No.752272

リリカルなのはZ 第四話 気になるアレ

たかbさん

第四話 気になるアレ

2015-01-18 17:30:33 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2785   閲覧ユーザー数:2590

 

 「・・・ということがあってね。いろいろ大変だったんだよ」

 

 海鳴病院の一室でベッドの上に腰かけていた幼馴染の高町なのはにお見舞いの水羊羹を持ってきたフェイトは愚痴を言いながら昨日あった会議について説明していた。

 高町なのはも撃墜した時のダメージの後遺症で二度と魔法が使えなくなるどころか、歩くことさえままならない。とい、言われたにも関わらず、辛いリハビリに耐え、翌週には退院という喜ばしい結果になった。

 魔法を扱う事も出来、それを併用すれば歩くことどころか空を飛ぶこともできる。

 残りの一週間は落ちた筋力つける為の訓練だと思えばいいだろう。

 

 「大変だったんだね。それにしても違う世界のプレシアさんとアリシアさん。かぁ・・・。どんな人だったの?」

 

 「うん、厳しそう。だけど、どこか優しい感じがしたよ。それに私達のデバイスの強化も手伝ってくれるって言っていた。私達にかかる負担を減らして、もうあんなことにならないようにって、私もクロノも。リンディ、母さんもそれは受けようと思っているよ」

 

 リンディの母さんのところで言葉が切れかけたフェイトの心中は穏やかじゃなかった。

 

 「・・・グランツ研究所か。今、一番話題のゲームを立ち上げた所だよね」

 

 「え?ゲーム?あそこって、ロボットを研究している所じゃ・・・」

 

 「にゃはは。フェイトちゃん。プレシアさんの事で頭がいっぱいだったんだね。えーと、確かこの辺に・・・。あった、あった。はいこれ」

 

 なのはが近くにあった小物入れから一枚のチラシを取り出す。

 そこにはフェイトが持ってきた堅苦しい書類の山ではなく、一般用のチラシが入っていた。

 

 「えっ?!これ、私・・・?」

 

 「うん。私も最初に見たときは驚いたけど。ちゃんと別人だって確認が取れたよ。彼女の名前はレヴィっていうんだって」

 

 そのチラシには自分と似た青髪の少女。なのはやはやてに似た少女達が映し出されていた。

 

 「体感型シュミレーションゲーム。『ブレイブデュエル』。あのSKL事件のあった一週間前に登場したゲームでね。お姉ちゃんが私に似ている子が写ってるって持ってきてくれたの」

 

 「え、じゃあ、もしかして・・・。あのロボットは副産物。ただのマスコットだったの?」

 

 報告書には研究所の整備にあてがわれるとだけ書かれていた。が、本来あの研究所は子ども達が遊べる巨大なゲームセンターのような物であるという事が書かれていた。

 だが、フェイトはそれを堅苦しい文字だけの書類だけでしか見ていないがために驚きを隠せていない。

 

 「フェイトちゃん。今度の土曜日って時間空いてる?」

 

 「え、うん。大丈夫だよね。バルディッシュ?」

 

 [問題ありません]

 

 その日はなのはが退院する日なので、管理局に務めているフェイトは前後の日に有休も使って休むことを申請している。

 それを聞いたなのははにっこり笑って、言葉をつなげる。

 

 「じゃあ、その日。ここにデートしに行こうか?」

 

 「ええ、あ、うんっ。いいよ!」

 

 顔を赤らめながらも頷くフェイトになのはは終始笑顔だった。

 

 

 そして、土曜日。

 親子連れでにぎわうグランツ研究所敷地内は怪物騒ぎが嘘だったように賑やかだった。

 なのはが退院した翌日。高町家と八神家の面々に少しだけ落ち込んだフェイト達は今日この研究所で本来行われるはずだった日程を大きく遅れさせながらもゲームのイベントを起こすことが出来た。

 未だ、復興中の沖縄の子ども達を無料で招待。ふさぎ込んでいた人たちに活力を与えようとチャリティイベント込みの会場となったグランツ研究所は本来あるべき姿に戻ったともいうべきなのだろう。

 

 「・・・なんかごめんな。フェイトちゃん。せっかくのデートやったんやろうけど。まさか私等の調査とブッキングするとは思わなくて」

 

 「ううん。気にしないでいいよ。はやて。・・・うん、仕事なら仕方ないよ」

 

 なのはと待ち合わせをしていたところに何故かシグナムとはやてがいて、後からやってきたなのはを待っている間に小型犬サイズのザフィーラを連れたシャマルとヴィータがやってきた。

 聞けば彼女達はこのイベントに参加してグランツ研究所について調べてくる仕事を任されたらしい。

 あまり深追いはせずあくまで一般人客として調べてくるように言われている。実際のところ働きづめの彼女達に与えられた休暇みたいなものだ。

 

 「しかし、入る前からこれか・・・」

 

 「なんでも『超エキサイトマッチ。あのロボットもやってくる!?』という宣伝を見る限り、あの黄色いロボットも出てくるかもしれませんしね。あれは子どもだけではなく大人も楽しみにしていますからね。空から移された映像を見ても全員はいるかどうか分からないくらいですよ」

 

 自分達の目の前にある行列を見て呆れるヴィータに、今現在進行形でグランツ研究所が中継されていると、そうやって携帯端末を開いたシャマルがその凄さをその場にいた全員に伝える。

 

 「これでは我々は研究所どころか施設に入る事すらも出来そうにないな・・・」

 

 シグナムの言う通り自分達がいるのは行列の最後尾に近いところにあたる部分だ。このままでははやて達は入場を諦めかけた時だった。

 

 「やっぱり、なのはじゃない。フェイトにはやても。皆して用事があるって言わなかった?」

 

 「アリサちゃん?」

 

 行列の少し先、関係者専用の駐車場から歩いてくるフェイトやシャマルとは毛色が違う金髪を肩にかかるぐらいまで伸ばした少女が歩いてきた。

 

 「私もいるよ~」

 

 「すずかまで・・・。どうしてここにいるの?」

 

 滑らかな髪が光りの辺り具合で紫色にも見える少女も歩いてきた。

 この二人はフェイト達の幼馴染でもあり、なのは達が魔導師と言う存在であるという事も知っている。それでいてもなお親友と言ってもいい友人二人の登場にフェイト達は疑問に思った。

 

 「それは私達の家がこの研究所に出資しているからよ。私とすずか。ノエルさんにファリンさんの四人で視察ね」

 

 「まあ、ゲーム部門にだけど。それでも結構な融資をしているから今回のイベントでは指定席を取れたんだ。・・・よかったら一緒に行く?」

 

 一応、小声でフェイト達にしか聞こえない大きさの声で説明する二人の提案にはやては飛びついた。

 

 「ええんんかっ。それじゃあ、お願いしようかな」

 (スポンサーという事やな・・・。これは結構突っ込んだところまで見れるかもしれんな)

 

 「いいのかな?」

 

 「大丈夫でしょ。一応特等席というか部屋を一つ準備してくれるんだから、準備している。・・・たぶん」

 

 なのは。フェイト。はやて。守護騎士四人。

 それを足すと本来四人だった所にその倍近くに膨れている。大丈夫だろうか・・・?今更、出来ませんと言えないアリサは強がってみせるが、今更ながらに不安だった。

 そんな時、『関係者以外立ち入り禁止』の看板を持った茶髪の少女がフェイト達の所に寄って来た。隣には彼女をモデルにした猫耳をつけた人形が浮いていた。

 

 「もし?バニングス嬢と月村嬢とお伺いしますがご本人様でしょうか?」

 

 「な、なのは?!」

 

 「うわぁ・・・。本当に私そっくり」

 

 なのは達が通う学校とは別の中学校の制服を着たなのはにそっくりの少女。メガネをつけてなのはよりも知的な感じを感じさせる少女を見てなのははまるで鏡を見ている様だった。

 胸につけている名札には『シュテルん』と明記されていた。なんで、最後の文字だけ平仮名なのか疑問に思っていたが、とりあえずこの研究所の関係者だという事は手に持ったパンフレットには彼女と他の少女やロボットがプリントされたチラシを持っていた。

 

 「・・・びっくりしました。私にそっくりな人がいるとはレヴィだけだと思いましたが。よく見れば王にも似ている人も。…彼の言っていた通りですね」

 

 ぽつりと最後に彼女が何を言ったか聞こえなかったが、フェイトやはやてを見た少女は再びアリサ達の方に目を向けると二人をむかって案内を促す。

 

 「まあ、別にいいですか。とりあえず、VIPルームへと案内しますのでお二人は私に続いてきてもらえますか?もうすぐイベントが始まるので移動をお願いしたいのですが…」

 

 「あの子の人達も一緒に連れて行ってもい「いいですよ」い。早いよっ。て、いいの・・・?」

 

 すずかがフェイト達を連れて行ってもらおうと頼もうとしたが、彼女が言いきる前に『シュテルん』が了承の意を伝える。

 

 「その代わり、静かにお願いしますね。周りにも大勢の人がいますし、あまり特例を出すと際限なくなりますので・・・。まあ、無関係と言うにはあまりにも関係がありますけどね」

 

 では、どうぞ。と、『シュテルん』に続いて行こうとすると周りにいた複数の大人達もついて来ようとする。

 

 「申し訳ございませんが、こちらの方々までですのでご容赦ください」

 

 「なんでそいつらは特例なんだよ!俺達も入れろ!」

 

 そうだそうだ。という野次馬が増えてきたが、そのやじ馬たちに対して『シュテルん』はなのはの手を取り自分の頬をなのはに押し付けてやじ馬たちに見せつける。

 

 「これでも無関係でしょうか?」

 

 その様子に言葉が詰まるやじ馬たち。

 だが、それでも止まろうとしないやじ馬たちは彼女達に掴みかかろうという暴挙に出た。

 いや、正確には出ようとした。そこに筋骨隆々と言ってもいい具合の男の体が目に入らなければ。

 工事現場に使うような下は作業着に上はタンクトップ。腰には作業着の上着を撒きつけていた。

 顔にすすをつけた格好に驚いたのではない。

 それは彼の格好にではない、彼の服の下から見える傷だらけの体。

 顔もよく見ればあちこちに切り傷が見える。その男の出す迫力にやじ馬たちは押し黙る。

 

 「はい。そこまで。それ以上は小さな子ども達の目に悪い」

 

 「な、な、な…」

 

 「一応、ここに並んでればいずれは入れます。まだ会場に入れますのでご容赦を、彼女達は特別ゲストとして出るエクストラとして、招かれてますので、急がないといけません」

 

 ・・・だから、わかったな?

 

 やじ馬だけに飛ばされた一睨みで黙らせる。

 周りの人間から見ればやじ馬が急に黙り込んだようにも見える。だが、激戦をくぐり抜けてきた守護騎士達には肌で感じることが出来た。

 あれはまるで猛獣に睨まれた感覚。それを特定の輩だけに向けるなど熟練の戦士。それも守護騎士レベルかそれ以上になるだろう。

 

 (はやて。この人・・・)

 

 (うん。あのロボットから感じていた魔力だ。だけど・・・)

 

 あまりにも弱すぎる魔力。

 彼の放つ魔力と気配のギャップがありすぎる。

アリシアからも同じ魔力を感じたが二人共あのロボットから感じられた魔力程の力を感じない。

 

 「・・・お騒がせしました。それではこちらへどうぞ」

 

 と、男性を先頭に『シュテルん』と共に案内されるフェイト達だった。のだが・・・。

 

 「・・・なあ、シュテル。ちょっと近すぎないか?」

 

 「先程の野次馬の視線が怖くなりまして」

 

 「まあ、それなら・・・。仕方ないか」

 

 「ええ、仕方ないんです」

 

 ナチュラルに男性の腕を取って歩く少女の表情は無表情のままだが、遠目に見ると歳の離れた兄妹。もしくは恋人のようにも見えた。

 

 「・・・なあ、シュテル。やっぱり手をつなぐくらいにしないか。周りの目が、特に研究所方面からの視線が怖さを通り過ぎて痛いんだ」

 

 ガクガク震え始める男性にそっと手を添える。少女。

 それはまるで怖がる子供をあやすように優しかったが、それは誰かに見せつけるかのように、彼の体を抱きしめる。それにより、震度二だった彼の携帯電話に一通のメールが入る。

 

 

 

 件名:魔女の娘より

 

 どこを撃ちぬかれたい?

 

 

 

 震度五強を観測させる彼の体は今にも崩れ落ちる寸前だった。

 そんな状態でも研究所施設に案内されたフェイト達を用意された観戦席に案内される。

 そして、その去り際に男性は諦めきった顔でこう言った。

 

 もし誰かに沢 高志という男について尋ねられたら、こう答えてくれ『彼は立派に道先案内をした』と

 

 そう言って廊下の向こう側に消える寸前、彼の体を金色の風が連れ去っていく。遅れて、小さいガンレオンがちょこちょこと少女達の前で「ぎー」と、まるで『大変お騒がせします』と、言っているように頭を下げて、通り過ぎて行った。

 

 そして、廊下の向こう側からフェイトによく似た声が「いつからそんなにロリコンになっちゃったの!」という言葉と共に銃の発砲音に似た音。「ちょっ、試作段階のD・エクストラクターを持ち出すな!?ぎゃあああああっ!!」と、男性の悲鳴が鳴り響いた。

 

 「・・・ねえ、アリサ。ここって、本当にゲームを作っている研究所なんだよね?」

 

 そんな光景を見ていたフェイトはアリサに質問した。

 しかし、その質問に対する答えは返ってこなかった。

 

 

 フェイト達とは別の観戦席に車椅子に座った状態で水色の髪を短く切りそろえた少女と葛城ミサト。赤城リツコの三名が入ってきた。

 

 「こっちがネルフさんに用意された部屋だよっ」

 

 元気いっぱいにこの観戦室に案内したのは『れび』と書かれた名札を付けた少女。

 車椅子に座った少女の髪の色に似た水色の髪を腰まで伸ばしてツインテールにした少女は部屋を出る際に、NERVの三人に手を振って行った。

 その後ろには少女に似せて作られたチヴィットの『チヴィ』も一緒に手を振っていた。

 彼女達(?)を見送ったミサトは隣にいたリツコに声をかけた。

 

 「・・・どれだけの技術を持っているのよ。このグランツ研究所は。疎い私でも分かるわよ。こことNERVの技術差」

 

 「宙に浮かんでいるだけでも相当の技術料だというのに航空力学を舐めているのかと言いたくなるほど精巧な自動人形。しかも自動人形の感情表現の方にも力を注いでいる。まさに『夢の玩具』ね」

 

 うんざりとした顔のミサトに何やら難しい顔をしたリツコ。

 その隣で『チヴィ』がいなくなると同時に少しだけ残念そうに無表情になった車椅子の少女。綾波レイがいた。

 

 「・・・可愛かった」

 

 「そういえばレイ。あなたが笑うなんて珍しい事もあったのね」

 

 部屋に案内されている間、『チヴィ』のほっぺたを手の平の中でグニグニと揉んでいた少女。レイは少し涙目になった『チヴィ』を見て柔らかい笑みを浮かべていた。

 普段から無表情で喜怒哀楽の感情があるのかすらも疑われる少女。レイは『チヴィ』がいなくなった後もそこには無い感触を思い出しているのか手を握ったり開いたりしていた。

 

 「まあ、今日はグランツ研究所のガンレオン。防衛省のコクボウガー。そして、エヴァ初号機の模擬戦が行われるのよね。シンちゃんにいきなり実戦をお願いすることが無くて助かったわー」

 

 グランツ研究所の施設の海側にあたる場所には既にコクボウガーとエヴァ初号機がスタンバイしていた。

 グランツ博士は子ども達にロボットという夢を与える為。

 防衛省はコクボウガーの有用性を世間に知らしめる為。

 そしてNERVは双方のデータを得る為。そして、エヴァ初号機のパイロット。碇シンジの戦闘経験を積ませるために。

 

 「・・・今さっき、研究所に潜入しようとしたどこかの工作員が小さいガンレオン。『チビレオン・警備用』という腕章をつけた小型ロボットに捕まったらしいわよ」

 

 「雰囲気は緩いのに警備は無茶苦茶堅いのね」

 

 「・・・チヴィットか。一体くらいもらえないかしら?」

 

 「レイがこれ以上ないくらいに期待の眼差しで見ているんだけど」

 

 リツコの願いはもちろん却下されたが、代わりにチヴィット人形を一体貰うことになったレイは終始にこやかだったそうだ。

 グランツ研究が売り出すチヴィット人形ファンがここに一人爆誕するのであった。

 

 


 
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