第二十一話 獅子と英雄
『さあ、遂に…!遂に伝説の格闘大会『まほら武道会』決勝戦です!!会場の熱気は既に最高潮!それもそのハズ、何故ならこの決勝までの試合がTVやショーなどでは拝めない、真の達人達の戦い、駆け引きでした!!』
マイクを握り締め、観客を盛り上げるマイクパフォーマンスをする和美
『そしてそして!もう一つ、この熱気を盛り上げる要因が一つ!!なんと、決勝戦の選手はどちらもが子供!!しかしその実力は折り紙つきであります!!』
会場は和美が言うように、既にはち切れんばかりの歓声で溢れている
その会場に向かう、子供が二人
『では!いよいよ達人達の頂点に立つ、二人に入場していただきましょう!!』
二人のうち、黒い拳法着とローブに身を包んだ赤毛の少年が舞台に上る
『まずは彼から!昨年のまほら武道会の準優勝者!最早、彼が幼いからといってその実力を色眼鏡で見る者はいないでしょう!!僅か11歳!噂の子供先生!八卦掌、八極拳の少年拳士!!』
どよっ、と会場がどよめいた
エヴァンジェリンがフンっと鼻を鳴らし、クウネルがそれに苦笑する
『ネギ・スプリングフィールド選手ーーーッ!!!』
わぁぁぁぁぁ!!!と大歓声が上がる
舞台の中心まで歩いたネギはローブを翻し、もう一人の子供をまっすぐ見据えた
「楽しい試合にしよう」とその瞳が語る
もう一人の黒いマントを羽織った少年もまた、笑みを浮かべる
『そして対するは!昨年度ウルティマホラの準優勝者!!こちらはネギ選手よりさらに幼い8歳!その所属は駒王学園中等部!!格闘技の流派はネギ選手と同じく八卦掌、八極拳!そして謎の剣技を習得している子供
黒いマントを羽織り、中に藍色のチャイナ服を着込んだ少年が舞台に上る
その左腰には脇差ほどの長さの木刀が挿されている
『ウルティムス・マクダウェル選手ーーーッ!!!』
今度もまた大歓声が上がる
リアスや朱乃、響らのオカルト研究同行会の面々と猫姉妹がウルに声援を送る
アンジェは神社の屋根に寝そべっており、まったく先生とは思えない
が、その目は何故か好戦的に細められており、うずうずと今にも飛び出しそうである
『それでは!決勝戦―――!!』
和美の声とともに両者が構える
ネギは八極拳の構え、そしてウルは木刀を正眼に構える
―ネギは、昨年の決勝戦を思い出していた
自分の父親、ナギ・スプリングフィールドとの試合を
魔法世界を崩壊の危機から救ったものの、いまだ父が失踪した謎は解けてはいない
そして自分の母の存在も…
しかし、今だけはそのことを頭の隅に追いやる
今大事なのは、目の前で木刀を構えている弟弟子との戦いだ―!!
『―――Fight!!!』
和美のコールが掛かった瞬間、二人は弾かれるように踏み込んだ
ウルは木刀を思いっきり振り下ろすがネギはそれを避け、八極拳の肘打ち―六大開・頂肘を打ち込まんとする
「いきなり飛ばしてきますね!」
「それはウル君もだろ!」
が、ウルは振り下ろし避けられた木刀を支点として、回転しながら前に跳躍し回避する
そして木刀を横薙ぎに振るい、ネギの脇腹を捉えた
ボキッという音と嫌な感触が木刀を介してウルの手に伝わってくる
「
しかし肋骨が折れたことを意にも介さず、ネギは攻撃を仕掛けてくる
地面を踏みしめる震脚から、魔法の矢をこれでもかと言うほど乗せた拳を振るう
「ッ!!はぁ!」
ウルはそれを木刀で受けずに、あえて両手で受け止める
よく見るとウルに触れた途端、魔法の矢の威力が明らかに減衰していることが分かった
「君もずるいよね!明日菜さんと同じ
「ネギさんが言えた事じゃないでしょう!
会話している間も彼等の拳や剣は止まっていない
風きり音を残す剣速の木刀は舞台に切り傷を残し、同じく音を抜き去る速度の拳は舞台の床を大きく陥没させる
「(ネギさんの力の源泉は闇の魔法―つまり『魔』。―なら!)せやっ!!」
「うっ!?」
木刀を大きく薙ぎ払い、一旦ネギと距離を空ける
「『神鳴流奥義―
「ッ!」
木刀の刀身と呼べる部分に満遍なく気を込め、横薙ぎに振るって気を解放する
すると刀身が振るわれた空間をなぞるように気の斬撃が現れ、ネギに向かって高速で飛んでいく
ネギはそれを見た途端に目を見開き、瞬動によって大げさなくらいに回避した
「(やっぱり…魔を断つ神鳴流はネギさんやマスターと相性が良い!)なら、勝ちようもある!」
「そうだよ!ウル君、僕に君の力を見せてくれ!」
「言われなくても!」
「『
それぞれが瞬動で相手に肉薄する
ネギは呪文によって手元に自身の―ナギの形見の杖を呼び寄せた
「『神鳴流奥義―
「『
ウルは岩をも断ち斬る神鳴流の奥義を
ネギは光の矢を練り込んだ八極拳の槍術で
それぞれが武器を使って相手を倒そうとする
「「はああぁぁぁあ!!/おおぉぉぉぉお!!」」
『うわっぷ!?何だこれはー!?木刀と杖のぶつかり合いで突風が巻き起こっています!!いや、これは最早竜巻かーーー!?』
髪を押さえながら和美が実況する
会場である龍宮神社には舞台の二人を中心として小規模な竜巻のような物が発生していた
魔力と気のぶつかり合いによる突風
その中心にいる二人はというと―
「「ぬぐぐぐぐぐ!!/ぬおおぉぉぉぉ!!」」
木刀に、杖に
気と魔力を込めて状況の打開を図っていた
―しかし、いくら本人達が頑強だからといって武器までそうである筈がない
ネギの杖は良いだろう。彼が父親から形見として渡されたものだ
ナギの元で魔法世界の大戦を、そしてネギの元で夏休みに巻き起こった激戦をくぐり抜けて来た歴戦の武器だ
だが、ウルの木刀は曰くも何もない、唯の木刀だ
その魔力と気の本流に耐え切れるはずもなく―
ピキ、ピキィッ
「ッ!?」
「はあぁぁぁぁ!!」
嫌な音が鳴り響いた
その音にウルは手元の木刀を見、一瞬だけ隙が出来た
好機を見逃すネギではなく、ここぞとばかりに杖に魔力をありったけつぎ込む
―その結果、均衡は破られることとなった
ピシッ、バキャァン!!
「せやぁッ!」
「うっぐぅぅあぁぁぁ!?」
ウルの木刀はコナゴナに粉砕され、ネギの杖がウルの胸に直撃する
最高潮まで高まった魔力と自身の気を返されウルは吹き飛び、舞台の周囲にある池に入水してしまう
『ここでウル選手リングアウトー!カウントを取ります!1、2…』
「ゴボボボ…(このまま続けててもジリ貧だ…。仕掛けるか!)ゴボッ!!」
気によって身体強化を施し水中から飛び出す
ウルは舞台に上がって息を整えた
『5、6おっとウル選手6カウントでリングに戻ってきました!しかし試合時間も残り少なくなってきたぞー!?このままだと試合の勝敗は、観客のメール投票に委ねられることになるー!!』
「そんな歯切れの悪い決着、望んでませんよ!」
「それは僕もさ!!」
水を吸い、重くなったマントを投げ捨てる
ネギもまた纏っていたローブを捨て、魔力を体に滾らせる
「行きますよ…ネギさん!!」
「…来いッ!!」
ウルがネギをまっすぐ見据え、大きく宣言する
ネギもまた、それに答えようとするように拳を構える
「
「…へぇ!」
ウルは左手に紅い炎、右手に白い雷を持ちその二つをぶつける
すると炎と雷が溶け合い、一つになっていく
ネギはその様子を興味深そうに見つめている
「オリジナルスペル『紅白の雷焔竜』!!」
「…凄い呪文だね、ウル君。これは兄弟子として真正面から受け止める!!
ウルの背後に名前どおり、紅白に彩られた竜が出現する
その体は炎で形作られ、白い稲妻が体を這い回っている
ゴルルルルル…と唸りを上げる姿に観客はその身を竦めてしまう
「『
「行け、雷焔竜!!」
ゴルルルァァァ!!!と雷焔竜がネギに向かって突進する
ネギは雷焔竜に対して雷を纏った暴風を打ち出す
竜と暴風が激突し一瞬だけ拮抗する
しかし暴風と激突した瞬間、竜はその身を弾けさせた
「うわっぷ!目くらましか!?」
砂煙が上がり、池の水も舞い上げられる
完全に視界を塞がれてしまったネギは、魔力探知によって奇襲を防ごうとする
「…目くらましに慢心して、正面から来ちゃったか…。浅はかだよ、ウル君!!『
ネギが強風を放ち、目くらましである砂煙を晴らす
目の前には右腕に気を溜め、真正面から突っ込んできているウルがいた
「『
拳に光の矢をたっぷり乗せ、震脚で威力を増した崩拳がウルの喉元に直撃した
ゴフッと息を詰まらせウルは倒れこむ
「慢心は厳禁だよ、ウル君。これに懲りたら正面からの突撃は控えて…ん?」
おかしい、ネギはそう感じた
確かに僕はウル君を迎撃したはずだ、なら何故―彼の気を背後から感じるんだ?
―まさか!
そう思い当たった瞬間、目の前のウルがベェッと舌を出してネギを小馬鹿にした
そして目の前のウルは白煙と化して消え去る
「慢心駄目絶対、胸に刻み込まれてますよッ!!」
いつの間にか背後に回っていたウルが腕に魔法を待機させ、ネギに肉薄していた
何とか迎撃しようと足掻くネギだったが、それをするにはお互いの距離が近すぎた
「せぇいッ!!―――『
「うわッ!?」
背後から足を払い、ネギを転倒させる
そこに捕縛属性を備えた風の矢を撃ちこんだ
風の鎖がネギの体を雁字搦めに縛り上げ、地面に縛り付ける
『おおっと、今度はネギ選手がダウーン!カウントを取ります!1、2…』
「うわー…ウル君、これはちょっと汚くないかい?分身に囮をやらせて自分は背後から奇襲って…」
「何を言ってるんですか。試合である以上ルールがあるんです。ルールを利用して何が悪いんです?」
「君鏡を見てみなよ。アルビレオさんと同じような笑顔だよ?」
「聞こえませんねー」
『9、カウント10!!ウルティムス・マクダウェル選手、優勝でーーーーーっす!!!』
ワアアアアアア!!!と会場を割れんばかりの大歓声が包む
紙吹雪がウルとネギを取り巻いている
「…でもまあ、罠に引っかかったのも不甲斐ないなぁ…。今度は負けないよ、ウル君」
「だったら僕はまた勝ち越してあげますよ、ネギさん」
風鎖の戒めが解けたネギの手をウルが取る
そして両雄が並び立ち、改めて観客席を見渡す
1-Aのメンバーはやんややんやと持て囃し、オカルト研究同行会のメンバーとカリン、猫姉妹はウルを見て呆けている
神社の屋根を見やると、今にも飛び出してきそうなアンジェがいた
「…朝倉」
「うわっとちゃおりんまたいきなり!?はいはい授賞式ね…『それでは皆様!授賞式へと移らせていただきます!!…』
★
「―――――等々、以上のようにどの試合を取っても最高の試合だたネ!優勝者も、準優勝者も…本大会に残った者は全員、有数の実力者に相応しいと言えたネ!今大会の主催者として大変満足の良く内容だたヨ!」
修繕された舞台の上に表彰台が備え付けられ、ウル、ネギ、そして刹那と楓が立っている
そして彼等の正面には鈴音が両手を広げて挨拶をしている
「―――選手及び観客の皆様ありがとう!またの機会に会おうネ!!」
観客達はワアアアァァァ!!と歓声を上げた
来年もやってくれーという叫びも聞こえる
『さあ大会主催者、超鈴音の手から優勝者のウルティムス・F・L・マクダウェル選手に優勝賞金、一千万円が手渡されます!!』
ウルの手に¥10.000.000と大きく書かれたパネルが手渡される
その際軽いファンサービスのつもりなのか、鈴音がウルの頬に軽く口づけをした
「ちょ、鈴音さん…!」
「主催者からのちょっとした副賞ネ。ありがたく受け取ておけ」
『そして準優勝者のネギ選手には五百万円、準々優勝の刹那選手と楓選手に二百五十万円が手渡されます!!』
全員にパネルが渡された途端、ドヤドヤドヤとマイクやカメラ、メモ帳を携えたマスコミが襲撃してきた
ウルが子供であることなどお構い無しだ
「麻帆良スポーツです!ウル君、優勝のご感想は!?」
「一千万円の使い道はどうするんだい!?」
「お姉ちゃんのエヴァンジェリンちゃんにプレゼントとかするのかな!?」
「君本当に子供なの!?」
「あ、あうあう…」
「はーいそこまでー!!取材は各社各サークル、独自にお願いしまーっす!!(ここは私に任せてウル君は逃げな!なぁにすぐに追い付くさ!)」
「和美さん…!ありがとうございます!でもそれは死亡フラグですよ!」
大勢のマスコミに詰め寄られ、しどろもどろになってしまうウル
そこに和美が割って入り、マスコミを牽制しながらウルを逃がす
ウルは跳躍すると、観客席にいたオカルト研究同行会のメンバーと猫姉妹、カリンの傍に着地
「皆さん、マスコミから逃げるので転移します!僕に捕まってください!」
そう言い放つとすぐに詠唱を始める
慌てて全員がウルの肩や手、服を掴む
マスコミがウルがいないことに気付き、探し始めるまで数秒
その数秒の間にウルは転移を完了していた
『―――――本日は「まほら武道会」へのご来場まことにありがとうございました。お帰りの際落し物、お忘れ物にご注意ください…』
さて、前回あげたハードルをくぐるくらいのクオリティでしたね!
次回はおそらく最終日イベントか、それをすっ飛ばして駒王学園に帰るかと思います
では次回の投稿をお待ちくださいませ!!
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