OTAKU旅団アジト
「…さて、どうしたもんかね」
「さぁ、俺に聞くな」
目の前の光景を見ながら、okakaとmiriは思わず溜め息をつく。そんな彼等の目の前では…
「だ、駄目です二百式さん!! 今動いたら傷が…」
「黙れ!! 休んでなどいられるか、俺はまだ戦える!!」
「だ、誰かこの人に鎮静剤と麻酔を…ギャァァァァァァァァァァッ!?」
「「「「「班長ー!?」」」」」
担架で運ばれてきた二百式が、意地でも病室から抜け出そうと暴れているからだ。
「…どんだけ無理すりゃ気が済むんだよアイツは」
地球でのロストロギア回収および不正転生者の排除を命じられた二百式だったが、彼は任務中に黒騎士と出くわし、げんぶと共に致命傷を負わされてしまった。致命傷を負った以上は任務の続行は不可能と判断した朱音によって医療班が出動し、二人は
「ふざけるな!! このままで済ませられるか…この身が朽ちようとも、奴に一矢報いてやる!!」
「だから、そんな状態じゃ一矢なんて報いられないでしょ…ほがぁ!?」
「先生ー!?」
「くそ、早く鎮静剤と麻酔を持ってこい!! 少量じゃ足りん、ありったけ持って来い!!」
黒騎士に敗北した事で頭に血が上ったのか、二百式はすぐに地球に戻ろうと病室で暴れているのだ。げんぶは大人しく治療を受けているのに対し、彼は邪魔をする者は容赦しないとでも言うかの如く医療班の面々を次々と薙ぎ倒していっている。こんな事では到底まともな治療など出来る筈も無い。
「おいおい、その辺にしときなって」
「!! okakaにmiriか…何の用だ、俺はお前等と話している余裕など無い…!!」
「二百式、ちったぁ頭を冷やしたらどうなんだ? 医療班の皆にまで迷惑かけるようじゃ、流石の俺達も見過ごせないぜ?」
「うるさい!! 貴様等には関係ない、引っ込んでいろ!!」
「あぁもう、こりゃ言っても無駄そうだな…」
制止しようとするも、二百式は聞く耳を持たない。これは参ったなと頭を抱えるokakaとmiriだったが…
「随分と騒がしいな」
「あ…」
そこにちょうど、クライシスが通りかかった。彼の姿を見た医療班の一同は、救世主が現れたかのような表情になる。
「…話は聞いているぞ、二百式。黒騎士に敗れたそうだな」
「団長、俺はまだやれます!! もう一度だけ奴と戦うチャンスを…」
「駄目だ」
「!?」
二百式の要求は速攻で却下される。
「何故ですか!! こんな傷、どうって事ありません!!」
「その傷で何が出来る? 今は自分のプライドではなく、自分の傷を治す事を優先したまえ」
「冗談じゃない!! このままで終われるか……奴にリベンジしなければ、俺の気は収まらな―――」
「聞けないと言うのかね? 未熟者の分際で」
「―――ッ!?」
クライシスに睨まれた瞬間、二百式の全身に寒気が走る。
「黒騎士とは、万全の状態で決着をつければ良い話だろう? 無理をして挑んだところで、また同じ結果で終わるだけだ。いちいち医療班を困らせるような事をしてくれるな」
「で、ですが…」
「いい加減くどいぞ、二百式」
「ッ……分かり、ました…」
「傷さえ治せば何も言わん。黒騎士とは今後も出くわす事になるだろう。奴と戦う機会など、いくらでも与えてやれるのだからな」
「…了解しました」
いくら二百式と言えども、団長のクライシスに堂々と殺意を向けられては反論の仕様が無かった。彼は渋々ながらも、医療班の面々によって病室まで運び直されていく。そしてクライシスは表情を変えないまま、その場から静かに立ち去って行く。
「相変わらず、団長の威圧感は凄ぇよな」
「あぁ……だが…」
この光景を見ていたmiriはクライシスの威厳の凄さに関心していたが、okakaだけは全く違う別の事を考えていた。
(団長、ヤケに機嫌悪そうだな……何かあったのか…?)
一方、海鳴市では…
「それじゃ恵里、また後でね~」
「は、はい! また後で」
翠屋にて他の友人達と一旦別れた恵里は、ウキウキ気分で帰宅しようとしていた。久しぶりに友人のルカと出会えたからか、今の彼女は若干だがテンションが上がっている状態だった。
(久しぶりにアキヤ君と話せちゃった♪ もう少しだけ話したかったなぁ…)
しかし彼が久しぶりに海鳴市へ帰って来たという事は、また会う機会はあるかも知れない。そう思い、恵里は急いで帰宅しようと走り出す。
そんな彼女に…
「少し待って貰うぜ、嬢ちゃんよぉ?」
凶獣は、容赦なく狙いを定める。
「!?」
突如、恵里の周囲にドーム状の結界が張られ、恵里の周囲を歩いていた人達が一瞬で消える。
「…え? 何、これ…」
「特殊な結界を張らせて貰ったぜ。管理局の連中でも気付けないくらい、より強力なのをな」
「ッ!!」
恵里の目の前に、ZEROがドズンと飛び降りる形で姿を現した。ZEROの降り立った地面が僅かに陥没し、彼はニヤリと笑みを浮かべながら恵里を睨みつけ、恵里は思わず後ずさりする。
「だ、誰ですか…?」
「俺が一体どういう存在だろうが、何だって良いだろう? それに、これから死んでいく奴に話したって何の意味は無い」
「!! ま、まさか…」
「そう……俺はテメェを喰らいに来たんだよ」
ZEROの右腕に黒と紅色の籠手が覆われる。それと同時に恵里の周囲を複数のゾンビらしき黒い異形が取り囲み、恵里は思わず「ひっ」と悲鳴を上げてへたり込む。
「どうせテメェも不正転生者だ。だったら俺がこの手で殺そうが喰らおうが、俺の自由って訳だ」
「!? な、何でそれを…」
「話す意味が無い、二度も言わせんな」
「あ、ぐ…!!」
籠手に覆われた右手が恵里の首元を掴み、そのまま高く持ち上げる。
「ま、悪く思うな。恨むならお前を転生させた神とやらでも恨むこったな」
「ッ…!!」
ZEROは大きく開いた口から鋭い牙を見せ、恵里を喰い殺そうと少しずつ近付けていく。恵里も必死に抜け出そうとするが、力の差は歴然だった。
(た、助けて……アキヤ君…!!)
その時。
「!? ぬぉっと…!!」
「…!」
ZEROの右腕に一発の魔力弾が命中し、彼は思わず恵里を手放した。恵里は絞められた首元を押さえてゲホゲホ咳き込む。
「…コイツは一体何のマネだ?」
魔力弾が飛んで来た方向を見て、ZEROは不機嫌そうに呟く。
「なぁ……ルカ」
「はぁ、はぁ…!!」
魔力弾を撃ち込んだ張本人―――ルカはZEROを睨みつけた。急いでここまで駆け付けたからか、若干息が切れかかっている。
「おいおい、不正転生者の始末が俺達の任務だろうが。何故お前が俺の邪魔をしやがる?」
「ZEROさん……お願いです、少しだけ待ってくれませんか…」
「ふざけるなよ。どうせ殺すんだ、待ったって意味は無ぇだろうが」
そう言って、ZEROは右腕を振り上げようとし…
「良いじゃないの、ちょっとくらい待ってくれたって」
「ッ!!」
朱音の放ったワイヤーがZEROの右腕に巻き付き、彼の動きを制限する。
「朱音、貴様ァ…!!」
「大人しくして頂戴、お願いだから」
「第一アンタ、こっちの世界に来るような任務は言い渡されてない筈でしょうが」
「…チッ!!」
朱音逹と共に駆け付けたfalSigに指摘され、ZEROは舌打ちをしてから右腕に巻きつけられたワイヤーを左手の爪で切り裂き、素早く跳躍して近くの民家の屋根に立つ。
「…どういった経緯があろうと、不正転生者は世界にとって害悪でしかない。それはテメェ等も充分承知の上だろうが。ルカ」
「ッ…」
「それが嫌だってんなら別に良いんだぜ? お前が殺さずとも、どうせ竜神丸の野郎が殺すに決まってるんだろうからな」
そう言って、ZEROはその場から一瞬で姿を消す。ルカはふぅと息を吐いてから、地面にへたり込んだまま事態を飲み込めていない恵里の方へと振り向く。
「あ、アキヤ君……これって、一体…」
「僕も君から聞きたい事があるんだ。お願いだ、教えてくれるかな」
ZEROが立ち去った後、彼等のいる結界内は重い空気のまま、誰も言葉を発せられない状況になってしまうのだった。
一方、とある次元世界では…
『大丈夫か、レイ』
「あ、あぁ……何とかな」
葛城との戦闘から逃げ去った支配人は、地面に大の字で倒れたまま休憩していた。そんな彼の下に、近くに停車しているオーライナーからジンバが茶菓子とお茶をお盆に乗せてやって来る。
「結構疲れたぜ……流石は葛城特戦隊の隊長、想像以上に疲れる羽目になっちまった」
『彼女、私から見てもかなりの実力者だと分かった。彼女は旅団とも関係者なのか?』
「確かデルタさんと、何かしら因縁関係があるって聞いた事がある。俺はよく知らないけど」
『そうか……しかし彼女がどういった人間であれ、敵対するのであれば私達は戦うだけだ。そうだろう?』
「あぁ。そうだな」
支配人は寝転がっていた状態から起き上がり、ジンバの持って来た茶菓子を手に取り口に含む。
「そういえばジンバ。最近、ルイちゃんのところに行ってなかったな。近い内にまた会いに行ったらどうだ?」
『む、そうだな……そちらの任務が終わり次第、また久しぶりに会いに行くとしよう』
「別に無理してこっちの任務に付き合う事も無いんだぜ? 行きたい時は俺に言ってくれりゃ、今からでも会いに行けるしな―――」
-ドゴォォォォォォォォォォンッ!!-
『「!?」』
突如、彼等がいる場所の近くにある森の奥地にて、謎の爆音が轟いた。
『レイ…!!』
「あぁ、行こう!!」
爆音の原因を探るべく、二人は立ち上がって山奥へと向かって行く。
そして、二人が辿り着いた森の最奥部にて…
「ッ…!?」
『これは…!!』
二人の目の前には、山賊と思われる男達が倒れていた。全員がズタボロ状態のまま息絶えており、その近くにあった彼等のアジトと思われる洞窟の入り口は完全に崩れてしまっている。
『ここで、一体何が…?』
「少なくとも、管理局の仕業ではないのは確か……ん?」
山賊逹の死体の中に、一つのビー玉らしきものが落ちていた。支配人はそれを拾い上げて覗き込む。
『レイ、それは?』
「分からん。ただ、これは……星座?」
支配人が覗き込んでいるビー玉。
その中では、蛇使い座の星が浮かび上がっていた。
支配人とジンバのいる森から、遠く離れた位置…
「ふん、つまらんな」
一人の人物が、面白くなさそうに呟いていた。
「有名な山賊だって言うから遊んでやったのに、期待外れだったな……まぁ良い。もうしばらく、ここらの世界をうろついてみるとするか…」
そう言って、“彼”は何処かに姿を消していく。
“彼”がOTAKU旅団と対面するのは、もう少し先の話である。
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