この作品は
壱・恋姫無双の主人公は一刀しか認めない
弐・雪蓮は俺や一刀の嫁
参・オリキャラなんて邪道だぜ!!
という方にはお勧めしません
オリジナル登場人物紹介
龍泰
字は飛雲(ひうん)。真名は不明。名前が帝記北郷のあの人の偽名と同じだがまったくの別人物。十年前にこの時代に飛ばされてきた。王老師と呼ばれる人物に拾われて兵法と武術を学ぶ。王老師亡き後は村の相談役として寿春近くの村でひっそりと暮らしていたが……。帝記北郷の龍志と同じく風流人だが、彼よりもいささか頑固で融通が利かない面もある。方天戟と鉄鞭の使い手。
潘璋
字は文珪(ぶんけい)。真名は浮葉(うきは)。龍泰の村に住む少女。元々山賊をしていたところを王老師に退治され、そのまま弟子となった。龍泰の妹弟子。捕縛術に長ける。王先生亡き後の村を龍泰と共に守っているが、龍泰の思いが天下に向かいつつあることに気づき悩むこととなる。いささか無鉄砲。鉤鎌槍を得意とする。
紀霊
字は金武(きんぶ)。真名は静林(せいりん)。袁術軍一の名将にして猛将。龍泰とは同門の仲。何かと問題の多い袁術軍がそれでもやっていけているのは彼の存在が大きい。孫策の力を警戒しており、隙を見ては殺すべきと袁術に進言しているが聞き入れられていない。三尖両刃刀の達人。
『恋姫✝無双:異聞~孫呉の王と龍の御子・Ⅰ~』
寿春近郊に賢者がいる。
そんな話が雪蓮のもとに届いたのは、黄巾の乱こそ終結したものの天下は混迷を深める一方の頃。早い話が反董卓連合結成の少し前。
賢者はかつて雷鳴と共に現れ、村では『龍の御子』と呼ばれているという。
その話を聞いた時、雪蓮の目が好奇心で輝き、それを見た冥琳が額に手を当ててうなだれたのは言うまでもない。
そしてそのまま雪蓮は件の村へと一人旅立った。
それを止める者は無かった…誰もが無駄だと解っていたから。
そうして雪蓮は噂の村に着き、無事にその賢者と会う事が出来たのだが……。
「ハーックション!!」
「…やれやれ」
豪快にくしゃみをした雪蓮の額に、呆れを通り越して一種感心したような顔の男が絞った手拭いを置いた。
今雪蓮がいるのは質素な草庵の座臥の上。彼女を看病する男の家の客間である。
「何時になったら帰るかと思っていれば、本当に七日も家の前に居座るなんて…失礼ですがあなたは馬鹿じゃありませんか?」
「うう……龍泰が早くあたしの言う事を聞かないからじゃない…」
男の言葉に口元まで布団に埋まった雪蓮は、拗ねたようにそう言った。
それを見て男・龍泰は再び溜息を吐く。
七日前。いきなりこの草庵にやってきたこの江東の虎の娘は、二言三言挨拶を交わしたと思いきやいきなり臣下に成れとおほざきになられたのだ。
最も、雪蓮の取ってはいきなりの話ではない。ここに来るまでずっと、噂の賢者とやらが気に入ったならばぜひ幕下の加えようと考えていた。
そして実際に会ってみて、一目でこの龍泰の事を気に入ってしまったのだ。
まずその容貌。理知を秘めた瞳に切れ長の双眸。鼻はやや高めだが決して見苦しくなく、肌は女のように白いがそれと対照的に唇は紅を引いたように紅い。
別に醜男だからアウトという訳ではないが、やはり配下にするならば良い男の方が見ていて楽しい。
次に身のこなし。どちらかと言えば痩せているが、その下に無駄のない鋼のような筋肉があることは身のこなしからも見て取れた。
おそらくはその武は自分と同等かさらに上か……。
そう考えただけで喧嘩っ早いこのお転婆君主は堪らなくなる。
とまあそんな具合ですっかり龍泰が気に入った雪蓮は早速前述の如くスカウトをしたのだが、結果は勿論ノー。
そこで巧い具合に駆け引きでもすればよかったのだが、あまりにはっきりと断られたことに臍を曲げた雪蓮はすっかり拗ねてしまい、半ばだだをこねるように仕官を迫った。
それに対して根が真面目な龍泰もつい熱くなり、お互いに意地の張り合いとなってしまう。
結果、だったらうんと言うまでここに居座ってやると草庵の門の前に座り込みを始めた雪蓮に勝手にしろと奥にひっこんでしまった龍泰。
かくして、まるで子供の喧嘩のように始まったこの対決は、結局七日目に雪蓮が風邪をひいて朦朧としていたのを見かねた龍泰が雪蓮を屋敷に入れて、一応引き分けという形に終わった。
「それにしても七日間ずっと居座るだなんて正気の沙汰ではないでしょう…ましてや一軍の長たる者が……あ、手拭い変えますね」
「うう……」
温くなった手拭いを水で濡らして絞った後、再び額の上に置く龍泰。
雪蓮は熱で顔を赤くしながらも、ひんやりとした手拭いに気持ちよさげに顔を緩めた。
「やれやれ…とりあえずお城の方に使いを出しましたから、明日の昼にはお迎えがいらっしゃるかと思います」
「ちょっと…ここまでさせといて仕官しないつも…ゲホッゲホッ」
「ああもう…はい。お水です」
落ち着いた手つきで、しかし迅速に水差しの水を杯についで雪蓮に渡す龍泰。
澄んだ水をゆっくりと飲み雪蓮はふうと息をついた。
それを見て龍泰も同じように息をつき、苦笑を浮かべながら。
「まあ、確かに理由も告げずにお断りするのも失礼な話でしたね」
「理由?」
「ええ…私が雷と共にやって来たと言う話はご存知ですよね?」
「ええ、一応は…」
「信じられるかは解りませんが、私はそれ以前までずっと違う世界にいました。それが突然この世界に飛ばされてしまったのです」
「違う世界…天の世界ってこと?」
雪蓮の問いに、龍志はふっと笑い。
「そんな良いところではありませんよ…いずれにせよ、この世界に飛ばされた私はあのままでは一人で生きて行く事も出来なかったでしょう。飢え死にか夜盗に襲われるか…そうやってのたれ死んだことでしょう。しかし、私は王老師とこの村の人々に救われました。そして彼等はそれだけでなく、住む所まで提供してくれたのです。見ず知らずのこの私に…」
その時の事を思い出しているのだろうか、懐かしげに垂れた切れ長の眦、その奥の瞳が微かに揺れた気がする。
「そして三年前、王老師が無くなられた時に決めたのです。自分がこの村を守ろうと。それが自分を救い受け入れてくれたこの村への恩返しなのだと…確かに貴方についていけば天下を変えることはできるかもしれない。少なくとも袁術の悪政から逃れることはできるでしょう。ですが、いかに優れた国でもこのような小さな村まで充分には気を回してはくれないのですよ。結局、乱世にせよ治世にせよ、民は自らの力で自らを守るしか生きて行く道はないのです。抗い難い世の流れに翻弄されながらね」
「だから…私には着いてこれないと?」
「ええ。正直あなたは賢君の器です。個人的にも好感が持てます。ですが、この村を守る為に私はあなたに仕えることはできません」
「そう…」
それきり雪蓮は黙り込んでしまった。
重苦しい沈黙の中、龍泰がおもむろにまた手拭いを水に浸して絞る音だけが酷く大きき響いた。
「…私は夕餉の支度をしてきます。手拭いが温くなったら呼んでください」
そう言って龍泰は客間を後にする。
戸が閉まり、外界と隔絶されたかのように沈黙に満たされる部屋。
窓から入る日差しは薄いオレンジ色に輝き、もうすぐ人々の営みが終わろうとしている事を雪蓮に告げる。
「……村を守る…か」
思わず漏らした雪蓮の呟きを、庭木に止まった二羽の雀だけが聞いていた。
夜が明け、朝が来て、昼になった。
龍泰の予想よりもはるかに早く、早朝には雪蓮を迎えに冥琳がやってきた。
今回の件の詳細を龍泰から聞き(その間雪蓮はずっと気まずげな顔をしながら冥琳の冷たい視線に耐えることとなった)、侘びと謝礼を兼ねて少なからぬ金を残し、彼女達が草庵を後にしたのがつい先程。
その間、雪蓮はずっと龍泰と口を利くことはなかった。
「………」
草庵の奥、さながら日本の茶室のような部屋で龍泰は静かに正座をしながら瞑想している。
脳裏に蘇るは亡き王老師の言葉。
『龍泰…お前には私の全てを授けた。後はお前の心次第だ』
『心…ですか?』
『ああ、人には皆生きる意味がある。それは時に土を耕し大地と共に生きる道であり、時には魚を獲り川と共にある道だ。お前が違う世界からこの世界に来たのにも何らかの意味があるはずだ。それはきっと大きな意味を持つはず…恐らくは天下に影響を与えるような。しかし、それもお前の心一つ。お前が静かな生き方を望めばそれもあるだろうし、そうでないものを望めばそうなる』
『…解りました。ただ一つ聞いても良いでしょうか?』
『うん?』
『老師は…私にどのような生き方をお望みなのですか?』
『……私はお前が一番だと思う生き方をして欲しいと思っているよ』
王老師が亡くなったのはそれからしばらくしてのことだった。
「老師……」
そっと目を開く。
この世界に飛ばされ、この村で過ごしてきた十年間。
ずっと思い続けてきた。自分はどうしてこの世界に飛ばされたのだろうかと。
平穏な生活。古風な家系に生まれたこと以外はどこにでもある一般家庭と変わらない暮らし。
それが突然変わった。この世界に来た事によって。
『悩んだことはあります…しかし、今のこの暮らしがずっと続くならばそれでいいと思っていた』
だが、雪蓮との出会いがそれを変えた。
「天下…か」
自分を特別な存在だなどと思うつもりはない。だが、自分がこの世界に来た意味を知る為には一度天下を臨む必要があるのかもしれない。
「……龍泰さん?」
「…浮葉さんですか」
潘璋こと浮葉が、部屋の入口に立ち恐る恐る龍泰を窺っていた。
どうやら思いのほかに氣を出してしまっていたらしい。
「どうしました?」
「いえ…その、風の便りなんスけど、何でも反董卓連合結成を呼びかける檄文が諸侯の間に届けられてるみたいッス」
「遂に来ましたか…」
旅人から聞いた昨今の情勢。纏りを欠く星星の輝き。それら全てがさらなる乱世の混迷を記していた。
昂りを禁じ得ない。乱世の狭間、そこに自分の宿命があるのではないだろうか。
「………」
押し黙ってしまった龍泰を前を、浮葉が何とも言えない表情で見詰めていた。
数日後。
「…どうしたのだ策殿。最近えらく大人しいが」
「ああ、祭……何でもないわ」
「なら良いが…」
連合の集結地向けての行軍中にも関わらず、どこか心ここにあらずの雪蓮に祭は釈然としない顔をしながらも視線を前に戻し兵の統率に戻る。
龍泰の元から戻ってからというもの、雪蓮は冥琳にこってりと油を絞られたり反董卓連合参加の準備に追われたりと忙しい日々を送っていた。その合間で、時折何かを考え込るように遠い視線をしている事に気付いている者は何人いるだろうか。少なくとも、冥琳と祭が気付いているのは明らかなのだが。
雪蓮を悩ませるもの。
それはあの時龍泰の言った言葉。
『いかに優れた国でもこんな小さな村まで手が回らない』
それは紛れもない真理だった。
どれほど万民の平穏を唱えようとも、小さな村に官吏や軍を在中させるほど国家とは細かなものではない。
必然的に、民自身の働きも必要とされるのだ。
雪蓮が理想主義者であれば、それでも龍泰に天下万民の為に立ちあがれと言ったかもしれない。
しかし、雪蓮はそう言う事が出来なかった。
龍泰の思いが解る故に。
彼女の優しさ故に。
そしてその事が、雪蓮に否が応でも自覚させてしまったのだ。
己の未熟さというものを。
「まだまだだなぁ…」
つい漏らした言葉に、自分が酷く弱気になっていることを気づかされる。
王としての非情さなどとうの昔に理解していたつもりなのに。
「龍泰……か」
同時刻。龍泰の村。
今日も今日とて相変わらず龍泰はあの部屋でずっと禅を組んでいる。
「………」
胸に去来するは雪蓮の事。
今頃彼女は司隷州へ向けて軍を進めている頃だろうか。
天下にその名を轟かし、己が理想を叶えんが為に。
「………ん?」
ふと呼ばれた気がして龍泰は双眸を開いた。
空耳かと思ったが違う。やはり草庵の前で自分を呼んでいる者がいる。
「何かあったのか?」
もしやまた盗賊の類でも出たのではないだろうかと龍志は愛用の方天戟を片手に門へと急ぐ。
「何事ですか皆さ…」
「龍老師!!」
「老師!!行きましょうぜ天下へと!!」
「村はオイラ達に任せてくだせえ!!」
「俺達農民だって立派に生きているんだってことをお偉いさん達に見せてやりましょうぜ!!」
そこにいたのは、バラバラながらも思い思いの武器で武装した村人達だった。
「み、皆さん…どういう事ですかこれは!?」
「龍志さん」
声のした方を見ると、やはり鉤鎌槍を片手に鎧で身を固めた浮葉が佇んでいる。
「浮葉さん、これは……」
「有志を募ったんスよ…自警団と義勇兵を。この乱世、受け身じゃ駄目ッスから。ちっとでも世の中をよくする為に立ち上がろうってね」
「しかし、残念ながら義勇兵の良い大将がいないんですよ…いやいるにはいるんですけど、どうもその人は村を護りたいらしくてですね」
「………」
「自警団はその人が今まで頑張ってくれおかげでこの小さな村ぐらいなら何とかなるんスけどねぇ。義勇兵は天下に飛び出すわけッスから、やっぱそれ相応の人じゃないと…龍の御子とか」
「貴方達…」
目頭が熱くなる。
言われなくても解る。どうしてこの時期に突然自警団や義勇兵を募ったのか。
浮葉の…皆の笑顔を見ればわかる。
「龍泰さん…あなたがどう思っているかは解らないッスけど、俺達は今迄随分と龍泰さんに助けられてきたんスよ。そろそろ俺達が返しても良いじゃないッスか」
「……ありがとう」
それしか言えなかった。
だが浮葉達にはそれだけで充分だった。
「では…私達は孫策殿の元に行きましょう。さあ、幕を開けましょう!!私達の物語の!!」
~続く?~
後書き
どうもタタリ大佐です。
いやーあれですね。はい。すみませんこんなの書いちゃって。
普通は思いついてもメモに書きとめておくぐらいしかしないのですが、これは何故か書かないといけないような気がしまして……。
多分。天啓かトチ狂ったかのどっちかです。
すみませんすみません。帝記・北郷も鋭意執筆中ですのでご勘弁を。
しかし、始めた以上こちらも書かないといけませんね……まあ、こっちは多分すぐに終わると思いますが。
いや、それ以前に続きを書いてもいいのだろうか……。
では、次作でお会いしましょう
Tweet |
|
|
35
|
2
|
追加するフォルダを選択
……何故だろう
帝記北郷の続編を書くはずが、ふと思いついた衝動に任せてこのような物を書いていた……。
人生摩訶不思議。
オリキャラ注意