「さよなら、偉大なる覇王・・・。」
それは、一つの別れ。
「さよなら、寂しがり屋の女の子・・・。」
出会いがあれば、別れもいつかはやってくる。
それは必然。
「さよなら・・・愛していたよ、華琳。」
・・・こうして、一つの恋の物語が幕を閉じた・・・。
ガンッ!キンッ!ガキィッ!
静寂なはずの森の中に、鉄同士が激しくぶつかり合う音だけが響く。
ガキッ!ギンッ!チギィッ!
その音は、まるでBGMの如く旋律を奏でる。
森の中には、刀を構えた一人の青年がいた。
身体つきは20代前半くらいだろうが、顔つきが童顔でやや幼く見える。
ヒュッ!フォッ!ヒュン!
青年は、何も無いはずの空間に刀を振る。
ガンッ!ガキッ!ギィンッ!
その瞬間、何も無いはずの空間から『火花が散った』。
青年「・・・クッ!埒が明かない・・・!」
青年はそう呟くと、刀を構えなおす。
青年(・・・なら、これで!)
青年がそう決意した瞬間、青年の背後で『ガサッ!』という音が響く。
青年「そこかっ!」
青年は振り向きざまに刀を『一振り』した。
ヒュッ!フィッ!ヒュオッ!フェンッ!ヒュンッ!フォッ!ヒュアッ!
しかし、風を切る音は『7つ』。
青年は、目にもとまらぬ速さで刀を振っていたのだ。
??「やるわね。」
その呟きが聞こえた瞬間、青年からやや離れた『誰も居なかったはずの場所』に一人の少女が現れた。
顔つきは、青年によく似ている。身体つきは、ごく普通の10代後半ぐらいだ。
ただ、少女の身に纏っている衣服は所々少し裂けていた。
おそらく、青年の剣が掠めたのだろう。
少女は左右それぞれの手に短刀を握っている。
・・・青年は、この少女と戦っていたのだ。
少女「・・・次で決めるわ。」
青年「・・・望むところだ。」
二人がそれぞれの得物を構えなおし、斬りかかろうと互いに身を屈める。
互いに高まる緊張。静寂が辺りを包みこむ。
そして、間合いを詰めようと二人が動こうとした瞬間・・・。
??「一夜~~?一刀君~~?もうそろそろ、晩ご飯の支度手伝って~。」
・・・と、間の抜けた女性の声が響き渡り、青年『北郷一刀』と少女『北郷一夜』は盛大にコケた。
~一夜side~
あの後、私たちは家に帰り食卓を囲んでいた。
一夜「・・・と言う訳なのよ!」
私は、先ほどの『手合せ』の一部始終を祖父『北郷 源一郎(ほんごう げんいちろう)』に話して聞かせていた。
源一郎「ファッファッファッ!それは惜しかったのう!」
お祖父ちゃんが豪快に笑う横で、先程の手合せを止めた母『北郷 一江(ほんごう かずえ)』が口を開く。
一江「けど、あの辺で止めないと晩御飯が遅れるでしょ?それに、あそこで止めなかったら、どちらかがケガをしていただろうし。」
一夜「優先順位、逆だよね!?」
思わず、ツッコミを入れる私。
源一郎「しかし、一夜もそうだが、一刀も腕をあげたのう。」
一江「そうですね。4年前の夏休みにやってきたと思ったら『祖父ちゃん!俺に剣を教えてくれ!』ですものね。」
祖父ちゃんと母さんのそんな話を聞きながら、私は横目で兄さん(従兄)『北郷 一刀』を見る。
兄さんは何か小説のような物を読みながら、黙々と料理を食べている。
4年前までは、兄さんはあんまり強くなかった。どちらかと言うと、頭がいい方だった。
しかし、兄さんが4年前から本格的に剣を学び始めた。
もともと素質があったのと、叔母『一葉(かずは)』に鍛えられていたこともあり、すぐに実力をつけていった。
長期休暇になると必ず、東京から九州にあるこの『北郷の宗家』までやってきて修業をしていく。
向こうの学校(聖フランチェスカ学園)を卒業してからは九州の大学に入学し、宗家から大学へ通っている。
もちろん、家にいる時はほとんど修業をしている。
私には、何が兄さんを変えたのか分からない。
けれど『強くなりたい』という気持ちだけは、痛いほど感じる事が出来た。
一夜「兄さん、何を読んでいるの?」
私はさりげなく聞いてみた。
いつもなら『お行儀が悪い!』と言ってしまいそうだったが、今日は何か『悲しそうな』顔をしてたので気になってしまったのだ。
一刀「・・・ああ、これだよ。」
と、兄さんはそれまで読んでいた本を私に渡した。
その本のタイトルには『新説・三国志』と書かれていた。
この本は、ごく最近になって出回っている本だ。
この本の出現により、今までの『三国志』が正しい出来事であったかどうか疑われている。
さて内容はと言うと・・・、
『後の覇王【曹操】(女)がある日【天の御使い】(男)と言われる人物と出会い、様々な出来事や戦いを乗り越えながら愛し合って、天下統一を目指していく。』
というラブロマンスであった。
この本を見た歴史学者は、皆口をそろえて「待て!これは孔明の罠だ!」と叫んだとか叫ばなかったとか。
(横○先生は偉大だ。)
しかし、これを裏付けする証拠品も発見されている。
(例えば、三国志の時代に作られたと言われる『メイド服』や『カメラ』がその一例だ。)
この本の結末は『【曹操】は見事三国に平和をもたらすが、最愛の男性【天の御使い】との悲しい別れを迎えてしまう。』と言う悲劇であった。
一夜「ふ~ん、兄さんが『三国志』好きなのは知ってたけど、こんなのも見るんだね。」
一刀「あぁ・・・、まぁな。・・・一夜はこの本の事、信じていないのか?」
一夜「うん。なんか、胡散臭いって言うか・・・。」
一刀「・・・そうか。」
呟いた兄さんの顔は、どこか寂しげだった。
兄さんは立ち上がり「ごちそうさまでした。」と言うと、食べ終わった食器を持って台所に向かっていった。
そして、兄さんが部屋を出る瞬間
一刀「・・・・・・カリン。」
と呟くのを、私は聞き逃さなかった。
一夜「・・・『カリン』さんって、どんな人なのかなぁ・・・。」
私は自室でそんな事を呟いていた。
兄さんが時折『カリン』と呟くのは知っている。
一夜「・・・兄さんの何なのかなぁ・・・。やっぱり、恋人なのかなぁ・・・。」
その時、兄さんが決まってどこか遠くを見つめている事も、やはり知っている。
一夜(・・・遠距離恋愛とかかなぁ?でも、兄さんが女の人と連絡を取ってるところなんて、見たこと無いしなぁ。)
窓の縁に肘を乗せ、頬杖を付きながらそんな事を考えていた。
一夜(・・・やっぱり、キスの一つくらいしたのかなぁ?それとも『あんなこと』や『こんなこと』もしたのかなぁ?)
・・・私だって、年頃の女の子です。こんな事も考えたりします。
夜空に見える月は奇麗な満月だった。
ふと、森(家の私有地)の方に目を向けると、そこに一人の人影が見えた。
一夜(・・・?まさか兄さん?)
兄さんと思しき人影は、ふらふらと森の中へ入っていく。
私は、即座に後を付けることを決めた・・・。
~一刀side~
俺は、刀を持って森の中に入っていく。
しばらく歩いていくと、少し開けた場所に出る。
先程、一夜と手合せをしていた場所だ。
俺は適当な場所に腰かけると、持ってきていた本『新説・三国志』を月にかざす。
一夜は信じていないようだったが、この本に書かれているのはある意味事実である。
俺は、『あの世界』から帰ってきてすぐに剣の修業を始めた。
再びあの世界に戻った時に、皆の役に立てるように。
戻れないにしても、胸を張って生きていけるように。
しかし、いくら剣をふるっても『あの世界』の思い出がちらついていた。
有り体に言ってしまえば、俺はあの世界に未練タラタラだったのだ。
??「・・・浮かない顔をしているな。」
不意に、そんな言葉をかけられる。
一刀「!?」
俺は刀に手をかけ、辺りを見回す。
森の中から一人の人間が出てきた。
その人物を一言で表すと『謎の黒ずくめ』である。
黒いブーツに黒い服、更に黒いフード付きの外套を羽織っていた。
声の感じからして男なのだろうが、仮面を被っている為に正確な事は解らない。
一刀「・・・誰だお前は?」
??「俺のことなどどうでもいい。これからする質問に正直に答えろ。」
黒ずくめはそう言った後、一拍置いて『質問』してきた。
??「『あの世界』に戻りたくはないか?」
一刀「!!」
俺はその言葉を聞いて驚愕した。
そして、俺は震える声で聞き返した。
一刀「・・・戻れるのか?」
??「俺の力を使えばな。しかし、一度行ったら二度とこの世界には戻って来れない。それと、今この時にしか力を使う事が出来ない。」
一刀「そうか・・・。」
俺は、衝撃を受けたままの頭で考え始めた。
このチャンスは俺が望んでいたことだ。
だが、この世界には家族や友人もいる。
しかし、向こうには華琳たちがいる。
そこまで考えて、黒ずくめが言葉を発した。
??「迷うな。自分の信じる道を行けばいい。」
それを聞いた時、俺には迷いがなくなった。
俺は皆に・・・華琳たちに会いたい!
一刀「・・・戻りたい。『あの世界』に戻りたい!」
俺がそう叫ぶと、黒ずくめはゆっくりとこちらに向けて手のひらをかざした。
その刹那、何も無い空間に巨大な穴が出来た。
??「そいつに飛び込んで、『あの世界』を思い描け。そうすれば、戻れるはずだ。・・・お前の想いがあればな。」
一刀「わかった。」
そう言って俺は、空間に空いた穴の前に立った。
~一夜side~
兄さんが穴の前に立つ。
一夜(・・・嫌。)
私は震えていた。
兄さんとあの黒ずくめが、何の事を話していたかは解らない。
ただ解ったのは、あの穴に飛び込んだら兄さんは二度と戻ってこない。
一夜(・・・そんなの嫌!)
そして、兄さんはその穴に飛び込もうとしている事。
一夜(・・・絶対に嫌!)
兄さんと一緒に過ごせなくなるのは嫌だ!
兄さんのあの笑顔が見られなくなるのは嫌だ!
兄さんの無防備な寝顔を見れなくなるのは嫌だ!
兄さんの入浴シーンを覗き見する事が出来なくなるのは嫌だ!
気付けば私は、走り出していた。
兄さんを止めるために。
一夜「ダメェェェェェェェ!」
一刀「一夜!?」
??「!?」
その声に二人がこちらに気づく。
だが、あと少しと言うところで・・・
私は地面から出ている石につまずいた。
一夜「・・・え?」
傾く重心。転ぶねこれは。
私は受け身を取ろうと、両腕を前に伸ばし・・・。
ドンッ!
一刀「・・・は?」
目の前にいた兄さんを、穴に押し込んでしまった。
一夜「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私は瞬時に体勢を立て直すと、
一夜「兄さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
兄さんの入っていった穴へ飛び込んでいった。
穴が閉じ、残されるは黒ずくめが一人。
??「・・・え~っと・・・、どうしよ?」
予想外だった。あんな展開は、だれも予想もつかないだろう。
??「放っておくって言うのは・・・、ダメだよな。」
黒ずくめは肩をすくめると、音も無くその場から姿を消した・・・。
あとがき
セインです。
前回の序章に引き続き見てくださった方々、ありがとうございます。
序章を見てない人は、序章もヨロシク。
と言うことで『愛した世界』第一話です。
サブタイを付けるとしたら『不本意な出発』とか『望まなかった旅立ち』、そんな感じですね。
・・・え?『序章とどう関係があるの?』って?
・・・やってみたかったんですよ、『初めにクライマックスをやって、そこから物語を逆行させる』って奴。
と言う訳で、次回は・・・。
・・・やっぱ言うのやめた。
あ、痛いっ!石を投げないで!
次ページから、キャラの解説しますから!
北郷 一夜(ほんごう かずよ)
使用武器:短刀(2本)
一刀の従妹で一刀を敬愛している。
(しかし、それがたまに変な方向へ暴走する。)
戦闘スタイルは、自身の素早さを生かした攻撃。
その素早さは、目にもとまらぬ速さ。
(しかし、攻撃する瞬間は少し速度が落ちる。冒頭で一刀が一夜の攻撃を防いでいたのは、この弱点を知っていたため。)
三国志の知識はちょっとかじった程度。
北郷 一江(ほんごう かずえ)
使用武器:鉤爪(本編未使用)
一夜の母親で、一刀の母親の姉。
九州にある、北郷の宗家で暮らしている。
外見は20代前半、しかし中身は40代後は・・・『ズシュアァァァ!!』
北郷 源一郎(ほんごう げんいちろう)
使用武器:斬馬刀(本編未使用)
一刀と一夜の祖父で一江の父。
豪快な爺さんで、いつも笑っている。
今の日本で、この人物に勝てるものは無いと言われるほど強い。
九州にある、北郷の宗家で暮らしている。
北郷 一葉(ほんごう かずは)
(本編未登場)
使用武器:仕込み刀
一刀の母親。
今はただそれだけ。
いつか日の目を見る事を願って・・・。
何気に北郷家で一番最初に考案した人物だが、今回は出番なし。
・・・こんなもんで・・・。
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これが・・・本当のプロローグだ・・・。