No.744863

真・恋姫†無双 裏√SG 第18.5話

桐生キラさん

こんにちは!
Second Generations日常編 零士視点
【晋】のみんなが、クリスマスに欲しい物のお話

2014-12-21 15:45:43 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1122   閲覧ユーザー数:949

 

 

 

 

 

【晋】のクリスマス

 

 

 

 

零士「ふむ…」

 

とある冬の日、僕は居間に掛けられたカレンダーを見て、物思いに更けてみる

 

僕がこの世界に来て20年以上が経過した。

もともとは余所者であった僕も、この世界で過ごす時間が、かつて居た世界のものを越えてしまうと、流石に今でも余所者であるという自覚は薄れていくというもの。僕はこの世界の住人の一人として、この世界に馴染んだのだ

 

さて、この世界に来て随分経つが、この世界の暦が太陰暦ではなく太陽暦だったと知ったのは、自分の息子と娘が生まれた年、つまり16年前だった。それまでは、咲ちゃんや悠里ちゃんに日にちを聞いて過ごしていたが、子どもの成長記録を付ける意味で毎日日誌を書き始めて初めて気付いた。

 

何故かこの世界、一年が365日あるのだ。

 

それを咲ちゃん達に言うと「はぁ?お前、この世界に来て何年経ってそれ言ってんだ?」と笑われたものだ。

いや、違和感がなかったわけじゃない。一年で、大きなズレもなく四季を感じているのは、確かに妙だなとは思った。だが、そこまで気にしなかった。別にそれで、何かが困る訳でもないから

 

そんな話はさておき、カレンダーが示す今日の日付けは12月25日、つまりクリスマスなのだ。流石のこの世界でも、クリスマスという文化はなかったが、この日に何もしないのは、未来人である僕は妙に気が引けたので、クリスマスは毎年【晋】でパーティーを開いたり、子ども達にプレゼントを贈ったりしていたのだ。今年も、そんな年がやって来たのだが…

 

悠里「ふんふーん♪ちらちら」

 

雪蓮「おっ酒♪おっ酒♪」

 

恋「ご飯♪ご飯♪」

 

凪「香辛料が切れているなぁ。切れているなぁ」

 

流琉「私が愛用している調味料も、もう少しで無くなっちゃうなぁ」

 

秋蘭「見ろ咲夜。沙和の店の目録を貰って来たぞ」

 

咲夜「お!へぇ、この服良い感じだな」

 

月「そう言えば、今使っている包丁、もうそろそろ替え時かなぁ」

 

詠「あ、そろそろあの本の新刊が出るわよね。買いに行かなきゃなぁ」

 

猪々子「零士!今年も競馬に行くから、小遣いくれ!」

 

何故かクリスマスが曲解され、『零士が無償で私達にプレゼントをくれる日』となってしまった…

 

いや、別にいいんだよ?愛する家族達に日頃の感謝を込めてプレゼントを贈る事自体は、僕も不満はない。ないんだけどさ…そう、遠回りに、だけどあからさまにねだられると、なんと言うか、台無しな気が…

 

咲希「あ、この飾り、どこに付けようか?」

 

悠香「それならこっちだね!ほら、見栄えが良くなる!」

 

蓮鏡「うーん…でも、まだ派手さが足りないわね。なんかないかしら?爆発とか」

 

秋菜「あってたまるか!」

 

凪紗「十分華やかですよ!」

 

その点、子ども達はクリスマスを楽しんでいるようで癒されるなぁ。

今も、姉妹で協力してクリスマスの飾り付けしてるし。

うんうん!この子達の欲しい物は、こっそり枕の横に置いておこう

 

猪々子「なぁー零士ー、お金くれよー、今年の有馬は何かが起きる気がするんだ!」

 

零士「君、去年もそんな事言ってたよね?」

 

毎年この時期になると、猪々子ちゃんが下着姿で帰ってくるのは、もはや恒例行事な気がしてきた。彼女には羞恥心が欠けているらしい

 

零士「あーもう、はいはい、みんな、何が欲しいか、紙に書いて僕に渡して下さい。今から夜までには揃えるから」

 

僕は紙とペンを現出させ、みんなに手渡す。みんなはサッと取り、とても真剣な様子で書き始めた

 

しばらくして、みんな書き終え、僕は紙を回収する。

そして財布にパンパンにお金を入れ、外に出た。

後ろからみんながニヤニヤした顔で送り出してくれたが、なんと言うか、この紙の中身を見るのが怖い…

 

ちなみに猪々子ちゃんには既にお金を渡しておいた。

猪々子ちゃんはお金を受け取るなり、一目散で競馬場へ行ってしまった。

彼女がギャンブルに勝つとこ、見たことないなぁ

 

 

 

 

零士「さて、まずは一枚目…雪蓮ちゃんか。どれ…」

 

僕は雪蓮ちゃんの手紙を広げる。そこには…

 

雪蓮『お酒♡』

 

予想通りというか、手紙にはデカデカと酒と書かれていた。

あの子、そろそろ華佗にお酒止められたりしないのだろうか?

 

零士「ていうか、どんな酒がいいのかも、書いてくれると有り難かったんだけどなぁ」

 

そこは僕のセンスに任せるのだろう。ま、これくらいなら何の問題もないな

 

とりあえず僕は酒屋に行き、雪蓮ちゃん好みの、ちょっと辛めのお酒を数種購入した。

この世界、酒は貴重品らしく、それなりに高いが、まだまだこれくらいなら大丈夫だ

 

零士「さて次は…凪ちゃんか」

 

凪ちゃんの手紙を広げて内容を確かめる。そこには綺麗な字で細かく書かれていた

 

凪『泰山印の豆板醤、山椒をお願いします』

 

あ、あそこの調味料か。確か泰山印の調味料はどれも通常の三倍の辛さを誇るのに、そこの豆板醤と山椒か。流石凪ちゃん、舌の鍛え方が違う…

 

零士「そう言えば、流琉ちゃんも調味料が欲しいみたいな事を言っていたな。ついでに手紙も見てみるか。どれ…」

 

僕は流琉ちゃんの手紙も広げる。そこには…

 

流琉『零士さんの作ったマヨネーズとケチャップ、胡椒と特製ソースをお願いします!』

 

そう言えば彼女、極度のマヨラーでケチャラーだったな。

あれ、健康的にはあまり良くないんだけど、また今度作り置きしておくか

 

僕は泰山印の調味料が置いてある店に入り、目当てのものを購入。

その時、店内に居た客の何人かに信じられないものを見たという目で見られた。

中には「あいつ、只者じゃねぇ」なんて言葉も聞こえた気がした。

只者じゃないのは凪ちゃんで、僕はぺーぺーです

 

零士「次は…咲ちゃんか。彼女は確か、秋蘭ちゃんと服のカタログを見ていたな。どれどれ…」

 

僕は咲ちゃんと秋蘭ちゃんの手紙を広げる。

そこには、事細かに、どの商品が良いのかを書いてあった。最後に…

 

咲夜『それじゃあ頼むぞ。これ以外買ってきたら17分割』

 

秋蘭『どんな事をしてでも買って来い。私はお前がそれで犯罪を起こそうが、目をつむるつもりだ』

 

どうやら失敗は許されないらしい。

ただ秋蘭ちゃん、君、一応この許昌を預かる立場の人間なんだから、冗談でもこういう事を言うのはどうかと思うな

 

そんな訳で、沙和ちゃんが経営している服屋に来たのだが…

 

零士「これ…男1人で入るのはなかなか…」

 

周りは今時の女性ばかりで、中年男性である僕が入るには勇気が必要だった。

だが僕も、命がかかっているので、入らざるを得なかった

 

そして目当ての服を見つけ、それを会計に持っていく。本当に見つかって良かった。

途中、ご婦人方の視線が刺さる中探す事に心が折れかけたが、なんとかこれで…

 

店員「はい、お会計こちらになります!」

 

零士「ありがとう。えーっと………ん?」

 

お、おかしい…疲れているのか?桁が大変な事に…

 

零士「あ、あの、これ、本当にこれだけするの?」

 

店員「はい!こちらの商品はどれも今季の新作で、なおかつ于禁社長が意匠されたとの事なので、お値段も相応に取らせてもらいます。お客様、なかなか趣味が良いですね!奥さんへの贈り物ですか?」

 

お、女物の服が高いというのは知っていたが、だからと言ってこんなに高いのか?酒の三倍はしているぞ?

 

零士「あ、あぁ。その、値切るとかは…」

 

店員「うん?」

 

零士「いえ!なんでもないです!はい!これで!」

 

女性店員の笑顔に奇妙な迫力を感じ、僕は大人しくお金を払う事にした。

やばい、財布が軽い…

 

 

 

 

零士「つ、次…まだ次があるのか…さて、れ、恋ちゃんか」

 

若干折れてしまった心を繋ぎ止め、僕は恋ちゃんの手紙を広げる。そこには、拙いながらもしっかりと…

 

恋『零士のご飯』

 

そう書かれており、それにより僕の心は幾分か癒された。

僕、恋ちゃん大好き。彼女には彼女の好物を作ってあげよう

 

零士「ふぅ…なんか、頑張れそうだ。次は月ちゃんか。彼女は確か包丁と言っていたな。

包丁なら、最悪僕が出してしまえば…」

 

そう思い、僕は月ちゃんの手紙を広げる。

そこには確かに包丁が欲しいという注文が書かれていたが、その後に続いた言葉に顔をしかめた

 

月『あ、包丁だから、零士さんの魔術で作った物でも良いのですが、その…零士さんが茶器を魔術で作らないのと同じように、私も調理具は職人さんが作った物を使いたいと言うか…ぶっちゃけ零士さん、センスが…』

 

そっと手紙を閉じた。これ以上読んだら、せっかく癒えた心がまた軋む気がした。

月ちゃん、凄く優しい子なんだけど、言うことはハッキリ言うし、それがなかなか辛辣なんだよね。絶対咲ちゃんの影響だと思う

 

僕は調理具を専門とした職人のいる店を訪ね、包丁を数種類揃えて買った。

なんというか、どれもこれもなんて鋭利な包丁なんだ。

人の骨くらいならチーズのように切れてしまいそうだぞ。

月ちゃんはいつもこんな所で包丁を揃えていたのか

 

零士「次は…詠ちゃんか。確か詠ちゃんは本と言っていたな」

 

手紙を広げて確認すると、確かに本が欲しいと書いてあった。本くらいなら、安いものだな

 

零士「ん?」

 

手紙の最後の方に何か書いてある?

 

詠『零士、いつもありがとう』

 

本当にたった一文、それもとても小さく書かれていたけど、僕はその一文を見て思わず涙が出そうになってしまった

 

通行人「っ!?」

 

訂正。既に泣いていたようだ。通りかかった人にギョッとした目で見られてしまった

 

詠ちゃん、君は本当にいい子だね…欲を言えば、詠ちゃんにも早く良い人が出来るといいな。まぁ、詠ちゃん程の美人さんには、それ相応の男じゃないと僕は許されないけどな!

 

本屋に立ち寄り、詠ちゃんが欲しいと言っていた本を探す。

どうやらまだ入荷前だったらしく、僕の名義で予約しておくことにした

 

それにしても詠ちゃん、恋愛小説なんて読むんだ。

それにこのシリーズ、結構大人向けの内容みたいだね。今度借りて読んでみよう

 

 

 

 

零士「やっと終わりが見えて来たな。次は、お、我が愛娘、凪紗ちゃんか」

 

きっとうちで一番可愛がられている凪紗ちゃんの手紙が回ってきた。

凪紗ちゃん、凪ちゃんに似て辛い物好きだから、何か辛い物かもしれない…

 

凪紗『超必殺技』

 

手紙にはデカデカとそう書かれていた

 

また…難しい注文が来たな…超必殺技?僕はそういうものは持ち合わせていないぞ。

僕の戦闘術は基本的に敵の意表を突き、ジワジワと誘導し、ズドンと罠に嵌めるような、そういった地味かつ姑息なスタイルだ。きっと凪紗ちゃんは、一撃必殺的な、派手な技をご所望なのだろうけど…

 

零士「うーん…これは、咲希ちゃんとかに頼んでみるか」

 

こればっかりは僕1人じゃどうにもならない。

あの子は友紀ちゃんの一件以来、強さを求めている。

僕としても、あの子には頑張って欲しいし応援しているが…

まぁ、今回は保留でいいだろう。それとは別に、何かプレゼントも用意しておくか

 

零士「つーぎは…蓮鏡ちゃんか」

 

彼女の欲しいものか。結構いろいろありそうだなぁ。いったい何を…

 

蓮鏡『お母様♡』

 

僕はそっと閉じた。

ごめんね、蓮鏡ちゃん。君がマザコンで、母親の事を心から慕っているのは知ってるけど、流石にそれは、どうかと思うな

 

零士「気を取り直して、次の手紙は咲希ちゃんか。どれど…」

 

咲希『お父様♡』

 

開きかけた手紙をサッと閉じた。

絶対に見てはいけない。いや、娘から慕われるなんて、きっと全国のお父さんからしたら涙を流して羨ましがられるだろうし、僕自身もとても嬉しい。

よくある例えで「お父さんのパンツと一緒に洗わないで!」なんてあるが、娘達はそんな事は言わなかった。みんなスクスク、優しく育ってくれた。決して、蔑ろにされる事なんてなかった。

だが、それでも咲希ちゃんの好意はちょっと怖い。あの子はガチだ。昔話してくれた将来の夢で「お父様のお嫁さん!」なんて微笑ましい事を言っていたが、あれは冗談じゃなくてガチだった!最近僕のパンツが咲希ちゃんの部屋で見つかって困惑しているのだ!あの子が本気で襲って来ることはないと思うが、もし来たら、僕は彼女を止める事が出来るのだろうか?大陸最強である我が娘を…

 

零士「蓮鏡ちゃんと咲希ちゃんには別のものを用意しよう。

気を取り直して、次は悠香ちゃんだが…」

 

悠香ちゃんの手紙を取り出し、中身を確かめ…

 

悠香『にぃに♡』

 

 

スパーン!

 

 

僕は思わず蓮鏡と咲希と悠香の手紙を地面に叩きつけてしまった

 

なんでうちの娘達はこうも肉親に愛情を抱いてしまったんだ!

いや、愛情ならいいのだが、明らかに彼女達のは度が過ぎている!

悠香ちゃんの気持ちはわからんでもない。

親の贔屓目無しでも、士希君はとてもカッコ良く成長した、魅力的な男性だ。

女運が微妙に悪いようだが、間違いなくモテる筈だ。そんな彼に心惹かれたのだろう。

だがしかし!士希君は兄だ!母親は違うが、血の繋がった兄妹なのだ!

流石に倫理的にマズイ気がする!

そして蓮鏡ちゃんと咲希ちゃん、君達も親に恋愛感情を抱いてはいけない!

一度冷静になって、周りの男性を見る努力もしてみよう!

 

零士「はぁ…なんと言うか、うちの子はみんな一癖も二癖もあるな。次は秋菜ちゃんか。彼女もきっと…」

 

変なものが書かれているに違いない。そう思いながら手紙を開いたら、そこには…

 

秋菜『休暇と静かな空間………………

 

 

 

 

 

 

 

………は無理だと分かっているので、何か甘い物を。少し、疲れています…』

 

思わず涙が出てしまった。

切ない、なんて切ない願いなんだ…いったい彼女はどれだけ苦労しているんだ…

明らかに彼女だけ貧乏クジを引いている気がしてならない。

うん、秋菜ちゃん、僕は味方だからね?甘い物、いっぱい買っておくからね?

ついでに胃薬も…

 

零士「最後は…悠里ちゃんか」

 

最後の手紙は悠里ちゃんからだった。

彼女の事だから、戦車とかジェット機とか、そう言った無茶なお願いが来るのだろう。

僕はそんな事を思いながら手紙を開き、そして読み、その考えを改めた

 

 

 

 

家に帰る頃には、既に夕方だった。

僕は大量に購入した彼女達のプレゼントを魔術で作ったリアカーに乗せて戻って来た。

 

とんだサンタクロースだ。いや、リアカーを引っ張っているのだから、サンタではなくトナカイか。間違いなく不審人物だろう

 

僕は家に戻るなり、居間に行くのではなく、みんなの部屋に向かった。

このプレゼントを、それぞれの枕元に置いておくのだ。

ただの自己満足だが、これくらいしか、クリスマス気分を味わえないからな

 

士希「あ、父さんおかえり」

 

二階の子ども部屋のある通路の一室が開かれ、中から士希君がやって来た

 

零士「ただいま、それとおかえり士希君」

 

士希「ただいま、父さん」

 

挨拶を済ませ、微笑みあう。その士希君の顔は、ほんのり赤く染まっていた

 

零士「ん?どうかしたかい?ずいぶん嬉しそうだけど」

 

士希「あぁいや、実は俺、ちょっとはやてと、ね」

 

そう言ってはにかむ士希君。はやて?確か士希君の恋人のはやてちゃんだよね?

彼女と…ハッ!まさか、士希君!

 

零士「も、もも、もしかして、大人の階段登っちゃった?」

 

僕が聞くと、士希君はコクリと頷いた

 

む、息子が、息子が大人になってしまった…なんと言うことだ。

ちょっと前まで「おとーさん、おとーさん」言っていた子が、今や恋人持ちで尚且つ大人の男になってしまうとは…時の流れというのは早い。とんでもなく早い。駆け足どころじゃない。大型二輪でハイウェイ突っ切るくらい速い

 

零士「え、あの、えっと………おめでとう?」

 

全国の息子がいるお父さん方に問いたい。

こういう時、僕はなんと返してあげたらよかったのだろう?

僕は思わず祝福してしまったけど、これでよかったのか?

 

士希「あはは!おめでとうって…いや、ありがとう、父さん!」

 

息子に感謝された。これでよかったのかもしれない

 

零士「あ、しまったなぁ。士希君、君、クリスマスプレゼントは何がいい?」

 

まさか帰って来るとは思わず、僕は士希君の分を用意し忘れてしまった。

なんたる失態。さて、どうしたものか

 

士希「え?あぁ、いいよいいよ。父さんの料理が食べられるなら、それで」

 

な、なんて嬉しい事を…ほんと、泣けちゃうくらい良い子だなぁ

 

零士「じゃあ士希君、これを君に渡しておくよ。贈り物、とまではいかないけど…」

 

僕は悠香ちゃんの手紙を士希君に手渡した

 

士希「これは?」

 

零士「悠香ちゃんがサンタさんに送った手紙だよ。中を見てごらん」

 

士希「へぇー、どれどれ……!?」

 

士希君は中身を見た途端、一目散に走って行ってしまった。良かった、彼が極度のシスコンで

 

士希「メリークリスマース!にぃにが帰って来たよー!!」

 

悠香「うぇーい!にぃに、うぇーい!」

 

一階からそんな声が聞こえてきたけど、僕は気にしないでおくことにした。

あの子も、シスコンって面がなければ、完璧だったのかもしれないのに

 

 

 

 

その後、久しぶりの家族みんなでの食事は大賑わいの中、みんなが笑顔になって終わっていった。いつも通りの、食べて飲んで騒いでの食事だけど、そんな当たり前の時間が、僕にはとても愛おしい。昔の僕なら、まさかこんな未来があったなんて、思いもしなかっただろう。いろんな人を救ったかもしれない。だけどそれと同じくらい、いろんな人の恨みも買っていた。この世界に来なければ、遅かれ早かれ死んでいたに違いない

 

パーティーの後片付けをし、風呂に入り、縁側で月を見ながら酒を飲む。だいぶ冷え込んできたからか、空気が澄んでいて、星空がよく見える。満点の星空だ。最近はここでこうして、風呂上がりに酒を飲む事が習慣になっていた

 

「こんばんは」

 

ふと、背後から声を掛けられる。聞きなれた明るい声。

うちの家族はみんな寝静まっているが、彼女はまだ起きていたようだ

 

零士「あぁ、こんばんは、悠里ちゃん」

 

振り向き、悠里ちゃんの顔を見て微笑む。彼女も笑顔で返し、僕の隣に座った

 

悠里「いやぁ、今日は楽しかったですねー!

みんなあんなにはしゃいで、姉さんまでお酒飲んで。ホント、ここは退屈しませんね!」

 

零士「ふふ、そうだね。今日は士希君も来てくれたし、本当に楽しかった」

 

僕は盃をもう一つ用意し、それに酒を入れて悠里ちゃんに手渡す。

悠里ちゃんは一言「どもっ!」と言って、酒を口に含んだ

 

零士「よくよく考えたら、君がうちの中で、一番我儘を言わない子なんだよね」

 

悠里ちゃんは昔から、天真爛漫で、結構フリーダムな印象があるが、その実うちで一番、誰よりも気遣い屋で、欲のない子だった。だからこそ、あの手紙の内容も…

 

悠里「えー?そうですか?今だって零士さんに我儘しちゃってるようなもんですよ?『零士さんとの二人きりの時間』なんて、姉さん達にバレたら、あたしエラい目に合いますよ」

 

悠里ちゃんの手紙の内容は、僕からしたらとても謙虚だった。彼女は僕との時間を望んだ。

確かに、ここしばらくは彼女とこうした時間を過ごす事は少なかった。

僕は料理店、彼女は幼稚園で、お互い忙しい日々を過ごしていたから。

だからこそ、思い上がりかも知れないが、彼女は僕と話したかったのかもしれない

 

零士「君は、もう少し我儘を言ってもいいんだよ?」

 

悠里「あはは!零士さんは相変わらず優しいなぁ。

でもね零士さん、あたし、今も十分幸せなんですよ。

姉さんやみんながいて、子ども達がいて、好きな事できて、好きな人と過ごせて。

本当に、怖いくらい幸せなんです。これ以上何を望んでいいのかわからないくらい幸せなんです」

 

彼女は、本当に満足そうにそう言った。それが本心からの言葉なのはよくわかる。

彼女は本当に、心優しい

 

零士「そっか。その気持ちは、僕もよくわかるな。確かに、僕もこれ以上何かを貰ったら、バチが当たりそうなんだよね。妻や子ども達に囲まれた生活は、本当に夢のようだ。でもね悠里ちゃん、僕は君の夫なんだから、妻を幸せにしなきゃいけない義務があるんだ。だから、僕にくらいは、いつでも我儘を言っていいんだからね」

 

そう言うと、彼女は少し驚いたように目を見開き、そしてすぐさま、慈愛を含んだ目で微笑んだ

 

悠里「ありがとうございます。なら今日は、うんと甘えようかな」

 

彼女は僕に体を預け、ゆっくりと、僕の唇に顔を近付けた

 

 

 


 
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