No.73230

真・恋姫†無双IF 一刀が強くてニューゲーム? 第二話

しぐれさん

前作では沢山の方に閲覧頂き、感謝感激です。
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ここに続きをお送りする事ができるのも、皆様のおかげです。

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2009-05-12 13:40:44 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7413   閲覧ユーザー数:5968

 現れるや否や、とんでもない名前を名乗ってくれた少女達。冗談…というか、今流行りの『○○喫茶店』などで働いているような人たちなのだろうか?

「えぇと…あ、そういうコスプレネームとかハンドルネームじゃなくて、本当の名前を教えてくれないかな? 後ついでに場所も」

「こすぷれ? はんど…る? ねぇ愛紗ちゃん、何の事かな?」

「恐らくは天の言葉かと。しかし…分からない人だ、我々が父母より頂いた名はこれ一つというのに」

「ここは幽州の啄郡なのだ、お兄ちゃん大丈夫なのかー?」

 ごくごく自然に気負いなく応える三人は、寧ろこちらの質問が心外といった風でさえある。性質の悪い冗談かとも思ったが、目に宿る真摯な光がそれはないと物語っている。

「うーん…大丈夫じゃないかも。ここは日本、じゃないよなぁ…」

「にほん? 聞いた事の無い邑ですね…鈴々、知っているか?」

「んにゃ? 知らないのだ」

「…マジか。じゃあ西暦は…2009年?」

「せいれき?」

「……」

 時代さえも違うという事か? 確かに先程の野盗達といい、この子達といい、妙に時代がかった服を着ている。

「そうだ、野盗…!」

 思えば、いくら辺鄙な場所とはいえあんな野盗が西暦2009年の日本に居るはずがない。それこそ、時代を遡って治安が荒れていない限り――。

「……うわ、辻褄が合うよ」

 見事に現状と一致している。

 日本じゃない場所で日本名じゃない名を名乗った少女達。言葉が通じるのは不思議だが、これは助かるのでいいとしても…理解できなくはない。少なくとも認識できる。

 ならば、納得するかは兎も角、彼女達の言が嘘ではないと考えてみよう。

「よし、整理しよう。まず、君達の名前は劉備さん、関羽さん、張飛ちゃん」

「はいっ」

「ここは日本ではない」

「いかにも」

「今は西暦なんて使われていない」

「そうなのだ!」

 大きく頷く三人。

「オーケー、分かった。分からないけど分かった。……なんでこんな事に…はぁ」

 だとしたら、何故自分はこんなところに居るのだろうか?

 思わず頭も抱えたくなる。

「おー、けー? 何なのだ?」

「分からん。天の言葉とは珍妙なのだな」

 言葉は通じても意味は通らないという事か、ますますここが日本じゃないという事を表しているな。

「あのー、お兄さん?」

「な、何かな?」

「もしかしてお兄さんはこの国の事、何も知らないの?」

 劉備と名乗った少女が、どこか瞳を輝かせながら俺の顔をじっと見つめる。よせやい、照れるぜ…じゃなくて!

「知らない…というか、知っている事と隔たりがある、かな? 知識としては知っているんだけど、根本が違うというか…なにぶん昔の事だから仕方ないのかもしれないけど」 

 自分でも理解していない事を人に説明するのは難しい。時代も場所も違うのに、まるでタイムスリップでもしたかのような…

「…タイムスリップ?」

 普通なら有り得ない話だが、今の状況を鑑みるにぴったりの言葉だ。認識の全てが一つの糸に繋がる。

「…信じがたいけど、認めるしかないかな」

「何をです?」

「自分の置かれた状況というか、立場というか…有り得ない事が起きたという事を、かな?」

「…つまり?」

 質問を発した劉備さんだけでなく、後の二人とも怪訝な顔つきだ。無理も無いが。

「つまりは、タイムスリップして過去の世界とこんにちは、ってね」

「…ふーん」

「ふーん、って……理解できてますか、桃香様?」

「うぅん?」

「うー、お兄ちゃん! もっと鈴々達にも分かる言葉で説明して欲しいのだ!」

 張飛と名乗った活発そうな少女が膨れながら訴えてくる。

「その、たいむすりぷ、というのはどういう意味なのです?」

 関羽と名乗った少女も不思議そうにしている。これは、やはりカタカナ言葉は使わないほうがいいな。

「過去の世界に来る事、かな? なんと言うか…時間を旅するというか、そんな感じ?」

「はぁ…」

「んにゃ…」

 あまり通じていない様子に、何度目か数えていないが頭を抱える。と――

 

「やっぱり…思ったとおりだよ、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん! この人が天の御遣いだよ!」

 

「はぁ!?」

 劉備と名乗った少女が、先程とは比べ物にならない輝きを目に宿しつつ、とんでもない発言をした。

 テンノミツカイ…深海魚か何かですか? いや、そういえばさっき野盗を追い払った時に関羽さんもそんな事を言っていなかったか?

「ほら、この国のことを知らないし、変な言葉使うし、それにそれに…服は変だし!」

 そこは問題だろうか? というか、君達に言われたくないぞ、うん。

「この人が天の御遣いさんだよ! この乱世を収めるために天の国…にほん、だっけ? そこから降りてきたんだよ!」

「……」

 開いた口が塞がらないって、本当に読んで字のごとくだと、初めて知りました。

「―なるほど。つまり君達は戦乱に荒れる世を憂いて立ち上がった訳だ?」

「はいっ!」

「ええ」

「そうなのだ!」

「なるほどね…」

 満腹になって少し気は落ち着いたが、三者三様の頷きにはこちらとしては唸るしかなかった。

 野盗を追い払って後、改めての自己紹介と一通りの説明を受けたが、持っていた知識と現実の認識との間で大きな隔たりがあって正直納得はいかない。こうして酒家に来て話してみても、それは変わらない。

 それでも、認めるしかないという事は分かった。

 しかし、規模が違ったのだ。

「弱い人が傷つき、無念を抱いたまま倒れていく事が我慢できなくて、少しでも力になる為に今まで三人で旅をしてきたの。でも、もう三人じゃ力になれない、そんな時代になってきてて…」

「官匪の横行、太守の暴政、そいて弱い人間が群れをなしてさらに弱い人間を襲う…負の連鎖が、この大陸を絡めています」

「三人だけじゃ、もう何も出来なくなってきているのだ…」

 最後まで言えずに言葉に切った劉備に、関羽と張飛は言葉を繋げる。三人とも想いを同じくしていて、それでいて悔しいのだろう。言葉の端々にそれがにじみ出ていた。

「…でも、そんな事で挫けていられない。無力な私達にだって、まだできる事があるはず。だから…北郷様! あなたのお力を貸してください!」

「は、はい!?」

「天の御遣いであるあなたが力を貸してくだされば、もっと力の無い人たちを助ける事ができる! 守る事ができるって、そう思うんです!」

「力無き人から…守るべき人から全てを奪う獣の如き所業を止めさせる為に、ご助力下さい!」

「みんなに笑って暮らしてもらうため…力を貸して欲しいのだ!」

 

 微かに瞳を涙で彩りながら、俺の手を強く握る劉備。

 胸に手を当てて、目を閉じて頭を下げる関羽。

 真剣な眼差しで、一心に俺を見つめる張飛。

 

 三人から伝わってくるのは慈愛や義憤、熱意……そして真心というべきものだろうか。

 劉備の手を通して、三人の熱い想いが俺の心に染みいってくる。ひたすら真っ直ぐに、その事だけを思っている三人の言葉は、逆上せそうなほどに迫力に満ちていて、とても尊いものに思えた。

 …それだけに、叶えられる身分ではないのが辛い。

「だけど、俺は君達の言う天の御遣いなんかじゃないよ? 普通の、何処にでも居る学生だ。そんな人間に大勢の人を助けるなんて事、出来る訳が…」

 人を助ける。言うのは簡単だが、行うにはとてもとても難しい事だろう。

「貴方の言う事も分かります。しかし、正直…貴方が本当に天の御遣いでなくても、それはそれで良いのです」

「大事なのは、天の御遣いかもしれない、という事なのだ」

「?? どういう事?」

「我ら三人、憚りながらそれなりの力はあります。しかし、それを活かすに足りないものがある…」

「名声、風評、知名度…そういった、人を惹きつけ、事を成すに足る実績が無いの」

「旅先で活躍しても、それは一部の地域で、一時の評判にしかならないのだ」

「本来ならば、それでも少しずつ名を高めれば良いでしょう。しかし、今この時勢はそれを許す余裕が無いのです」

「一つの村を助けていると、別の村が涙を流している…もう、私達の力じゃ限界なんです」

「なるほど…だから、天の御遣いという評判でもって、乱世に乗り出す必要がある、と…」

 彼女らの言葉は的を射ている。この時代が過去の――いわゆる三国志の舞台となる後漢時代だとすると、天が持つ意味は大きなものだ。迷信や畏怖といった感情が人の心に強く結びついており、十分な力となる。

 天の御遣いが劉備のそばにいるというだけで、人々は劉備に畏敬の念を抱き、その行動に注目するだろう。そして、注目していれば劉備の行動に共感する人間や心服する人間が増え、さらに注目を浴びる。それが知名度であり、風評といったものだ。

「そうです…だから、力を貸して下さい!」

 俺は果たして、頷いていいのだろうか?

 何故この世界に来たのかとか、何故俺がとか、分からない事ばかりだ。考えても考えても、その答えは出ない。

 だが、考えても答えが出ない、分からないものならば…考えなくてもいいか。元々、考えるより動く方が得意だと自覚している。それに…

「じいちゃんも言ってたな…。『世に生を得るは事を為すにあり』ってな」

「…えっ?」

「いや、何でもないよ」

 何故俺がここに居るか…それは分からないけど、何か意味があるのは間違いないだろう。それは、目の前の三人――劉備、関羽、張飛を名乗る女の子こそ『事を為す』ためのきっかけかも知れない。

 ならば、決まっている。

 体を捨て、待を捨て去れば、心が自在になる。それこそ、剣の極意としてじいちゃんに教わった事だ。

 今はまだ分からないが、自由奔放に、思うがままに行動すれば、いつかは事を為せるだろう。まだ『事』は分からないけれど――

 

「…すぅ…ふぅ」

 

 一度、大きく深呼吸した後、緊張からだろうか硬くなっている三人に向き直る。

 

「…分かった。俺で良ければ、力になりたいと思う」

 

「ホントですかっ!? ありがとうございます!」

「申し訳ありません。戸惑いもあるでしょうに…」

「ありがとお兄ちゃん!」

「いいんだ、俺自身力になりたいとは思うし。それにほら、一飯の恩もあるしね?」

 三人から頭を下げられてどうも照れくさかったので、冗談交じりに言葉を返す。興奮で紅潮した頬に笑みが…ってあれ?

「ふぇ? 一飯の恩?」

「一飯の恩、ですか…」

「んにゃー…一飯の恩…」

「ん? 何? 一飯って言葉、何か変だった?」

「えっ、あ……んとですね? 天に住んでた人だから、お金持ちかなー…なんて思いまして、ですね」

「御相伴に預かろうかと…」

「鈴々達、お金ないからねー!」

「えっ、ちょ…待……ええぇぇぇーーっ!?」

『……ほぉう?』

 驚愕の事態に不穏当な声が回りから…いやおかみさんにおやじさん、これには事情が…っ!

「げっ、おかみ!? なのだ!」

『あんたら全員、一文無しかい!?』

「あ、あははは…ち、違うんですよ? ちょっとお金があると思ったら無かっただけで――」

「食い逃げなどするつもりは無――」

『問答無用! 食い逃げなんて許さないよ! みんな、やっちまいな!』

「おかみさん待っ……ぎゃー!?」

「ちょ、ちが…話を聞いてください、みなさーーん!」

 こうして、無銭飲食を許して貰うために、俺達は皿洗いを嫌というほどさせられるのだった――。

「はぁ~……疲れたよぉ~…」

「全くです。戦場より疲れるとは思いませんでした…」

「まぁまぁ、自業自得だし、仕方ないよ……」

「そういうお兄ちゃんが一番ふらふらなのだ」

 結局、こき下ろされるがままに皿洗いを済ませた俺達は、ヘトヘトになりながら丘を登っていた。

 おかみ達が『あんた達の事応援してるよ』と、門出の祝いに酒をくれ、出発地点に良いという場所を教えてくれたのだ。

「うー…応援してるなら、少しは甘く見て欲しいのだ…」

「そう言うなって……このくらいでへこたれてちゃ、人助けなんてできないぜ?」

「それはそうですが…」

 劉備ほどではないが、関羽も張飛も堪えるものがあったのだろう。

「ほら、もうすぐ見えてくる――おぉ…」

「うわぁ、綺麗…」

「これは美しい…」

「すごいのだ…」

 丘を登りきった先、眼下に広がる一面の桃色は体の疲れを忘れさせるぐらい綺麗だった。

「これが桃園かー…凄いねー」

 一歩踏みしめるたびに桃の花びらが舞い、甘くみずみずしい香が鼻をくすぐる。日本で一度だけ見た事がある、御苑の桜に勝るとも劣らない素晴らしさだ。

「雅だねぇ~…」

 のんびりと三人で風情を楽しんでいると、

「さぁ、酒なのだー!」

 待ちきれない! といった様子の張飛が俺達の回りをクルクルと回った。

「…はぁ、雅を解せぬ者も居るようですが」

「ははは、鈴々ちゃんらしいじゃない」

「らしいのかねぇ。…まぁいいか、みんな杯は持った?」

「うん!」

「はっ!」

「持った!」

「よぅし…にしても、まさか俺がかの有名な誓いに同席していたとはなぁ…」

 手に持った杯を眺める。かの有名な場面を、聞くでも眺めるでもなく経験する事になるとは思わなかった。知らず言葉はしみじみとしたものになる。

「どうかしたの?」

「いや、色々と感慨深いというか……これからどうしようかと、ね…」

「立ち止まっていては何も変わらない、進むしかないのだ!」

「そうですね、鈴々の言う通りだ」

「そうだねー」

 未だ少し残っていた迷いも、三人が打ち消してくれる。これからどうなるか分からないけど、この三人と歩めるならば、何も心配は無いと感じられた。

「そうだな…張飛、関羽、それから劉備。これから、宜しくな!」

「応なのだ!」

「はっ!」

「うん! …あ、そうそう。私の事は桃香でいいよ」

「ん? 劉備じゃないのか?」

 そういえば、三人はお互いの事を『劉備』や『関羽』、『張飛』とは呼んでいなかった。あだ名か何かだろうか?

「あってるけど、違うの。真名だよ。私は桃香って言うの」

「真名……真名って何だ?」

「真名とは我らの持つ、本当の名です。家族や親しい者にしか呼ぶことを許さない、神聖なる名……」

「その人の本質を包みこんだ言葉なの。だから、親しくない限り、知っていても口に出しちゃいけない本当の名前」

「だけど、お兄ちゃんなら呼んでもいいのだ」

 真名。誰でも呼べる名じゃない、特別な名前。それを許してくれるという事が、期待されているようで、信じられているようでとても嬉しい。

 正直、今でも天の御遣いなんて何処までできるか……分からないし自信も無い。でも、信じてくれているのなら、それに全力で応えたいと思った。

「…ありがとう。じゃあ、えっと……」

「うん! 私の真名は桃香。桃香って呼んでね、ご主人様!」

「え!?」

「我が真名は愛紗。宜しくお願いします、ご主人様!」

「な…!?」

「鈴々の真名は鈴々! 宜しくなのだ!」

「……」

 ご、ご主人様って……この場合、俺は『一刀』じゃないのか?

「私達の主になるんだから、ご主人様なの!」

「お名前は頂きます。ですが、主君に仕えるのが、家臣というものです」

「よく分かんないけど、それでいいのだ!」

「桃香、愛紗、鈴々……分かったよ」

 それぞれの真名を呼び、真っ直ぐに見つめながら頷く。

「何をすれば良いのか、何が出来るのか……今も俺には分からない。けれどそれでも、俺は君達の力になれればと、なりたいと、強く思う。だから――これから、宜しくお願いします」

 深々と頭を下げる俺に、桃香も、愛紗も、鈴々も、笑って頷いてくれた。

「じゃあ、結盟だね!」

「ああ!」

 頷く俺を見て、愛紗が掌に包んでいた杯を高く掲げる。

「我ら四人!」

「姓は違えども、姉妹の契りを結びしからは!」

 続いて杯を掲げた桃香が言葉を受ける。

「心を同じくして助け合い、みんなで力無き人を救うのだ!」

 鈴々が力強く杯を掲げながら目標を謳う。

 

「同年、同月、同日に生まれる事を得ずとも!」

「願わくば同年、同月、同日に死せんことを!」

「この咲き誇る桃の花に誓うのだ!」

 

三人の目が俺を見つめる。俺は、三人に頷いて杯を掲げると、決意を込めて口を開いた――。

 

 

「……乾杯!」


 
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