No.76281

錦馬のホットパンツ

皆様お久しぶりです。
皆さんお待ちしていただろうか そうでないか定かではありませんが。『反骨のミニスカート』の続編『錦馬のホットパンツ』をお届けします。

前から随分間が開いてしまいましたから前回を忘れてしまったかもしれませんねえ。

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2009-05-30 00:08:31 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:9796   閲覧ユーザー数:8067

 韓遂さんが言いました。

 

 ―――孟起よ、おまえにホットパンツを穿かせてみたいのじゃ。

 

 

「言ってネェよ!そのセリフ違うだろッ?アニメ化されたからって蒼天航路のパロネタ乱用しすぎなんだよ!」

 

 と翠は怒鳴り散らした。

 その言葉の意味は、考えるまい。

 そんな乱心気味の翠に呆れて、彼女の従姉妹に当たる馬岱こと蒲公英が、一言。

 

「お姉様ぁ、ワケわかんないこと言ってないで さっさと着替えたら?いつまでもパンいちじゃ風邪引くよ?」

 

「パンいち言うなァッ!!」

 

 と怒鳴り散らしているのは、涼州にその名を轟かせた馬超孟起、またの名を錦馬超、真名を翠。

 かつては生地・涼州において、その銀閃の槍捌きと蛮族仕込みの騎馬術によって一騎当千の誉れをほしいままにしていた勇将ではあったが、先の曹操との戦いに敗れて故郷を追われ、現在では大徳・劉備の下に身を寄せている。

 

 ちなみに韓遂さんというのは、翠のお母さんの お友だちで、なおかつ曹操のお友だちでも あった人。

 前述の曹操との戦いでは翠の味方として戦ってくれたが、途中曹操と再会して昔話に花が咲き。

 

韓遂「馬超ねー、こないだ廊下でお漏らししちゃってさー」

華琳「やだ、馬超って そんなことしたの?

 

翠「にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!?」

 

 というのが涼州同盟崩壊の原因になり、翠たちは敗れたとか何とか。

 …今となっては いい思い出である。

 

「いい思い出じゃねえよ!悪夢だよ!(翠)」

 

 とまあ、そんな話はさておき。

 かような経緯で涼州から落ち延びた翠であったが、亡命先の蜀は案外とアットホームで居心地がよく、翠も、その従姉妹である蒲公英も日々を楽しく過していた。

 

 そんな ある日、翠は同僚である魏延=焔耶とささいなイザコザを起こした。

 戦う乙女に相応しい下半身のファッションは何か?ということだ。

 翠はミニスカートを推し、焔耶はホットパンツを推した。

 双方自説を譲らず衝突しあった。

 なんでそんなにヒートアップするの?というほどに激突し、口角泡飛ばし目から火花が出るほどだったが、途中から参加してきた北郷一刀の仲裁により事なきを得る。

 そして彼が出した提案に従うことになるのだ。

 

「お互いに穿いてるもの交換して、履き心地を試してみたら?」

 

 というのが前回までのあらすじ。

 今、翠の目の前にホットパンツがある。翠が推していたのはミニスカートなので、逆に焔耶がプッシュしていたホットパンツを穿かなければならない。

 対する焔耶も今頃はミニスカートを穿いて、ご主人様たる一刀と悲喜劇を繰り広げていることだろう。

 

「しっかしなー……」

 

 翠は思案顔で、手にしたホットパンツを みょいんと広げる。

 股下1センチも満たないところで大胆にカットしてあるズボン。これを服と呼んでいいのか、もはや下着ではないのか?翠は 自分が日頃ミニスカートを愛用しているのを棚に上げて、そのはしたなさを心中で責める。

 大体、こいつを焔耶あたりが着用しているのを思い出してみると、お尻がムチムチしていて とても窮屈そうではないかと思うのだ。あんなピチピチの状態で、咄嗟の時に思い通りに動くことができるのか?翠は甚だ疑問だった。

 

 しかし約束は約束。コレを着て その着心地をたしかめないことには不用意に相手を非難することもできないし、相手の焔耶もきっといまごろミニスカを穿いて そのスペックをたしかめているはずだ。

 

 自分も負けるわけにはいかない!と奮い立つ翠であるが、いかんせん着たこともない服を着るのは度胸がいる。そうやって着ようか着まいか葛藤している翠であるが、しかし、彼女は気付いているのだろうか?

 パンツもスカートも穿いていないパンいちの尻を、背後から たんぽぽが口の形を『ω』にして凝視しているのを。

 

「お姉様 今日は薄桃色かぁー」

 

「あん?なんか言ったか たんぽぽ?」

 

「あー、桃園でお花見とかしたいよね」

 

「って、ぎゃーっ!何ヒトの尻マジマジと見てんだ このエロ従姉妹!」

 

「いいじゃん減るもんじゃなしー」

 

「着る!私着るぞホットパンツ、たんぽぽに延々下着見られるよりはマシだからなーッ!」

 

 たんぽぽの口が『д』になった。

 

「ええぇーッ?もうちょっと見せてよお姉様ー、せめて持病の癪が治るまでーッ!」

 

「うっさい!あたしの下着にゃ なんかご利益あんのかッ!…ああもうつきあってられん、これを…、ああして……」

 

 と翠は手にしたホットパンツに右足を通し、左足を通し、ギュッと一気に腰まで引き上げる。

 

「あ~あ~、これでお姉様の下着が御開帳するのは また来年かぁ」

 

「あたしの下着は なんかの秘仏かッ?」

 

 いかんな、このまま たんぽぽのペースに乗っては、と翠は思った。

 アイツの言うことは ひとまず無視してホットパンツのジッパーを上げて、前ボタンを留める。これで装着は完成のはずだが………。

 

「………アレ?」

 

 当惑の声を漏らして翠は手を止めた。

 

「?、どしたの お姉様?」

 

「いや…、あの、前ボタンが………」

 

 たんぽぽが覗き込むと、翠はパンツの前ボタンを留めようと四苦八苦していた。

 しかし止まらない、翠は前立ての右端と左端を力いっぱい引き合わせ、重ねようとするが、二つはまるで越えがたい障害物でもあるかのように距離をつくり、互いを触れ合おうとしない。だからボタンも留められない。

 

「………お姉様、これって………」

 

「はっ、たんぽぽ、言うな、それ以上言うなッ!」

 

 何かに気付いた翠が蒼白になって叫んだ。

 しかし たんぽぽは無情の言葉を途切れさせなかった。

 

「パンツのサイズが小さいんじゃ……!」

 

「◆〇☆※--ッ!」

 

 翠は声にもならない声で絶叫した。

 彼女が今もっているホットパンツは、今回の論敵である焔耶と着ているものを交換して得たものである。よって今 翠が着ようとしているホットパンツは元々焔耶のもの。

 そのホットパンツが翠には入らない。

 それはつまり………ッ!

 

「お姉様、焔耶より太ってるってこと?」

 

「言ーうーなぁーーーッ!!」

 

 翠は頭を抱えて その辺を転げまわった。外れた前ボタンと開いたジッパーを そのままに。

 たんぽぽの無慈悲な言葉は、エッ○さんがゼロ○スに投げつける包丁のように、翠の胸に鋭く突き刺さった。

 

 そりゃまあたしかに、翠は、鈴々や恋ほどには大食らいではないが、時に彼女らに対抗して大食いバトルに参加することもある。その上、翠が得意とする乗馬術は下半身の筋力を大いに必要とする技だ。両足だけでなく、臀部の筋肉だって相当鍛え上げられているに違いない。

 筋肉がついていれば、当然体積も大きくなるわけで………。

 

「お馬さん並に大きなお尻のでっきあがりーッ!てなるわけだよねェ…」

 

「言うなぁーッ!たんぽぽ言うなーッ!あたしは悪くない!夜寝る前にブタの角煮とか食ったのも悪くないーッ!」

 

「そんなことやってりゃ太るよ……。………、あ、そうだ」

 

 たんぽぽは、おもむろ喉をモゴモゴさせて。

 

「(焔耶ボイス物真似)さあ、翠から借りてきたミニスカを穿くぞー、アレ、ストンと足元まで落ちてしまったー」

 

「@※#ーーーーーーーーッッ!!」

 

 翠はついに頭の中が爆発炎上してしまった。

 肉親にすら容赦のない恐怖の女・たんぽぽ。

 

「にゃはは、ムダに悪女レベルを上げてしまったー」

 

 と たんぽぽは可愛く頬を掻いた。

 そこへ……、

 

 

 ドドドドドドドドドドドドド………ッ!

 

 

「ほえ、何この音?」

 

 別に荒木飛呂彦的な敵キャラが登場したわけではない。足音だ、誰かが けたたましく床を踏み鳴らしながら廊下を全力疾走しているらしい。しかもそれは、翠と たんぽぽのいる部屋へ一直線に近づいているようだ。

 ドガンッ!とドアが蹴破られた。そして、

 

「翠のホットパンツ、萌えーッ!」

 

「きゃあーーーーッ?」

 

 何者かが背後から翠に飛びついた。

 さしもの錦馬超も、従姉妹の精神攻撃によって心身をいたぶられた折、突如の急襲に反応しきれなかったようだ。

 突然の襲撃者は、翠の背中にピッタリとくっついて離れない。

 

「うにゃーーーーッ?」

 

 翠は顔を真っ赤にして叫んだ。どうやら襲撃者は、翠のお尻の頬擦りしているようだ。変態な。

 

「好き哉、好き哉!日頃の乗馬の修練で肉付きのよいムチムチの翠の尻を、ピチリと隙間なく覆うホットパンツの質感。これぞまさに最高の餡、最高の衣を取り合わせた、最高の翠の尻饅頭だあーーーーッ!」

 

「誰だッ?そんな変態的なことを言うヤツは誰だ?姿を見せやがれーッ!」

 

 しかしながら襲撃者は背後に取り付いているために翠からは けっしてその姿を確認することができない。振り向いても、背中に取り付いた襲撃者も一緒に旋回してしまうため、自分の尻尾を追う犬状態で けっして姿を見ることができないのだ。

 

「クソーッ、一体誰だーッ!尻に頬擦りするなぁー!」

 

「最高だ。翠の尻は、この国に数ある美器珍宝の中でも群を抜いていよう。順序付けて並べると…、愛紗の髪≦朱里の頭≦桃香様のおっぱい≦主のお袋≦翠の尻≦メンマだッ!」

 

「わかった!お前 星だな!」

 

 翠が断言すると、襲撃者はスッと彼女の背中から離れた。そしてやっと確認できたその姿は、白い装束に身を包んだ美丈夫―――、

 

「いかにも、この私こそがサイフの中身は2千円、メンマ大好き趙子龍だッ!」

 

「お前メンマたかりに来たのかッ?」

 

「失敬な、私はサイフの中身が2千だろうと2千億だろうと、メンマを食べたい時には食うのだ!」

 

 と堂々 宣言するのは、翠と同じ蜀が誇る五虎将軍の一人にして、中華が誇るメンマ四天王の一人、趙雲こと星だった。…え?メンマ四天王の後三人は誰かって?知らん。

 

「ちなみに、先ほど私が立てた順序付けだが、アレは私の独断偏見による主観評だので異論反論の類はご遠慮いただきたい!以上!」

 

「誰に言ってるんだよッ?」

 

「でー?星にゃんは、何しにここへ来たのー?」

 

 ここまでの やりとりを落ち着き払って傍観していた たんぽぽが尋ねる。

 

「うむ、廊下を歩いていたところ、私の『翠がホットパンツを穿く第六感』が、翠がホットパンツを穿く気配を察知してな、第六感に従って飛んできたわけだ」

 

「どんな第六感だよッ?」

 

「しかしながら、残念ながら完全な翠のホットパンツを拝むことは適わぬようだな」

 

「うっ」

 

 翠は言葉を詰まらせた。隕石のごとく突然登場した星が見る先は、だらしなく開きっぱなしとなったホットパンツのジッパー部分。星の瞳の色には、明らかな哀れみの色があった。

 

「翠、だから私はラーメンチャーハンはやめておけと言ったのだ」

 

「うわ、お姉様そんな食べ方したんだ。炭水化物に炭水化物の組み合わせは太るのに」

 

「うるせえなあッ!いいじゃねえか過ぎたことはッ!」

 

 なんか少しずつ袋叩きの様相を帯びてきたことに泣きたくなる翠だった。

 

「しかしまあ、なんだ、……みなまで言うなッ、この趙子龍、一目にてこの状況、説明されるまでもなく理解した!」

 

「へぇー、そりゃすげえ」

 翠もそろそろ この星の独特なテンションについていけなくなっていた。

 

「そのホットパンツが翠の尻の丈に合わず、収まりきらずに四苦八苦、ということだろう。そんなときこそ この私が知恵を授けてしんぜよう」

 

「ええ?ホント?どうすれば このデカ尻をホットパンツに収めることができるの星しゃんッ?」

 

「デカ尻言うなッ!」

 

「簡単なこと…、その尻についたムダ肉を落とすのは一朝一夕のことではできまい。ならば、他のものを落とすしかない」

 

「他のもの?」

 

「ってか、ムダ肉言うなッ!」

 

「そうだッ、翠よっ、パンティーを脱ぐのだ!」

 

 

「はぁーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」

 

 

 星の一言に、翠は当然ながら耳を疑った。コイツ乱心したかっ?翠は星の正気を疑う。

 その視線に気付き、星は心底 心外そうに、

 

「翠よ、何を可哀想な人を見る目で私を見ている。私は、非常に合理的な論でもって この策を勧めているのだぞ」

 

「どこがだよ」

 

「だよねぇー、たしかに お肉を落とすのはスグにはムリだけど、パンティーを脱げば少なくとも布一枚分の厚さは落とせるってことだもんねぇ」

 

 たんぽぽが解説するのへ、翠は「はっ」となった。

 

「そうそう、私が言いたいことは、つまりそういうことなのだ」

 

 星が自信たっぷりに言う。

 

「で、でもよぅ、たった布一枚分の違いだぜ、そんな程度の差で、入らないホットパンツが入るようになるのかよ」

 

「でもでも、お姉様、まずはホットパンツが穿けないと、焔耶との勝負の形もできないんだよ?」

 

「うっ」

 

「そうだぞ翠よ、こうしている間にも焔耶は、ミニスカの見えるか見えないかの際どさを駆使し、主に『ああ、財布を落としてしまったー』などと小芝居を打たせているのかもしれんのだぞ」

 

「見てきたように言うなよ!」

 

 あーもー!わかったよ!と翠はヤケクソになった。

 

「脱げばいいんだろ!脱ぐよ!パンティー脱いだらぁ!」

 

 と翠は完全に騎虎の勢で、まず一度ホットパンツを脱ぎ、その上で薄桃色のパンティーに手を掛ける、それを一気に引き下げようとして、「はっ」と、手を止めた。…視線を感じる。

 

「うおっ、止めおった。案外もったいぶるなぁ」

 

「お姉様ぁ、焦らすの禁止だよぉ。ホラ、ガバッと、がばあっと行ってぇ!」

 

「お前ら出てろっ!」

 

 翠は二人を部屋から叩き出して、作業を続行した。

 

 

 

 ……(もぞもぞ)………(よし、脱いだ、それで)………(右足、左足、上げて、ジッ)………(うわ、生地が直接当たってゴワゴワする)………(ふんぬっ、へやっ、ふぉおおおおおお!!)………。

 

 

 

 そして星と たんぽぽは再び入室を許された。

 

「…で、どうだった翠?」

 

「…………ダメだった」

 

 疲労した表情で言う翠。その腰の部分には、あいかわらずジッパー部分が だらしなく開いたままのホットパンツがあった。以前と少しでも違う点があるとすれば、その開いたままのジッパーの奥、さっきまでは薄桃色の布地が除いていた部分に。

 

「うわーっ!見て見て星ちゅん!毛チラだよ毛チラっ!うわエロぉぉぉぉい!コレだけでご飯三杯はいけるねっ!」

 

「うむ良作だ、ここは迷わず写メっておこう。…ちなみに写メとは『写生して愛でる』の略だ!」

 

「うるさいわ貴様らあぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 翠はついに切れた。

 

「バカだった!テメエら信じた あたしがバカだった!パンティ脱いだぐらいで入らねえパンツが入るわきゃねえもんな!」

 

「なんだ、今頃気付いたのか?」

 

「お前殴るよ しまいにゃ!」

 

「まあまあ、お姉様 落ち着いて」

 

「そうだ、あまり怒っては お肌によくないぞ。…そうだ、お前にいいものを進呈しよう、我が私物のホットパンツだ」

 

「最初から それ出せやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 

 星が懐から取り出したのは紛れもない、翠が今穿こうとしているものと同タイプの、股下数センチもない極小ホットパンツだった。しかも見た目、焔耶から交換されたソレよりも気持ちサイズが上そうだ。

 

「わあ、これならお姉様の尻にもハマるかも」

 

「そういう言い方をするなよッ!」

 

 翠は、星の手からホットパンツ(2枚目)を引っ手繰ると、早急に今着ているものとチェンジを実行した。ちなみに星とたんぽぽは、その間また部屋の外に待機させられた、体育座りで。

 

 そして、

 

「入ったーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 

 翠の歓喜の声が部屋に響き渡る。

 

「やった!やった!このパンツあたしにピッタリだよ!丈が合うと着心地もこんなに変わるんだなあ。ありがとう星、これでやっと なんとかなりそうだよ!」

 

「うむ、礼には及ばん。迷える子ヒツジを救うことも趙子龍の務めなれば」

 

 星は満足げに頷いた

 

「よかったね お姉様、これでやっと焔耶と同じ土俵の上に立てたねッ」

 

 とたんぽぽも姉とも呼べる相手に賞賛を贈る。

 ともかくも、これでやっと勝負の形はできたのである、しかしこうして翠がスタートでもたついていた間にも、焔耶は一歩も二歩も先んじているに違いない。今頃ヤツは、パンツが見えるか見えないかの際どさによって民衆数百の注目を集め、GIENコールを受けている真っ最中かもしれないのだ。

 

「あたしも負けてられないゼ!」

 

 翠は奮い立った。ピッタリと腰尻に当てはまり、ベルトまでキッチリ閉めた翠の士気の高さは、まさに歯車が噛みあうごとしだ。

 

「んー、でも…」

 

 翠は、あることに気が付き、フト漏らす。

 

「このパンツ、さっきはピッタリだって言ったけど。…んー」

 

 少し、大きい、と翠は危うく口の外に漏らしそうになった。そう、なんだか大きいのだ このパンツ、さっきとは逆に。その証拠にベルト部分から手を丸々突っ込んで、尻を直接ペタペタ触ることができる。

 

「このパンツ、元々 星のなんだよなぁ、………ということは……」

 

 翠の口元からイヤらしい笑みが零れた。このパンツのサイズ=持ち主のプロポーションだとすれば。それは星が翠より………、

 

「ああ、そのパンツはな、私が愛紗に贈ろうとして突き返されたものなのだ」

 

「やっばぁぁーーーーーーーーーーーッッ!!」

 

 翠は危うく思ったところを口に出すところだった。

 そんな翠の様子に気付かず、星はブツクサと言う。

 

「まったく愛紗め、日頃世話になっている礼にと贈ったものを……。身の丈まで調べてピッタリのを選んできたのだぞ、それをなあ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 翠は頬にタラリと冷や汗を流した。……愛紗と同じサイズなんだ、このパンツ。

(うひゃ~、迂闊なことは言えね~)

 

 迂闊に言ったら青龍刀でバッサリやられかねない。

 という風に翠が死線を感じていると、それを傍から見ていた たんぽぽが気になったのか、口を挟む。

 

「ねえねえ、星みょん星みょん」

 

「なんだい たんぽぽ?」

 

「なんで愛紗は そのホットパンツ受け取らなかったの?変な形の下着ならわかるけど、パンツぐらいならまだフツーの衣服じゃん?」

 

 そう言われれば。

 

「なあに、簡単なことだ」

 

 星が答えて言った。

 

「そのパンツの後ろには、穴が開いているのだ」

 

「なんとぉーーーーーーーッ?」

 

 翠は慌てて自分の後ろを確認した。……ペタペタ、たしかに開いてる!そういや さっきから後ろが涼しいと思ったら!

 

「うわー、ぜんぜん気付かなかったーッ!」

 

「主に話を窺うには、オーバックとかいう意匠なのだそうだ」

 

「おーばっく?」

 

「オーバックは凄いぞ翠!それを装着した今のお前は まさにダブルオー○イザー!それを一目見れば主殿のポニョはたちどころにトラン○ムライザーだ!この気持ち、まさに愛だ!」

 

「わけわかんねえよ!……ええい脱ぐ!こんな恥ずかしいもの穿いて外歩けるかーッ!」

 

 そりゃあ こんなもの贈られたら愛紗じゃなくても突き返すわ。

 翠は激昂してパンツのベルトに手を掛ける。…カチャカチャ、カチャカチャ、……アレ?

 

「は、外れない?」

 

 当惑する翠、手順どおりにやっているのに、ベルトのバックルは何かの魔力が掛かっているかのように頑として外れない。ベルトが外せないとオーバックのホットパンツも脱げない。

 

「ああ、そのベルトな、呪いのベルトだぞ」

 

「なにそれッ?」

 

「呪いのベルトってー、ラダ○ームの隣に住んでる爺ちゃんじゃないと外せないんだよねー」

 

「なんだそりゃーッ!」

 

 絶叫するしかない翠。

 今や彼女の後ろ側は、丸い小窓から可愛いお尻がコンニチワ状態。その上 不覚にもさっき脱いだパンティーを穿き直し忘れていたために、丸窓の中は剥き出しの割れ目がバッチリだ。

 

「いかん、写メる、私は写メる(写生して愛でる)……!」

 

「やめんかーッ!」

 

 翠はおもむろに絵筆を取り出した星を蹴り飛ばした。

 

「……あ、そうだ!」

 

 さらに たんぽぽが何かに気付く。

 

「大変だよ お姉様!そろそろ調練の時間だよ!」

 

「なにぃ?」

 

「今日は午後から、所属の兵たちに馬術の調練をほどこす予定じゃない!もう時間ないよ、急ご お姉様!」

 

「ちょ、ちょっと待て、しかしこの格好で人前に立つとかムリだよ、今日は休み………」

 

「ほう、ではこの趙子龍も御一緒させてもらおう。ちょうど いい機会だ」

 

「待て星!なんでオマエ後ろから あたしのこと羽交締めにしてんだよ!…押すな!たんぽぽも押すな!あたしを何処へ連れ……、ああ外だ!外へ出た!太陽がまぶしい!きゃああああああ………ッ!」

 

 

 

 そうして。

 

 

 

 場所は変わって成都の外れにある錬兵場。

 そこに既に、今日 調練を受ける予定の兵士たちが大挙して集まっていたが………。

 

「あ~、だりぃ~」

「俺 帰っていいかな」

「もう何もやる気が起きない」

 

 何故か壊滅的なほどにテンションが低かった。

 ある者は座り込み、またある者は地に寝そべり、中には既に帰り支度を始める者までいる。

 

「…だって、なあ?」

「そうそう、もう軍の中じゃ噂になってるぜ……」

「馬超将軍が、馬超将軍が・・・…」

 

 

 

「ミニスカを穿いてないなんて!」

 

 

 

「俺は馬超将軍のミニスカを楽しみに今日の訓練に志願したんだぜ!」

「俺もだよ!乗馬して地を駆ける将軍の、風にはためくミニスカの裾の、その中身が見えるか見えないかの一瞬に俺は心奪われた!この感情、まさに愛だ!それなのに!」

「乙女座の俺は感傷的にならざるを得ない!」

「斬り捨てゴメーンッ!」

 

 蜀の勇士たちは、翠のミニスカートを一目たりとも見れないことに、肩を寄せ合って咽び泣いた。

 

「………………………こいつら、殴りてー」

 

 それを翠は、死んだ魚のような三白眼で見下ろしている。

 

「許してあげなよ お姉様、皆お姉様のことが大好きなんだよ」

 

 一緒に訓練に参加している たんぽぽがフォローに回った。星もまた、

 

「そうだぞ翠よ、それに見てみろ、彼らは ただ座して泣き寝入りするばかりではないぞ」

 

「へ?」

 

 意気消沈の兵の中で、このばかちんどもがーーーーッ!と奮い立つ者が何人かいる。

 

「お前たちは何もわかっていない!」

 

 ある兵士が言った。

 

「お前たちは、馬超将軍の下半身の一面しか見ていないんだ!だからそうして簡単にくじけてしまうんだ!」

 

「そうだ!聞いたろう、今日 馬超将軍は、ミニスカの代わりにホットパンツを穿いてるんだぞ!」

 

 ホットパンツじゃ下着見えないじゃんよー、と誰かが反論する!

 

「ばかーーーーーッ!」

 

 その誰かが殴り飛ばされた。

 

「いいか、たしかにミニスカは下着が見えるか見えないか、その際どさに胸を高鳴らし、もしも見えたら超ラッキー!というのが醍醐味だ!しかぁし!ホットパンツにはホットパンツの味がある、ミニスカのヒラヒラした裾からは絶対に確認できない生のヒップライン!それを合法的に観賞することができるのは、まさにホットパンツのみ!」

 

 おおぉー、と人ゴミから歓声が上がる。

 

「その厚い生地に閉じ込められたムチムチの尻の丸みは、剥き出しのソレと比べてなお別物の魅力をかもしだす!しかもそれは、たった一瞬 垣間見せるのではなく、彼女が視界にいる限り、永遠に観賞することができるのだ!いわば、ミニスカが刹那のエロスだとするならば!ホットパンツは持続のエロス!」

 

 おおおおおおおおおおおッッ!!と衆人が沸き立つ。

 

「さあ諸君、我々の目的は定まった!今日は馬に乗って駆けられる馬超将軍の後ろに付き、その尻の丸みを心行くまで網膜に焼き付けるのだ!」

 

 

「お前ら死ねッ!」

 

 感極まった翠が兵士の群れの中へ槍を投げ込む。軍団は俄かに混乱の坩堝と化した。

 

「……ところで、星りん」

「なんだい たんぽぽや」

「あの兵士たち、らっきーとか、ひっぷらいんとか、えろすとか、天界の言葉使いすぎじゃない?」

「ああそれはな、あの論すべて、主からの受け売りだからだ」

 

 想像してください、一般兵たちと女の子の尻を議題に朝まで語り明かす一刀の図。

 元凶は今は別のところにいた。

 

「あっ、将軍!」

 

 激昂した翠に追い掛け回される兵士の一人が、翠の出で立ちの異変に気付いて愕然とする。

 

「なんですか その腰に巻いたものはッ!」

 

 兵士が指摘するのは、その名の通り翠の腰に巻かれたもの。彼女は、ホットパンツの上から黒い布を巻きつけていた。それは、今回 翠の論敵となった焔耶が日頃腰に巻いているもの。腰マントとでも言おうか。互いの穿いているものを交換したときに、ホットパンツと一緒に譲り受けたのだ。

 よくわからない人はゲームを起動して焔耶の立ち絵を確認すべし。

 それを今、翠も腰に巻いている。

 

(た、助かった……)

 

 これさえ巻いていればオーバックが丸見えになることはない。地獄に仏とはこのこと、この腰マントは翠に残された最後のファイアウォールだった。

 

「将軍、何そんなの巻いてるんスかッ?」

「そうっス!あまりにも理不尽っス!」

「脱げー脱げー!」

 

 兵士たちからはすこぶる不評だった。Boo!Boo!とブーイングの嵐。

 

「(星)ぶーぶー!」

「(たんぽぽ)ブーブーブー!」

 

「うっさい!お前らまで便乗すんな!」

 

 ともかくも、一喝してブーイングを沈静させた翠は、ここに来た本来の目的を果たそうとする。

 そう、ここへは仕事しに来たのだ。キッチリ兵たちに修練をほどこして、さっさと終わらせて帰ろう。

 

「では、テメエらよく聞けー、今日の訓練は持久走だ。一定の速度を落とさずに、どれだけの長く 馬を走らせられるかを練習するぞ!」

 

「「「「「……おー、ぅ」」」」」

 

「やる気ねえなテメエら!もっと気合入れろよ!」

 

「じゃあ その腰マント脱いでくださいよ将軍!」

 

「うっせえよ!ああもう!いいから走るぞ、全員乗馬!」

 

 翠はヒラッと馬に飛び乗った。

 

「ひうッ」

 

 いつものクセで つい股を大きく開いてしまい、慌てて後ろを押さえる。

 

(み、見えてなかったよな……、今の?)

 

 こうして、翠にとって地獄のデス・マーチならぬデス・ウマーチが始まる。

 

 

 

 パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ………。

 

 

 

 軽快な蹄の音をたてて何頭もの駿馬が大地を駆けていく。

 先頭に立つのは翠。将軍である彼女は先導役だ。

 その後ろに星を始め、多くの兵たちが追走しているのだが、なんだかイマイチ気合が上がらない。

 

「なあ、今日の馬超将軍、遅くね?」

「やっぱり、いつもの半分ぐらいの速さしかねえよなあ?」

 

 兵士たちが囁きあうとおり、翠はいつもの実力を発揮できずにいた。

 なにせ、臀部に大いなるハンディキャップをお持ちの今日だ。尻を鞍にピッタとつけて、その間にはしっかりと腰マントの裾を挟んでいる。それならば自身の背後は万全にガードできるだろうが、スピードが出ないことは疑う余地もない。

 本来、彼女の馬の乗り方は、顔を馬の鬣に押し付けるようにして、腰を浮かせて走る、いわゆるジョッキースタイルだ。それをしない翠の乗馬術は、いってみれば翼を使わないで二足で走る鷹も同じだった。

 

「……………」

 

 遅いのは翠自身もわかっている。しかしスピードを上げるわけには行かない。スピードを上げれば自然腰が上がり、腰が上がれば腰マントは翻って、その中身が丸見えになってしまう。しかもすぐ後方を走っている兵士たちに絶好のロケーションで。

 

「うううぅ~」

 

 それを想像すると顔を真っ赤にしてしまう翠だった。

 

「…どーするよ、こんなんじゃ訓練にならないぜぇ」

 

 兵士の一人がぼやくように言った。

 

「ふむ、それではこの私が一計案じよう」

 

「へ?趙雲将軍?」

 

 実は軍団の中に混じっていた星が、みずからの跨る白馬に一鞭入れて、ギア一段階分のスピードを上げる。

 馬群から抜け出し、先導する翠すら追い越して、新たに先頭に立つ星。

 

「…星!何やってんだよ、あたしの前に出てきたら……ッ」

 

 と、注意しようとした その瞬間だった。

 新たな先頭となった星が、後ろを振り向き、鼻で「フッ」と笑った。『アラァ、お嬢ちゃん遅いわねえ、それなら馬じゃなくて牛に乗ったほうが いいんじゃなくて』といわんばかりの挑発した笑みだった。

 その標的は言うまでもなく翠。オーバックのせいでスピードの出せない翠。

 

 ……………、

 

 …………………………………………ぷっつーん。

 

 

 

 

 

「上等だ!受けて立ったらあああぁぁぁぁぁぁあああああッッ!!」

 

 

 

 

 冷静な判断力を失った翠はすぐさまスピードを上げるのだった。

 手綱を絞り、鐙を踏みしめ、尻を上げて伝家の宝刀ジョッキースタイル!すぐさま風圧で翻る腰マントの その奥に、白いものが輝いて、兵士たちの瞳に飛び込んでくる。

 

「えっ?今の何だ?」

「ちょまっ、俺よく見えなかったぞ!」

「とにかく追え、ドンドン速さ上がってくぞ あの二人!振り切られるなーッ!」

 

 後続の兵士たちも必死になって二人を追う、スケベ心丸出しで。

 その邪悪な視線に背中で気付いた翠は…、

 

「…やんッ!」

 

 と片手で自分の尻を押さえた。腰マントが翻らぬように。

 それで背後の備えは万全だが、片腕ではどうしても手綱の操作は不十分になる。スピードが落ちて星との差がドンドン開いていく。

 

「んん?どうした翠、西涼の雄・錦馬超の実力とはその程度か?」

 

「言わせておけばテメエェェェッ!」

 

 星が挑発すれば翠がスピードを上げる、スピードを上げれば腰マントが翻って兵士たちの目の前にスゴイものが現れる。翠が星を抜けば、星が翠を抜き返し、二社のスピードはグングン上がっていく。

 そのスピードは、一般兵が到底付いていけるものではなく……。

 

「……イカン、馬が限界だ、俺はもうここまでだ……」

「ッ?、何を言ってるんだ!桃源郷はすぐそこだぞ!諦めるな、力を振り絞れ!」

「スマン、俺には力が足りなかった、俺の代わりに、オマエが……、ぐふっ」

「はっ、………くそおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!」

 

 それでも何人かの兵はしぶとく翠たちの後ろにピッタリ張り付く。

 

「散っていた仲間たちのためにも……、俺は!俺はぁぁぁぁッ!」

 

 今や彼のスケベ心は彼一人だけのものではない、脱落していった仲間たちの心が すべて、彼の胸の中に凝縮されて燃え上がった。

 

「星ぃぃぃッ!テメエに あたしの前は走らせねえぇぇぇッ!」

 

「私もできれば お前の後ろを走りたいのだがな、しかもすっごい至近距離で!」

 

 二者の競い合うスピードはさらに上がっていく。

 そのあまりの速さに、彼女らと擦れ違う者は、それと認識できないものだ。

 

 

 ゴオオオオオオオッ!ヒュイイイイイイイッ!(※ドップラー効果)

 

 

 焔耶「ひゃあッ、なんだ今の突風はッ?スカート捲れるじゃないかッ!」

 

 一刀「今のは、ソニックブームだな」

 

 焔耶「そにぷー?」

 

 一刀「音の速さは時速1224キロでね…?」

 

 焔耶「お館 何言ってるんだ?」

 

 

 そうして、人々が必死になるさまを遠くから眺めて、 たんぽぽは一人呟いた。

「みんな大変だねぇ~」

 と。

 

 

 ………。

 

 

 …こうして、翠の部隊の乗馬訓練は終了した。

 

「いやー、走った走った沢山走った。紐育まで走ったぞ」

 と星は豪快なウソをついた。

 

 星と翠の限界を超えた競り合いによって、部隊の走行訓練は思った以上の成果を上げた。あれだけ過酷な走行であったにもかかわらず、目の前のエモノが大きかったせいか脱落者もほとんどなく、従って、その全員が翠の腰マントの奥の桃源郷を目撃することになったという。

 

「うう……、うううううううう~…ッ!もうお嫁に行けねぇ~!」

 

 その日、翠は涙に枕を濡らした。

 

 

 

 ―――後日談

 

 

 翠「いやー、参った参った、ホットパンツのせいで酷い目にあったぞ」

 

 焔耶「ふむ、そうか」

 

 翠「オマエがどんだけ推してもなあ、やっぱホットパンツよりミニスカだって、今日はミニスカ穿いて落ち着くもん。人は慣れたもんを身に着けないとなあ」

 

 焔耶「ああ、そうかもな」

 

 翠「?、どうしたんだよ?今日はやけに大人しいじゃねえか?」

 

 焔耶「そ、そんなことはないぞ」

 

 翠「まあいいや、オマエから借りたホットパンツ返すぜ、もう二度と穿くこたないだろうしな」

 

 焔耶「そうか、…わかった。私が お前から借りたミニスカートだが……、今、洗濯中なんだ」

 

 翠「ん?…ああ!悪い、そういうのぜんぜん気付かなかった!あたしも洗って返すよ、このパンツもう少し……!」

 

 焔耶「イヤいいんだ、こちらの場合、汚したのは お館だから……」

 

 翠「?」

 

 焔耶「その………」

 

 翠「………」

 

 焔耶「………白いので」

 

 翠「お前らヒトのミニスカートに何ブッ掛けたッ?ああクソッ、アタシが生き恥さらしてた そのときに何やってた おのれらああああああ!」

 

 焔耶「ミニスカートって、…案外イイな」

 

 翠「ぜんぜん勝った気がしねえええぇぇぇぇッ!」

 

 終劇


 
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