16話『恋姫』
ガチャ―――。
華琳の部屋。
その扉を開けた。
【薫】「・・・・・・・・・」
だが、そこには誰もいなかった。
ここにいるはずだった人がいない。
【薫】「どこに・・・・・・」
【霞】「あの二人やったら広間やで」
部屋の外―――。
つまり後ろから、声。
【薫】「どこにもいないと思ったら・・・・霞。」
【霞】「・・・・・」
【薫】「あんたは・・・・私のこと、止めるの?」
【霞】「そうやな・・・・、皆は受け入れたみたいやけど、うちはこういうの一番嫌いやねん」
【薫】「・・・・だと、思った」
【霞】「うちは別に昔にこだわりはないし、一刀との想い出っていうなら一刀はもうここにいてる。」
【薫】「皆の記憶を覗いたときに・・・・・あんたと華琳だけは受け入れてくれないだろうって、思ってたよ」
【霞】「なら、うちがここにいてる理由もわかるんやろ?」
【薫】「・・・・・・・そうだね・・・」
そう言って、霞は後ろに持っていた飛龍偃月刀を前に出す。
それがどういう意味か。
【薫】「・・・・・霞」
【霞】「なんや?」
【薫】「私、あんたのこと好きだよ」
【霞】「そのネタは前に聞いたわ」
【薫】「・・・・でも、これはたぶん先生の気持ち」
【霞】「・・・・・・」
【薫】「私の・・・・気持ちじゃ、ないの」
それは、どんな気持ちなのだろう。
好きなのに、好きなのは自分ではない。
どれほどの苦痛なのだろう。
【薫】「・・・・お願い、霞」
【霞】「・・・・・・・・・」
はぁ・・・とため息と共に霞は偃月刀をおろした。
【霞】「ここまでうちのこと簡単に動かせんの、たぶん薫くらいやで」
【薫】「簡単じゃないよ。追いかけっこのときも、今も、霞が一番大変だったんだから」
【霞】「ほめられてる気せえへんなぁ・・・・」
【薫】「ははは」
【霞】「・・・・孟ちゃん泣かしたら、許さんからな」
【薫】「・・・・・・・努力はしてみるよ」
それはおそらく無理だろう。
自惚れでもなく、そう思う。
そして、霞は手を出してくれた。
広間―――。
【貂蝉】「それじゃ、もういいのねん?」
【華琳】「ええ」
私と一刀との記憶は、一刀が消した。
そして、今度は私が薫との記憶を。
つくづく、ひどい世界だ。
【一刀】「一人で大丈夫なのか?」
【貂蝉】「ご主人様のときは消す量が多すぎたけど、今度は一人でも大丈夫よん」
そして、貂蝉は華琳に向かって、手を伸ばす。
ああ、もう消えるんだ。
私の中にある薫。
薫の中にいる私。
どちらも消える。
だけど、私達がちゃんと生きるのなら、それでもいい。
と言っても、私の中の薫なんて、どれほどのものだろう。
たった1日の思い出。
これから始まるはずだった、想い出。
それが消えてしまう。
そして、これからも始まることはない。
始まる前に終わる記憶。
そうすることで始まる命。
本当に、どうして私がここまでするのか。
ふと、思ってしまう。
でも答えは出ている。
主と臣下。
女と女
人と人
どれでもない。
ただ、消えていく彼女を救いたい。
それだけだ。
【貂蝉】「はじめちゃうわよん」
【華琳】「お願い」
そして、あの時と同じ。
華琳の体から、光があふれ出す。
やがて、華琳の意識が内側へと流れていく。
あの燃えていくイメージ。
あれを華琳は今から見る。
成すすべなく、燃え尽きていく記憶。
真っ暗な中。
少女は立つ。
これから現れる光景。
それを見届けるために。
何も、話すことは出来ない。
何も、見ることも出来ない。
だけど、自分がここに在ると確信できる。
そして始まる炎の景色。
自分が経験したものが全て、灰へと消えていく。
手を伸ばせば、触れたところから。
目を向ければ、見えたところから。
忘れていく想い出。
【華琳】「(薫・・・・)」
出会いが消えた。
ケンカしていた記憶。
何故もめたのか。
そして、その後に続く感情が消える。
どうして、あんなに嫌っていたのか。
一刀を探して、薫と再会した記憶。
ひどく落ち着かなかった。
ただ、放っておけなかった。
そして、消える。
出会って、何をしたのか。
その後、風呂を使わせて、一刀がそれを覗いて、
今考えれば、アレのおかげで薫との距離が縮まった気がする。
だけど、また燃え尽きた。
どうやって、私達は互いを認めるようになったのか。
夜、城壁の上。
真名を交換した。
そして、約束した。
―私に仕えてくれるかしら?―
―当然でしょ、受け入れなかったら潰すよ?―
それも、燃え―――
【薫】「華琳!!!!!!!!」
【華琳】「・・・・ぁ・・・」
ガタン!!!!
突然、扉が強く開いた。
【薫】「な―――っ!・・・・・何してるのよ!」
【一刀】「薫・・・」
そこにいたのは薫。
この状況は薫にとって、どう映るんだろう。
そんな迷いを持ちながら、一刀は薫へと近づく。
【薫】「先生・・・・なにしてるの・・・?、あれじゃ、華琳の記憶消えちゃうじゃない・・・」
【一刀】「・・・・・・・・・」
【薫】「先生、なんのために私を作ったのよ!!華琳が記憶を失ったら、もう思い出すこともできないじゃない!!」
【一刀】「・・・・それでも、お前に生きてほしいんだよ!!・・・・わかってるのか!お前消えるんだぞ!」
本当の気持ちだから。失っても、そこに在ってほしいものがあるから。
【薫】「・・・・・・今更・・・だよ、先生・・・・・。じゃあ、私どうすればいいのよ・・・」
【一刀】「・・・・・・・・生きてくれ。」
【薫】「ほんとに・・・・今更なんだよ。こんな記憶・・・・私はもういらないの!!!」
【一刀】「なっ・・・」
何を――
言い出す前に。
【薫】「もう・・・ずっと見てきて、知っていて、こないだから・・・さ・・何回も。・・・・私、これからあと何回、先生と別れないといけないのよ・・・」
【一刀】「薫・・・」
【薫】「いいかげん、会いに行ってあげてよ・・・・先生・・・・華琳・・・ずっと待ってるじゃない・・・」
【一刀】「それでも・・・・これは華琳がすると決めたことだから・・・。そして、俺も華琳と同じ気持ちなんだ」
【薫】「・・・・だめだよ。そんなの」
【一刀】「だから、俺はお前を行かせない。・・・・・・これが、お前を救える方法だから!」
【薫】「・・・・・・先生。」
【一刀】「・・・・何だ?」
【薫】「私はさ・・・・華琳のために生まれたんだよ。」
自分は華琳のために―――
【一刀】「・・・・・」
【薫】「華琳が先生のことを思い出すために、華琳がちゃんと先生と出会うために。」
思い知らされ、絶望し、受け入れた自分の運命――
【一刀】「・・・・薫」
【薫】「その私が華琳に助けられてどうするのよ・・・華琳が私のせいでまた記憶をなくして・・・どうするのよ・・・」
それは、何も自棄になったわけではない。
【一刀】「薫」
【薫】「・・・・・華琳が幸せにならないで、何のための私なのよ・・・」
ただ、彼女が幸せになるのなら――
【一刀】「薫!!!!」
【薫】「あんたはあいつと幸せにならないといけないのよ!!!!」
ただ、あの子に望んだ世界をあげたい―――
【一刀】「だからって、お前が消えちゃ意味がないだろ!」
【薫】「貴方はあの時何を望んだのよ!一刀!!」
そして、また思い出す。
自分が華琳として何度も経験した一刀との想い出。
激昂する中で、自分と彼女との境界を失っていく。
【薫】「私を生かすこと?違うでしょう!」
【一刀】「俺は・・・・」
終端が近い。
そう認識せざるを得ない
華琳への想い。
【華琳】「・・・・ぅ・・・・・ぁ」
記憶を今消されているところの華琳が声を上げる。
【薫】「華琳!!!!!!!!」
【一刀】「―――っ!」
その声を聞くと同時に、薫が駆け出す。
声に一瞬気をとられた一刀をすり抜け、華琳へと飛び出す。
抱きかかえるように華琳に飛び込み、そのまま倒れこむ。
【貂蝉】「くぅ・・・・・っ!」
中断されてしまったせいか、貂蝉がすこし苦しんだ。
【華琳】「ん・・・・・」
【薫】「・・・・・ほんとに最後まで、私と対立してくれて・・・・」
【一刀】「華琳!薫!」
一刀が二人に駆け寄る。
【薫】「ごめんね・・・・遅くなって・・・・・2年も待たせちゃって」
一刀が二人の下へたどり着く前に、薫は華琳と額を合わせる。
【薫】「やっと・・・・返すから・・・・・許してね・・・・華琳」
そして、光がおさまった華琳は逆に光があふれ出す薫。
【一刀】「くっ・・・・・」
【貂蝉】「ぬぅぅぅぅ」
あまりのまぶしさに、目を覆う二人。
そして、二人の少女は光の中へと消えていく。
【華琳】「・・・・・・・・・・・・?」
急に炎がおさまった。
手の中には中途半端に燃え残った最後の思い出。
名前と約束。
トントン――
背中をつつかれたような感じ
わけがわからず、後ろを振り向く。
【薫】「おまたせ♪」
【華琳】「か―――」
【薫】「返しに来たよ。あんたの大切なもの」
【華琳】「薫・・・・・・・どうせ、来るなら・・・もっと、早くきなさいよ。もう・・・・これしか残ってないわよ。記憶」
手を差し出す華琳。
【薫】「あらら・・・ちょっと残念だなぁ」
【華琳】「なんで、来たのよ・・・」
【薫】「あ、ひどいなぁ~、これでも頑張ってきたんだけどな。皆に記憶を返すの」
【華琳】「そう・・・・・」
【薫】「うん、だから後は華琳だけ」
【華琳】「・・・・・・・一刀にも返したの?」
【薫】「先生はちょっと特別でさぁ、全員に返したときにしか返せないんだよね・・・・・・・っていうか全員が思い出せば先生のほうは勝手に思い出すんだけどね」
【華琳】「そう・・・・」
【薫】「だから、華琳に返せば、私の役目は終わり。無事終端です」
【華琳】「・・・」
【薫】「・・・・でも」
【華琳】「え?」
【薫】「もうちょっとだけ、返さずにこのまま話、いいかな?」
【華琳】「・・・・ええ」
【薫】「なんで、助けようとしてくれたの?」
【華琳】「消えてほしくなかったからよ・・・せっかくよさそうな臣下なのに、もったいないでしょう」
【薫】「あはは・・・・うれしくないな~~~・・・そこは友達だから~とか言えないわけ??」
【華琳】「友達って・・・・貴女、主をなんだと・・・・」
【薫】「さぁ?・・・誰かに仕えるなんて初めてだし」
【華琳】「貴女を育てた人間の顔がみてみたいわ」
【薫】「じゃあ、今日も先生をおしおきだ」
【華琳】「そうね」
こんな時に、と思えた。
でも、笑いたい。
【華琳】「貴女は、どうして・・・・そこまで・・・自分が消えてしまうのに」
【薫】「・・・・もし、さ」
【華琳】「・・・・」
【薫】「私が、なんとか生きれたとして、その後、魏に居続けられる?」
【華琳】「それは・・・・無理ね・・・おそらく」
【薫】「でしょ?それじゃ意味ないのよ」
【華琳】「意味?」
【薫】「私が・・・・・司馬懿が仕えるのは生涯、曹孟徳ひとりだけ」
【華琳】「・・・・・・・」
【薫】「私があこがれて、仕えたいとおもって、実際に仕えて・・・・」
私は・・・・なんていえばいいの?
【薫】「自分の想像と違っても、この人ならいいかって思えるのは」
【華琳】「・・・・・っ・・・」
【薫】「あんただけだよ。華琳」
そんな事言われて・・・なんていえばいいのよ・・・・
【薫】「華琳?」
【華琳】「・・・・・ほんとに、なんでこんなの・・・・・・」
【薫】「・・・・・・・華琳」
【華琳】「何よ?・・・・っ!」
急に薫が抱きついてきた。
【薫】「・・・・・・・・ありがと・・・・・・楽しかったよ」
【華琳】「――――っ!」
何かがはじけた。
それからはもう、とまらなかった。
あふれ出すそれに比例するように、薫から、流れてくる光。
【薫】「これ・・・返すね・・・・華琳」
【華琳】「・・・・・・っ・・・ひっ・・・・・や、め・・・薫・・・・」
【薫】「・・・・っ・・・ほんと、嫌になるなぁ・・・・っ・・・」
蘇ってくる記憶。
流星より現れた、天の御遣い。
そこからはじまった、乱世。
仲間が増えていき、愛する人もできた。
そして、乱世の終結と同時に訪れた別れ。
【華琳】「・・・・・・・・・っ・・・・っ」
そして、今また訪れる、友との別離。
【薫】「・・・・っ・・どうしよ・・・・・急に・・とまんな、く・・・っ・・・」
あの時は言えなかった、気持ちをいわなければ、いけない。
【華琳】「かお、る・・・っ・・・・」
【薫】「どうしよ・・・・消えたく・・・ない、よぉ・・・・・・・・」
【華琳】「いかない、で・・・・」
薫からあふれる光は全て華琳へと還り、その役目を終えた。
【華琳】「ここに・・・・居てぇ・・・・っ・・・」
【薫】「・・・・かり・・・ん・・っ・・・ここに居たい・・・・・・・」
【華琳】「薫・・・・っ・・だった、ら・・」
終端を迎える彼女の体はそれ自体が光へと還っていく・・・・・
【薫】「華琳・・・・っ・・・・・もっと・・・・一緒に・・・・っ」
【華琳】「・・・・・・ひっ・・・っここに・・・・」
【薫】「皆と・・・先生と・・・・・・華琳と・・・・・」
【華琳】「・・・っ・・・・・」
【薫】「もっと、一緒、いたかっ・・・た、な・・・・」
【華琳】「・・・一緒に、いて・・・・」
【薫】「・・・・・っ・・・華琳・・・・・ちょっとだっ・・・たけど・・・」
消えていく薫の体。
そして彼女は最後の言葉を告げた。
【薫】「――――――――――・・・・・。」
【華琳】「・・・薫・・・・・・・かお、る?・・・・・・」
その光の欠片を残し、何も無かったかのように
そこに在るのは、彼女との約束の記憶だけ。
彼女がいたという証の記憶。
【華琳】「ぅ・・・・・・っ・・・・ひっ・・・・・ぅ・・ぅぁああああああああああああああああああ!!!!!」
そこに残ったのは
彼女が自らを捧げて、願いをかなえた少女の嘆き
―華琳・・・・・想い出を・・・・・・ありが、とう・・・・・・―
そして、一人の恋姫はその役目を終え、終端を迎えた―――
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真・恋姫(魏ED)AS。
今日は更新率異常に高いですが、それは作者もクライマックスに差し掛かってテンションあがってるからです。
次回かその次で最終話予定。
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