魏と蜀呉同盟の最終決戦は華淋様の、曹魏の勝利で終わりをつげ、魏を華琳様、蜀を劉備、呉を孫策が治める三国同盟が締結された。
そして今は同盟を祝う宴で皆、盛り上がっている。
華琳様は酔っ払った劉備と孫策に絡まれている。
春蘭は閑羽と飲み比べ、秋蘭は周瑜や陸遜と何やら話をしている。
他の皆も蜀や呉の皆と楽しくやっているようだ、しかしそこにはアイツがいない。
こんな時には皆の中心で笑っている筈のアイツが何所にもいない。
私は何かに導かれる様に一人でその場を後にし、森の中へと歩いて行くと小川のほとりに出た。
そして其処にアイツがいた。
今にも消えてしまいそうな儚さで…そして私は気付いた、気付いてしまった。
この時が来たのだと。
遂に来てしまったのだと。
…………アイツがイナクナルこの
サラサラサラ……
「宴のまっ最中だっていうのにこんな所で何やってるのよ?」
「ん、?ああ桂花か、お前の方こそどうしたんだよ。華琳の所に居なくていいのか?」
「ちょっと飲みすぎたからね、火照った体を冷やそうと思ったら此処にアンタがいたのよ。それよりいいの、こんな所に居て?蜀や呉の女性達を落とす絶好の機会じゃない」
「ははは……そうだな、こんな機会もうないだろうな。ほんと…残念だよ…」
「残念がる必要なんてないじゃない、さっさと行って来なさいよ」
「……」
「……華琳様…」
「えっ…」
「華琳様、呼んで来てあげましょうか?」
「いや、いいよ。華琳にはそれとなく伝えてある、今頃もう気づいている頃だ」
「そう、じゃあ季衣や流琉は?凪達だって…」
「勘弁してくれ、逝くのがつらくなる。…せっかく決めた覚悟が揺らいじまう」
私は何故コイツを引き止めようとしているのだろう?
コイツがいなくなれば華琳様はきっと私だけを見てくれるはず。
不条理な命令で体を汚される事も無くなるのに……そして…
…そして、コイツのあの笑顔も見れなくなる……もう、二度と……
ふと気付くと頬を涙が流れていた、アイツは此方に背を向けたまま振り向こうとはしない。
だから私もアイツに背を向けて振り向かない。
…こんな顔お互いに見られたくない。
サラサラサラ……
「…けっこう楽しかったよ、華琳に下着…選びに付き合わされたりさ」
「変な下着選ばなかったでしょうね」
「酔っ払った春蘭がまる…で猫みたいに…可愛かったり…」
アイツの声がだんだんと虚ろになって行く、気配も薄れて行く…。きっと体も既に消えかかっているだろう。
「へえ、いいこと…聞いたわ、今度…グスッ…みんなの前でからかってやるわ」
「ははは、ほどほどに…しといてや…れよ、キレたら大暴れしそう…だから」
「考えておくわ」
「凪達に麻婆丼教え…たら皆、美味いって喜んで…くれてさ」
「今度私も…食べて…グスッ…み、るわ」
「天和達…には思いっきりこき…つかわれて…」
「あれはアンタの天職だったのよ…」
「流琉が料理を…作って季衣が食べて…霞が祭りで大暴れし…て、風はすぐ居眠りして……稟は何か…というと鼻血ふきあ……げて、そして……」
うっうっうっ…グスッグスッ…
「桂花は初対面の時から喧嘩腰で」
「 !! ………」
「子供達には変な勉強方で教えるし、蛇が苦手で、落とし穴を作れば自滅するし…」
「わ、わる…グスッ…悪かったわね!」
「でも俺、桂花のこと…けっこう好きだったよ」
……何で、何で今更そんな事を言うのよ。
言われなければ気付かなかったかもしれないのに。
こんな気持ち、気付きたくなんかなかったのに…。
サラサラサラ……
「い、逝くなら早く逝きなさいよ!…みんなには私から説明しといて…グスッ、やるわよ。あの種馬は面倒事全部押しつけてさっさと天に帰ったって…」
「うん、ゴメンな…辛いこと押しつけて……」
うううっグスッ…グスッ…うう…
「ここに、魏の国に…これて、良かったと…本当に思う……皆にあえ…て……本……と…うに………たの…しか………た…よ…」
「うううううう…グスッ…か、かず……かず…」
「…さよ…な……ら…け……い…………ふぁ……………
「 !! かっ…かず……と…」
私は思わず振り向いてしまった。
もう其処に彼が居ないと解っていたのに…
もうあの声が聞けないと、もうあの笑顔を見れないと……
もうあの温もりを感じることができないと解っていた筈なのに……
サラサラサラ……
もう其処に彼は居なくて…あの笑顔は無くて……
ただ、小川のせせらぎだけが響いていた………
「うっうう……か、かず、と…一刀……一刀ぉ…」
何で居なくなるの?何でずっと此処に居てくれないの?何で?何で?何で?………
「一刀…一刀……かずとぉ…」
「一刀ぉーーーーーっ!! うわああぁぁぁーーーーーーんっ!!」
いくら問いかけても空に光る月は何も答えてはくれなかった………
サラサラサラ……
~少し時は流れて……
今日から数日間は年に一度の三国の同盟記念祭が行われる。
今年は魏が開催国で、ようやく準備が終わった所だ。
「華琳様、立食ぱーてぃの準備が整いました」
「そう、じゃあ後は他の皆に任せて「貴女達」も楽しんでいらっしゃい」
「えっ?でもまだ色々やらなきゃいけない事が…」
「いいから。貴女、この所準備に追われてろくに休んでないじゃない。命令よ、二人でゆっくりして来なさい。ねえ、
華琳様がそう言うと、その後ろから一人の子供が現れた。
その娘こそ、私とアイツの……一刀との一人娘。
「うん、ありがとうかりんさま、かかさまいこう!」
「分かったわよ、それじゃ華琳様すみません。行きましょ鞘花」
「わ~~い!! かかさまといっしょ♪かかさまといっしょ♪」
私は鞘花と手を繋ぎ、城の中庭へと歩いて行く。
「しかし、あれだけ城中の女に手を出しておいて孕んだのが桂花だけとはね。まったく魏の種馬の名が泣くっていうものよ」
「いえいえ、まだあきらめるのは早いのですよ」
「どういう事?風」
「あのお兄さんの種ですよ、あと三年くらいは風達の中で元気にしてるでしょうから、まだちゃんすとかいうものがありますよ」
「…やけに説得力があるわね。まあいいわ、桂花が居ない分しっかりと働いて…」
「ぐう……」
「起きなさい!」
「おおっ」
木にもたれながら木漏れ日の中で鞘花を膝の上に抱いていると、鞘花が何時ものおねだりをして来た。
「ねえかかさま、ととさまのおはなしして」
「また?昨日の夜もしてあげたじゃない」
「ううっ、グスッ…」
「うう……。わ、分かったわよ。お話、してあげるから」
「わぁーーい♪」
「あなたのお父さんは…変態で手が早くて浮気者で…」
「うんっ、うんっ♪」
「そのくせ正義感はやたら強くて……」
「うんっ、うんっ、うんっ♪」
「そして…あのお日様の様に、皆を…………」
~Fin~
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魏√で、最後に一刀を見送ったのが桂花だったら…という感じで書いてみました。
2015/04/5/少し直しました。
。