No.750636

病弱な御使いと逆行の恋姫:御遣いの金策

未奈兎さん

原作でもあった金策、病弱の一刀がある秘策を・・・。
あと、一刀さんは病弱ですが決して【弱い】わけではありません。

そして今回恋姫英雄譚様からある武将の設定をお借りしています。

2015-01-11 17:48:37 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3335   閲覧ユーザー数:2686

北郷一刀と鈴々が出会い、馬に乗りながら近くの町に着く、宿を取ってから、ふと気がついた一刀は鈴々に問いかけた。

 

「そう言えば鈴々、路銀は十分なのかい?」

 

「んー今までは盗賊とか退治して引き渡した報酬で食い繋いで来たのだ。」

 

「え・・・もしかして、一人で?」

 

「鈴々なら余裕なのだ!」

 

(さ、流石女の子でも張飛・・・か、その名に恥じない武を持っているんだな。)

 

しかしここで一刀はある疑問に突き当たる、言わずと知れた劉備の存在だ。

 

「なあ鈴々、劉備って人知ってるか?」

 

「んー少し知ってるけど、よくわからないお姉ちゃんだったのだ、良い人なのはわかったけど、それがどうかしたのだ?」

 

(ん、んん?どういうことだ?劉備と張飛、関羽が出会って義兄弟になって・・・いや、この場合は義姉妹か。

て言うか、劉備も女の子なのか、でもその劉備には会っても一緒に行ってない、どうなってんだ、この世界?)

 

だがそれ以前に名のある武将が女性な時点で異常なのだ、そこそこに受け入れて思考を打ち切った。

 

「そっか、まあ大したことじゃないよ、でも俺が旅に加わったし、少し先立つ物を増やしておくか。」

 

「にゃ?」

 

一刀が抱えていた鞄に手を突っ込んで荷を出していく、その中には、鈴々にとっては見覚えのある物もあった。

 

「えーと、これとこれとか売れそうだな・・・おっ、これもいいんじゃないか?」

 

一つ一つを分けて一部見覚えのあるのも掻き出されるなか、鈴々は口を開いた。

 

「・・・あのさ一刀、それって一刀にとって故郷の物なんでしょ、そんなに簡単に売っていいのか?」

 

鈴々の言葉を聞き少し考えこむ仕草をする一刀だが、その顔はすぐに清々しい笑いに変わった。

 

「故郷の物って言っても大した物じゃないさ、この先で生きるため、鈴々の役に立つならこんなもの喜んで投げ出すさ。」

 

「一刀・・・。」

 

「さて、早速宿から出て、商人と話をつけてみようか・・・っとと。」

 

「わわ、大丈夫?一刀。」

 

「はは、この弱い身体が恨めしいよ。」

 

(・・・軽すぎるのだ。)

 

馬に乗せるときも思ったが、以前と比べてあまりにも華奢な彼の身体に鈴々は思わず泣きたくなった。

 

「でも、これをどうやって売るのだ?知らない人から見るとよくわからない道具なのだ。」

 

「あー其処は腕の見せどころってね、まあ見ててよ、いい具合の格好もしてるしさ、でももしものときはよろしくな。」

 

鈴々にとってはすっかり見慣れた白く輝く制服に包まれた一刀の笑顔には自信を伺わせた。

 

 

 

 

それから鈴々と一緒に宿を出て鈴々から金を借りると、一刀は周囲を見渡し、露店で商いをしている商人を見つけると、

一刀は商人に近づいた、だが話しかける前に一刀は目を閉じてゆっくりと深呼吸をしていた。

 

(深呼吸を・・・いつもどおりに【被れば】いいんだ。)

 

一刀が目を開けた時、鈴々は驚いた、一刀はまるで別人に変わったのだ、ひ弱そうな少年から、全くの別人に。

 

「失礼する、貴方は買い取りなどをしているか?」

 

「はい、どうしましたお客さん・・・なにか物入りですかい?」

 

「ああ、ここらでは全く見かけない珍品だ、貴方にとっても悪い話ではない。」

 

「ふむ、ならば少々お時間を頂きたい、こちらも商売でして、お客様を差し置いて商談をするわけには行かないので。」

 

「なるほど、ならば時間を改めよう、それと、商談料代わりにこれを貰おう。」

 

一刀は一つ露店にあった剣を持つと商人に渡した。

 

「ほほう、ならばこちらの値段となっています。」

 

「・・・値も悪くない、では、時間を改めて来よう。」

 

「毎度ありがとうございました~。」

 

 

 

 

店から結構離れた場所で今まで一刀にまとっていた空気が霧散した。

 

「はふぅ、緊張したぁ・・・。」

 

「か、一刀、今の何?」

 

「あ、あはは、まあ俺にも色々あったのさ、こうでもしないと、少し危険な時があってね、でもこれやると疲れるんだよな・・・。」

 

苦笑いする様はいままで通りの一刀だったが、先ほどの演技は並のものではなかった。

 

「あれであっちの印象は悪くないものになったはずだよ、少なくとも下に見られることはなくなったはずだ。」

 

「でも、結構お金使っちゃったけど、元が取れるの?」

 

「心配しないで、あっちに損はさせないし、見立て通りなら元が取れるどころじゃなくなるから、そこで鈴々に頼みがあるんだけど。」

 

「???」

 

一つ、木製の数珠のようのなものが連なった長方形の何かをジャラジャラと鳴らし、片目を閉じた一刀だった。

 

 

 

 

その後、宿の一室で商人、一刀、鈴々は商談を始めた、あいも変わらず空気を変えての話なのでさしもの鈴々も緊張していた。

 

(と言うか、こんな席についたことなんて蜀でもないからどうすればいいのかわかんないのだー!?)

 

「さて、貴方にお見せする商品なのですが、この【算盤】というものです。」

 

「算盤・・・それは一体?見たところ、ただの木製の飾りに見えるのですが・・・。」

 

「ふふ、まあ使い方がわからなければそうでしょう、ですが、使い方がわかると貴方にとっては目から鱗ですよ?」

 

「はぁ・・・。」

 

「さて、鈴々、例の竹筒を出して。」

 

「うん、これを見て欲しいのだ。」

 

「なになに・・・。」

 

商人が見たのは数字の羅列、それぞれ法則が無くばらつきがあるが・・・。

 

「これがいったい?」

 

「今からこの数字を全てまとめてみせましょう。」

 

「ま、まとめる・・・つまり合計するのですか?とても時間がかかりそうですが・・・。」

 

「ふふ、照覧あれ。」

 

それから商人は未知の世界を見た、少女が数字を読み上げ、少年が算盤を小気味いい音で鳴らしていく。

 

「ぷはぁ・・・おしまいなのだ!」

 

「お疲れ様、さてこちらの盤を見て欲しい。」

 

更に二度驚いた、入念に計算し、照らしあわせて出た回答と、説明された算盤の数字が全く同じなのだ。

 

「こ、これは・・・!」

 

「更に耳寄りです、これは今、この国で一つしかありません、この方法を確立し、量産する体制を築ければ貴方は・・・。」

 

商人は思わず息を飲んだ、商いをするものからすれば、まさに画期的、革命にすら思えた。

 

「ほ、本当にこれはひとつしか無いのか・・・?」

 

「ええ、もしよろしければ設計図もお渡ししましょう・・・いかがです?」

 

ふわりと笑う一刀が商人にはあまりにも魅力的に映った、算盤を広め、その権利が自分のものになれば築ける財は、底知れない。

 

「い、いくらでも出します!これは私の財全てを出しても惜しくない!」

 

一刀の手を取り、商人は算盤を受け取ると風の様に走っていった。

 

「は、はははは、なんだかやりすぎだった、かな?」

 

「でも、あのおじさん凄く喜んでたのだ・・・。」

 

「そういえば鈴々、俺あまりこっちの通貨に詳しくないんだけど、このお金って、どれぐらいなの?」

 

「一刀、多分これだけあれば一刀の分の馬を買って、暫く旅をしてもお釣りが来るのだ。」

 

「そんなに!?」

 

多いとは思ったが、其処までとは思わなかった一刀だった。

 

「しかしそう考えると、思ったよりもお金が入ったな、どこか一緒に食べに行こうか?」

 

「さんせーなのだ!」

 

二人で一緒に笑いながら再び宿から出て行った。

 

(でも、いきなり算盤よりもボールペン辺りにすればよかったかな?でも、それだといずれインクが切れるから取引には向いてないし、

だいたいこの時代って普及してるのは竹筒で紙なんてめったに使えない貴重品・・・やっぱり新品ノートでも良かったかな?)

 

(・・・大商人と取引するときにでも持ちだしてみるか、多分そんな機会あるわけ無いけど。)

 

「でも一刀、あんなの作ろうと思ったら簡単に作れちゃうんじゃないのか?」

 

「心配ないよ、作り方がわかっても、名のある職人が設計図通りに作らないとまともに動かないからね。」

 

「じゃあその設計図はどうやって書いたのだ?」

 

「細かい作業とか物造りが好きでね、こんな身体でも自分で何かできるようになるのは凄く楽しいんだ、設計図はその副産物かな。」

 

結構手間かけたんだよーと笑いながら歩く一刀は紛れも無く鈴々の知っている【北郷一刀】の笑顔だった。

 

 

 

 

夕方に暮れ始める中、一刀と鈴々は二人で街を歩く。

 

「それにしても、この町結構活気があるな。」

 

「皆が笑顔でいるのはいいことなのだ!」

 

「そうだね・・・あ、此処で食べようか。」

 

「美味しそうな匂いがするのだー♪」

 

「こらこら、よだれよだれ・・・。」

 

「にゃ!?」

 

「やれやれ、こんばんはー空いてますか?」

 

「はーい、厨房の前が数席開いてます。」

 

一刀達が入った食堂は小さいながらも、農業に精を出した者、見回りをした疲れを癒やす者、一日を終えた者たちが

そこそこのにぎわいを見せている、そして、従業員の中に小柄な少女が元気に鍋を振るっていた。

 

(鈴々と同じくらいの女の子か、小さいのにお手伝いしてるのかな?)

 

「うーどれも美味しそうなのだー。」

 

「好きなだけ食べても大丈夫だから、ゆっくり味わって食べよう。」

 

「はーい!」

 

注文して運ばれてくる料理はどれも美味しそうで香りだけでも食欲をそそった。

 

「いただきます。」

 

「いただきまーす!」

 

元気よく食べ始めて次々と美味しそうに食べる鈴々を見る一刀。

 

(・・・こうしてみると、普通の女の子なんだけど、紛れも無くあの張飛なんだよな。)

 

「むぐ、どうしたのだ一刀。」

 

「・・・なんでもない、ただ、色々と荒れてる時代になんで俺がいるんだろって思っただけさ。」

 

「むー鈴々は一刀とあえて幸せなのだ!」

 

「な!?」

 

突拍子もなくそんなことを言う鈴々に思わず顔が赤くなる一刀。

 

「だって鈴々は今までずっと一人で旅していたからこうやって誰かと一緒に居るっていうのは凄く嬉しいのだ。」

 

「鈴々・・・。」

 

(お兄ちゃんも、最初はやっぱり不安だったのかな・・・?)

 

かつての乱世を駆け抜けた最愛の想い人を思い出す、優しく、争いが嫌いで、それでも自分達のために戦ってくれた大切な人。

 

(愛紗、多分劉備と一緒に以前の鈴々達と同じことをしてると思うけど、今回は鈴々は手伝えないのだ・・・。)

 

改めて思う、この人を守っていきたいと、たとえ自分のことを知らない全くの別人でも・・・。

 

 

 

 

その夜

 

「はぁ・・・。」

 

一刀は一人、自分の部屋で月を見ていた、その顔は郷愁のようなものはなく寧ろ戸惑いのようなものだった。

 

「何時ぶりだろうな、あそこまで純粋な好意をぶつけられたのって・・・。」

 

 

【あ、一刀だ!病気が移るぞ、逃げろー!】

 

【うちの子に近づかないどくれ!】

 

【ねえ聞いた?あの子の両親亡くなったらしいのよ?】

 

【子どもから病気を移されたんじゃない?かわいそうに・・・。】

 

 

「くそっ・・・!」

 

嫌でも思い出す、好意など欠片もないあちらでの日常を、自分の病気は感染症などではない、しかし、どの時代でも変わらない、

病に対する弱者の扱いなど解りきっていた、自分が信用ができる者など、家族と、あの悪友と、診てくれた医者しか居なかった。

 

「じいちゃん、俺は一体、どうすればいいんだ・・・。」

 

身体の弱い自分をずっと育ててくれた祖父であり、剣の師であり、数年前に亡くなった掛け替えの無い家族。

 

「元々あっちでの未練なんて殆ど無い、ただ、あの馬鹿に奢ってもらったラーメンの借りは返せなかったが。」

 

事あるごとに自分に絡んでクラスを巻き込み馬鹿騒ぎを起こしたあの悪友、今思えばあれも彼の魅力だろう。

 

「失って初めて、人はその価値に気がつく・・・か。」

 

邪魔くさくてしょうがなかったあいつとの日常がこの腐敗の時代と比べればとても恵まれていたことを理解する。

 

「まあいいさ、いずれ帰ることになろうが、此処で死のうが、どうなろうが、簡単には死んでやらない。」

 

「天がどこまでも繋がっているのなら、俺は俺なりに生きて、あいつらに胸を張って逢えるように、生き足掻いてやるさ。」

 

窓から離れて寝台にもぐる、明日だってきっと簡単には行かないのだから・・・。

 

 

 

 

翌日、町にある看板が建てられる。

 

【蒼天已死、黄天当立】

 

時が待つことなど無い、残酷に人間を追い立てる、川のようにゆるやかに、激流のような荒々しさで・・・。

 

 

 

 

???:

 

 

「お父様、予定よりも速いお帰りですがいかがしたので?」

 

「おお!実は道すがらとても素晴らしい物を手に入れてな、見聞と商いの旅どころではなく大急ぎで帰ってきたのだ!」

 

「はぁ・・・それは旅の財産をほとんどを既に使いすることがなく帰ってきたのではなくてですか?」

 

「ふふ、相変わらずの毒舌だがそのようなことを言っている暇はないぞ、すぐに帳簿を持ってくるのだ、すぐに計算をしてみせよう!」

 

「ひゃわわ!?計算ってすぐにはできませんよ?」

 

「問題ない、この算盤があればすぐ終わるぞ!」

 

「算盤って・・・何ですかこの数珠が繋がった木の飾りは?」

 

「私も最初はそう思ったのだがな、これの真価を見たらお前も腰を抜かすぞ。」

 

 

 

「うわぁ!いつもよりも格段の速さで採算が終わりました!」

 

「そうだろう、これは白い衣を・・・待て、白い衣だと!?まさかあの方は・・・!」

 

「ど、どうしたんですかお父様、震えてますよ?」

 

「包(パオ)!占い師のお告げは本当であった!この地に天の御遣い様が降り立ったぞ!」

 

「ひゃわわ!?天の御遣い様って!お父様とうとう頭がおかしくなりましたか!?」

 

「私は正気だ!あの風格と言い、教養の高さと言い、何よりもこの算盤だ!あの方はきっとこの荒廃した世を救ってくれるぞ!」

 

「うわー・・・完全に聞いてません、自分の世界に入ってますよ。」

 

「包、すぐにこの算盤の量産体制をしくぞ!改めて確信したぞ、これはこの国を変える最大の技術になる!」

 

「・・・まあそうですね、天の御遣い様の持ってきた技術の一つとして売れば売名としてその御遣い様の役に立ちますけど。」

 

「ふふふ、魯粛、お前という娘を得て引退を考えていたが、再びこの身に力が湧いてきたぞぉぉォォ!!」

 

「お父様、すっごい活き活きとしてますねー・・・やれやれ、これは暫く忙しそうになりそうです・・・。」

 

魯子敬、真名を【包】、商人であり豪族の家、魯家の跡取り娘として生を受けたが、父親の暴走ぶりに軽く引いていた。


 
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