第七話 歌姫と舞姫と・・・・
・・・・・・・・なんだ、これは?
祭りの本会場に着いたときに思った感想がこれだった。
「いくらなんでも多すぎだろ・・・・天●一武●会じゃないんだぞ・・・」
ここ南陽の街に人がたくさんいる。ただそれだけの事だ。しかし、予想をはるかに上回る人数だった。
「・・・・・・優勝賞品ってそんなに魅力的なものなのか?」
俺は思わずつぶやいていた。
「これが、お前の風評だよ、北郷。」
・・・・・・え?
隣には冥琳がいた。俺の独り言を盗み聞きしていたようだ。
「ここにいるのは、天の御使いを一度でも見ようと思って来ている奴らがほとんどさ。」
「俺を?」
「そうだ、お前の名前はもう大陸中に広まっている。悪政を繰り返していた君主を諌め、民たちを救いだした英雄として。」
「・・・・・・・大げさだな。」
「そうかもしれん。だが大げさかどうか決めるのはお前ではなく民たちだ。そしてその民たちがお前を英雄と称えているのだからお前はやはり英雄なのだよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・冥琳。」
「うん?なんだ?」
「雪蓮と美羽が俺と健業を賭けたことってやっぱり知っているんだよね?」
「・・・・・・ああ、知っていたよ。」
「何で止めなかったんだ?」
俺は怒っているつもりはない。ただ冥琳なら雪蓮を止めることができたんじゃないか、と頭の中で疑問に思ったのだ。
「今の我々は力がない。だがお前の風評や知識を利用し、兵や民を集めることができれば孫呉は必ず復活することができるからだ。そのことに何の疑問がある?」
「・・・・・・・・でも国を賭けるなんてどうかしていると思わないのか?」
「私も最初聞いた時は驚いたよ。だが雪蓮は対等の条件でなくては卑怯だと思っているらしい。軍師の私としてはあまり賛成できないがな・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・冥琳も俺と建業が対等なものだと思っているの?」
「ああ、もちろんだ。お前にはそれほどの価値がある。」
「・・・・・・・最後に一つだけ聞かせてくれ。」
「・・・・・なんだ?」
「・・・・・・冥琳たちは俺の・・・その・・・・風評や知識が欲しいだけなのか?」
俺は聞きたかった。もしそうなら俺は・・・・
「・・・・・雪蓮はどうだか知らんが、・・・・・少なくとも私は・・・そうだ。」
はぁ・・・・これでふっきる事ができた。
「・・・・分かったよ冥琳。ならますます負けるわけにはいかなくなった!」
ふっきれた俺を見て冥林は少し驚いていたが、またいつもの冥林に戻った。
「ほお・・・・我らに勝てると思っているのか?」
「昨日までの俺と美羽なら勝てなかっただろう。でも俺たちはもう迷わない。正々堂々勝負をし、そして勝つ!」
「ふ、楽しみにしている。」
俺はもう迷わない。必ず勝って美羽のもとに戻ってやる!そう決意した。
「ところで北郷。祭殿を知らないか?」
「え?祭さん・・・・知らないな。」
「そうか・・・・」
「どうかしたの?」
「いや、ここ二日ばかり姿を見ていないんだ。」
「それって危なくない?」
「いや、祭殿に限ってそんなことはないと思うのだが・・・・」
「分かったよ。受付が終わったら俺も探してみる。」
「すまないな、北郷。」
「じゃ、またあとでね。」
「ああ。」
そう言って冥琳と別かれようと思った時・・・
「北郷・・・・・」
「ん、何?」
なぜか冥林に呼び止められた。その時の冥林の顔は少し赤みを帯びていた。
「さっきの話だが・・・・お前の風評と知識だけが目的というのはあくまで軍師としての私だ。・・・・・・・だが・・・女としての私も・・・・お前を欲しいと思っている。」
・・・・・・・・・・・・へ?
そう言って冥林は人ごみの中に消えていった。
(・・・・・・・何と言うか・・・・・反則だろ、あれは!!)
思わずドキドキしている自分がそこにいた。
とりあえず、受付を終え城に戻りつつ祭さんを探していた。
受付の順番は結構後の方で雪蓮たちの方が俺たちよりも早かった。
(しかし、雪蓮たちの芸ってなんだろうな?・・・・冥林がいるってことは音楽関係には間違いないと思うんだけど・・・・歌かな?)
・・・・・・・・・・・・・俺は吹き出した。ずっごく似合わないから・・・
雪蓮side
「へっきしょい!・・・・う~、風邪をひいたかな?」
再び一刀side
「さてと、祭りは夜からだ。その間何をしよう?」
本当は美羽と祭りを堪能したかったのだが、肝心の美羽は昨日、緊張しまくってあまり眠れなかったらしい。だから今はぐっすり眠っている。
(美羽を起こすのもかわいそうだしな~・・・・・一人で回るか。)
そうしてブラブラしていたら道のかどで誰かとぶつかった。
ぶつかったのは若い女の人だった。彼女は尻もちをついていた。服装から判断すればおそらく旅芸人だろう。
「あっ、すみません。大丈夫ですか?食パンとかくわえていませんよね?」
この時代、食パンなんてあるはずもないのに言わずにはいられないほどのベタなワンシーンだった。
「いった~い!どこ見ているんですか~・・・・・・・・グス・・・」
女の子は少し涙ぐんでいた。ひょっとしたら腰を強く打ったのかもしれない、と心配になってきた。
「す、すみません。どこか怪我でもしましたか?」
「お尻を強く打った~!!歩けない~!」
「は、は~・・・・」
「は~、じゃないよ~!もう歩けないからおんぶして。」
「・・・・・・・はい?」
「おんぶして、って言ったの。」
「・・・・・・わ、わかりました。」
俺は言われたとおりに彼女を背中にのっけて歩きだした。・・・・・・・・背中に柔らかい感触を感じる。
「あ、お兄さん。いやらしい事考えているでしょ♪」
「そ、そんなことはない!」
「へっへ~だ。」
「・・・・・・・・・・で、どこにいばいいんだ?」
「ん~とね、適当に。」
「て、適当って・・・・」
グ~~~~!!!
背中越しに腹の虫が聞こえる。
「えへへ♪お兄さん、天和お腹すいちゃった。」
「・・・・・・・・とりあえず、あそこの店に行くか?」
「うん♡」
そうして、俺はこの女の子を連れて飯店に入った。とりあえず話を聞くために。
「え~と・・・・・とりあえず俺の名前は北郷一刀だ。君の名前は?」
「モグモグ・・・・・・私の名前は天和だよ。」
天和と名乗る女の子は注文した点心を無我夢中で食べている。・・・・そんなに腹ペコだったのだろうか?それにしてもふと疑問に思った。
「天和って君の真名じゃないのか?」
「モグモグ・・・・・うん、そうだよ。」
そうだよって・・・・・
「いいのか?大切な真名をそんな簡単に教えて。」
「モグモグ・・・・・・うんいいよ。一刀は私好みのいい男だし♡それにご飯まで奢ってくれたんだから。」
・・・・・えっ?ここって俺持ちなわけ?・・・・・・どうやらそのようだorz
「と、ところで君ひとりなの?他の連れとか居ないの?」
「そうそう、聞いて一刀!地和ちゃんと人和ちゃんが私からはぐれちゃったの。あれほどお姉ちゃんからはぐれちゃダメだよって言ったのに!」
・・・・・・話を聞く限り天和は地和と人和なる妹たちとはぐれてしまったようだ。地和と人和って名前もおそらくは真名だろう。とりあえず、名前はしゃべらない方がいいな。
「なるほど、迷子か。」
「そうなの。あの子たち私がいないと何にも出来ないんだから~」
・・・・・・・・なぜだろう?迷子はあんただよって突っ込みたくなるのは・・・
「よし、分かった。乗りかかった船だ。俺も一緒に探してあげるよ。」
「ワーイ!ありがとう、一刀。」
そうして、食事を終えた俺たちは彼女の妹たちを探し始めた。でも祭りのせいか人がとても多く探しきれない。結構歩いたがいよいよクタクタになってきた。
「ふう、この広い街から探すのはさすがに一苦労だな・・・・・なあ天和。どこかに心当たりはないのか?」
「うーん・・・・川の畔かな~」
・・・・・・・・え?
「私たちが歌の練習をしていたところなの。誰もいなくてとっても静かなんだよ♪」
・・・・そんなところがあるんなら最初に言えよ!と言いたかった。
「じゃあ、行ってみるか。」
「うん♡」
とりあえず目的地に到着したが、そこには誰もいなかった。
「はあ、無駄骨だったかな~」
「う~~、地和ちゃん、人和ちゃん・・・・・・・グス・・・」
いかん、陰気くさくなってきた。とりあえず話を変えてみようかな
「と、ところでさ天和たちは何しにこの街に来たんだ?やっぱり祭りを見に来たのか?」
「うんうん、祭りに参加しにきたの。」
「へ~、じゃあ何か芸をやるんだ。」
「うん、私たちは歌を歌いながら各地を旅しているの。」
「なるほどな、天和の歌か~。聞いてみたいな。」
「うん、いいよ。」
「え?」
呟き程度のことだったのに天和は歌いだした。
とても綺麗な歌声だった。美羽の歌もきれいだがタイプが違う。美羽は心を和ませる歌なら天和の歌は心を躍らす、勇気が出てくるような歌だった。俺はいつの間にか聞き入っていた。
「♪~~どう?」
「すごいよ、とても上手だ。優勝を狙うことができるんじゃないのか?」
お世辞なんかじゃない。思わぬところに伏兵あり、だ。
「えへへ~♪もちろんだよ!優勝を狙っているもん。」
(何か危なくなってきたな~)
「あ!お姉ちゃん見つけた!!」
ふと、向こうの方で大きな声がした。
「天和お姉ちゃん、やっと見つけたよ!人和~見つけたよ~!」
「もう、天和姉さん。あれほど離れないでって言ったのに・・・・」
・・・・・・・・やっぱりこっちが迷子だったんだ。
「ごめーん、地和ちゃん、人和ちゃん。」
「ところでこいつ誰?」
「ん?一刀だよ。おいしいご飯を御馳走してくれたし、地和ちゃんたちを探すのを手伝ってくれたの。」
「北郷一刀だ。よろしくな。」
とりあえず挨拶だけはきちんとした。
「・・・北郷・・・ってあの天の御使い様ですか!?」
眼鏡をかけた女の子が少し驚いて言った。
「ああ、一応そんな風に言われているよ。」
「姉がご迷惑をかけました。本当に申し訳ありません。」
「いや、いいよ。乗りかかった船だったし。」
(天和と違ってずいぶんしっかりした子だな)
「え!?なになに!?天和お姉ちゃんこいつにご飯奢ってもらったの?いいな~・・・・・ね♪私たちにも奢ってよ!」
「地和姉さん!」
「あ、いいよいいよ。お姉さんだけに奢って、かわいい妹たちに奢らないのは不公平だからね。」
「なっ///!ふ、ふん!分かっているじゃない。」
「だめよ、地和姉さん」。
「いいってば。再開できたお祝いだ。奢ってあげる。」
「でも・・・・」
「あまり、男に恥をかかせないでくれ。」
「っ//// わかりました。相伴にあずからせてください。」
「よし!じゃあ行くか。」
そうやって俺たちは飯店について腰を落ち着かせた。
「そうだ、自己紹介がまだだったわね。私は地和。よろしくね~!」
「人和です。よろしくお願いします。」
「俺のことは一刀でいいよ。」
簡単な自己紹介が終わり食事を始めた妹たち。天和も食べたばっかりなのにちゃっかり注文を取っている。
姉にも負けず、すごい食欲だ。
「しかし、みんなしてお腹を空かしていたなんて・・・」
「各地を旅してきましたが、歌で食べていくのは難しくて・・・」
なるほど金がないのか。
炒飯をかき込みながら食べる人和・・・・結構かわいいかも・・・
「なるほどな、旅芸人も楽じゃないんだな。」
よく見ると、彼女たちの服も結構ボロついている。
「そうなのよ~!だからこの祭りで優勝して名声とお金をどっちもゲットってわけ!」
「ふーん、なるほどな~」
食事を終えた俺たちはそのまま別れようとしたがなぜか彼女たちを応援したくなった。
「ちょっと待って、君たちにプレゼントがあるんだ。」
「ぷれぜんと?何それ?」
「贈り物って意味だよ。ちょっと来て。」
そうして彼女たちを連れてきたのは服屋だった。
「これは御使いさま。今日はどういったご用件で?」
「例の三番は出来上がっているか?」
キュピーン!!
オヤジの目が光りだした。
「もちろんです。こちらへどうぞ。」
そう言って、俺は天和たちを連れてきた。
「寸法はこの子たちに合うようにしてくれ。」
「は、かしこまりました。」
「あの~これは一体?」
「まあ、いいからいいから。」
「はあ・・・・」
オヤジは入れ物の中から三着の服を取り出した。
「寸法はぴったりだと思います。」
「うん、ありがとう。」
そうして俺は彼女たちに服を渡した。
「これを君たちにあげるよ。その服言っちゃ悪いけど少しボロいからさ」
「いいの~!やった~。一刀大好き~!」
「へえ、結構いいじゃないこの服。」
「ちょっと姉さんたち!一刀さん、こんなもの貰えません!」
「いいから、いいから。」
「そうよ、人和。一刀がせっかくくれるって言っているんだからいいじゃない。」
「でも・・・・・」
「綺麗な歌を聞かせてくれた礼だよ。受け取ってくれないんなら捨てちまうぞ?」
「うっ・・・・・わかりました。一刀さん、ありがとうございます。」
「か~ずと、ありがとね。」
「ああ、祭り頑張れよ。」
「もちろん♡」
そうやって俺たちは健闘を讃え合いながら別れた。
時間はもう夕方だ。そろそろ美羽を連れて祭りに行こうと思い城の戻った。
「美羽、準備はいいか?」
「うむ、万端じゃ。」
「じゃあ、行こうか?」
「うむ。」
雪蓮たちの勝負に負けたらこの子と離れ離れになってしまう。そんなのはごめんだ!必ず勝ってやる。
「・・・・・・・一刀。妾は少し怖い。もし負けたら一刀とお別れしなくてはならなくなるのじゃ。」
「大丈夫だよ、美羽。俺たちは勝てる。そう信じよう。」
「じゃが・・・・・・・」
「もし負けたら・・・・・そうだな、駆け落ちでもするか?」
「な、な、な、何を言っておるのじゃ///!」
「はははは、嘘だよ。その時はどんな手を使っても逃げ出すさ。そしてお前のところに戻ってくる。」
「か、一刀・・・・・うむ!もう、妾は迷わぬぞ!一刀、妾に力を貸してくれ!」
「もちろんだ!」
そうやって俺たちはお互いのの絆を確かめ合った。と、その時、
「やっほ~!か~ずと!」
後ろから雪蓮が抱きついてきた。
ムニュ!
「うお!」
突然の感触に戸惑ってしまった。
「ん?何赤くなっているの?」
「し、雪蓮、あ、当たっているんだけど・・・・」
「当てているのよ♪」
(くっ!なんて破壊力だ!理性という名の壁が崩れそうだ!冥林といい、祭さんといい、・・・・ええい!孫呉の女はバケモノか!!)
「そそそそそそ孫策!!何をしておるんじゃ!!」
「好きな人を抱擁しているだけよ。」
「お、お、おのれ~!!」
まだ始らないというのに早速舌戦を交わしている二人。舌戦というよりはほとんどケンカだけど・・・・・・
「はいはい、雪蓮。祭りだからってあんまりはしゃぐのは良くないぞ。」
来た!俺の助け船が!その名は冥琳号!
「ぶーぶー、だって~・・・・!」
「だってじゃありません!」
「ふはははははは!なんじゃ孫策、怒られておるの!ははははは」
「きーーー!!」
「お前もだよ美羽。ここで争っても意味ないじゃないか。今は祭りを楽しもうよ。」
「う~・・・・・」
俺と冥林はお互いの君主を諌めた。
「お互い苦労するな、北郷。」
「そうだね。」
そんな風にしていたら太鼓のたたく音が聞こえてきた。
「お、いよいよ始まるな!」
俺と国をかけた戦いが今始まった。
「さ~、ついに始まりました!芸のお披露目大会!優勝者には賞金とこの天のお酒が送られま~す!司会者はこの私、張勲。審査員の方々はこの街の有力者たちで~す!」
司会者は七乃さん。結構ノリノリだ。
「ところで雪蓮たちは何番目なの?」
「私たちは275番目ね。」
「俺たちは285番だから大して変わらないな。」
今回の参加者は300人位らしい。そうなると俺たちも雪蓮たちもかなり後だ。
「今から控室に行って待つのも退屈だ。ここで見ていかないか?」
冥琳の提案には全員がうなずいた。
参加者の芸はいろんなものが多くてとても楽しかった。歌や音楽が多かったが手品や武芸を見せた人たちもいた。
本当にいろんな人たちがいた。
抜刀術で目標を自分に吸い寄せたり・・・・・
「螺旋●!」とか叫び水風船を割ってみせたり・・・・
「ゴ●ゴムの~」と言いながら手足を伸ばしたり・・・・
「卍・●!」とか叫びながら瞬時に変身したり・・・・
『素端土』なる背後霊を出現させたり・・・・・
とにかく見ていて飽きなかった。
「本当に面白いわね~」
「うむ、おそらく大陸中の芸人たちが来ているのだろう。」
「これも一刀の人徳ってやつなのかしら?やっぱり袁術にはもったいないわね。」
「な、何じゃと~!!」
「はいはい、ケンカしないの、美羽。」
「雪蓮もだぞ。」
「「うむ。」「分かったわよ」」
「「はあ・・・・・」」
・・・・・・・・・・・・・・
「さ~てお次は、『数え役万姉妹』で~す。」
(お、次は天和たちか・・・)
天和たちは俺のあげた服でステージに上がった。やはり似合っている。彼女たちは音楽に合わせながら踊り、歌いだした。その姿はまるで妖精を思わせる。
「おい、あの子たち、すげー可愛くね?」
「ああ、すげえ可愛い?」
「やべえよ、俺、追っかけになるかも!?」
「俺もだよ。」
「よし、彼女たちを応援しよう!」
「どうやって?」
「心の底から叫べばいいんだ!」
「よし!みんなで叫ぶぞ!」
「ほああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
奥の方からものすごい声援が飛び交っていた。いや・・・・・・声援なのか?
「何て声援だ!?」
「ものすごい声援ね・・・・でも彼らの気持ちもわかるわ。なんかこう・・・・闘争心を掻き立てられるような感じだわ・・・・・ふふふふ・・・」
雪蓮さん、怖いこと言わないで。
「うーむ、すごい士気だな。彼女たちの歌を軍用に使えないだろうか・・・・?」
冥林さん、あなたはこんな時にも軍師なの?
「妾の方がうまいのじゃ!」
お前も対抗しない!
そうして彼女たちの歌が終わった。
「みんな~!聞いてくれてありがと~!!」
「ほああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「みんな~!これからも地和たちを応援してね~!!」
「ほああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「私たちの公演予定は瓦版に乗せておくから~!!」
「ほああああああああああああああああああああああああああああ!!」
・・・・・・・・・・・・・すごかった。
「さあ、ものすごい声援でしたね~!さあ、肝心の点数は~!!」
十点、十点、九点、九点、十点!!
「な、何と~出ました!四十八点、四十八点です!先ほど一位だったベ●ータさんの四十点を抜かして堂々の一位~!」
・・・・・・・・・まじかよ。
そうして彼女たちは舞台を降りて行った。
「なんと、あ奴ら高得点をたたき出したぞい!」
「・・・・・・・・ああ、すごいな。」
関心する俺たち
「冥琳、私たちに勝機は・・?」
「五分五分といったとこだろうな・・・」
冷静に分析する雪蓮たち
そんな時、後ろの方から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「やっほ~!か~ずと、どうだった、私たち?」
天和、地和、人和の三人だった。
「舞台の上から見えたんです。一刀さんが私たちを見ていたのが。どうでしたか?」
「うん、すごく良かった。その服もとても似合っているよ。」
「ふふふ~当然よ!なんせ私たちが着ているんだから!」
「ははは、そうだな。」
そんな風に天和たちと雑談していたら横から雪蓮と美羽がちょっかいを出してきた。
「ちょっと一刀!何よその子たち!?」
「そうじゃ!そうじゃ!」
「え?・・・ああ、今日の昼くらいに知り合ったんだよ。旅芸人をしているんだって。」
「そんなこと聞いてないわよ!なんかこの子たちあんたから服をもらったっていているけど、どういうことよ!」
「そうじゃ!そうじゃ!」
あ、そういえば言っていなかったな・・・・
「ああ、彼女たちの歌を聞かせてもらってね・・・・とてもいい歌だったからお礼のつもりで・・・・」
「くっ!・・・・・なんでそんなに一刀はお人よしなのよ!!」
「そうじゃ!そうじゃ!」
雪蓮と美羽は同時に詰め寄ってきた・・・・・てかお前らいつの間に仲良くなったんだ?
「ちょっと~!一刀が困ってるでしょう。いい加減にしなさいよね、はあ。これだから、オバサンとお子さまは。」
そう言って地和は俺の腕に抱きついてきた。
(ち、ちょっと、ちょっと、ちょっと!!!)
「・・・・お、おば・・・・ねえ、私はまだオバサンって年じゃないんだけど・・・」
雪蓮はニッコリしながら言う。・・・・・・絶対に笑っていない!顔が引きつっている!地和、早く取り消してくれ!
「地和たちから見れば十分にオバサンよ!」
地和のバカ野郎~~~~!!!
「・・・・冥琳・・・・私の南海覇王をここへ・・・・・」
ひ~~~~~!!やばい、やばすぎる!殺気を抑えきることができず辺りにダラダラと流している。
「はあ・・・・・雪蓮、子供の言うことを真に受けてどうする?」
さすが冥琳!この場で唯一の常識人だ!冥琳、愛しているぜ!
「な、何よ!そっちのオバサンもなんか文句あるの!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え!?
「ほら雪蓮。ただし、この人ごみの中だ。ばれないようにさりげなく殺れ。」
・・・・・・・・・・・・・終わった・・・・・・
冥林は平静を装っているが、ものすごい殺気が出ている。さっきの雪蓮にも勝るとも劣らない殺気をだ。
「うん、大丈夫よ♡今の私なら血を出さずに体を真っ二つにできるかもしれないから♪」
そうやって、地和たちにゆっくりと近いていく。天和たちも雪蓮の放つ殺気にあてられて身動きが取れなかった。元凶の地和も俺に後ろで震えていた。
(くっ!俺が何とかするしかない。)
「だめだ、だめだ!!こんなところで剣なんか抜いちゃ駄目だ!」
俺は。思わず雪蓮にしがみつきながら説得をした。
「ち、ちょっと一刀!どこに顔を当てているのよ!ちょ、い、いや!は、はなして!あ、あん♡」
「嫌だ!雪蓮が剣を手放すまで離れないぞ!」
「か、一刀・・・・・こ、これ以上は・・・・も、もう・・・はああん♡」
そうやって雪蓮は持っていた剣を落とした。
「ふう、ようや考え直してくれたんだね。よかった!・・・・もう大丈夫だよ。お前・・・た・・・ち・・・?」
ふと周りを見るとそれぞれ違う表情で俺を見ていた。天和はニッコリしながら、地和は顔を赤くしながら怒っていて、人和はため息をついている。一方こちらの陣営は、美羽は何があったのか分からないというようにポカンとし、冥林は人和と同じようにため息をついている。雪蓮は力の抜けたようにダラーと冥林に支えられている。
「・・・・・・え?・・・・何?」
え、なにこの雰囲気・・・・俺が大惨事になるのを止めたんだよね?・・・・なのにこの軽蔑するような視線は?・・・・・・・一体何なんだ?
「はあ、もうよい。そちらの娘方。申し訳なかったな。」
冥琳がこの固まった空間を壊してくれた。
「いいえ、こちらこそすみませんでした。ほら、地和姉さんも謝って!」
「うう・・・・・ごめんなさい。」
「うむ。」
そうやってようやく和解できた。
・・・・・・・・・・・・・俺のおかげだよね?
祭りも中盤になり相変わらず辺りは熱狂に包まれている。
「さあ。お次は、正義の味方、猛虎仮面さんです!さあどうぞ!」
(猛虎仮面?・・・・ダサい名前だ。タイ●ー・マスクみたいなものかな?)
「ぷ、だっさい名前!」
「こら地和。そんな風に言っちゃいけないだろう。」
「分かったわよ。」
それにしてもなかなか現れない。どうしたんだろう?
するとその時、ステージにガラの悪い男たちが上がり込んできた!
男たちは、七乃さんを捕まえ、首に刃物を押しつけた!
「がははははは!俺たちは怖―い怖―い盗賊団だ!このネエちゃんを傷つけられたくなかったら、おとなしく賞金と天の酒を持ってこーい!!はははははははは!!」
(な、何だと!!)
俺たちは愕然とした。何と七乃さんが人質にされて金と賞品を要求されているのだから!
「冥琳、行くわよ!」
「雪蓮待て!奴らの陣形、ただの野盗ではない。かなり高度な訓練を受けさせられている!奴らを倒すことができてもかなりの被害が出るぞ!」
冥琳の言う通りだ。彼らには隙がない。このままでは七乃さんは・・・・・
「か、一刀~、七乃が!七乃が~!!」
「ちぃ!張勲なんてどうでもいいけど一般人に被害が出るのはまずいわね。」
「打つ手なしか・・・・」
(ちくしょう!雪蓮たちも手が出せないなんてどうすればいいんだ!)
「きゃ~~~~!お助け~~~~!!」
七乃さんが助けを呼んでいる・・・・・・・・・あれ、なんか違和感が・・・・・
「やい!お姉ちゃんを離せ!」
「そうだ!そうだ!」
「へっ!うるせいぞ、ガキども!」
前にいる子供たちが無謀にも説得している。危ない!
「みんな~!こうなったらあの人を呼ぶしかありませ~ん!大きな声で呼んで~!」
・・・・・・・え?・・・・・七乃さん、何言っているの?
「せいの!」
「「「「「「「猛虎仮面さーーーーーーーーーーーん!!!!!」」」」」」」
・・・・・・・・・・・へ?
「はーはっはっはっはっはっはっは!!」
どこからともなく一人の人間が舞台の上に立っているではないか。
「なっ!てめーはいったい何者だ!!」
月の光に照らされてその姿をついに現わした。
「酒の匂いに誘われて、雄々しき虎が今、駆け巡る!我が名は猛虎仮面!混乱の都に任と侠をもたらす、正義の化身じゃ!」
そこにタイ●ー・マスクをかぶり、弓を携えた女性がそこにいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は言葉が出なかった。だってあれ・・・・・・祭さんじゃないか!!
「けっ!ふざけたヤローだぜ!この人数相手に勝てると思っているのか?」
「ふん、お主ら程度、儂ひとりで十分じゃわい!」
「言ってくれるじゃねえか!見たところ弓兵らしいが、こんなに近くちゃ弓は意味ないぜ!ははははは!
「お主ら程度に武器など使うつもりはありゃせんよ。」
「へっ!弓兵風情が拳士のまねごとか!ヤロー共、やっちまえ!」
「ふん!」
そう言って、猛虎仮面を大勢で襲った。しかし、さすがというべきか・・・・見事な武術で野盗どもを蹴散らしている。
「おー!!見よ、一刀。かっこいいのじゃ~!!」
「なかなかの腕ね、あの人!」
「・・・・・・・・・・・・」
美羽と雪蓮はかっこいい?現れ方をした猛虎仮面を見てとても興奮していた。一方の冥琳は・・・・・・・・・真っ白になっていた・・・・・
「・・・・あ、あのさ、冥琳?」
「・・・・言うな・・・・」
「でもさ、あの人・・・」
「・・・・言うな!」
「どう見ても祭「言うなーーー!!」・・・・はい・・・」
・・・・・・・・・・・・・・あれ?
俺は少し冷静になっていた。何かが引っかかる・・・・何で七乃さんは簡単に捕まったんだ?・・・・・・それにあの野盗たちの現れ方もタイミングが良すぎる・・・・・・・そして子供たちの声で現れたシチュエーション・・・・・・すべてが出来すぎている・・・・・まさか!
俺は野盗たちと戦っている猛虎仮面をの方を見た。肝心なのは猛虎仮面ではなく野盗たちの方だ。
(やっぱり、あの人たち祭さんの部下たちだ!)
間違いない、格好は野盗そのものだけど知った顔が何人かいた。護衛でついてきてもらった時、挨拶していたからな。
ということは・・・・・・これは八百長だ!七乃さんも子供たちもみんなグルか!!
俺がすべての真相にたどり着いていた時にはもう終わろうとしていた。
「はっはっはっは!まだまだ鍛錬が足りんぞ!」
「ち、ちくしょう!こうなったら逃げるが勝ちよ!さらばだ!」
リーダー格の男はものすごい速さで逃げて行った。50mを5秒台で走れるくらいの速さで。
しかし、猛虎仮面は持っていた弓を構え、逃げた男に狙いを定めた。距離は約80m。ふつうは当てられるわけないのだが・・・・・・・見事に命中させた。
男たちは警備隊に連れて行かれて万事めでたしということになった。もちろん矢じりはつぶしていたし、駆け付けた警備隊は俺の部下じゃなかった。
(・・・・・突っ込めね~・・・・ここまで準備するか、普通?)
「「「「「「「ワーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」
すべてが終わり、観客からは絶賛と歓声の嵐が巻き起こった。
それから猛虎仮面は自らの芸を披露し始めた。神業と言える弓技や武芸、その他、老酒を一気飲みするなどの荒業をやってのけた。
観客達のテンションは頂点に達していた。こちらの美羽や雪蓮もハイテンションだ。
「一刀~、大陸にはいろんな輩がおるんじゃの~!」
「それにしても見事な弓技ね。祭にも勝るとも劣らないわ。」
(こいつら気づいていないのか?)
そうだ、冥琳は大丈夫だろうか!何か半狂乱だったけど・・・・
「は、は、ははは・・・・・」
「冥琳しっかりして!冥琳!」
「・・・・・・・認めないぞ・・・・あんなのが我が軍最強の客将などと・・・・この私が目標にしてきた人物だと・・・・・・あは、あーははははははははは!!」
冥林は血の涙を流していた。冥琳、帰ってきて!
「さあ!見事、悪人を倒し、我らを救ってくださった猛虎仮面の点数は!?」
十点、十点、九点、十点、十点
「なんと、先ほどの『数え役万姉妹』を抜いて堂々の一位!すごいぞ、猛虎仮面!」
観客は大興奮だった。ここに居る俺と冥琳を除いて・・・・・・
「すごかったの~、一刀や」
「・・・・・・ああ、そうだな。」
確かにすごかった。いろんな意味で・・・・・
「もう、何で地和たちより上なのよ!!」
「仕方ないわ、姉さん。あんなに派手だったんだもの。さすがに勝てないと思ったわ。」
「うわーん!負けちゃったよ~!」
「はいはい、上には上がいたってことで次に頑張りましょう。」
「・・・・・・うん・・・・グス・・・」
三姉妹はお互いを慰めあっている・・・・・・なんて言うか・・・・・祭さん、あんた大人気なさすぎ!八百長までして・・・・!
その時、後ろから祭さんが来た。
「あ、祭!今までどこにいたのよ。」
「うむ、ちょっとな。酒屋で一杯しておったのじゃ。」
うそつけ!って言いたかった。
「ん?なんじゃ、北郷。何か言いたそうじゃな?」
「イイエ、ナンデモナイデス。」
・・・・・・・とても言えなかった。
「祭殿、そうゆう時は我々に報告してください。」
「なんじゃ、相変わらず固いの~。」
あれ、結構平気になっている。おそらく、記憶から抹殺したのだろう。・・・・・器用だな、冥林は。
そうやって、祭りも終盤になってきた。いろんな芸者がいたが先ほどの猛虎仮面を超えるような芸者は現れなかった。
「さてと、そろそろ私たちの出番ね。行きましょ、冥琳。」
「うむ、そうだな。」
「袁術ちゃん、例の賭けを忘れちゃ駄目よ。」
「ふん、当り前じゃ!」
「そ♪良かった。じゃ~ね~。」
いよいよ、雪蓮たちの番だ。これですべてが決まる。この俺の運命も・・・・
そして雪蓮たちが舞台に上がった。
「観客席を見て、冥琳!まるで人がゴ●のようだ!」
「はいはい、冗談でも民衆の前で言うなよ。」
「分かっているわよ。ただ言ってみたかっただけ。」
「本当に分かっているのか?・・・・まあ、いい。始めるぞ。」
「うん。国と男を賭けた戦いをね。」
一刀side
「いよいよか・・・・」
「そうじゃな!」
美羽も緊張しているのだろうか・・・・・願わくば雪蓮たちが失敗しましように。・・・などと思っていたら、冥琳が琴を持ち、雪蓮が剣を持ちながら立っていた。
冥琳が琴を弾き始めた。それに合わせて雪蓮が剣を振い剣舞を舞った。
「・・・・・・・・な・・・・」
「・・・・・・・・あ・・・・」
誰も声を出せなかった。冥林はとても激しい旋律を奏でる。その腕たるや、史実に恥じないものだった。しかし、それより驚いたのは雪蓮の剣舞だった。ただ剣を斬る、突く、払うという動作をしているにもかかわらずとても美しく、そして妖艶だった。剣先が月の光を反射し、より幻想的な世界へと俺たちを誘った。
音楽に雪蓮が合わせているのかと思えばそうではない。冥琳が雪蓮に合わせているかもしれない。あのとても激しい動きに合わせるなんて冥琳くらいしかできないだろう。・・・・彼女は舞う、この星空の下で・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・演奏が終わった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
誰も声を出さない。いや、出せないのだ。俺も美羽も言葉を失っていた。しかしその拮抗も時がたてば崩れた。
「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」
ものすごい大喝采だった。大地を揺るがすような声援に、俺と美羽もやっと戻ってこれた。
「ものすごい剣舞でしたね~!では、点数をどうぞ!」
十点、十点、十点、十点、十点
「な、何と満点です!初の満点者が現れました~。」
「「なっ!!」」
俺たちは驚愕した。
満点・・・・・もうそれ以上のものはないという事だ。確かにさっきの剣舞は満点を出しても良かったが・・・・・・
「・・・・・・ひぐ・・・・ぐす・・・・か、一刀~。」
「な、何で泣いているんだ、美羽。」
「・・・・う・・・・一刀も・・ふぐ・・・・もう・・・・ひぐ・・・・分かっておるくせに・・・」
そうだ、俺は分かっていた。もう雪蓮たちには勝てないということに・・・・・・でも・・・・
「・・・・・美羽、そろそろ控室に行こう。」
「な、何を言っておるのじゃ!お主は!もう勝てっこないのじゃ!」
「・・・・そうだな、俺たちは勝てない・・・」
「じゃったら・・・・・・」
「でも、このまま何もしないで負けるなんて悔しいよ!」
「・・・・一刀・・・」
「これは俺の我がままなのかもしれない。でも俺たちはこの日のために頑張ってきたんだ。お前の歌が聴きたいって言ってくれてる人もいる。その人たちまで裏切れないよ。」
「・・・・・一刀。」
「美羽、どうせ負けるなら、かっこよく負けようぜ。」
「そ、そうじゃな!妾の歌を聞きたがってる輩を無下にできんしな!」
「そうだな。はははははははは!」
「ふはははははははは!」
俺たちは笑った。笑うしかなかった。じゃないと涙が出てくる。
控え室に行く途中、雪蓮たちに会った。
「ごめんね、袁術ちゃん。満点だって。約束は必ず果たしてね。」
「雪蓮!」
冥林は俺たちの気持ちを察してくれたようだが、今慰められても皮肉にしかならない。
「・・・・・・ああ、約束は守るぞ。」
「よかった♪」
そうして雪蓮たちは俺たちのもとから去った。
「・・・・・・・・・美羽、大丈夫か?」
「・・・・当り前じゃ・・・・」
控え室についても、俺たちは何も話せなかったが途中、美羽が沈黙を破った。
「・・・・・一刀・・・・覚えておるかの?・・・・妾達が最初に合った時のことを・・・」
「・・・・ああ、覚えているよ。」
「妾とお主は初めて会った時にく、口付けを交わしたのだぞ!」
「そうだったな・・・・・あの時は何が何だかわからなかったけど・・・・・そうして俺はお前に殺されそうになったんだよな・・・・」
何をいっているんだ、俺たちは・・・
「あ、あれはお主が悪いのじゃ!本当じゃったら処刑だったのだぞ!」
「ああ、ありがとな、生かしてくれて。」
「ふ、ふん!じゃが、お主が来てとても楽しかったぞ。」
「・・・・・・え」
・・・・・・・やめてくれ
「天の国の話をしてくれたり・・・・・・・」
・・・・・・・やめろ
「一緒に勉強して、一緒に七乃に怒られて・・・・・」
・・・・・・・やめるんだ
「お、お主のおかげで、・・・・・・風呂にも・・・・・毎日入れるように・・・・なったしの~」
・・・・・・・・美羽!
「・・・・・・そ、それにの・・・・妾は・・・・わ、妾は・・・ひぐ・・・」
もう限界だった。
「美羽!」
俺は美羽を抱きしめていた。まるで自分がここにいると証明するように・・・・
「・・・・ぐす・・・か、一刀・・・妾は・・・妾は、お主と離れたくないのじゃ!!・・・ひぐ・・・うわああああああん!!」
「俺もだ!俺もお前と離れたくない、離れたくないよ!」
俺も思わず涙を流していた。永遠にこの子を抱きしめてあげたかった。しかし、時間はそれを許さない。・・・・・・そろそろ時間だ。
「・・・・・・行こうか。これが俺たちの最後の思い出作りだ。」
「・・・・・・・・一刀・・・・これで最後なのじゃな・・・?」
「・・・・ああ、最後だ。」
「・・・・・・・じゃったら、お主に言っておきたいことがあるのじゃ・・・」
「・・・・・ん?・・・何を?」
「・・・・・一刀・・・・大好きじゃ!・・」
突然の告白に俺は戸惑ったがすぐに自分の気持ちに正直になった。
「っ・・・・・・俺もだよ、美羽。俺もお前のことが大好きだ。」
「・・・・・・良かった・・・」
「俺の心はいつまでもお前とともにある・・・・・忘れるな。」
「うむ、妾はもう泣かぬぞ。最高の舞台をお主に見せてやる!」
「ああ。よし、行くぞ。」
俺たちはお互いの絆を確かめ合った。
そして自分たちの最後の舞台へと足を運んだ。
「さあ!次は、我らが天の御使い!北郷一刀さんと我らの太守、袁術さまの登場です!」
ワーー!!と歓声が上がったが、俺たちの心には何一つ響かなかった。
美羽は前に立ち、俺は、後ろで音楽の準備をする。
俺は、携帯電話を取り出し、音楽を流した。そして最大ボリュームで流した。≪注、一刀の携帯の性能を知らない人は袁術ルートの二話を見てね。≫
そして、音楽に合わせて美羽が歌いだした。ようはカラオケだ。ちなみに曲は『image』である。美羽は、俺の国の言葉、英語で歌っている。しかし、美羽が英語なんかわかるはずがない。発音もイントネーションも滅茶苦茶だ。しかし、どこかの言葉というのだけはわかる。天の国の音楽と歌を聴かせれば人々は畏敬の念をこめて聞き入ってくれると思ったからだ。
・・・・・・・・しかし今となってはもう手遅れだがな。
俺は、必死に携帯を操作するフリをした。
雪蓮side
「な、何なの!この音楽は!?聞いたことのないような音だわ!」
「私も、聞いたことのない音だ。おそらく天の国の楽器なのだろう。」
「な、そんなの卑怯よ!天の国の技術を使うなんて!」
「はあ、何を言っている。我々もその技術を利用しようとしているんだぞ。」
「それは、そうだけどさ・・・・・」
「それに私たちは満点なのだ。負けることはない。」
「そ、それもそうよね・・・・」
その時、私はどうも嫌な予感がした。
三姉妹side
「ちょっとちょっと、何なのこの音は?」
「落ち着いて、地和姉さん。おそらくこれは天の国の楽器よ。」
「へえ~。これが一刀の国の音楽か~・・・きれいな音。」
「そうね、やっぱり一刀さんは天の御使いだったんだわ」
「ねえねえ!この祭りが終わったらさ、一刀を私たちの付き人にしない?」
「いいね、いいね、お姉ちゃん賛成!」
「もう、そんなの無理に決まっているでしょう?」
「そんなことやってみないと分んないじゃん!人和だって一刀が付き人になってくれたらな~って考えてるでしょ?」
「そ、それは・・・・・そうだけど。」
「じゃあ、決まりね♪」
観客side
「おお、何と心に響く音楽なのじゃ!」
「これが、天の国の音楽なのか!?」
「まさに天の御使いさまのなせる業じゃ!」
「袁術さまのおっしゃっている言葉もここのものではない。おそらく天の言葉なのだろう。」
「なんと!だからだろうか!?こんなに心に響くのは・・・・」
「しかし、なぜだろう?涙が出てくるのは?」
「なぜだか、袁術さまがとても悲しそうな感じがするんだ。」
「俺もそう思うぞ。なぜだ。」
観客達の眼には美羽の姿が慈愛に満ちた神のように見えていた。聞きなれない言葉での歌、心に響く音楽で観客達はとても感動していた。
・・・・・でもなぜか悲しそうに見える。その事がより一層、観客達の心に歌が響いたのだ。
美羽side
もうすぐ、歌が終わる。
(この歌が終わったら、一刀は孫策のところに行ってしまう・・・・・)
(・・・・・・いやじゃ!一刀と離れとうない!)
(・・・・・一刀・・・一刀・・・一刀!)
頭の中に一刀との思い出が走馬灯のように流れていく。楽しかったこと、悲しかったこと、むかついたこと、泣いたこと、好きになったこと・・・・すべてが過去のものになる。もう、作る事が出来ない。
もうすぐ、歌が終わる。
お調子者で・・・・・・
ちょっと厳しくて・・・・・・・
でもとても優しい・・・・・・・
そんな一刀が大好きだった。でも、もうこれで終わる。最後に一刀に好きと言われたのだからもう思い残すことはない。
でも、最後にもう一度だけ言わせてくれ。
・・・・・・・一刀・・・・・大好きじゃ!
歌が終わった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
誰も声を出さなかった。しかしその均衡もすぐに崩れた。
「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」」」
誰もが大きな声を上げた。中には涙を流してる者、拝んでいる者、絶叫している者、といろんな反応だった。
俺たちは、観客達に一礼してから舞台を降りた。
「ふう、かっこよかったぞ、美羽。今までで一番だった。」
「ふん、当り前じゃ!」
俺たちは、お互いを褒めあった。もう、悔いはない。
「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」
「まだ、歓声が続いているようだな・・・・・」
「そうじゃな・・・・」
「・・・・・美羽。」
「なんじゃ?」
「・・・・・・・・・俺の心は常にお前と共にある。雪蓮のところに行っても必ず逃げ出して来るさ。」
「か、一刀・・・・・・」
「さあ、御使いさまたちの点数は一体何点なのでしょう~!」
「お、点数発表だ。聞こうぜ。」
「うむ!」
「さあ一人目は・・・・・・十点!十点です!」
「やったな、美羽。」
「当然じゃ!」
「さあ、二人目は・・・・・十点、またもや十点です。」
「おいおい、完璧じゃないか!」
「ふふーん♪」
「さあ、三人目は・・・・・十点、また十点です。ここまで満点です。
「あ、あれ、もしかして・・・・」
「う、うむ・・・もしかして・・・」
「さあ、四人目は・・・・・十点、なんと!四人連続で十点を出しました。」
「お、おい!美羽!もしかしてもしかするかもしれない!」
「だ、黙って、聞くのじゃ!」
「さあ、最後の五人目は・・・・・・・十点、十点です!なんと、また満点の組が現れましたこれは一体どういうことでしょう~!」
「・・・・・・・や、やった~~~~!!やったぞ、美羽!もしかして俺たち別れなくてもいいかもしれないぞ!」
「なんと!や、やったのじゃ・・・・やったのじゃーー!!」
信じられない奇跡が起きた。まさか満点を取るなんて思ってもみなかったのだから。
「え~・・・・・今審査員の方で結果発表の会議が始まります。しばしの間、休憩にしたいと思いま~す!」
(会議か・・・・でも希望が出てきたぞ。)
俺たちはとりあえず、雪蓮たちのいる観客席に戻った。
「ふっふーん!どうじゃ!孫策♪これが妾と一刀の力じゃ!」
「ま、まだ勝負は決まったわけじゃないわ!」
「雪蓮の言う通りだぞ。まだ勝負は決していないんだからな。」
「う~~~~!!」
「ところで、北郷。先ほどの音楽はやはり天の国の音楽か?」
「うん、そうだよ。これで出したんだ。」
俺は、冥琳に携帯を見せた。
「こんなものであんな旋律を奏でるとは・・・・・いや、天の国の技術には恐れ入ったよ。」
「まあ、確かにね。ここで作れって言われても作れないし。」
そうやって、雑談を繰り返しているうちに一時間ほど経った。いよいよ結果発表だ。
「では、発表しま~す!優勝者は・・・・・・・・」
ドキドキ・・・・・・
「優勝者は・・・・・・・・いませ~ん!ごめんなさいね!」
・・・・・・・はあ
「な!ちょ、ちょっと、それどういうことよ!」
雪蓮が突っかかっていった。
「え~と、会議に結果、二組さまは引き分けという形になったそうです。」
「え~!もうちょっと論じなさいよ!」
「うーん、十分に論じた結果がこれなんです。」
「そんな~」
「諦めろ、雪蓮。もう一度やったら、今度は我々が負けるかもしれんのだぞ。」
「う~、めーりん・・・・・」
「そんな顔で言ってもだめだ。・・・・・・北郷よ、この賭けはなかったこと、という形でどうだ。」
「こっちは何の問題もないよ。」
「な、何を勝手に決め取るのじゃ!一刀。」
「良いじゃないか、それに次は勝てるって保障はどこにもないんだぜ。」
「う~、じゃが~・・・・」
「だめったらだめ!」それともそんなに俺にいなくなって欲しいのか?」
「なっ!そんなわけなかろう!」
「ならそう言うことだ。」
雪蓮も美羽もこの結果で同意してくれた。って言うかこの二人結構似てないか?
「はあ・・・・・・・袁術ちゃん、今日のあなたの歌はなかなか素敵だったわよ。」
「う、うむ!そうじゃろ、そうじゃろ!・・・・・・・お主の剣舞も見事じゃった。」
「うふ、ありがと。」
そうやって、二人はお互いを讃えあった。・・・・・・何というか・・・・・二人とも素直じゃないな。
「・・・・・・孫策よ。」
「なに、袁術ちゃん。」
「・・・・・・・み、美羽でよい。」
「・・・・・・・は?」
「妾の真名をお主に呼ばせてやると言ったのじゃ!ありがたく思うがよい。」
「・・・・・・い、いや、何で?」
「お主は妾の客将になったのじゃから、真名を預けるのは当然じゃろう。」
「・・・・・・・え、えええええ?」
雪蓮は俺の方を向いてきた。
「美羽は雪蓮のことを認めたんだよ。せっかくだから貰ってやれよ。」
「うっ・・・・・・分かったわよ!これからは美羽って呼ばせてもらうわ。・・・・・・美羽、私の真名は雪蓮よ。あなたにも呼ばせてあげる。」
「うむ、では雪蓮よ。これからは妾のために存分に働いてもらうぞ!わはははは!」
「はあ、はいはい。よろしくね、美羽ちゃん。」
「うむ!」
こうして、国を賭けた大騒動は二人の和解という形で幕を下ろしたのである。
つづく・・・・
あとがき
こんばんは、ファンネルです。
長くなりすぎた・・・・・・・調子に乗りすぎた。
こんなに長いのに最後まで見てくれた人たちには感謝感謝です。
結果は引き分け、美羽と雪蓮は真名で呼び合う仲になりました。
これは袁術ルートなのでご勘弁を
さて次回は、いよいよ黄巾党の乱です。・・・・・大好きな蓮華を出そうと思っています。
では次回も、ゆっくりしていってね。
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こんばんわ、ファンネルです。
・・・・・・長い。40キロバイトは書いたかもしれない・・・・
調子に乗って書きすぎた。
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