汜水関 咲夜視点
林冲「うっ…ひっく…私が…えぐ…悪かった…です…」
汜水関の戦闘は私の予想以上に早く収束した。
星を捕らえられた事、そして初撃の月の魔法で敵を総崩れに出来た事が大きいのだろう
そして今、目の前には私達が相手をして泣かせてしまった梁山泊の一人、林冲がいた
雪蓮「ねぇ、これどうすんのよ?悠里園長先生なら何とかできるでしょ」
悠里「うぇぇ?あたしに聞きます?あたし、子どもは専門だけど、大きいお友達は専門外ですよ」
凪「やり過ぎてしまいましたね」
秋蘭「仕方なかろう。こちらも余裕がないのだから」
咲夜「ふむ…おいお前、いい加減泣くのをやめろ。じゃないと服を切り刻むぞ」
私はナイフをチラつかせて言ってみた。
すると、林冲は「ひぃっ!」と小さな悲鳴を挙げ、コクコクと黙って頷いた
流琉「これは同情せざるを得ませんね」
霞「なんや、こっちが悪い事しとる気分になってくるなぁ」
星「相変わらずの容赦の無さだな。零士殿!メンマと酒のお代わりはありますかな?」
零士「星ちゃん、君一応捕虜扱いなんだから、もう少し遠慮しなよ」
あっちはあっちで、自由にしてるな
月「咲夜さん、今し方、咲希ちゃん達に報告済ませたよ。手筈通り、動くだって」
月の報告に、私は頷いた。
今回の作戦、私達が汜水関、虎牢関を通って表から洛陽を襲撃、陽動し、その隙に咲希達が裏から洛陽へ入り、救出と徐福の排除をする事になっている。ちなみに洛陽までの裏道は、18年前に私と零士が使った道だったりする
咲夜「了解。詠、華佗、被害状況はどうなってる?」
私は詠と、現在自軍の兵士の治療に努めている華佗に問いかける。
今回、衛生兵がとても優秀だから、気兼ねなく怪我出来るな
詠「自軍、敵軍、共に死傷者ゼロ。気を使って戦闘していたとはいえ、この結果は奇跡ね」
今回の洛陽戦、私達は極力殺す事を避けている。というのも、私達の主な相手が三国の人間だからだ。
流石の私達も、もともと味方だったやつを殺すのは忍びない。それに、死んで動かない奴より、生きた重傷者の方が厄介な存在である事もある。よっぽどの悪党でない限り、助けられる人間を放って逃げるなんて事、三国の人間は特にしないだろう
と言っても、極力だからな。乱戦にもなれば、うっかり殺してしまう事だって出てくるだろう。だから、原則ではない。殺してしまったらごめんね
華佗「怪我人の治療、済んだぞ。医者としてはもう少し休ませて欲しい所だが、出発するのか?」
華佗と、恐らく手伝っていたのだろう華雄が汗だくでやって来た。
死人がいないとは言え、重傷者はいるのだ。大変だったのだろう
咲夜「そうだな…華佗、そして華雄は、負傷者と一緒にこのまま汜水関に待機。そして明け方になったら進んでくれ」
華佗「いいのか?」
咲夜「あぁ。負傷者を連れてっても、行軍速度が遅くなるし、戦闘でも役に立たん。だから、華佗達は一晩休め。わかったな?」
もちろん、それも理由の一つだが、一番の理由は華佗を休ませる事だ。
今回の私達の軍団きっての名医を、疲労で倒れて貰うわけにはいかない。
華佗の事だから、こうまで言わないと絶対休まず無理をするだろうからな。
華雄にはその間、護衛として付いてもらうが、まぁ華雄なら三日三晩寝なくても平気だろう。それに、せっかくだし星と林冲にも待機してもらおう。使えるものは何だって使う主義ってな
華佗「そうか、それはありがたい。じゃあ、俺達は明日の日の出前にここを出発する」
咲夜「あぁ。華雄、後は頼んだぞ」
華雄「あぁ、気を遣わせて悪いな。後は任せろ」
どうやら華雄は察していたらしい。頼りになるな
咲夜「さて…星、それに林冲、お前達に聞きたい事がある」
私はメンマを食べている星、そして私を見てビクビクしている林冲に声をかけた
星「モグモグ…なんだ?」
林冲「は、はい、なんでしょう?」
どうして林冲はこんなにも臆病になってしまったんだ?私の知る限り、もっと凛々しく、誇りに溢れる奴だと思ったが…
悠里「姉さんのあの顔…林冲さんが怯えている理由が姉さんにあるって、気づいてませんね」
詠「ほんと、人の心を折る事に関しては、天下一品よね」
そんなに酷い事したっけかな?
咲夜「一つ目、まずはお前達の状況だ。お前達程の奴が、なんで徐福に与している?大方、北郷一刀辺りを人質に取られての事なんだろうが」
私の言葉に、星はメンマを食べる手を止める。そして、真剣な表情で私を見てきた
星「あぁ、そちらの予想通りだよ。私達は会議の途中、突然徐福に襲撃されてな。その時に主、翠、星彩、劉協様、李儒、高順、そして猪々子を囚われてしまった」
なんだと?
北郷一刀や、最悪桜辺りも囚われているだろうとは思っていたが、猪々子まで囚われたのか?
星「あの時、我々は主を殺される幻覚を見せられ…不甲斐ない事に、動揺して動けなかった。そんな時、猪々子や高順だけが動き、最後まで徐福に反抗したが…本当にすまない」
星は罪悪感からか、目を逸らした。
それで全てを察した。猪々子は徐福と戦い敗れ、そして囚われた。
あいつが、うちの大切な家族が、傷付いた
咲夜「全員聞いたか?」
私は声を大にして言った。私の背後にいるであろう、私の家族達に
零士「あぁ、しっかりと」
悠里「そうですねー、聞いちゃいましたねー」
秋蘭「よりによって、猪々子をなぁ」
雪蓮「そうね、どうしましょうか」
凪「それは決まってるじゃないですか」
詠「わかってるわよ、凪。雪蓮が言いたいのは…」
月「どうやって報復するか、だよね?」
流琉「そうですね。落とし前はつけないといけませんからね」
恋「八つ裂き」
家族全員が応えた
この戦、私達が戦う明確な理由を得てしまった
音々音「大陸の守護者を怒らせましたね」
霞「せやなぁ。この戦、勝ったも同然やな」
張済「と言うか、洛陽が跡形もなく消されかねないですね」
私達の家族を傷付けるとどうなるか、思い知らせる
咲夜「おい星、林冲、虎牢関では誰が待ち構えている。吐け。じゃないとメンマを潰すぞ」
生温い事はしない
やるんなら、徹底的にしてやる
虎牢関 斗詩視点
斗詩「麗羽様!あれ!」
麗羽「………えぇ。来ましたわね」
汜水関がある方角から、雛里さん、紫苑さん、そして梁山泊の花栄さんがやって来た。
その更に後方では、ボロボロになった愛紗さん、鈴々さんの姿もある
この状況は誰だってわかる。汜水関が突破されたのだろう。
しかも、半日に一回の定時連絡をする間もなくだから、半日もしないうちに突破された。
こんな事ができるのは、私が知る限りでも一つしかない
【晋】だ
【晋】が来てしまったんだ
朱里「雛里ちゃん!大丈夫?」
雛里「うん、私は…でも、星さんと林冲さんが…」
雛里さんの声はそこで消えてしまったが、星さんと林冲さんの姿がないところを見ると、恐らく囚われてしまったのだろう
麗羽「状況を知られてしまいましたわね」
麗羽様が呟いた。その言葉の意味は、私にもよくわかる。
状況を知られたと言う事は、文ちゃんが囚われた事を知られてしまった。
彼らが明確に戦う理由を与えてしまった。
それがどういう事なのか、この大陸の上層部の人間が知らない筈はない
春蘭「なるほど【晋】か。流石は秋蘭だな」
今ほど春蘭さんの楽天的な思考が羨ましいと思った事はない。
いっそ私も馬鹿なら、この状況に胃を痛める事もなかっただろうに
花栄「あの、ちょっといいですかー?」
汜水関から帰ってきた花栄さんが、青い顔をして聞いてきた
斗詩「はい、なんですか?」
花栄「あの人達って、みんなああなんですか?許昌で戦った司馬師って人も人外でしたけど、さっき汜水関の門を吹っ飛ばした月さんて人も、かなりアレなんですけど」
月さんが門を吹っ飛ばした…
うん、割といつも通りなのかもしれない…
斗詩「あぁ、はい、みんなそれくらいしても、おかしくはないかと…」
私がそう言うと、顔面蒼白とは正にこの事だろうと言うくらい花栄さんは白くなってしまった
花栄「勝ち目なくないですか?」
その言葉に、私は答えを詰まらせた
この戦、本当に私達が勝つ意味はあるのか
と言うより、この戦の勝利条件は何なのか
私自身、その答えを得ていない
でも、だからこそ…
斗詩「勝てるわけないですよね…」
なんて、思わずにはいられなかった
そしてその言葉は、やはり現実となってしまう
私達は失念していたのだ
彼らが武人ではない事を
つまりは
勝つ為なら何でもする事を…
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こんにちは!
Second Generations司馬懿視点
汜水関戦後のワンシーン