No.735128

恋姫OROCHI(仮) 弐章・壱ノ壱 ~孫呉事情~

DTKさん

DTKです。
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、32本目です。

零章の最後に関して、今までより多くの反響を頂けました。
非常に嬉しく励みになりました。

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2014-11-04 23:44:49 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4226   閲覧ユーザー数:3646

 

 

 

 

 

洛陽を防衛し、祝勝会を開いた、その翌朝……

 

主だった面子が玉座の間に集まり、今後の方針を話し合うこととなった。

進行役は三国・戦国両方に通じ、状況もそれなりに把握している剣丞に任された。

 

「昨日の戦に勝ったことで、俺たちはここ、洛陽を拠点とすることが出来るようになったわけだけど…」

 

と、剣丞は座を見渡す。

三国の面々。戦国の面々。

当初の五人よりは大分増えたが、それでもまだ本来の人数の五分の一にも満たない。

 

「俺はもっと積極的に仲間を集めたいと思っている。過去へ飛んだり、春蘭姉ちゃんのように、今この時間で協力をお願いできる所にはしていきたいと思うけど…どうだろう?」

 

剣丞が示した大方針に、一同首肯する。

誰もが思いは同じのようだ。

 

「なら、現時点で助けられそうな仲間を確認しようと思う。まずは…」

「はいは~い!鞠は、駿河のみんなを助けたいの!」

 

鞠は背伸びをするように手を高く挙げ、自分の意見を述べる。

まだ駿河にはひよやころ、詩乃に小夜叉などがいるのだ。

 

「そうだな。俺と鞠の過去に飛べば、みんなを助けられるな」

「なのっ!」

 

グッと両手を握り締め、気合を込める鞠。

剣丞の救出もそうだったが、鞠にとっては駿河の奪還とみんなの救出も悲願の一つだ。

 

「確か、駿河の様子ってタンポポ姉ちゃんが見てたんだよね?」

「うん。鞠ちゃんを助けた後に、鞠ちゃんの案内で駿府屋形、だっけ?そこに行ったよ」

「どんな様子だった?」

 

前にも少し話を聞いたが、詳しくは聞いていなかった。

 

「う~ん…大軍に攻め滅ぼされたみたい、ってことくらいしか分からないかな?」

「相手が鬼か白装束か、とかは?」

「うぅ~~ん……ちょっと分からないや」

 

少し考え込むも、首を横に振るタンポポ。

 

「…ゴメンね。もうちょっとよく見ておけばよかったかなぁ?」

 

全く情報を出せないことに申し訳なさそうなタンポポ。

しかし無理もない。その時はこんな事態になるとは思いもしなかったのだから。

 

「ううん。ありがとう、タンポポ姉ちゃん」

 

気にしないで、と剣丞。

 

「とにかく、俺と鞠が駿河を出てからタンポポ姉ちゃんと鞠が駿河に戻るまでの数日の間に、何者かによって駿府屋形が襲われたことは間違いない。救出に行く時は万全を尽くそう」

「応なのっ!」

 

鞠以外の全員も黙って頷く。

 

「次に……タンポポ姉ちゃんは、誰か助けられそうな人に心当たりはある?」

「う~ん、紫苑も助けたいんだけど…お姉様、紫苑って関の上に居たんだよね?」

「あぁ。あのでかい鬼の話を信じれば、あたしと霞が辿りつくくらいまでは関の上に居たはずだ。

 ただ、助け出すなら、あの鬼より早く紫苑のところに辿りつかなくちゃならない」

「せやから紫苑を助けるためには、関ぃ登る道具か何か必要やと思うで?」

「道具、か…」

 

どんなものが必要なのか、剣丞には皆目見当もつかなかった。

何にしても、物資や人材などの問題で、現時点では難しそうだ。

 

「それで、他には誰かいる?」

「タンポポの過去は洛陽で終わりだね。その後は鞠ちゃんと一緒に放浪で、しばらく誰にも会わなかったし…」

「そうか…双葉は、確か山城を出てすぐに明命姉ちゃんに助けられたって言ってたし…」

 

双葉は一葉の看病のため、この場にはいない。

 

「そう言えば、明命姉ちゃんの過去ってどうなってたの?」

 

『最初の』五人のうち、まだ明命と湖衣の過去は全く語られていなかった。

何か糸口にならないかと、剣丞は望みをかけて聞いてみる。

 

「そうですね…私の過去を語るには、まず、異変直後の呉の状況をお話しなければならないのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

三国会議の決定に伴い、明命と亞莎を都に残し、その他の主だった人間は呉本国で異変への対抗措置を取る事となった孫呉。

雪蓮・蓮華・小蓮の三人の王族が各地を回り民を慰撫しつつ、軍師や祭などが中心となり、異変の調査を行っていった。

そして、それぞれが順調にいっていた最中、一度全員で集まり、建業の玉座の間にて軍議を開く運びとなった。

 

 

 

………………

…………

……

 

 

 

「最初の報告にあった通り、建業の南方の異変内は、と~っても、と~~っても寒かったです~。風邪引いちゃうかと思いましたよぅ~…」

 

むき出しのお腹をさすりながら、異変内部に直接出向いた穏が報告する。

呉以外の国の人間が居たら、その格好のせいだろ!、と間違いなく突っ込みを入れることだろう。

 

「ふむ、それほどか…なら、華琳に寒冷地用の装備を貸してもらうよう頼んでみようかしら」

 

しかし蓮華は、格好には触れず何事もなかったように、対応策を挙げる。

 

「それが良いでしょう。早速、都に伝令を走らせると……」

「ふぁ…あ~~あぁぁ~~……」

 

軍議の腰を折るような大あくびを放つ雪蓮。

 

「はぁ……雪蓮」

 

冥琳が眉間に皺を寄せる。

 

「だって暇なんだも~ん」

 

決して暇と言うわけはなかろうが、確かに普段を考えれば、雪蓮が大人しくこの場にいるだけでも、珍しいといえば珍しいのだ。

 

「も~!それより、シャオは出なくていいの~!?ぶーぶー!シャオだけズルいわよー!!」

 

そう、雪蓮が文句を言うのも無理はない。出席するはずの小蓮がこの場にいないのだ。

 

「はぁ~……小蓮さまなら、いま祭殿が呼びに行って下さっていると、最初に説明しただろう」

「そういえば~、ちょっと遅いですね~?」

「大方、軍議のことなど忘れて、どこかへ遊びに出てしまった小蓮を外まで探しに行ってるんでしょう。まったく、小蓮と来たら…」

 

孫家の一員としての自覚が足りないのよ…と蓮華は口の中でぶつぶつと呟く。

 

「まぁ、小蓮さまですからね~」

「そうだな…」

 

嘆息と苦笑いが混じる穏と冥琳。

何となく弛緩した空気に包まれる。

 

「権殿ーーー!!!」

 

そんな折、遠くの方から祭の声が聞こえてきた。

 

「さ……策殿ーーー……!」

「祭も年ねぇ~」

 

息も絶え絶えの声に、雪蓮が笑う。

 

「それより、どうやら小蓮さまはご一緒ではなさそうだな」

 

やれやれ、と冥琳はまた一つ溜息。

そうこうしていると、ドドドと足音が大きくなり、祭が玉座の間に入ってきた。

 

「はぁ……はぁ……さ、策殿……け、けん…はぁ……ふぅ……」

 

かなり長い距離を走ってきたのか、息は絶え絶え、顔を上げるのも辛そうに膝に手をついている。

肩で息を取り込もうとするたびに、釣り鐘のような胸が重そうに上下する。

 

「ちょっと、祭…大丈夫?」

「はい祭さま、お水です~」

 

穏が差し出す水を、すまんのぅ、と唇だけ動かし受け取る。

上体を起こせないので、杯の水を数回に分けながら飲み干した。

 

「落ち着いた~、祭?」

 

ニヤニヤしながら、しゃがみこんで祭を見上げる雪蓮。

年増ネタで弄れることが楽しくて仕方がない、といった顔だ。

 

「ふ…ふざけている場合ではありませんぞ……し、小蓮さまが……」

「シャオが、どうしたの祭!?」

 

祭の様子に、ただならぬものを察する蓮華。

 

「小蓮さまが……何者かに、(かどわ)かされてしまいました…」

「なんですって!?」

 

ガバッと雪蓮が立ち上がり、祭の肩を掴む。

 

「ちょっと祭!なにそれ、本当なの!?」

「儂とて、戯れでこのようなことは言いませんぞ。儂は、街に繰り出していた小蓮さまを追いかけ、路地に追い詰めたところ、どこからともなく道士のような男が現れ、小蓮さまを気絶させ抱えあげると、再び何処ともなく消えてしまったのじゃ」

 

体力が戻ってきたのか、身振り手振りを加えながら、状況を説明する。

 

「道士?祭殿が妖術にでも掛けられたのではないですか?」

「儂もそう思いたかったが、小蓮さまがおった場所に、こんなものが……」

 

と、懐から一枚の紙を取り出した。

全員が紙を覗き込む。

 

『孫尚香の身柄は預かった。こちらからすぐに挨拶に赴くので、それまでしばしお待ちを…』

 

そう書かれていた。

 

「ふ~ん……随分とナメた真似してくれるわね」

 

雪蓮の瞳に昏い影が差し、言葉は凍るように冷たい。

そして、燃えるような戦場の空気を纏っていた。

 

「別にナメてはいませんよ。これが私なりの礼儀だったのですが…」

「「「――――っ!?」」」

 

部屋の奥、玉座の裏から突然、男が現れる。

祭の言葉通り、眼鏡をかけた道士風の男がそこに……

 

「シッ――!」

 

見るが早いか、雪蓮は数丈の距離を一気に詰めながら、腰の剣を抜き放つ。

高速の剣閃が男の頚動脈を襲った。

首が飛んだ――と思いきや、

 

「――なっ!?」

 

雪蓮の剣は男の首をすり抜け、ガッと音を立て、玉座に刺さる。

 

「はっはっはっ……私は無力な道士風情なれば、一騎当千の武者が居るところへ、おめおめと実体で現れたりは致しませんよ」

「ちっ!」

「貴様、五胡の妖術使いかっ!?」

 

全員一斉に戦闘体勢をとる。

が、先ほど雪蓮の攻撃が効かなかったところを目の当たりにしており、どうすることも出来ない。

男もそれが分かっているのか、おぉ怖い、と口元に笑みを湛えたまま、小馬鹿にしたように両手をひらひらとあげる。

 

「そんなことより、そちらこそあまりナメた真似をしない方がよろしいですよ?孫呉の末の姫君は、我が手の中に……」

 

男がパチンと指を鳴らすと、突如として中空に小蓮の姿が映し出された。

石造りの部屋の床に寝かされているようだ。

こちらに背中を向けたまま、微動だにしない。

 

「シャオ!!」

 

そんな小蓮を見、蓮華が悲鳴のような声をあげる。

 

『んっ!?んん!!んぅ~~!!』

 

こちらの声が聞こえたのか、ぐるんと身体を返し、うねうねと動き出す小蓮。

手足を縛られ、猿轡を噛まされてはいるが、どうやら元気満点のようだ。

 

「シャオ!?あぁ、良かった……」

 

腰が抜けたようにへたり込む蓮華を、思春は慌てて支える。

 

「…それで?そちらの要求はなんだ」

 

冥琳が上目で相手をねめつけながら、努めて冷静に話を進める。

 

「話が早くて助かります。さすがは音に聞く呉の大都督・周公瑾だ」

「御託はいい。お前も無駄話をしに来たわけではあるまい?」

「そうでした。大局を見失わないとは、さすがは周公瑾です」

「…………」

 

目つきが鋭くなる冥琳。

怖い怖い、と肩をすくめる男。

 

「まぁ、いいでしょう。簡潔に言えば、今後、孫呉は我々の指示に従って動いて頂きたいのです」

「……従わない場合は?」

「分かりきったことを聞くほど、周公瑾は無能、ということでよろしいのですかな?」

「…………」

 

分かりきったこと。

当然、要求が飲まれない場合、人質の命はない。

雪蓮に目をやる冥琳。

目だけで頷く雪蓮。

 

「お主の話は分かった。しかし、事は孫呉の今後に関わるゆえ即答は出来ない。一日だけ、考える時間を頂けないだろうか?」

「ふ~む……」

 

今度は男の方が、冥琳を値踏みするように、怪しい目つきで冥琳をねめつける。

目の動きや所作を観察しているようだ。

 

「……まぁ、良いでしょう。どうせあなた方が出来ることなど、そう多くはない。

 せいぜい誇りを捨てるか、親族の命を捨てるか。じっくりと話し合われるがいい」

 

明日の同じ時刻に再びお目にかかります、と言い残し、男は姿を消したのだった。

 

 

 

 


 
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