さて、今年もやって来たクリスマス。
更に多くのメンバーが増えた今、OTAKU旅団ではどのようなクリスマスが行われるのか―――
「「……」」
「お~い、そっちの飾りつけは終わったか~?」
「簡単に終われば苦労しねぇよ! 誰か手伝ってくれー!」
「ちょ、お前しっかり支えてろよ!? これ落ちたら大怪我じゃ済まねぇぞ!?」
「いざという時は医療班もすぐに召集される、だから安心して大怪我してくれ!!」
「いや安心出来るかぁっ!!!」
二人の目の前には、昨年以上に巨大なクリスマスツリーが飾られていたからだ。作業員の面々が梯子などを使って飾り付けをしているのだが、ツリーその物が巨大過ぎるが故に上手く飾りを付けるのに苦労しているようだ。
「…デカ過ぎね?」
「デカ過ぎですねぇ。そもそも、一体誰がこんなツリーを…」
「あ、お~い二人共~!」
「「!」」
二人の下にはカエデが走ってやって来た。しかし目の前にいる二人の内の一人が竜神丸だと分かった途端、カエデは「うげっ」と言いたげな表情へと変わる。
「おやま、会って早々に失礼な人ですね」
「ふん、アンタと話す事なんか何も無いよ」
「おや、なら声をかけてくる必要は無い筈ではありませんかねぇ?」
「アンタじゃなけりゃ仲良く話してたところだ、ていうかハッキリ言ってアンタの事が大嫌いだよ」
「あ、そう。別にどうでも良いですけどねぇ、あなたが何をほざこうと」
「ッ…あぁもう、本当に腹立つ野郎だね!!」
「まぁまぁ落ち着けってカエデちゃん。竜神丸もいい加減挑発する癖はやめろって」
「はいは~い」
「ぐっ…マジでむかつくコイツ…!!」
今にも竜神丸に掴み掛かろうとしているカエデをガルムが宥め、竜神丸は相変わらず涼しい顔をしている。彼女以外にも色々あってOTAKU旅団と深く関わるようになったメンバーは何人かいるが、彼女の場合はとある事情から竜神丸の事を快く思ってはおらず、ガルムがいなかったら間違いなく殴りかかっていただろう……仮に殴りかかったとしても竜神丸の場合は簡単に回避してしまいそうだが。
「あ、そうだガルムさんや。咲良ちゃんからこれを渡すように言われてたんだ」
「ん? …あぁ、招待状ね。去年も渡された気がする」
カエデから手渡されたカード。それは昨年のクリスマスでも貰った、咲良直筆のクリスマスパーティー招待状だった。今年もまたご丁寧にサンタクロースや雪だるま、クリスマスツリーなどの可愛らしい絵が描かれている。
「おや、ガルムさんだけですか?」
「ふん、アンタにくれてやるカードなんか一枚も無いもんね~だ」
「あらま、それは残念。前回は咲良さん本人から貰いましたけどねぇ……彼女はこんな私の事も、結構大事に思って下さっているようで、実に嬉しい限りです」
「……」
「昨年のクリスマス、彼女はメンバー全員に参加して欲しいと仰ってましたねぇ。一人でも欠けていると分かってしまえば、彼女はかなり悲しむ事でしょう」
「うぐ…」
「まぁ、私は別に構いませんよ? 私自身はパーティーに参加出来ようと出来まいとどっちでも良いので。まぁその場合は、咲良さんの元気がほんのちょこっとだけでも消え失せてしまうのは間違いないでしょう……そう、ほんのちょこっとだけ、ねぇ?」
「…あぁもう分かったよ!! くれてやりゃ良いんだろくれてやりゃあ!!」
「はい、どうもありがとうございます」
竜神丸嫌いなカエデも、流石に咲良が楽しむ事については考慮せざるを得なかった。彼女は仕方なく、というか招待状をかなり乱暴に叩きつける形で竜神丸に譲渡し、竜神丸もそこは素直に感謝の意を述べる。これに違和感を感じたガルムは小声で竜神丸に語りかける。
(お前らしくないな。どういう風の吹き回しだ?)
(この旅団の事です、どうせ嫌でも参加させられるに決まってるでしょうからね。参加してない事が咲良さんに知られてしまえば、アキさん達から何をされるか分かったもんじゃありません。昨年も、二百式さんが不参加を決め込もうとして大変な目に遭ったのを知らないのですか?)
(あぁ、なるほどな。でもあんな形で招待状を貰うとか、お前も言い方って物は無いのか?)
(私も向こうには嫌われてますのでね。それに彼女が相手であれば、今みたいに手玉に取るのは非常に簡単ですしねぇ?)
(…お前、何時か天罰下るぞ)
(構いません。今に始まった事じゃありませんし、人を弄るのもなかなかに楽しいもので♪)
駄目だコイツ、(性格的な意味で)本当にどうしようもねぇ。
竜神丸の腹黒さに呆れて言葉も出ないガルムだったが、ここである事に気付く。
「そういえばカエデちゃん、ディア達はどうしたんだ? 一緒じゃないのか?」
「ウル達なら、咲良ちゃんを連れてサファリゾーンとかいう場所に向かったよ。何でも咲良ちゃんへのサプライズとして、ポケモンって生物達をいっぱい捕獲させるんだって」
「へぇ、ポケモンを……ん? お前は行かなかったのか?」
「もちろん行きたかったよ? 行きたかったんだけど……ジャンケンで負けた結果、留守番兼飾りつけの手伝いを任せられちゃってさぁ…」
「「「「「以下同文」」」」」
「ってお前等もかい!?」
涙目で答えるカエデの背後からアキ、こなた、アスナ、響、アンジェの五人も顔を出す。普段よりもかなり暗い表情をしている事から、彼女達もジャンケンで負けてしまったのだろう。
「ま、まぁ別に良いんだよ!? ウルや咲良ちゃん達が楽しんでくれるんだったらね!? そう、うん!! アキちゃん達だってそうでしょ!?」
「あ、当たり前じゃない!! べ、別に行けても行けなくてもどっちでも良いし!?」
「「「「うんうん!!」」」」
「…全員、若干涙目になってる気がするのは気の所為か?」
「気の所為だよコンチクショオォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」
建前とは逆に、やはりウルや咲良達と一緒に行きたかったのだろう。カエデ達は悔し涙を流しつつその場から走り去って行ってしまった。結果、その場には結局ガルムと竜神丸だけが残るのだった。
「…まずったな、言葉選ぶべきだったか」
「おやおやガルムさん、女性を泣かせるとは最低ですねぇ?」
「あぁうん、間違ってもお前にだけは言われたくないわ」
一方、サファリゾーンでは…
「「「「「チルチルゥ~♪」」」」」
「…zzz」
「うっはぁ~モフモフだぁ~……ここは天国だぁ~…」
「「「親父かお前は」」」
ディアーリーズと美空が綿毛のような羽を持った鳥ポケモン―――チルット、チルタリスの群れの中に頭から突っ込んで気持ち良さそうにしているという、傍から見ればなかなかにシュールな光景が出来ていた。miri、aws、Blazの三人から同時に突っ込みを受けるも、今のディアーリーズはこれまでのストレス発散も兼ねてか突っ込みすらもスルーしてしまう程にまで至福の時を過ごしており、美空に至ってはチルタリスの羽の中でスヤスヤ眠ってしまっている。
「チルットやチルタリスの群れの中で寛ぐのは良いがディア、咲良ちゃんにポケモンをゲットさせる為にわざわざここに来たんだろう? 何をのんびりと寛いどるか」
「だ~いじょ~ぶですってぇ~…ふにゃふにゃあ~…」
「台詞までだらけ切ってんじゃねぇか。こりゃ確実に何かトラブルが起こるぞ」
「いやいや、そんなタイミング良くフラグが建つ訳がぁ~…」
「お~い!」
そんな時、咲良の声が聞こえてきた。声の聞こえてきた方向に三人が見上げると、その方向には…
「見て見て~、すっごく高いよ~♪」
楽しそうに手を振りながら、風船ポケモン―――フワンテに空高くまで連行されて行っている咲良の姿があった。
「「「―――フラグ建つ訳あったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」
「咲良ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 危ないから早く降りて来なさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!」
「大丈夫だよ~? ね、風船さん♪」
「プゥワァ~♪」
「ちょっと待て咲良ちゃん!! いくら何でもフワンテは駄目だって!? 下手すりゃ天国まで飛んで行っちゃうから早く降りて来ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!!」
フワンテは風船のような可愛らしい姿をしているものの、仮にもゴーストタイプのポケモンだ。野生のゴーストポケモンは人間に直接危害を加えてくる種類が非常に多く、このフワンテも自身の手を掴んでいる人間をそのままあの世まで連行してしまうという非常に危険なポケモンである。
「プワッ」
「あ」
「「「「あ」」」」
その時、フワンテの手から咲良の手が離れてしまった。そうなればもちろん…
「あぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?」
「「「「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!??」」」」
真下まで落ちていくのは明白である。
「マズいぞ!? 今の咲良ちゃんはグリード達を
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ咲良ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「いや早ぇなアイツ!?」
咲良が落ちそうになっている真下の池まで、全速力でダッシュするディアーリーズ。かなり近付いて来たところでディアーリーズがジャンプし、咲良を両手でキャッチしようとしたその時…
「ボーマー!!」
「…へ?」
すれ違い様に飛んで来たボーマンダが咲良をキャッチした為、ディアーリーズは空振りに終わる。そして…
「おぶぅっ!!?」
そのまま池に落下してしまった。飛んで来たボーマンダは地面に着地し、口に咥えていた咲良を降ろす。ボーマンダの背中に乗っていた支配人は溜め息を吐く。
「あぁ~楽しかった、ありがとね♪」
「プワァ~」
「やれやれ、どうなる事かと思ったぞ全く」
「ボマァ~」
「ブクブクブクブク…」
その後、池に落ちたディアーリーズはギャラドスに咥えられる形で回収されるのだった。
「ははは、すまんなディア。俺の方からちゃんと説明しておくべきだった」
「笑い事じゃありませんよ、もう…」
「災難でしたね、ウルさん」
池から回収された後、ディアーリーズは髪と服をみゆきに乾かして貰いつつ支配人から話を聞かされていた。先程のフワンテは咲良がサファリボールでゲットしたポケモンで、しかも悪戯好きな性格もあってか今回のように他の皆を驚かせるのが大好きだという。それ故にある程度の高さまで飛んでいただけであり、別にあの世という物騒な場所にまで連行される事は無いらしい。
「そういう事は早く言って下さいよ~…」
「まぁまぁ、もう良いだろ? 咲良ちゃんもいっぱい遊んで楽しんだみたいだしよ」
「「「「「…zzz」」」」」
先程のチルタリス達の群れの中には美空だけでなく、咲良も疲れて熟睡してしまっていた。その周りにはフワンテの他にもピンク色の子猫ポケモン―――エネコ、目元が緑色の頭部で隠れている幼児のようなポケモン―――ラルトス、青と黒を基調とした獣人らしきポケモン―――リオル、頭に大きな葉っぱの生えた四足歩行のポケモン―――チコリータ、そしてピカチュウやイーブイ達が同じように熟睡している。その小さなポケモン達の数にはawsやBlazも驚きを隠せない。
「しっかし、こんなにいっぱい捕まえるとは凄ぇじゃねぇか咲良ちゃんも」
「確かにな。小さいながらもよくやるものだ……しかしディアよ、この咲良ちゃんが捕まえたポケモン達はどうするのだ?」
「もちろん、うちで全員引き取りますよ。この子達も凄く可愛いですし、何より僕も少しポケモン達の存在にはまり始めてますし」
「少しどころか結構はまってるよな?」
「あ、バレました?」
「チャモチャモ~♪」
「おっとっと、もう本当に可愛いなぁ~お前って奴は、よしよ~し♪」
オレンジ色のヒヨコ型ポケモン―――アチャモを抱きしめながら撫でているディアーリーズ。そんなデレデレっぷりを発揮しているのはディアーリーズだけではなく…
「まぁ、何て可愛らしいポケモンでしょう!」
「チョゲプリ~♪」
みゆきは卵型ポケモン―――トゲピーを愛おしく撫でており…
「何この子、凄いモッフモフじゃない!?」
「ふわぁ~幸せだぁ~…」
「グゥ…?」
凛とユーリは虎のような模様を持った大型犬のようなポケモン―――ウィンディの背に乗ったまま気持ち良さそうにしており…
「うわぁ、凄いプニプニしてる…!」
「か、可愛い…!」
「タマァ~♪」
愛華と真優は球体状のアザラシ型ポケモン―――タマザラシの頬を指で突っつくなどして可愛がっていた。彼女達のデレっぷりもなかなかに凄まじく、この光景を見ていたmiri達は思わず苦笑する。
「完全にデレデレじゃねぇか」
「全くだな」
その時…
「―――あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」
-ドゴォォォォォォォォォォンッ!!-
「「「「「!?」」」」」
突如、ディアーリーズ達の下にkaitoが飛んで来た。kaitoは頭から地面に突き刺さり、何事かと音を聞いた一同が駆け寄る。
「kaitoさん!?」
「おいおい、どしたよ? お前が吹っ飛んで来るなんて」
「あぁそれ、ケンタロスの群れに撥ねられたんすよ」
そこに青い竜のようなポケモン―――ハクリューに乗ったFalSigが降りて来た。
「何かよく知らんが、全身ピンク色のかなり珍しいポケモンを発見しただとか言って、そのポケモンを全力で追いかけ回していたらしいっすよ。で、追いかけてる最中にケンタロスの群れに撥ね飛ばされたって訳」
「全身ピンク色のかなり珍しいポケモン? はて、このサファリゾーンにそんなのいたっけか…?」
全身ピンク色の珍しいポケモン。聞き覚えの無い特徴に思わず首を傾げる支配人だったが、後にサファリゾーンの生息ポケモンリストを調べてみても結局その正体が分かる事は無かった。
サファリゾーン、ジャングルエリア奥地…
「ミュ~…♪」
その“全身ピンク色の珍しいポケモン”は、空中でクルリと回転してから姿を消すのだった。
その後、多くのポケモンをゲットして満足気に
「「「「「ウル、飾りつけ手伝って!!!」」」」」
「うぇえ!? ちょ、まだ咲良と美空さんが寝て…」
「良いから早く!!」
「あ、ちょ、あれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…」
「おぉ、あっさり連れ去られたぞ」
「しかもご丁寧に、寝てるままの咲良ちゃんと美空ちゃんはウィンディの背中に乗っけられてるという」
「…ふん」
ディアーリーズが連行されていくのをmiri達が面白そうに眺めている中、たまたま近くを通りかかっていた二百式は下らなさそうに鼻で笑っていた。
「クリスマスなど下らん……一刻も早く黒騎士の奴を見つけ出さねば…」
「む?」
「ん」
その時、デルタと鉢合わせしてしまった。直後に二人の目線の間には火花が飛び散る。
「おやおや、デュラハンとやらに無様に負けたという二百式さんではありませんか。これはどうも」
「ふん、貴様か。貴様なんぞに用は無い、とっとと消え失せろ」
「あれま、そんな言葉で人が消えると思ってるんですか? 相変わらずそこらの三流戦士が言いそうな典型的な台詞ですねぇ?」
「それ以上下らん事をほざき続けるのなら、今すぐこの場で切り捨てても良いんだぞ?」
「あれれ、出来るんですか? あなたみたいな三流…いや、四流の男に?」
「そういう貴様はいい加減隠居すればどうだ? コジマに浸食されたその身体で何処までやれるか見物だなぁ?」
足の爪先を互いにぶつけ合いながら口喧嘩する二人。最近ではその喧嘩も若干ながらスケールが小さくなっていっているようにも見えるが、きっと気の所為である。
その時…
「見つけたわよ、一哉!!」
ある少女の声に、二百式の動きがピシリと止まった。
「…その声は、まさか…」
「えぇ、そのまさかよ一哉!! やっと会えたわね!!」
「…やっぱりお前か、アリス」
突如声をかけてきた少女―――アリスの姿を見て、二百式は思わず頭を抱える。アリスを知らないデルタは頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
「失礼、あなたは?」
「ん? あ、そういえば自己紹介してなかったわね。私はアリス、一哉の嫁よ!!」
「うぉい!? 堂々と何アホな事を言ってんだ!!」
「何よ、本当の事を言ったまでじゃない!?」
「俺は認めた覚えは無い!! いますぐ訂正しろ!!」
「嫌よ!! 私を守ってくれるって言ったのは他でもないアンタでしょうが!! まさかアンタ、自分でそう言った事まで忘れちゃった訳!?」
「…嫁、ねぇ」
デルタがニヤリと笑みを浮かべ、それに二百式がハッと気付く。
「えぇい、とにかくだ!! 人前で今いたいな事を言ってくれるな!! 分かったな!!」
「何よ!! 人が心配してここまでここまで来てあげたのに、そんな態度を取って良いのかしら!?」
「来てくれと頼んだ覚えは無い!! というか一体どうやってここまで来た!? お前には
「kaito…だっけ? その人に教えて貰ったのよ!!」
(あの野郎、後で殺す!!)
二百式の脳裏に、親指を立てつつ「テヘペロ☆」とでも言うかのように舌を突き出しているkaitoの姿が浮かび上がる。
「せっかく今日がクリスマスなんだもの、私も一緒に楽しませて貰うわよ!!」
「な!? このまま
「そうよ、悪い!?」
「ふざけるな、今すぐ帰れ!! ここはお前が来て良い場所じゃ…」
「あぁ~もぉ~ゴチャゴチャとうるさいわね!! これはもう決定事項なのよ!! 分かったら早く飾りつけの手伝いに行くわよ!!!」
「んな、ちょ、おい!? 離せアリス、おい、離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」
「…からかうネタが一つ増えましたねぇ」
拒否権すらも却下されたアリスによって二百式は強引に引っ張られて行く事になってしまい、一人残ったデルタは百人中百人が「ドス黒い」と答えそうな怪しい笑みを浮かべるのだった。
そして…
「メリィィィィィィィィィィィィィィィ……クリスマァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァスッ!!!!!」
「「「「「いやうるせぇよ!!?」」」」」
蒼崎が大音量マイクで叫ぶと同時に、2014年のクリスマスパーティーは開催された。昨年以上に巨大なクリスマスツリーがキラキラと輝き、テーブルには豪華な料理が並び、そして大量のクリスマスプレゼントが今回も用意されていた。
「つ、疲れたぁ~…」
「…調理押し付け、酷い」
「なはは、悪い悪い。ジンバも一緒だったんだからそれで勘弁してくれ」
『ふむ、なかなか達成感の感じる仕事だったぞ』
ちなみに今回はフィアレスやユイが調理を担当したらしい。疲労困憊で倒れている二人はそのままジンバによってテーブルの席まで運ばれ、他のメンバー達も楽しくパーティーを過ごしていた。
「…何故にここにいるんですかねぇ?」
そんな中で、Unknownは引き攣った笑みを浮かべていた。
「ほう、俺達が来たら何か悪いのか? アン娘よ」
「あら、どうもアン娘さん。お邪魔させて貰ってます」
「ムグムグ…」
「わ~い、アン娘久しぶり~♪」
「おぉアン娘、先に飯食わせて貰ってるぜ~」
既に何杯もの酒を飲み干してしまっている豪胆な女性―――幽華、グラスのワインを飲んでいる穏やかそうな女性―――ユリカ、料理を食べ進めている物静かな女性―――ルリ、Unknownの姿を見て嬉しそうにしている明るそうな女性―――ラピス、そしてルリと同じく料理を食べ進めている男性―――カオルの姿があったからだ。
そんな一同を見て、Unknownが真っ先に取った行動は一つ…
「―――そぉいっ!!!」
「あべし!?」
カオルの顔面に、飛び膝蹴りを炸裂させる事である。顔面にクリーンヒットしたカオルはそのまま吹っ飛ばされて壁に減り込み、Unknownがスタッと華麗に着地してみせる。
「な、何故俺だけぇ…」
「うん、先に料理喰ってるのがイラッと来た……さて、何故に皆がここにいる?」
「私が呼ばせて頂きましたの。アン娘さんと一緒にクリスマスを過ごしませんかって、そう言ったら数時間後に全員集まって来ましたわ」
「本当、そういう仕事だけは無駄に早いわよねぇアンタも…」
「何か言ったかしら朱音?」
「い~え、何も?」
どうやら桐山瑞希―――もとい
「コラそこ、喧嘩しない」
「「は~い♪」」
しかしUnknownが注意した途端、急に仲良しな雰囲気を見せつける朱音と青竜。やはりこの二人も相変わらずなようだ。
「あ、そういえばアン娘さん。先に言っておきたい事があります」
「んむ?」
「今回俺達がここに来たのは、純粋にクリスマスを楽しむ為でもあるんだが…」
「本当の理由は、また別にある」
「今回来た理由、それは…」
「…へ?」
朱音や青竜、そして幽華達が一斉にUnknownを取り囲む。
「「「「「―――アン娘(さん)と添い遂げる為!!」」」」」
「うん、そういう発言は小さい声で頼もうか」
(うぉい、添い遂げる事は否定しねぇのかよ…)
朱音達の宣言にUnknownが注意する中、近くで話を聞いていた刃は呆れたような様子で完食された料理の皿を一枚ずつ下げていく。
「ふぅ、また凄いなコレは…」
坂下琥珀―――もとい
(想像してなかったな、ここまで楽しいクリスマスパーティーは…)
かつては、とある世界でモンスター達と戦い続けていた朱雀。故に今のこの状況はとても想定出来るような物ではなかったらしく、若干だが自分がこの場にいて良いのか疑問を抱いてしまう程だった。
「よう、楽しくやってるか?」
「! …支配人さん」
朱雀の隣に支配人がやって来た。支配人は同じように椅子に座り、手に持っていたフライドチキンに齧り付く。
「何だか、戸惑ってるって感じだな」
「…何でも無い、と言えば嘘になりますね。正直、ここまで楽しいと思えるようなクリスマスは想像した事もありませんでしたから…」
「まぁ、あの世界じゃ確かに想像は出来んわな」
「…本当に良いんでしょうか」
「ん?」
「僕なんかが、こんな場所で楽しく生きるなんて……ミッドチルダに残った他の皆は…」
「何を黄昏とるかね己は」
「あだっ!?」
支配人にデコピンされ、思わず額を押さえる朱雀。
「お前の言いたい事は分かるがな。今のお前はOTAKU旅団のナンバーズだ、別にクリスマスを楽しんじゃいけないなんてルールは存在しちゃいない」
「ですが…」
「レジスタンスの連中に申し訳ないと思ってんなら、生きてみせろ」
「え?」
「あの戦いを生き抜いた人達の為にも、あの戦いで死んでいった人達の為にも、お前は今のこの時間を生き抜いていかなきゃならない……それこそが、今のお前に出来る事だ。あんま深く自分を責める必要なんて無い」
「今の、僕に……ですか」
「あぁ。朱雀、お前はこの状況をどう思ってる?」
「僕は…」
ロキによって弄り回されているルカ、そんな二人を纏めて沈めるソラ。竜神丸にまた鼻メガネをかけさせようとして、
人それぞれ楽しみ方は違えど、全員が楽しい時間を過ごしているのを見た朱雀は…
「…はい。僕も、凄く楽しいと思います」
「…そうかい」
その表情に、思わず笑みが浮かぶ。それを見た支配人もフッと笑い、二人はグラスに注がれているワインをグイッと喉の奥に流し込んで……いこうとしたその時―――
「何カッコつけてワインなんか飲んでるのかしら二人共!!」
「「ブフゥーッ!?」」
葵の乱入により、支配人は思わずワインを噴き出す羽目になった。
「ゲホ、ゴホ……おいコラ葵さんよぉ、ワイン飲んでる時くらい驚かすのはやめてくれないか?」
「今から全員でゲームでもするわよ! 負けた子は罰ゲームとして女装して貰うわ!」
「聞いてくれませんかねぇ人の話!?」
「…ははは!」
支配人の突っ込みも無視したまま、他のメンバー達も巻き込んでツイスターゲームを開始する葵。そんな彼女の行動に溜め息をつきつつも、結局は参加させられる羽目になる支配人と朱雀だったが、その表情は何となく楽しそうな表情なのだった。
「「ぐふぅ…」」
「お前等が俺に勝とうなど、まだ十年早い」
「キリヤさん、大丈夫ですか!?」
「ありゃ~、また酷くやられちゃったね~」
「す、すぐに手当てを!」
ソラによって叩きのめされたロキとルカ。二人は咲とエヴァ、リリィの手当てを受ける事になり、ロキは悔しそうな溜め息を零す。
「あぁ畜生、ほんのちょっとは掠ったってのに…」
「相変わらず早過ぎる……というか兄貴、さっき僕を盾替わりにしたでしょ?」
「当たり前だ何を今更」
「本当腹立つなこの兄貴!?」
「だ、大丈夫ですよ! キリヤさんの為に、今から私が手料理を―――」
「「お願いそれはやめて!!」」
「料理なら僕が作ったよ~ただのハンバーグだけど~」
「あははは…」
咲は手料理を振舞おうとしてロキとルカに全力で阻止され、エヴァはいつの間にか作り終えていたハンバーグを二人に振舞い、リリィは二人を手当てしつつ苦笑している。
「さぁキリー、あなた達も一緒にやるわよ!!」
「いきなり過ぎるな!? …で、何をやるって?」
「ツイスターゲーム? へぇ、凄い久しぶりだなぁって、え? まさか僕達も…?」
「そう、早く準備しなさい! 全員無様に負かしてあげるわ!」
「ほぉ~う? 上等、俺も挑ませて貰おうじゃないか」
「やれやれ。久しぶりだから勝手がよく分かりませんが、仕方ありませんね」
「…あり? そういえばルカよ」
ここで、ガルムがある事に気付いた。
「お前、アリサちゃんやすずかちゃん達とのクリスマスパーティーはどうしたんだ?」
「……………………………………………………あ」
それを聞いた瞬間、ルカは一気に青ざめた表情になる。
「ルカ? おい、どうし…「すいません、僕ちょっと出て来ます!!」ぬぉう!?」
ガルムの真横を走り抜け、ルカは全速力で何処かに走り去って行ってしまった。恐らく、大急ぎで海鳴市まで向かって行ったのだろう。
「おうおう、焦ってるねぇ」
「ま、どうせまたキャメルクラッチでも決められるだろうよ」
「いや、次こそオクトパスホールドでやられるかもしれんぞ?」
「いえいえ、今度こそ筋○バスターかも知れませんよ!」
「…話の内容が物騒過ぎません?(なんちゅう会話してんだよコイツ等…)」
ガルム、ロキ、ソラ、早苗の物騒な会話内容に、刃はもはや突っ込む気にもなれないまま次の料理をテーブルに置いていくのだった。
その後も、ツイスターゲームに参加させられたメンバー達は男女で密着し合うという状況に苦戦している光景を葵に全力で笑われ、結局はロキとディアーリーズが罰ゲームを受ける羽目になり、結託した葵とkaitoによって様々な女装をさせられたのは言うまでもない。
そして、パーティーを思う存分楽しんだ後…
「逃がさないわよウル!!」
「さぁ、一緒に夜の営みを楽しもうじゃないか!!」
「大声で何を言ってんですか!? これから咲良を寝かさなきゃいけないんですよ!?」
「心配するなディア、咲良ちゃんは既にグリード達やポケモン達と一緒に就寝済みだ」
「kaitoさん何でそういう仕事だけ無駄に早いんですか!?」
ラヴァーズ一同により、再びディアーリーズが追い詰められそうになっていた。咲良を既に就寝させてあげている辺り、ふざけつつもやるべき事はちゃんとやっているのがkaitoの
「さぁ、行くわよウル!!」
「く、そう何度も同じ目には―――」
「おっと、待って貰おうか」
直後、ディアーリーズの右腕に鞭が巻き付いた。しかし、その鞭はアキによる物ではない。
「…え」
後ろを振り向き、ディアーリーズは青ざめる。淡い水色の長髪と青い瞳のツリ目、そして抜群に整ったボディを軍服で包み込んでいる女性は、ディアーリーズにとっても見覚えのある顔だった。
「あ、カンナさん」
「カ、カンナさん……ナズェココニイルンディス?」
「何、お前が意地でも逃げようとしているのを止めたまでさ。それに私も、夜の営みという物がどんな感じなのか知っておきたいのでな」
アキの姉でもある軍服の女性―――カンナが舌舐めずりしているのを見て、ディアーリーズはこの後に起こる事を直感で見抜いた。マズい、このままでは確実に美味しく頂かれてしまう。
「ア、アハハ~…僕はまだ書類仕事が―――」
「書類仕事なら私が済ませてあげたわよ」
「!? そ、その声は…」
「来てやったわよ、ウル!!」
「ハ、ハルカまで…!!」
白衣に身を包んだ、茶髪のボブヘアーに茶色がかった黒目の女性―――ハルカの登場に、ディアーリーズは遂に諦めた表情を見せる。
「それに私も、久しぶりにウルで実験したかったのよねぇ~?」
「…まだ大した事の無い実験ですよね?」
「……」
「ハルカさん!? 何故に目を逸らすんですかぁ!?」
「グダグダ言うな。さぁ、ここにいる全員でコイツを(性的に)食べてやろうじゃないか」
「「「「「おぉ~!!」」」」」
「そんな事で結託しないで下さいよ!? あ、ちょ、美空さんまでノリノリだし…ちょ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!??」
カンナ率いるディアラヴァーズにより、ディアーリーズは空しく部屋まで連行されて行ってしまった。
「さぁて、アン娘ちゃん…」
「私達も一緒に楽しむべき、ですわ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…?」
「頑張ってね~」
そして別の場所でも、Unknownがアン娘ラヴァーズによって連行されているところだった。kaitoは連行された二人に対して面白そうにハンカチを振っているが、謝罪の意志など微塵も存在してはいないのだった。
そして、数日後…
「ふぅ、着いた着いた」
とある次元世界に、ディアーリーズと美空はやって来ていた。美空の母親である、篝雲雀の墓参りに行く為だ。しかし…
「うぐ!? ぐ……ま、まだ腰が…」
「す、すみませ、ん……ウル、さ……んぅぅ…!」
数日間連続で愛し合ったからか、二人は未だに蟹股歩きが直らず、腰の痛みが消えてはいなかった。特に美空に関しては今も若干だがビクビクと身体が反応しており、頬もまだ赤く染まっている。よほど愛し合った所為なのだろうが、その辺りは後日の事を考えなかった彼等の自業自得である。
「と、とにかく、早いところ墓参りを済ませましょう…」
「そう、しましょう……え?」
雲雀、そしてイルヴィーナの住人達が眠る墓場まで到着した時、美空はある事に気付いた。
「…花?」
「え……あ、本当だ。白ユリ…?」
雲雀の墓には、既に白ユリの花が添えられてあったのだ。しかも雲雀だけでなく、他の住人達の住人達の墓にも同じように花が添えられてある。これにはディアーリーズと美空も首を傾げる。
「一体、誰がこの花を…?」
花を添えた人物。
その正体を知るのは、まだまだ先の話である。
そして…
「―――んむぅ? ここは、一体何処だ…?」
「へぇ、旅団もなかなか良いのが揃ってるじゃねぇか…」
月日が経ち、旅団は新たな仲間達と遭遇する事になる。
coming soon…
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混・沌・聖・夜