「桔梗様。兵たちから、空に流星が多く見られるという報告が上がってきているのですが・・・」
その夜、私は兵から上がってきた報告を、上官である桔梗様に報告をしに行っていた。
巴郡の城を劉璋から任されている私たちだったが、私も桔梗様も劉璋のことを嫌っていたため、向こうからも厄介払いのような感じで、ここに赴任させられている。
「桔梗様?もうお休みになられているんですか?」
そもそも、流星が多く見られるというぐらいで、私たちに報告してくるなどどうかと思うが、星を読める人間にとっては、それは一大事のことらしい。
「桔梗様??」
私も、おそらく桔梗様も星を読むことはできないが、一応この城の最高責任者である桔梗様には、現状を報告して、兵たちの騒ぎを納めてもらわなくてはならない。
「・・・やっぱり、寝てるのかなぁ。」
いくら呼んでも返事がない桔梗様の部屋の前で、私は困っていた。
(・・・・・仕方ない。私から指示を出して、明日の朝にでも桔梗様に報告しよう。)
そう思って、兵たちのいる城壁まで向かおうと庭に出た時だった。
ピカッ!!!
あたりが突然、真っ白になり、何も見えなくなった。
「な、なんだ!?」
訳が分からず、念のために鈍砕骨を手にしようとした時。
ドサッ!
突然真上から何か大きいものが降ってきた。
「んにゃっ!!」
いきなりのことで対応ができず、私はそのまま降って来たものの下敷きになってしまった。
「・・・・なんだ焔耶。人がせっかく気持ちよく寝ているというのに、部屋の外で騒ぎおって・・・うん?」
桔梗様の声が聞こえたが、下敷きになったときに後頭部をぶつけたために、目の前が白黒していて、周りの様子が分からなかった。
「焔耶・・・・。決して外でするなとは言わんが、そう言うことは人目がつかないところでやるべきだと思うぞ?」
面白そうなものを見つけたときの声で、桔梗様はそう言った。
「き、桔梗様・・・何を言っていらっしゃるん・・・・・・・うわぁ!!!」
私はようやく焦点があった目で前を見ると、私の上に見たことのない白い服を着た男が覆いかぶさっていた。
「はっはっはっ!まぁ、今度は止めはせんから、ゆっくり続きをすればよい。」
そう言いながら桔梗様は、ご自分の部屋に戻っていった。
「あ!ちょっと!?桔梗様??違います!!何か勘違いを・・・」
そう言っている私の声を無視して桔梗様は扉を閉めてしまった。
「あぁ!もう!!」
私は自分の上に乗っている男をどかした。
「・・・うぅ~ん。」
その男は寝ているようで、どかされても目を覚まさなかった。
(まったく・・・・どうなっているんだ・・・)
混乱する頭を、私はどうにか落ち着かせて状況を整理した。
(目の前が急に真っ白になったと思ったら、私の上にこの男が降って来て、そしたら桔梗様に勘違いされて・・・)
「だぁ~!まったくわからん!!」
私は思わず叫んでいた。
整理してみても、全く分からない状況に私の頭はさらに混乱していた。
(まったく、私にどうしろというのだ・・・)
ふと空を見れば、流星はすっかりやんでいた。
(桔梗様はまた寝てしまったし、こいつはどうすれば・・・・)
私は目の前に転がっている男を見下ろしていた。
(ふぅ。とりあえず、こいつをどこかに動かして、明日桔梗様に判断を仰ごう・・・。)
問題を解決することをあきらめて、私は男を空いている部屋に運び、兵たちにその部屋の監視を任せて、寝ることにした。
翌日、桔梗様とともに男を監禁した部屋へと向かった。
「ぎ、魏延に厳顔だって!!?」
その男は、私たちの名を聞いた途端、そう言って驚いた。
「え!?ってことはここ三国志の世界!??そう言えば確かに中国っぽいけど・・・」
意味の分からないことを独りで言いはじめていた。
「おい!何をわけのわからないことを言っている!!私と桔梗様にわかるように説明しろ!!」
私は、男にそう言って、男の言っていることを説明させた。
曰く。
この男は北郷一刀と言うらしい。
この世界(よく分からないが)の人間ではないらしい。
私たちのことを知っているらしい。
ということだった。
「ふ~む・・・・。」
桔梗様はそう言って腕を組み、考えこんでいた。
「な、なぁ・・・。」
私たちが黙っていると、男が(北郷と言ったか)話しかけてきた。
「さっきから気になってたんだけど、何で魏延は厳顔のことを「桔梗」って呼んでるんだ?あだ名かなんか?」
「!!!?」
その言葉を聞いた瞬間、私は鈍砕骨を振りかざしていた。
「待てぇい!!」
鈍砕骨が北郷の頭まであと少しの所で、桔梗様の声がかかった。
「あ、あぶねぇ!!」
北郷は、目の前に迫った鈍砕骨に驚き、うしろに飛びのいていた。
「し、しかし桔梗様!!」
許可も得ずに真名を呼んだとなれば、首をはねられても文句は言えない。
そんなことは常識だ。
「・・・のう、北郷よ。お主、「真名」というものを知っているか?」
桔梗様は私の声を気にせず、北郷に話しかけた。
「ま、真名?」
北郷は何を言われているのか分からない表情で、桔梗様を見ていた。
「知らんのか?」
桔梗様は、やはりという顔をして聞いた。
「し、知らないけど・・・。」
北郷は、先ほどの驚きから抜け切れていない様子で、そう答えた。
「やはりな。焔耶よ。こやつが先ほど言っていた「この世界ではない所からきた」というのは本当のようだ。」
桔梗様は納得した表情でそう言った。
「き、桔梗様?」
私は桔梗様が何に納得してるのか分からず、少し慌てていた。
「小僧。知らぬようだから教えてやる。真名とは、その者が心を許したものにしか呼ぶことを許さぬ神聖な名前。人の真名を知っておっても、その者の許しもなく呼ぼうものなら、首をはねられても文句はいえん。そして、桔梗とはわしの真名だ。」
桔梗様は、面白いものを見るように北郷を見つめ、そう説明した。
「え!?それじゃあ、俺は殺されても文句言えないんじゃ・・・・」
北郷はようやく先ほどの自分の行為の意味を理解したのか、青い顔をしてそう言った。
「本来ならな。じゃが、お主は真名そのものの存在を知らなかったようだからのぅ。今回は多めに見てやろう。」
「桔梗様!?よろしいのですか!?」
私は、桔梗様の言葉を信じられず、聞き返していた。
「よい。それと、焔耶。こやつは面白そうだから、お主が面倒を見よ。」
そう微笑みながら、桔梗様は私に言った。
「な、何を・・・・「では、北郷。そう言うことだから、これからはこの魏延の指示に従うようにな。」・・・ちょ、桔梗様!!?」
私が、どうにか反論しようとしているのを遮って、桔梗様はそう北郷に言い終わると、楽しそうに部屋から出ていこうとしていた。
「桔梗様ぁ!!」
私の叫びに答えるそぶりも見せず桔梗様は扉まで歩くと、
「それでは焔耶。あとを頼むぞ?はっはっは!」
と、この上ない笑顔でそう言って、外へと出て行った。
「「・・・・・・」」
私と北郷は、桔梗様が嵐のように去って行った扉をただ無言で見つめていた。
その日から、私は北郷の世話をすることになった。
世話と言っても私はそんなことする気はなかったし、自分の仕事もあったから、基本的何もしなかった。
というよりも、外に出て面倒事を起こされたら、それを処理するのは私で、その姿を見て楽しそうに酒を飲む桔梗様の姿が目に浮かんだから、北郷に
「私がいないときは部屋から出るな!」
といって、基本的に室内で過ごさせていた。
それでも、桔梗様に
「様子はどうだ?」
と聞かれたときのために、時折様子を見に行ったりしていた。
そんな生活が始まってから数日してから、北郷が私に読み書きを教えてくれと言って来た。
「なんで私がそんなことをしなければならないんだ。」
というと、言葉はわかるが、字が読めないので、部屋にある本も読めず、私がいない間、特にすることもなく暇なのだと言った。
私も官のはしくれだから、字の読み書きできるが、人に教えるというのは、どうにも相に合わない気がしたので、誰かほかの者にやらせようと思い、手頃な文官を探してくると言って、私は部屋を出た。
そうして文官を探していると、運悪く桔梗様に出会ってしまった。
「こんな所で何をしておるのだ?」
そう不思議そうに尋ねる桔梗様に、ごまかせば良いものを、私は馬鹿正直に答えてしまった。
「北郷が字を習いたいというので、それを任せる文官を探していました。」
その答えを聞いた時の桔梗様の笑顔を見た瞬間。私は桔梗様の癖を思い出した。
私は日頃、桔梗様を尊敬しているし、素晴らしい上司だと思っている。
しかし、何か遊びを見つけたときの桔梗様は他人のことなどお構いなしで、面白そうな方へことを運びたがる癖があった。
「ほほう。」
そう言って、私の方を面白そうに見つめる桔梗様。
(やばい!)
そう思ってごまかそうとした時には、もう手遅れだった。
「あ、あの桔梗様!先ほど言ったことはですね・・・・「焔耶。お主が教えればよかろう。」・・・・・・・・はい。」
満面の笑みでそう言う桔梗様に何を言っても聞いてくれないことを、経験的に知っていた私はおとなしくそう答え、北郷のいる部屋へと引き返した。
「お帰り。早かったな。もう教えてくれる人見つかったの?」
部屋に入ると、椅子に座って外を見ていた北郷が、そう言ってこちらを向いた。
(だいたい、お前が字を教えろと言わなければ良かったんだ!)
そう思うと、なぜだか無性に腹が立った。
北郷の頭を一発殴ってやりたかったが、無抵抗な人間を殴ることは、武人としての私が許さなかったので、1発デコピンをしてから私は北郷に字を教え始めた。
私が字を教え始めてから、しばらくすると、北郷は簡単な本なら一人で読める程度までになっていた。
北郷の様子を桔梗様に聞かれたので、そのことを答えると、
「そうか。では簡単な仕事をやらせるか。」
と桔梗様が言った。
つい最近まで字が読めなかった北郷に仕事ができるだなんて思わなかったが、桔梗様が面白がっている顔をしていたので、私は何も言わず、北郷は仕事をすることになった。
どうせ桔梗様が面白半分でやっていることだからと、しばらくほっておいたのだが、いくら経っても桔梗様が仕事を辞めさせると言わないので、気になって北郷の部屋をのぞいてみた。
するとそこには、私に回されるより多くの書簡が積まれた机の上で、てきぱきと仕事をこなしている北郷がいた。
「うん?・・・あ。魏延!久しぶりだな。」
私に気付いた北郷が、そう嬉しそうに声をかけた。
「北郷・・・ついこの間まで読み書きすら出来なかったお前が、なぜこんなに仕事をこなせるのだ?」
私は疑問に思ったことを、そのまま聞いた。
もともと、回りくどい聞き方や、何かしらの嗜好を凝らした聞き方など好きではなかった。
「いや~。俺も向こうで暇つぶしに読んでた新書の知識がこんなに役に立つと思ってなかったんだけどさ。今さらだけど、現代日本の文化水準の高さを思い知ったよ。」
と笑いながら意味の分からないことを言っていたので、無言で鈍砕骨を握ると、北郷が慌てて説明してきた。
「だ、だから。もともといた世界で、読んだ本の知識があったから、何とか仕事ができてるんだよ。あと、魏延から字を教えてもらったおかげだけど・・・」
そう言って笑う北郷に、なぜか分からないが胸が高鳴った。
「と、当然だ。私が字を教えてやらなければ、お前など使い物にならなかったのだからな。」
なぜか、素直に北郷を褒めてやることができず、私はそう言っていた。
それから、北郷はどんどん内政の仕事をこなしていき、内政の会議に出席するようになり、しまいには、自ら内政の政策案まで出してくるようになっていた。
桔梗様もさすがにこれには驚いていた。
北郷の出してくる案は、これまで見たことも聞いたこともないようなものだったが、それでも文官たちとの会議の末、実際に行うことが決定した。
その政策は、消費税というものだった。
商品を買う時に、本来の値段より、ほんの少し多くお金をもらうようにし、多くもらった分は役所へ、税として納めてもらう。
このとき、生活に必要不可欠なものには少なく。奢侈品には多くの税をかけることで、生活が苦しい民の負担をできるだけ軽くする。
そうして集まった税金を使い、貧困や怪我や病気などで苦しむ人々への生活援助費を与える。
そうした政策が始まれば、はじめは民たちから不満が出るかもしれないが、生活援助の噂を聞きつけて、貧困で苦しむ人たちが集まってきたら、その人たちを使って田畑を開墾する。そうしてできた田畑に人々を定住させて、そこで生活ができるようにさせる。
そうすれば、その人たちもこの町で買い物をするから、結果的に税が多くはいる。またそうした人々を目当てに多くの商人が集まれば、さらに多くの税金が集まる。
と、このような内容だった。
「ありがとう岩○新書。きみのおかげだ。」
とまた意味の分からないことを言っていたが、その政策は成功し、巴郡には多くの人が集まるようになった。
北郷はその後、以前にも増して忙しく仕事をするようになり、昔のように2人で話すことも少なくなった。
そんな時、北郷が開墾を予定している森に行ってみたいというので、北郷の視察と新兵の訓練を兼ねて私の指揮でその森まで向かうことになった。
「なんか久しぶりに魏延と一緒だな。」
そう言ってなぜか嬉しそうな北郷と、久しぶりにこうして北郷と話をできていることに、なぜか嬉しさを感じていた私は、他愛のない話をしながら、目的の森まで向かった。
「へぇ。結構うっそうとしてるなぁ。」
森につくと、北郷はそう言いながら森の土や川などを見て回り始めた。
私は新兵たちに周辺警戒の指示を与え、北郷の後を追った。
北郷は仕事を始めてから、時折庭で剣の稽古をするようになっていた。
というか、仕事を始めるまでは、私が部屋から出るなと言っていたから稽古もできなかったようではあるが・・・・
少しだけだが武術をかじったことがあるらしく、筋は悪くなかった。しかしその時は、今、周りで周辺警戒をしている新兵たちよりも弱かった。
その後、仕事の合間を縫って、稽古はつづけているようだったが、その程度の実力で森の中をうろついて虎にでも襲われたら、ひとたまりもない。
(まったく。ちゃんと自分の実力を理解しているのか・・・・)
そう思いながら私は、森を見て回る北郷の横を歩いていた。
(だいたい、文官がこんな所に出てきて、何かあったらどうするのだ。今回は私がいるからいいが・・・)
「お、おい。魏延?」
(今では北郷は、我が巴郡の重要な文官。それに、北郷にもしもの事があったら私は・・・)
「おいって!ちょっと、魏延!?そのまま行ったらやばいって!!」
(い、いや。確かに北郷にもしもの事があったら、悲しいが、それは有能な文官だからであって・・・・)
「魏延!!!」
その時、やっと私の耳に北郷の声が届いた。
「うん?なんっ・・・・だぁぁぁあぁぁあぁぁ!!!!!!」
振り向いた瞬間、私は縄網に包まれて北郷を見下ろす位置に浮かんでいた。
「だから、やばいって言ったのに・・・」
北郷はそう言いながら頭を抱えていた。
「くっ。これはどう言うことだ!!北郷!私を謀ったのか!!」
私は頭が、混乱していた。
「なんで、そうなるんだよ。お前が引っ掛かってるのは、たぶん猟士の人が仕掛けた罠だよ。」
北郷は私を見上げながらそう言った。
「なら、なぜ教えてくれなかったんだ!!?」
私はそう怒りを北郷にぶつけた。
「教えたよ。けど、声かけてもそのまま行っちゃうんだもん。」
北郷も少しむくれてそう答えた。
「くぅ・・・と、とにかく下ろせ!」
私がそう言うと、北郷はわかったと言って縄が結んである木のひとつの所まで行った。
「ちょっと待ってろ。えっと、これを解けば・・・・」
そう言いながら北郷は縄の結び目を解き始めた。・・・が
「あれ?なんかこれ、かた結びっになっててうまく解けない・・・」
と言いながら、木に足をかけて、力いっぱい縄を引っ張り始めた。
「お、おい!ちょ、ちょっと待て!!お前・・・がぁ・・・足、かけてる・・・木はぁ・・・私が、ぶら下がってる・・・・木ぃ・・・。」
北郷が力いっぱい縄を引っ張るたびに、木が揺れ、その度に縄が私の肌にすれて、変な声が出た。
「うん?どうした魏延。何か変な声が出てるぞ??」
北郷はいったん手を止めて、不思議そうに私を見上げて来た。
「だからぁ・・・木を・・・揺らさないでぇ・・・。」
先ほどの揺れで、もうあまり体に力が入らず、声にも力が入らなかった。
「つってもなぁ。これ結構力入れないと無理っぽいんだよなぁ。」
そう言うと北郷はもう一度縄を引きはじめた。
「んぅっ!?・・・・ぁ、くっ・・・・んんっ・・・」
思わず、変な声が出る。
「あ、あと。もうちょっとで・・・」
北郷はそんなことにかまわず、縄を引きつづけていた。
「んっ・・・あっ、はぁっ・・・・ああぁっ・・・・」
もう、いろいろと危なかった。
(だめ・・・力が・・・入らない・・・)
体が火照ってきて、もうそろそろ何かしらの限界を迎えそうだった、まさにその時。
「っっっっと!!解けた!!!」
北郷の声とともに、先ほどまで空中で私を支えていた縄網の一端が緩まり、私はその方向に転げ落ちた。
「わぁ・・・」
もう全身に力が入らなくなっていた私は、大声を上げることもできず、そのまま落下した。
「危ない!!」
そう聞こえたかと思うと、私は何かの上に落ちていた。
「いててっ」
そう声が聞こえ、目を開けると、私は北郷の腕の中にいた。
「っ!!!」
あまりの驚きに立ち上がろうとしたのだが、まだ力が入らず、私はそのまま、元いた北郷の腕の中に倒れ込んだ。
「ぐわぁっ!」
北郷は私が倒れ込んだ衝撃を予期していなかったのか、苦しそうな声を出した。
「ぎ、魏延。倒れそうなら倒れそうって言ってくれよ。」
北郷はそう言うと、私を腕に抱いたまま起き上がり、私をその場に座らせ、そして手を離した。
「んで、大丈夫か?立とうとして倒れたってことは、どっか怪我でもしてるのか?」
北郷はそう言うと、私の腕を持ったりして、怪我がないか調べ始めた。
「ちょ、おま・・・・、くぅっ・・・」
私が止めようとした時に、北郷の手が私の肌にあたり、私は思わず声を上げてしまった。
「うん?ここ怪我してんのか?」
北郷は、先ほど触れたあたりを、今度はやさしく触って来た。
「あっ・・・・んっ、・・・ぁ・・・・はぁっ・・・ぁぁ・・・」
「怪我はしてないみたいだけど・・・・うん?」
北郷はもう一度やさしく触れた。
「んぅっ・・・んっ!」
「・・・・・・・」
私の反応を見た後に北郷は少し考えるようなそぶりを見せ、
「・・・ねぇ魏延。もしかして・・・・敏感肌??」
北郷はふざけた様子ではなく、真面目な顔でそう聞いてきた。
「・・・・そぉ・・・だ。」
私は、顔から火が出るほどの恥ずかしさをこらえ、そう答えた。
「そっか。なら、どっか痛いところある??」
北郷はやさしく聞いた。
「・・・・ない。」
私は北郷の顔を見ず、俯いたままそう答えた。
「・・・・ふぅ。よかったぁー。」
そう言うと北郷は、その場に大の字に寝転がった。
「「・・・・・」」
お互い何も話さないまま、少しの間そのままでいた。
「・・・さて、そろそろ帰ろうか。」
北郷は、そう言って立ち上がると、私に手を差し伸べてきた。
「もう立てる??」
そう微笑みながら聞いてくる北郷の手を、私は振り払うことができず、その手に掴まって私は立ち上がった。
「早く戻らないと、兵のみんなが心配しちゃうな。」
そう言いながら、まだ足に力が入らないために、あまり早く歩けない私の速さに合わせてゆっくり歩く北郷。
「・・・・・お、おい。」
そんな北郷に私はいつの間にか声をかけていた。
「ん??」
北郷は歩くのをやめて振り返った。
「お前は・・・・、私を・・・変だと思わないのか??」
私は、北郷を見つめて言った。
「何で??」
「何でって、私はただ縄がすれただけで・・・」
そこまで言って、恥ずかしくなった。
「・・・べつに変だとは思わないよ。むしろ・・・」
北郷はそこまで言って、少し笑った。
「やっ、やはりバカにしているのだな!!」
北郷の答えに、すこし期待をしていた私は、期待していた分、余計に怒りが湧いてきた。
「やはり、腹の底では私をバカにして笑っていたのだな!!」
自分でそう言いながら、涙が出そうになっていた。
「ち、違うよ!そんなこと思ってない!」
北郷が慌ててそう言って来た。
「では、なぜ笑ったのだ・・・・」
私は北郷を睨みつけた。
「お前は先ほど、むしろの後に何と言おうとしたんだ!言えるものなら言ってみろ!!」
どうせ、情けなかったとか、かっこ悪かったとか、そんなことを言うのだろうと思い、私はさらに北郷を睨みつけた。
「可愛い。」
「・・・・・・・・・・・は?」
北郷の言葉が一瞬理解できなかった。
「だから、むしろ可愛いって言おうとしたんだよ!恥ずかしかったから言わなかったのに・・・」
北郷はそう言うと顔を赤くして、足早に歩きはじめた。
「・・・・・・はっ!お、おい北郷ちょっと待て!!」
なんとか我に返り、先に行ってしまいそうだった北郷を私は呼びとめた。
「・・・・」
北郷はその場で止まり、こちらに背を向けたまま、私の言葉を待っていた。
「・・・・・焔耶だ。これからはそう呼んでいいぞ。」
「え!?」
私の言葉に驚いたのか、北郷がこちらを振り返った。
「でもそれ真名なんだろ?いいのか??」
「落ちた時に助けてもらった礼だ。」
そう北郷の問いに答えると、私はだんだんと力が入るようになってきた足を動かして、歩きはじめた。
「・・・・・・」
まだ状況を理解しきれていないのか、北郷は突っ立ったまま、動かなかった。
「先に行くぞ。」
そう言って北郷を追い越すと、我に返った北郷が、私の後を追って来て横に並ぶと、声をかけて来た。
「んじゃあ。俺のとこ一刀って呼んでくれないかな。」
私はそう言った北郷の顔を見ずに
「・・・いいだろう。」
と答えた。
「はは。それじゃあ、これからもよろしくな。焔耶!」
そう一刀は嬉しそうに言った。
「それはお前次第だな。一刀。」
そう答えた私も、なぜか嬉しくてたまらなかった。
その日、巴郡の城に戻ると、劉備軍が我が蜀への侵攻を始めたという情報が入っていた。
あとがき
どうもkomanariです。
焔耶の話を書きはじめたわけなんですが、キャラ崩壊が・・・・
書いてるうちに、
「これ、本当に焔耶かな?」
って思って来て、そしたら一刀も・・・・・
ってことで、そんなキャラ崩壊が苦手だった方々、大変申し訳ありませんでした。
それと、今回の一刀君には少し内政についてを某岩〇新書で勉強してもらって、スペックを上げて登場してもらってます。
なんて言うか、文系な一刀君で言ってみようと思ったのでこうなりました。
苦手な方はごめんなさい。
あと、焔耶の敏感肌は全年齢対象でも大丈夫なんでしょうか。
少し不安です。
さて、今回始まった「焔耶の恋心」ですが、一応予定としては次で終わります。
皆様の期待しているであろう可愛らしい焔耶を目指して、がんばって後編を書こうと思ってます。
それでは、今回も閲覧していただき、ありがとうございました。
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これまた結構前にmunimuni様,Poussiere様,混沌様からリクエストしていただきました焔耶の話です。
とりあえず、今回はキャラ崩壊がすごいです。
それも焔耶と一刀両方キャラが崩壊してるっていう大惨事・・・
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