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真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 第四十五回 第三章B:合肥救援編⑤・遼来来!鳳統の思惑

stsさん

みなさんどうもお久しぶりです!初めましてな方はどうも初めまして!

今回は遼来来、霞無双はまだまだ続くのです。

そして雛里ちゃんの思惑とはいったい、、、!

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2014-08-10 00:04:11 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:5466   閲覧ユーザー数:4421

江東の地では、他の地方では見られない独特な泣く子を黙らす方法があるという。

 

 

 

「わぁあぁぁぁん!!いっちゃんが休の肉まん食べちゃったぁあぁあぁあ!!!」

 

「何だよ、泣くことないだろ?姉ちゃんが残してるからおなかいっぱいだと思って食べてやったのに」

 

「好きだから最後にとっといたんだよぉおお!!!いっちゃんのバカぁ!!!」

 

「痛ってぇ・・・コイツ・・・ぶったなぁ・・・ぐすん・・・ぅ、うわぁあああああん!!!」

 

「こら、壱も休も孫家の将の子ならそんなことで泣くものじゃないよ」

 

「母様・・・ぅわぁああああああん!!」

 

「ぐす・・・でも、いっちゃんが、休の肉まん・・・ぅえぇええええん!!!」

 

「まったく、情けない子たちだね。そんなくだらないことで泣くような弱い子は、張遼が殺しに来るよ」

 

「ひっ、ちょ、張遼・・・!」

 

「綜ちゃんや楷くんの、あと烈ちゃんと封ちゃんのお母さんから聞いた・・・孫権様の邪魔をした、鬼みたいな女だって・・・」

 

 

「そうだよ、あんなに強かった享ちゃんの母君や、修くんと表くんの父君だって、みんな張遼に殺されたんだからね。あんたらみたいな

 

泣き虫なんて、あっという間に殺されちゃうだろうね」

 

 

「な、泣いてねぇし・・・め、目にゴミが入っただけだし・・・・・・・・・」

 

「きゅ、休もあくびしただけだもん・・・・・・・・・」

 

 

 

かつて、揚州合肥にて、北郷軍の張遼が、鬼神のごとき戦いぶりを発揮し、

 

わずか800ほどの騎兵で10万もの孫権の大軍を蹴散らしたことから、

 

孫家の本拠江東では、張遼の名を聞いただけで泣く子も恐怖から泣き止み黙ってしまったという・・・。

 

 

 

 

 

 

【揚州、合肥・孫策軍本陣】

 

 

孫権「何ですって!?太史慈が討たれた!?」

 

太史兵「はっ・・・我が隊は益州北郷軍の援軍・・・張遼によって敗走・・・こちらの被害は将軍含め・・・9千に及びます・・・!」

 

 

 

満身創痍の兵士の報告を受け、孫策軍の本陣に動揺が走った。

 

 

 

孫権「・・・わかったわ。報告ご苦労様、すぐに傷の手当てをしなさい」

 

太史兵「は・・・」

 

 

 

兵士を見送ると、孫権は険しい表情で歯噛みしながら額に手を当てた。

 

 

 

黄蓋「北郷軍の張遼、ということは、虎牢関の時のあの威勢ばかりのガキか・・・ふむ、あの時始末しておくべきじゃったかのぅ」

 

 

 

黄蓋はかつて反董卓連合で戦った若き張遼の姿をぼんやりと思い浮かべていた。

 

 

 

呂蒙「成都からわざわざ合肥まで援軍を出しますか・・・しかし、北郷といえば元々呂布の配下と聞きます。曹操軍には恨みこそあれ、

 

なぜ援軍なんか・・・」

 

 

 

そのような当然浮かび上がる疑問を投げかけた小柄な少女は、陸遜同様江東では珍しい白い肌に、

 

えんじ色を基調にした、満州族の正装のような帽子と服を身に着け、

 

栗色の髪をお団子に結い、茶色の瞳の片方は片眼鏡でおおわれている。

 

長い袖で隠れた手を体の正面で合わせたその少女の名前は呂蒙、孫策軍の新米軍師である。

 

 

 

陸遜「恐らく借りがあるのでしょうねぇ~。呂布さんは下邳で命拾いしていますからぁ~」

 

 

 

陸遜は普段のニコニコ顔からほど遠い真剣な面持ちで後輩軍師の疑問にすぐに答えた。

 

 

 

孫権「く、このままでは・・・こうなったら、敵軍が疲弊している今、一気に総攻撃を仕掛けるわ」

 

 

 

頭を押さえて次の行動を思案していた孫権の出した答えは、敵軍に休む間を与えず一気に攻め切るというものであった。

 

 

 

陸遜「蓮華さま~、それはさすがに承諾しかねます~。こちらは初戦を落としていますし、兵の動揺もまだ収まっていません~。ここは

 

まずじっくりと攻め、城を囲むのが得策かと~」

 

 

孫権「ぐずぐずしていては、また新たな援軍がやってきてしまうわ!今こちらは兵力では圧倒的に勝っているのだから、数を有効に利用

 

すべきじゃないの!?敵は寡兵で疲れ切っているし、こちらは力を持て余した兵達がようやく全軍そろった!私には結果が必要なのよ!

 

ここは総攻撃をするわ!」

 

 

 

孫権はどこか追い詰められたような鬼気迫る勢いで陸遜の諫言を退けた。

 

孫権の言う通り、先ほどは見えなかった「凌」「陳」「徐」「韓」「蒋」の旗印が加わっており、全軍が合肥に到着したようであった。

 

しかし、いくら数で勝っていようとも、地上戦での経験の差が幾分かあるため何が起こるかわからない。

 

しかも、たった今数を利用したゴリ押しで太史慈が討たれたにもかかわらず、

 

さらにゴリ押しを続けるなどあまりにも愚策であったが、しかし・・・

 

 

 

陸遜「・・・わかりました~。ですが、蓮華さまは総大将ですから、決して前に出ることはないようお願いしますぅ~♪」

 

 

 

陸遜はそのような考えを頭の中だけにとどめ、主君の意見に従った。

 

 

 

孫権「わかったわ」

 

陸遜「蓮華さまの護衛には思春ちゃんと明命ちゃんがついていてくださ~い」

 

甘寧「了解した」

周泰「了解です」

 

 

 

江東独特の褐色の肌に、紫の髪をお団子に結い白い布で覆い、赤を基調にした丈の非常に短い服に黒の襟巻を巻いた少女・甘寧と、

 

甘寧同様褐色の肌に、足元まで延びる長い黒のロングヘアを靡かせ、えんじ色の、こちらも丈の短い装束に身を包み、

 

背中には身の丈ほどの長い刀を差し、額あて、小手、すね当てといった装備を身に着けた少女・周泰は同時に答えた。

 

共に孫権の親衛隊を務め、かつ諜報活動にも長けた万能型の猛将である。

 

 

 

陸遜「では、総攻撃をするのなら、こちらの戦法としては、数の利を活かして、まず隊をいくつかに分けて、波状攻撃を仕掛けて敵軍の

 

先鋒隊を殲滅、次いで敵軍の次軍が出てくるならば、同様に波状攻撃を仕掛け殲滅、城を囲んだ暁に、手早く済ませるために、兵糧攻め

 

は行わずに攻城という流れになりますかねぇ~♪」

 

 

 

陸遜は独特の間延びした口調でニコニコしながら作戦を説明していく。

 

 

 

陸遜「現在、私たちの兵力は約9万ですから、まず前線に3部隊、3万ほどの兵を送りますねぇ~。祭さまが1万4千、陳武(チンブ)さまと徐盛(ジョセイ)

 

ちゃんが8千ずつで出てもらいましょう~。陣形はお好きなようにして下さいねぇ~。前線の総指揮は祭様にお願いします~♪」

 

 

黄蓋「(穏、お主も苦労するのぅ)」

 

陸遜「(いえいえ、たとえ悪手であっても勝ちに導くのが軍師の務めですからねぇ~♪)」

 

 

 

黄蓋は孫権の我が儘に従った陸遜に同情するように小声でつぶやき、陸遜もまた、これが自身の役目とニコニコしながら小声で伝えた。

 

 

 

陸遜「次に中ほどに次軍として同じく3部隊を配置しますねぇ~。亜莎ちゃんが1万、韓当(カントウ)さまと蒋欽(ショウキン)ちゃんがそれぞれ5千ずつ出て

 

もらいましょう~、こちらも陣形はお任せしますねぇ~。次軍の総指揮は亜莎ちゃんにお願いします~♪」

 

 

呂蒙「りょ、了解しましゅ、あぅ・・・」

 

 

 

次軍の総指揮という大役を任された呂蒙は噛んでしまい恥ずかしそうに両手で顔を覆っていた。

 

 

 

陸遜「最後に後詰で凌統(リョウトウ)ちゃんに1万、本陣に蓮華さまと思春ちゃん、明命ちゃん、私で残りの3万を控えさせておきましょう~♪」

 

 

 

陸遜はそこまで説明し終え、最後に孫権が全軍に檄を飛ばした。

 

 

 

孫権「聞け、孫家に仕えし兵達よ!我らが眼前に立ちはだかりしは、天下を戦乱に導かんとする無道の輩である!そして、奴らは我らが

 

愛すべき国にまで牙を向ける勢いを持っている!だから我は剣を持ち、お前達と共に戦場へと赴いた!だが、奴らは寡兵にもかかわらず、

 

我らが兄弟、太史慈を討ち取った・・・・・・彼女の死に報いるためにも・・・・・・そして何より、我らが国を守るため・・・・・・

 

素晴らしき我らが国の民草を守るために、この戦いに勝利しなければならない・・・・・・孫家に仕えし勇者たちよ! 勇ましき我が兄弟

 

たちよ!! この孫仲謀に力を貸してくれ!!!」

 

 

孫兵「おぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

張遼によって出ばなをくじかれた孫策軍ではあったが、全軍そろった今、再び虎の気概を受け継ぎし猛者たちが張遼たちに牙をむく。

 

 

 

 

 

 

【揚州、合肥城・曹操軍本陣】

 

 

伝令「でんれー!孫策軍のせんぽー、太史慈隊を撃破!ちょーりょーしょーぐんがたいしょー太史慈を討ち取りました!」

 

北郷「おお!さすがは霞!やっぱ心配なんて必要なかったな!」

 

 

 

なぜか張遼とはまた少し違う関西弁っぽいイントネーションで話す兵士の伝令を聞き、

 

北郷はさすがとかやっぱ心配いらなかった、などと言っている割にこの中で一番安心しているようであった。

 

 

 

魏延「相変わらず早いな。ワタシの方が兵たちとは長い付き合いのはずなのに、霞のような無駄のない素早い用兵術は真似できん」

 

 

高順「霞はよく兵たちを夕食に誘っては、上下関係を取り払った酒の付き合いをしているそうです。そういったことの繰り返しが、霞と

 

兵たちの信頼関係を短期間で密なものとし、誰も真似できない完璧な用兵術を実現させたのでしょう」

 

 

 

魏延の率直な感想に、高順は思い出すように張遼隊の完璧なまでの動きを実現させる要因を推量して見せた。

 

 

 

北郷「それで、孫策軍の次の動きはどうなんだ?」

 

伝令「はっ、現在孫策軍はよーやく全軍そろったよーです!このまま一気にそーこーげきを仕掛けよーとしているよーです!」

 

魏延「ふん、総攻撃で一気に前哨戦の負けを帳消しにしようというところか。だが、雛里の思惑通り本隊を戦場に引っ張り込めそうだな」

 

鳳統「はい、ですが油断はできません。ここからが勝負どころです。焔耶さん、ななさん、手筈通りよろしくお願いします」

 

 

 

魏延は事が鳳統の思惑通り進んでいることに感心しているようだが、しかし、鳳統自身は一切の安堵のそぶりも見せない。

 

 

 

魏延「小細工は苦手なのだが、了解した」

 

高順「了解しました」

 

 

 

鳳統の言葉に、魏延と高順はともにうなずいた。

 

 

 

楽進「だが、ここからは簡単にはいかないだろう」

 

李典「確かに1万蹴散らしたんはすごいけど、まだあと9万、ここが潮時やろな」

 

于禁「もういつでも撤退できるの~」

 

 

 

一方曹操軍の三羽烏は、もはやここまでと、張遼隊の勝利に対して特に喜ぶこともなく、冷めた視線を送っていた。

 

 

 

高順「ところで、手筈通りは良いのですが、霞が言っていた、私と焔耶が一刀様から離れる際の代わりの護衛の方がまだいらっしゃって

 

いないようなのですが・・・」

 

 

魏延「そうだ、確か霞が自信をもって推薦できるやつなのだろう?」

 

 

 

鳳統の策の中では、北郷の護衛をしている高順と魏延がどうしても北郷から離れなくてはならなく、

 

いくら援軍でやってきているとはいえ、曹操軍の中に北郷一人、

 

それに非戦闘員の鳳統を護衛もなしに置いていくわけにもいかなかったのだが、

 

張遼が孫策軍の先鋒隊を蹴散らし次第、自身の騎馬隊から凄腕の兵を代わりの護衛として向かわせると提案していたのであった。

 

 

 

北郷「まぁ、別にオレは大丈夫だとは思うん―――」

 

高順「ですから一刀様はもう少し君主としての自覚をお持ちになってください!」

魏延「だから親方はもう少し君主としての自覚を持てよ!」

 

鳳統「あわわ~・・・」

 

 

 

高順と魏延はややハモり気味に同時に北郷の相変わらずの危うい無自覚さを諌めた。

 

鳳統がオロオロしているのは、まだこのような通常運転のやり取りに慣れていないせいか、あるいは生来の性格によるものか。

 

しかしその時、

 

 

 

伝令「あのー、その代わりの護衛って自分のことやと思うんですけど」

 

 

 

先ほどの関西弁風発音を扱う伝令兵が、自身が護衛兵であると名乗り出た。

 

 

 

北郷「え?君が?」

 

魏延「キサマがか?どう見ても腕が立つようには見え―――!?」

 

 

 

魏延がそこで言葉を途切れさせたのは当然の結果であった。

 

現在、魏延の喉笛あたりには、どこから出したのか、伝令兵が手にした偃月刀が突き付けられていた。

 

 

 

伝令「確かに腕はねーちゃんには劣るかもしれまへんし、目立った手柄も立てたことあらへん凡将ですけど、そこらの兵卒と一緒にして

 

もらったら困ります」

 

 

魏延「こ、コイツ・・・!?」

 

高順「な・・・!?不意打ちとはいえ焔耶から完全に一本取ったというのですか!?」

 

鳳統「あわわ、あなたはいったい・・・!?」

 

 

 

周囲の驚きをよそに、伝令兵はゆっくりと偃月刀をおろすとかぶった兜を脱いで北郷に跪き、名乗り出た。

 

 

 

張虎「もーし遅れました。自分の名前はちょーこ、ちょーりょーの義弟です。今からしばしの間、たいしょーの御命、自分が預からせて

 

もらいます」

 

 

 

兜をとったその男は、張遼よりもやや濃いめの紫の髪を短く切り、緑の瞳は張遼同様自信に満ちた光を帯びている。

 

そして、張虎は伝令兵の身に着けている軽微な鎧を脱ぎ捨てると、懐から白い大きな羽織を取り出し、身に着けた。

 

背中には「凡将上等」と大きく書かれている。

 

 

 

魏延「霞の義弟だと!?」

 

鳳統「霞さんには義弟さんがいたのですか?」

 

高順「そういえばそのような話を聞いたことがありましたね」

 

北郷(ちょーこだと?ちょーこっていったら、張虎だよな・・・確か張遼の息子だったはずだけど・・・ま、気にしたら負けか・・・)

 

 

 

などと北郷が一人疑問に思い一人で勝手に解決している中、張虎は次いで魏延に向かって土下座した。

 

 

 

張虎「魏延はん、さっきは自分の腕見せるためとはいえ、ぶれーを働いてホンマにスンマセンでした」

 

 

 

ドゴンッいう勢い余って額を床に打ち付けてしまったらしき鈍い音が部屋の中に響いた。

 

 

 

魏延「い、いや、ワタシこそ適当に侮ってしまいすまなかった」

 

 

 

魏延は張虎に不意打ちの一本を取られてから少しイライラしていたようであったが、

 

張虎の予想外の誠意ある謝罪で、そのイライラもどこかに行ってしまったようである。

 

 

 

北郷「それじゃあこれでオレの護衛の心配はいらなくなったな。なな、焔耶、くれぐれも気を付けてくれよ」

 

高順「了解です」

魏延「任せろ」

 

鳳統「ご武運を」

 

 

 

そして、高順と魏延は次なる作戦へ移るため、北郷の護衛を張虎に任せ、合肥城から出ていった。

 

 

 

 

 

 

【揚州、合肥・side張遼隊】

 

 

張兵「伝令!孫策軍が総攻撃を開始する模様!先鋒隊の正確な規模はわかりませんが、少なくとも太史慈隊の数を裕に超えております!」

 

張遼「さよか。どーやらうまいこと敵の本隊を誘き出せたみたいやな。アンタら、こっからが踏ん張りどころやで!気合入れ直しーや!」

 

張兵「応っ!!!」

 

 

 

張遼の鼓舞に応えるように、兵士たちは鬨の声を上げる。

 

 

 

張遼「もう第一段階は成功してるはずや!今度はさっきみたいにただ相手を潰すだけやったらアカンで!上手いこと敵を誘導して孫権を

 

――――――!!」

 

 

 

しかしその時、張遼は話す言葉を止めた。

 

張遼の視界に入ったのは、はるか遠くでこちらに向かっている孫策軍と思しき軍団、そして、その旗印。

 

真っ赤な旗色の中央に描かれた一文字は「陳」「徐」「黄」。

 

中でも張遼が反応したのは「黄」の旗印。

 

孫策軍の宿将、黄蓋軍に間違いなかった。

 

 

 

張兵「将軍?」

 

張遼「あの旗印、忘れへんで・・・黄蓋・・・華雄を射抜いた奴や・・・!!」

 

 

 

兵士たちの戸惑いをよそに、張遼はじわりじわりとにじみ出ていた闘気が一気に放出したかのような気勢を発した。

 

その勝気に満ち溢れた瞳は、激しく燃え盛って爛々としている。

 

 

 

張遼「華雄の仇、今ここでとらせてもらうで!!全隊、突撃や!!!」

 

張兵「応っ・・・って、しょ、将軍?たった今ただ敵を倒すだけではダメだと―――」

 

張遼「紺碧の張旗に続けぇええええええええ!!!!!」

 

 

 

しかし、頭に血の上ってしまった張遼には兵士の声は全く聞こえていないようで、気勢とともに突撃を開始してしまった。

 

 

 

張兵「お、応ぉおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

そして、兵士たちも仕方なく鬨の声とともに張遼に追従した。

 

張遼側は騎兵800に対して、黄蓋側は総勢約3万、再び絶体絶命の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

【揚州、合肥・side黄蓋軍】

 

 

孫策軍の兵士たちは張遼隊がまっすぐ突撃してくるのを視界にとらえると騒めきと共に浮足立った。

 

 

 

孫兵「お、おい!紺碧の張旗だ!!!」

 

孫兵「本当にあれだけの兵で突撃してきやがる・・・!!」

 

孫兵「ひぃ・・・張遼だ・・・神速の張遼が来るぞぉおおおおおお!!!!!!」

 

 

黄蓋「チッ、お主ら!陣形を崩すでない!こちらが油断さえせねば何の問題もない!予定通り陳武隊、徐盛隊はそれぞれ左右に陣を展開!

 

今度こそ確実に鶴翼で飲み込み、三方から波状攻撃を仕掛ける!!」

 

 

 

黄蓋はそのように浮足立った兵士たちを鎮めるために鼓舞したが、しかし・・・

 

 

 

孫兵「俺たちこれだけの兵力で勝てるのか・・・!?」

 

孫兵「いや、そもそもアイツに勝てる奴なんているのか・・・!?」

 

孫兵「無理だ・・・勝てるはずがない・・・アイツは鬼だ・・・!!」

 

孫兵「逃げるなら今しかないぞ・・・!!」

 

 

 

1万の太史慈隊が800の張遼隊に負けたという事実は、孫策軍の心にあまりにも深い精神的傷を負わせていた。

 

 

 

黄蓋「(いかん・・・兵たちの動揺を収めきれぬ・・・!)」

 

 

 

黄蓋は浮足立つ兵たちを見ながら強く歯噛みした。両軍がぶつかるのは時間の問題である。

 

 

 

 

 

 

【揚州、合肥城・曹操軍本陣】

 

 

北郷「でも、本当に大丈夫かな・・・いくら霞とはいえ、敵はまだ9万くらい残ってるんだろ?その内どれだけの兵が出てくるか分から

 

ないけど、少なくともさっきの1万よりは絶対多いはずだし・・・」

 

 

 

北郷は先ほどの強がりなどどこへ行ったのか、心配そうに張遼がいるであろう方向を眺めながら不安を吐露した。

 

 

 

鳳統「1万もの大軍を800の騎兵で退けた霞さん。敵兵に刻み込まれたその恐怖心。相手が大軍であればあるほど、集団心理が働き、

 

恐怖は軍全体へと伝播します。ご主人様、今回の場合は相手が大軍であるということが、逆に相手自身を苦しめることになるんです」

 

 

北郷「それはそうかもしれないけど・・・」

 

 

 

今回、張遼隊がわざわざ1万という大軍相手にぶつかることにゴーサインを出したのは、まさに鳳統が言ったことを起こすためであった。

 

つまり、10万という大軍を相手取るにあたって、まず鳳統が示したのは、

 

集団心理を利用して敵軍を恐怖で縛り、兵の性能を著しく低下させることであった。

 

そのために、前哨戦において張遼が寡兵で太史慈率いる大軍に完勝する、

 

という事実が今回の戦いで勝つための必須条件だったのだが、張遼は見事に鳳統の期待に応えたのであった。

 

 

 

張虎「それに、自分ら張遼隊の二手目は別に敵軍撃破やありませんし、ねーちゃんも自分らが高順はんと魏延はんが二手目を成功させる

 

までは囮やっちゅーことくらい分かってると思います。まー、例えば敵軍の中に、仲間の仇がぁ!とかやったら、作戦そっちのけで突撃

 

しそーな気もしますけど」

 

 

 

この時、張虎は虎牢関の戦いに参加しておらず、北郷も華雄の死について詳しく聞かされていたわけでもない。

 

鳳統については言わずもがな。

 

つまり、この場にいる3人みな、黄蓋が華雄の討ち取られる要因を作った人物であるということを知らなかったのであった。

 

 

 

北郷「まぁ、そんな運悪く仲間の仇がホイホイ現れるわけもないだろうから大丈夫か・・・」

 

 

 

北郷は張遼と黄蓋の因縁などつゆ知らず、鳳統と張虎の言葉を何とか受け入れ、

 

しかし再び不安げな表情で張遼がいるであろう方向をぼんやりと見やった。

 

 

 

 

 

 

【揚州、合肥・前線】

 

 

合肥の前線では、ついに張遼隊と黄蓋軍が激突していた。

 

 

 

張遼「おらおらおらぁっ!!!邪魔や邪魔や!!雑魚に用はない!!どこや黄蓋!!さっさと出てこんかいっ!!!」

 

孫兵「ぐぎゃっ!!」

 

孫兵「ぐぉあぁ!!」

 

孫兵「がはっ!!」

 

 

 

張遼隊は魚鱗の陣をやや縦に伸ばしたような陣形で鶴翼を敷く黄蓋軍に真正面から突っ込んでいた。

 

 

 

黄蓋「舐められたものよ、この辺りには何の仕込みもしている暇はなかったはず。無策に我が軍に突っ込むというのか・・・!」

 

 

 

黄蓋は張遼の蛮行に静かな怒りを燃やしていたが、しかし・・・

 

 

 

孫兵「ひっ、化け物だ・・・勝てるはずがない・・・!」

 

孫兵「殺される・・・俺たちも殺される・・・!!」

 

孫兵「うわぁああああああ!!!!ちょ、張遼だぁあああああああ!!!張遼が来たぞぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 

 

何とか陣を立て直していた黄蓋軍であったが、張遼が次々に次軍の兵を切り倒していく様を見て、再び恐怖が兵士たちを支配した。

 

 

 

黄蓋「落ち着かぬか愚か者ども!!お主らそれでも孫家に仕えし猛者か!?陣形を崩すでない!手筈通り、陳武隊は左翼、徐盛隊は右翼

 

から囲い込み、一気に包囲殲滅する!!」

 

 

孫兵「お、応っ!!!」

 

 

 

今にも瓦解しそうな黄蓋軍であったが、黄蓋のこれまた鬼も逃げ出しかねない鼓舞というよりも怒声に近いものを浴びせられ、

 

何とか踏みとどまった黄蓋軍は、まっすぐに突撃してくる張遼隊を包囲するために動き出した。

 

 

 

 

 

 

張兵「しょ、将軍!!張遼将軍!!お、お待ちください!!」

 

張遼「なんや!!」

 

張兵「敵軍に囲まれております!!」

 

 

 

黄蓋のことで頭がいっぱいになって暴走している張遼に何とか追いついた兵士は、今置かれている状況をなんとか伝えた。

 

 

 

張遼「そんなん見たら分かるわアホ!!それよりも、黄蓋がおるんはどこやと思う!?」

 

 

 

しかし、張遼はせっかくの兵士の言葉を一蹴し、話題を黄蓋に無理やり捻じ曲げた。

 

 

 

張兵「は、黄蓋ほどの武将ならば、やはり全軍を指揮するために鶴翼の中央にいるのでは―――」

 

張遼「やっぱそーやんな!!全軍!!このまま鶴の土手っ腹に風穴開けたるで!!置いて行かれんようにしっかりついてきーや!!」

 

張兵「しょ、将軍!!!!」

 

 

 

それどころではないにもかかわらず真面目に答えた兵士の言葉に納得し、

 

張遼はそのまま飛龍偃月刀を頭上でくるくる回しながらさらなる突撃を敢行した。

 

すでに黄蓋軍の包囲は完了していたが、しかし、

 

 

 

張遼「おらおらおらぁっ!!!邪魔や邪魔や!!死にたくないやつはさっさとどかんかいっ!!」

 

孫兵「ぎゃっ!!」

 

孫兵「ぐへぇ!!」

 

 

 

張遼は次々に黄蓋軍を切り伏せ、切り伏せるたびに大量の返り血を浴び、

 

真っ赤に染まりながら鶴翼による包囲網を強引に強行突破。

 

ついに黄蓋のいる鶴翼本隊までたどり着いたのであった。

 

 

 

張遼「あ!!アンタのその顔、忘れへんで!!黄蓋やな!!」

 

黄蓋「ふん、猪武者め。散々好き放題暴れてくれおって。堅殿、やはりあの時殺しておくべきでしたな・・・」

 

 

 

張遼は顔中に飛び散っていた返り血をぬぐい、偃月刀から滴っていた血を切り払うと黄蓋に構え突撃体制に入った。

 

黄蓋もまた、大弓・多幻双弓を手にすると、張遼に向かって構え、臨戦態勢に入った。

 

どちらかが動いた瞬間が一騎打ちの開始という空気がこの場を支配していた。

 

が、しかしその刹那・・・

 

 

 

張兵「将軍!お待ちください!」

 

 

 

張遼隊の兵が張遼に待ったをかけた。

 

 

 

張遼「なんやねん!!!しょーもないことやったらシバくで!!!」

 

 

 

張遼は目を怒らせて兵士の言葉を退けようとしたが、しかし、兵士もひるまず告げた。

 

 

 

張兵「多くの仲間が未だ包囲を突破できずに取り残されております!!このままではただでさえ少ない兵の多くを失います!!」

 

張遼「今はそれどころやない!コイツを倒して華雄の仇を――――――!?」

 

 

 

しかしその刹那、張遼に電流が走った。

 

 

 

張遼(ちょい待ち・・・なんやこの既視感・・・ウチはなんか大切なことを・・・)

 

 

 

張遼の中で時が止まること一瞬、ふとした疑問が確信に変わった。

 

 

 

 

<伝令!!敵軍の虎牢関内への侵入を許しました!!>

<今はそれどころやない!コイツを倒してからや!>

 

 

 

 

その刹那、再度張遼は雷に打たれたような衝撃を受けた。

 

 

 

張遼(せや・・・あの時もウチの勝手のせいで・・・このままやったら虎牢関の時と一緒やんか・・・!)

 

 

 

そう、かつて虎牢関で張遼が孫堅軍と対峙していた時、

 

主君たる董卓が籠城する虎牢関への敵軍の侵入を許したという報告を受けたにもかかわらず、

 

自身の孫堅と戦いたいという我が儘のせいで報告を無視し、結果、董卓は曹操に討たれてしまったのである。

 

そうと気づいたその時には、張遼はすでに黄蓋の方は向いていなかった。

 

怒りに満ち溢れた荒々しい爛々とした瞳の炎も、静かに熱く燃える落ち着きの色を取り戻していた。

 

 

 

黄蓋「なんじゃ?今更になって怖気づいたなどというのではなかろうな?」

 

張遼「アホぬかせ。ウチはもう同じ過ちは絶対犯さへん・・・仲間を見殺しにするなんて絶対許さへん・・・それだけのことや」

 

張兵「将軍・・・!」

 

 

 

張遼はそう告げると、手にした偃月刀をより一層強く握りしめた。

 

 

 

張遼「黄蓋、ちょっとそこで待っときーや。アンタとの決着は、ウチの仲間救ってからや」

 

 

 

もはや張遼は完全に冷静さを取り戻しており、後に残っているのは洗練された、研ぎ澄まされた鋭く堅固な闘気だけであった。

 

 

 

張遼「悪かったなアンタら。けど、スマンけど、もう一回あん中戻んで。覚悟はえーな?」

 

張兵「勿論です!」

 

張兵「我ら張遼隊、たとえ火の中水の中!」

 

張兵「雨が降ろうが雪が降ろうが槍が降ろうが!」

 

張兵「どこまでもお供いたしますよ!」

 

 

 

張遼の問いかけに、兵士たちの中に、物怖じするものなど一人もいなかった。

 

 

 

張遼「さよか・・・ほなら、行くでアンタら!!この紺碧の張旗に続けぇええええ!!!」

 

張兵「おぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

兵士たちの威勢のいい返事を聞きニヤリと笑った張遼は、包囲網を脱していた数百名の兵士たちと共に、

 

雄叫びを発しながら自ら再び鶴翼の包囲網の中に突撃していったのであった。

 

 

 

 

 

 

黄蓋「な・・・!」

 

 

 

黄蓋は動けなかった。

 

 

 

黄蓋「(今ようやく切り抜けたばかりの死地に、再び自ら飛び込むというのか・・・!ありえん、正気の沙汰ではないぞ・・・!)」

 

 

 

黄蓋はそのようなことを考えながら、ただだまって紺碧の軍団が自軍の包囲網の中に突っ込み、

 

縦横無尽に駆け回り、兵たちをなぎ倒しながら仲間を救っていく光景を見ていることしかできなかった。

 

 

 

孫兵「伝令!!陳武将軍が張遼に討ち取られました!!左翼陳武隊が敗走を始めております!!」

 

黄蓋「なんじゃと!?」

 

 

 

その刹那、黄蓋の頭によぎったのはさきほど兵士たちが口々にしていた言葉の数々。

 

 

 

 

<俺たちこれだけの兵力で勝てるのか・・・!?>

<いや、そもそもアイツに勝てる奴なんているのか・・・!?>

<無理だ・・・勝てるはずがない・・・アイツは鬼だ・・・!!>

<逃げるなら今しかないぞ・・・!!>

 

 

 

 

黄蓋(ええい落ち着け!余計なことを考えるな!わしが弱気になってどうする・・・!)

 

 

 

しかし、黄蓋軍を動揺させる張遼隊の怒涛の立ち振る舞いはとどまることを知らない。

 

 

 

孫兵「伝令!!!徐盛将軍が張遼の攻撃を受け負傷!!それによって右翼徐盛隊に動揺が広がり陣形が瓦解!!両翼の陣は共に散り散り

 

になり混迷を極めております!!」

 

 

黄蓋「くっ・・・!」

 

 

 

兵士の報告を受け、再び黄蓋の頭に兵士たちの言葉がよぎる。

 

 

 

 

<ひっ、化け物だ・・・勝てるはずがない・・・!>

<殺される・・・俺たちも殺される・・・!!>

 

 

 

 

張遼「おー、待たせたな黄蓋!ほなら、こっちの用事はもう済んだし、さっそくさっきの続きや!」

 

 

 

黄蓋が我に返ったその時、すでに目の前には、自軍の兵たちの返り血を浴びて真っ赤に染まった張遼と、

 

大量の紺碧の張旗を靡かせたその配下たちがそろっていた。

 

総勢約700強といったところか。

 

つまり、張遼は鶴翼の陣に囲まれた兵たちのそのほとんどを救い出したことになる。

 

その後ろでは、張遼隊に突破された黄蓋軍の兵たちが死屍累々の態をなしており、

 

生き残っている兵たちも、もはや恐怖と混乱からまともに動けるとは思えなかった。

 

 

 

黄蓋「な・・・なん・・・だと・・・!?」

 

 

 

黄蓋はあまりにも早くに張遼が戻ってきていることに驚きを隠せないでいた。

 

 

 

黄蓋(これが・・・神速の張遼の・・・本領だと・・・いうのか・・・!!)

 

 

 

黄蓋は全身から嫌な汗が噴き出してくるのを感じていた。

 

しかし、実際張遼が鶴翼の陣に再突入してからすでに数時間が経過していたのだが、黄蓋はそのことに気づいていない。

 

いかに経験豊富な歴戦の猛将たる黄蓋とて、張遼の規格外の強さは受け入れがたいものがあった。

 

張遼に対する恐怖は、すでに黄蓋軍を完全に支配していた。

 

 

 

孫兵「無理だ・・・俺は逃げる・・・」

 

孫兵「俺もだ・・・!」

 

孫兵「あんな奴に狙われたら殺されちまう!」

 

 

 

ついには、黄蓋隊の兵士までもが逃げ出し始めた。

 

 

 

黄蓋「く・・・このままでは総崩れは時間の問題か・・・皆、一度退いて陣を立て直す!!退けぇえええ!!!」

 

孫兵「うわぁあああああああああああ!!!」

 

 

 

黄蓋の撤退命令を出した瞬間、何とか踏みとどまっていた兵たちも次々に逃げ出し始めた。

 

 

 

張遼「あ!逃げる気かいな!?待ちや黄蓋!!アンタら、追うで!」

 

張兵「応っ!」

 

 

 

そして、見す見す敵を見逃す張遼ではなく、今度はしっかり兵たちを伴い追撃を開始した。

 

 

 

【第四十五回 第三章B:合肥救援編⑤・遼来来!鳳統の思惑 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

第四十五回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

さて、今回は遼来来ということで、霞無双第二弾になりました。

 

史実でも張遼の無双っぷりに呉の方々は大変恐怖したらしいですが、本作では雛里ちゃんの差し金だったという設定です。

 

そして急に湧いて出てきた霞の義弟、張虎くん。

 

実は今回のお話を作るにあたり、ななと焔耶が戦場に出たら一刀君守る人いないじゃん、ということに清書中に気づきまして、

 

だれか張遼の配下の有名人か関係者は~と考えて急遽名ありモブとして登場させた次第です。

 

一応今後登場機会があるかもなので軽くご紹介をば、、、

 

 

張虎:チョウコ。霞の異母弟、つまり義弟。十代半ば。張遼騎馬隊に所属。口調は関西弁風。やや濃いめの紫の短髪に緑の瞳。紺の袴をはき、白い羽織の背中には「凡将上等」と書かれている。これは、武将としての腕はそこそこあるが、これといった手柄を立てないため特に注目されることもなく、汎将扱いされることが多いため。武器は偃月刀。霞の陽平関での活躍を聞きつけ、成都までやってきて北郷に仕官した。

 

 

本編で一刀君が言ってるように、張虎は本来張遼の息子なのですが、それは恋姫としてあってはならない(?)ので、義弟に変更しました。

 

ちなみに呉陣営の名ありモブの方々は恐らく名前だけモブになりそうなのでキャラ紹介はなしの方向で 汗

 

 

それでは今回も長々となってしまいましたが、次回は雛里ちゃんの策第二段階が発動です!

 

そして呉軍も負けてません!リンとなるあの方がご活躍の予感です!

 

 

それではまた次回お会いしましょう!

 

 

 

何気に張遼の暴走を止めに入った一般兵が美味しい役処、この兵士を張虎にしてもよかったんですよね、、、汗

 


 
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