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「ということがあったそうで、都を出たあと建業に入った私は、冥琳さまに接触し、都の状況をお伝えしました。
その上で、蓮華さまたちの補佐に回って欲しいと言われましたので、そちらに合流し、小蓮さまの捜索をしていました」
「なるほど…」
呉が置かれている状況が何となく分かってきた。
「それで、その後は?」
「思春殿に代わり、本国との繋ぎをしながら小蓮さまの捜索を続けていたのですが、手がかりは全く掴めず、一度、都の方にもこちらの状況を伝えに行きました。その帰りの道中に双葉さんを見つけて、蓮華さまたちの拠点に戻ったのですが…」
そこで目を伏せる明命。
「どうやら、呉本国の軍とどこかの勢力の間で、大規模な戦があったらしく、蓮華さまたちもそれに巻き込まれたものと…」
「そうか…」
大規模な戦となると、すぐに手出しは出来ない。
ひとまず、状況の確認が出来ただけでよしとする剣丞。
「ありがとう、明命姉ちゃん」
これで最初の五人のうち、状況が分からないのはあと一人。
「それじゃあ、次は湖衣。武田はどういう状況だったの?」
「そうですね……」
湖衣はそう前置きをすると、
「武田家の本領、甲斐が飛ばされたのは、本当に奇妙な土地でした……」
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「それでは、順番に報告をお願いするでやがる」
躑躅ヶ﨑館の評定の間には、武田家の主たる家臣が揃っていた。
寡黙な屋形・光璃に代わり、議事進行は武田三姉妹の次女、夕霧が務めている。
「それでは、まずは拙から」
四天王筆頭、春日が口を開く。
「拙は甲斐南方の探索を担当しておりましたが、甲斐の『外』は、まるで真夏のような暑さをしておりました。それでいて梅雨のようにまとわりつく空気をしておりまして、兵馬ともに僅かな行軍でも疲弊しきってしまいました」
「そうだったんだぜ……あの暑さは、ちょっと無しなんだぜ…」
「兎々も、あんなに暑いのは耐えられないのら…」
それぞれ東と西の探索をしていた粉雪と兎々も、げんなりと暑さを強調した。
「心はどうでしたか?」
武田三姉妹の末妹、薫が心に話を振る。
「そうですね……」
振られた心は顎に手を当て、少し考え込む。
「気候のことに関しては、三人が言ったとおりです。あと強いて言えば、植生などが異なっている、ということでしょうか」
「どういうことでやがる?」
「植物の作りが根本的に甲斐…というより、私の知る限りですが、日ノ本のものとは違うように見受けました。
ですので、なるべく外の物は触ったり食したりしない方が賢明かと」
「なるほど。そういうことなら、まだ甲斐の中だけで自給自足できそうだから、なんとかなりそうだね」
気候や川などの自然物は、どういう原理か分からないが、国内では全く変わりないので、飲み食いに事欠くことはないのだが…
「問題は、塩」
上段に座る光璃が初めて言葉を発した。
「で、やがりますなぁ…」
山国である甲斐は海がなく、塩を作る術がない。
その辺は交易で賄っていた。
剣丞の天下ラブ大同盟のおかげもあり、越後経由で大量に塩が入るようにはなっていたが、まだ日が浅く、備蓄はあまり進んでいない。
また、駿河奪還のお礼として、鞠から遠江の天竜川以東を譲り受けていたが、信濃と同じく、付いてきてはいなかった。
「当面は、塩の消費を抑えるしか手立てはありませんね」
台所役の心が眉をひそめながら、そう言う。
「ひとまず、その方向で話を進めやがりましょう。他には何かないでやがるか?人里などは見つからなかったでやがる?」
「「「…………」」」
顔を見合わせる四人。
「少しずつ捜索範囲を広げてはおりますが、まだ人と会ったことは御座いませんな」
「そもそも、人が住めるような環境じゃないんだぜ…」
「なのら…」
相変わらずげんなりの二人。
「でも…」
と、心が言葉を繋ぐ。
「北の方に進むと、ほんの少しですが涼しくなったように感じました。人里があるとすればそちらではないかと」
「ふむ……どうでやがりますか、姉上」
「…………」
黙考する光璃。
やがてゆっくりと口を開き、
「一二三、湖衣」
「「はっ!」」
「任せる」
「「ははっ!!」」
言葉少なだが、北方の本格調査を、高い諜報能力を誇る一二三と、金神千里を持つ湖衣に任せることが決まった。
残った者で国内の治安維持と内政に気を配ることを確認し、この日は散会となった。
「その後、私と一二三ちゃんは北方の調査に乗り出しました」
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「心の見立てどおりだったね」
「そうだね、一二三ちゃん」
北へ二日ほど進むと、鬱蒼とした木々や肌にまとわりつくような暑さはなくなり、それまでとは一転して、小高い山々が目に飛び込んできた。
「まるで神仙でも住んでいそうな雰囲気だねぇ」
水墨画にでも出てきそうな趣があった。
「今までの場所とは、また違った意味で人がいなさそうだけど……どうかな、湖衣?」
「…………」
目を閉じ、集中する湖衣。
遠くまで見通せる湖衣のお家流・金神千里で、辺りを捜索しているのだ。
「う~ん……金神千里の範囲には、人里などは見当たりませんね」
「そうか……これからどうしようかね?」
しばし考え込む二人。
「…ここは効率を取ろうか。二手に分かれて探索しよう」
「……そうですね。一二三ちゃんは一人でも切り抜けられる力があるし、私も金神千里で確認しながら行けば、危険に遭うこともないでしょう」
「そうだね。それじゃあ……五日くらいでいいかな。五日後の午の刻くらいに、ここに集まろう。もし次の日までどちらかが現れなかったら一旦帰る。これでどうだろう?」
「そうですね。いいと思います。万が一も起こらないと思うけどね」
「違いない」
あはは、と笑う一二三。
「それじゃあ、私は北西を、湖衣は北東を探索しよう」
「はい」
「武運を」
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「と言って一二三ちゃんと別れた私は、北東方面を探索しました。大きな山を越えると人里も散見でき、しばらく進むと、鬼と白装束に囲まれた城塞を発見しました」
今までの話を聞く限り、都だと思うのですが…と付け加える。
「都の南西方向で、暑くて木々が鬱蒼と茂ってるってことは…多分南蛮だな、そこは」
「あっついよね~南蛮……タンポポ、もう二度と行きたくないもん」
場所を推定する翠に、気だるそうにタンポポが加える。
「それで、湖衣。そのあとはどうしたの?」
「はい。その後は約束どおりに元の場所に戻ったのですが、一二三ちゃんは翌日まで現れず、仕方がなく甲斐に戻るも…」
躑躅ヶ﨑館は壊滅していた。
「なるほどね…」
戦国最強の一つ、武田軍が全滅させられた。
戦国の面々には、その事実は衝撃以外の何物でもなかった。
思いの外、他の過去より状況が厳しそうだ。
「湖衣。湖衣の過去だけど…」
「分かっています。私の過去に乗り込むなら、万全万策を尽くすべきかと」
手練れの一二三が約束の時間に戻れず、戦国最強の武田軍が潰されてしまったのだ。
生半可な軍勢では太刀打ちできないだろう。
自分の仲間は早く助けたいが、今はまだ難しいことも湖衣には分かっていた。
「ありがとう」
そんな湖衣に剣丞は頭を下げる。
甲斐武田を救うのはかなり後回しになりそうだった。
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DTKです。
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、34本目です。
前々回から始まった第弐章。
零章に続いて過去の話になりますが、お付き合い頂ければと思いますm(_ _)m
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