「夢叶様!?」
「え」
なんと夢叶が玄関を押し開けたそのすぐ先には、キャロルの姿があった。
「な、な、なんで、アンタが、ここに!?」
夢叶は先の苦悶がすっ飛んでしまうくらいに驚いていた。
「パパと一緒にお菓子の配達してたのです~! ね、パパ?」
「HAHAHA!」
キャロルはまるで映画俳優のようなダンディズムと手を繋いでいる。あれがキャロルの父なのだろうか。目がくらむような美中年だ。しかしお菓子の配達というと、もしかしたらキャロルも、この寂れた商店街に住んでいるのかと思った矢先、キャロルたちの後方に、いかにも高級そうな車が見えた。車のナンバープレートには、一等地の名前が堂々と記されている。しかしそんなことより、今の夢叶にとって問題であるのは、
「あのあの、もしかしてこちらが、夢叶様のお家……!?」
「SO! COOL!」
アタシの家が、ばれた?
「あちら、夢叶様の苗字と同じ感じですよね~? コンノって読むのでしょうか? コンノふとん店……」
「違うの!!」
「え?」
「これは……その、えっと……」
「夢叶ー?」
突然のことに、うまい言い訳が出てこない夢叶。その後ろから、いつもの能天気声が聞こえてきた。
「あ、あ、あ……」
「どうしたー? お友達かー? 遊びに来てくれたのかー?」
「ち、違って」
「どうもー、こんにちはー。夢叶がお世話になってますうー。紺野ふとん店の店主をしております――」
終わった。ついにばれてしまった。成績優秀、皆の羨望の的、綺麗な家に住んでそう――そんな夢叶'像'は、跡形も無く、崩れ去っていった。
夢叶が絶望の淵にやられている最中にも、保護者同士は世間話に花を咲かせていた。
「HAHAHA! じゃあキャロル、今日は夢叶チャンの家に泊まっておいで!」
「えええええ!?」
そして、知らずうちに、まさかの展開となっていた。
「いいのですか~!?」
「もちろんだよー」
「だめ!!」
夢叶にとって、家を知られたことも勿論だが、これ以上我が家の実態というか失態を晒す訳には行かない。自分は現状のキャラクターでクラスに馴染んでいるのだ。多感になりつつある女流社会の渦中、己の'ぼろ'を見せることが、どんなに恐ろしいことか――。
「だめ、ですか?」
「だ! め!」
夢叶は必死だった。
「どうした夢叶ー? いいじゃないかー。キャロルちゃんには、とびっきりのお布団を使わせてあげるぞ?」
それ商品じゃないのかよ。夢叶の指摘が言葉になってくれないほど、頭の処理が追いついていない。
「夢叶がお友達を連れてくるのなんて初めてなんですよー。だからとても嬉しくって。今日は、ぜひともごゆっくりー」
父はすっかりその気だ。どうしてこうなった。夢叶は、先の勢いのままどこかへと走り去ってしまいたい気持ちだった。
「ワタシが泊まるの、嫌ですか?」
「別に、アンタだからどうこうとかじゃ無くって……」
「エクレア、あります~」
夢叶は、とてつもない勢いで、キャロルのほうへと向き直した。
「え、えくれあって、シュークリームの上に、チョコが乗ってる……」
キャロルは、満面の笑みで答えた。
「そうです! しかもパパのエクレアはバニラビーンズが入ってて、ミルクもジャージーミルクを使ってて……」
キャロルが、またも夢叶に呪文をかける。
「……今回だけ、だから」
そして夢叶はその呪文に、まんまとやられてしまったのであった。
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桜学園☆初等部の短編小説です。
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http://www.sakutyuu.com/
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