の訴えも共感できる。彼女たちは再び黙り込んだ。

 しばらくした後、華琳がおもむろに立ち上がった。そして宣言する。

 

「明日、全ての決着をつけるわ。いざとなったら、私も親衛隊を率いて戦いに参加する。いいわね、季衣、流琉」

「は、はい!」

「分かりました!」

「華琳さま!?」

 

 華琳は立ち上がりかけた桂花を手で制した。彼女の目は、鋭く、光っている。

 

「全員!私のために死になさい!首だけになろうと、蜀軍に噛みつきなさい!私も後に続くわ!」

 

 彼女の悲愴なる覚悟に賛同して、アキラもガタリと立ち上がった。

 

「華琳たちに遅れるな!俺が先頭に立つ!俺についてこい!」

「「「オオッー!」」」

 

 彼らの瞳に、ふたたび、炎が灯った。

 

 

 

 

 

 

 蜀軍の軍議も暗く沈んでいた。いくら催促しても呉軍が来ない。彼らは明日を見通せずにいた。

 

「もう一度、山道から攻めてはどうかな?」

 

と、一刀が提案したが、翠が首を振る。

 

「ご主人様、実はな、あのあと調べたら、敵に道を塞がれていたんだ」

「なんだって?!」

「他に道は無かったです。迂回も出来ません」

 

 蒲公英が目を伏せて言い加えた。これで、平野で戦うしかなくなった。翠や蒲公英、紫苑の部隊が加わっても、兵力は劣っている。正面切って戦うことは苦しい。

 この状況に、鈴々がまた泣き出してしまった。

 

「ご、ごめんなのだ…鈴々のせいなのだ…」

「鈴々、泣くんじゃない。明日取り返せばいい」

 

と、星に言われても、鈴々は泣き止まない。愛紗の小言を懐かしく思い出してしまう。

 このままでは負ける。皆がそう感じてしまう空気の中、桃香が必死に活路をさがした。

 

「蜀からの増援を呼べないの?朱里ちゃん?」

「それは無理だと思います。これ以上となると、治安部隊も動かさないといけなくなります。そうだよね、雛里ちゃん?」

「美以ちゃんたちも…傷の具合がおもわしくありません……明日も戦えません」

 

 一刀は、桃香たちの会話を聞いていた。すると急に、勢いよく立ち上がった。

 

「そうだ!」

「ど、どうしたのですか?」

「荊州南部だよ、桃香!蜀から呼べないのなら、そこから兵士を呼べばいい!」

 

 朱里と雛里の顔がパッと明るくなる。でも、すぐに眉間に皺を寄せて考え出した。

 

「荊州南部の住民は疑い深くて有名です。彼らを説得しないと…」

「俺に行かせてくれないか」

 

 全員の視線が一刀に向く。一刀はみんなに言った。

 

「俺は戦場では役に立たない。俺もみんなを助けたいんだ!頼む!」

 

 彼は頭を下げて頼んだ。それでも、桃香は反対だった。

 

「危険です!いつ裏切られるか、分からないのに!」

「お兄ちゃん!鈴々が一緒に行くのだ!」

「ダメだ!鈴々たちが一人でも欠けたら勝てなくなる。俺一人で説得に行かせてくれ」

「で、でも……」

「桃香」

 

 一刀は桃香を抱きしめた。そして耳元でゆっくりとささやく。

 

「危険なのはわかっている。それでも、俺は愛紗を救いたいんだ」

「………」

「桃香はここで皆を見守ってくれ。俺が仲間を連れてくる」

 

 一刀は背中にまわしていた手を彼女の肩に置いて、彼女の目をじっと見た。

 

「桃香、俺を待っていてくれないか」

「……分かりました」

 

 一刀は周りを見渡した。そして彼女たちに伝える。

 

「桃香を頼む!すぐに戻ってくる!」

 

 彼女たちは強く頷く。彼女たちの瞳にも炎が灯った。

 

 

 

 

 

 

 両軍が明日への決意を固めた頃、呉軍はまだ江陵付近で沈黙を保っていた。つぶし合っている彼らを眺め、今日も何もしないまま日が暮れようとしている。

 ところが蓮華は、この自分たちの姿勢を好んではいなかった。この晩の軍議では、彼女は叱責に近い質問を、穏にしていた。

 

「穏!一体いつまでここにいるつもり?!」

 

 ここまで言われても、穏は顔色一つ変えない。平然と答えた。

 

「もうそろそろですかねぇ。両方ともあと少しで音を上げて、私たちに頼ってくると思います。そこで掲示された条件を比べてみて…」

「比べるですって?そんな卑怯なことを、私にしろって言うの?!冗談じゃない!」

「蓮華さま。漁夫の利を取ることは間違っていないと思います。穏さまの作戦は正しいかと」

「そんなことを言っても、姉様だったら、こんなことしていない!」

 

 擁護した明命に、悲鳴のような蓮華の声が飛ぶ。彼女は彼女で、感情と理性の板挟みになっていた。

 

(アキラを助けたい!でも、彼は姉様を暗殺したと疑われ、赤壁では冥琳を討った。味方は許してくれない……ああ!私の立場がもどかしい!)

 

 怒鳴り続ける蓮華に、思春が諫言した。思春は、蓮華の気持ちが痛いほど分かっている。

 

「蓮華様、落ち着いて下さい。呉のためです!」

「そんなことは言わなくても分かっている!それなら私は戦いたい!姉様のように先頭にたって戦いたい!」

「蓮華様と策殿は違う。分かられよ」

「違わない!私も誇り高き呉の君主!姉様の夢を引き継いで、天下に覇を唱えないといけないのよ!」

「うむ……」

「蓮華さま!」

 

 荒れていた軍議の場に、明命が、血相を変えて駆け込んできた。

 

「小蓮様がいらっしゃいました!」

「なんですって?!」

 

 会議場から蓮華たちが駆け出てくる。明命に案内された先に、夕日に体半分を照らされた小蓮がいた。片膝を地面につけて俯いている。

 蓮華は姉として、彼女を叱ろうとした。

 

「シャオ!あなた、いったいどこに……?」

 

 彼女は違和感を持った。あの活発な小蓮が静かなのだ。まだ、顔を上げずに、じっと蓮華に頭を下げている。

 蓮華は腰をかがめて、小蓮の顔を覗こうとした。

 

「シャオ?どうしたの?」

「……蓮華姉様、みんな!」

 

 小蓮が顔を上げる。その顔は凛々しく、大人びていた。

 彼女は懐から手紙を取り出すと、蓮華に捧げた。そして告げる。

 

「冥琳の遺言を、持ってきました」

 

 

 

 

 


 
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