【 洛陽七不思議 の件 】
〖 洛陽 宮殿内 通路 にて 〗
蒲公英より…………不思議な話を聞いた。
つい最近になり、洛陽に伝わる七不思議。
『年を取らぬ童』
『月様の裏の性格』
『洛陽の《お猫様屋敷》』
『華雄の真名が無い』
『《とある人物》の年齢を語ると、どこからか射られる矢』
『風様が偶に見に行く《こめんと欄》』
『………………………?』
ーーーーー
始めは、新人である私への洗礼かと思っていた…………。
とある日、仕事の休憩中に、馬岱……蒲公英が教えてくれた内容も、この話題。 都では、この話題で持ちきりなんだという。
蒲公英「あぁ~! 蒲公英の言うこと信じてな~い! 顔で分かるんだよ? 顔でぇ~!!」
西涼の錦馬超の従姉妹にあたると聞いていたが………よく喋る女の子だ。
私は、顔を触りながら、可笑しなところが無い事を確認して反論する。
愛紗「しかしだなぁ………このような話は、何かしら訳というか理由が付き物であってだな。 現実に起きている事は少ない………」
蒲公英「へぇ~? 愛紗~怖いんだぁ~? 蒲公英達が怖い話してると、何時もは『怖い物なんかありません~!』なんてぇ~顔して、早足で去っていたけど………やっぱり怖いんだぁ!!」
愛紗「そ、そそ、そんな事は無い!! ただ、青龍偃月刀で処理出来ないから苦手なだけだ!! お、お化けには、足も実体も無いという話だぞぉ!?」
実体があれば、叩き斬るとか縄で捕縛するとか、抵抗出来るのだが………。
★・・・・・・☆・・・・・・★
お化け『………実体が無いから反撃無効。 でも、俺からは好き放題させて貰う! 勿論、お前に拒否権など無~い!!』イヒヒヒヒッ!
愛紗『く、来るな、来るなあぁ~!!』
★・・・・・・☆・・・・・・★
ブルブル! そんな不公平な輩など正直……相手に……したくない!!
蒲公英「………愛紗も『脳筋』って事だったの? ヤダよ、これ以上脳筋増えたら、蒲公英の担当事務処理が増えちゃうよぉ!!」
だ、誰が脳筋だぁ!! 春蘭よりは遥かに……っても、分からないかぁ……。
ーーーーーー
次の日、蒲公英から竹簡が手渡され、七不思議の確認をするように頼まれた。
『公務があるから駄目だ!』と断ったのだが、私の本日の仕事がコレだと申し渡されたそうだ!!
……………『晋』との戦が始まっているのに、私の仕事は……噂の解明か?
しかも、正式な命令書を蒲公英に預けてくるとは…………。
『 洛陽の住民からの、七不思議の解明要望が高まりつつある。 住民慰撫の大事な仕事、董卓軍で真偽を確認をし、速やかに公表しするように。
追記 天城颯馬からの要望により、関雲長が最も適しているとの奏上を受け、関雲長に調査を命ずるもの也 』
私が適任と奏上したのは…………『天城颯馬』様?
な、何故! 天城様が蒲公英の悪巧みに一枚噛んでいるのだ!?
思い当たる事を考えていたら………ありすぎた………。
や、やはり、私の事を憎んでおいでなのだ………ガクッ!
確か、朱里の机に置いてあった『指南書』に『………初めは生娘の如く接し、後は飢える獣のように!』と書いてあった!
うむぅ………きっと、この事を指すに違いない!! 流石……朱里が読むだけの物だ。 私でも分かるように図解入りで示してくれてあった………。
確か、男同士……半裸で格闘をしている絵だったな。 多分、相手を油断させ、隙をみて全力で襲い掛かれというのだろうな。
私は天城様を信用していた分、落ち込みつつ調査に向かった。
◇◆◇
【 真相は……… の件 】
こうして、洛陽七不思議の調査が始まった。
何故、調査する者は、私だけなんだぁ!?
せめて、書記とか連絡する為の要員ぐらい、必要なのでは!?
天城様にお願いしたら……『皆、決戦準備で忙しい!』と断られた。
この調査は、苦渋と困難を極めるな。 ……纏める事が出来たら、自分を自画自賛したい。 褒めてくれる者も居ないだろうしな………。
ーーー
★『年を取らぬ童』☆
他の者に聞いて直ぐに判明。
天の御遣いの一人『山縣昌景』殿だった。
昌景「儂の齢かぁ? ふ~む、六十越えてるのは覚えておるが……はっきりした齢となるとのぉ~?」
信玄「えぇ、変わりませんよ? 私が物心付いた時から変わりません!」
信廉「皺も白髪も無いですからねー? 人魚の肉を食べたやら、不老不死の妙薬を飲んだとも言われてましたが……本人は、何もしてないと………」
あの容姿で六十を越えているだとぉ!?
私は、この事実に唖然とするしか…………なかった。
ーーー
★『月様の裏の性格』☆
あの、お優しい月様が………?
御本人には聞けず、周辺の聞き取りから始めたら……少し分かった。
禁裏兵「次の弾を請求されとき、いつもの董卓様とは違う……禍々しい存在が辺りを覆っていたんです!」
護衛兵「天城様の生死を賭の対象にした、トンデモナイ奴らが居ましたので、董卓様と風魔様が懲らしめる相談をされていました。 お二人共、剣呑な気配を示されましたが、俺も同じ思いだったので、咎める気はありません!!」
そんな時、西涼に居た詠殿が短時間だが………戻られた。
天城様に、策の指示を仰ぎたくて、急遽寄ったという。
詠「あの子は………何か限界を超えると、性格が反対になるというか嗜虐嗜好を好むというか………つまりね、『魔王』になるのよ!」
『魔王』になる?
信長様に関係があるか不明だ。
詠「いいっ!? ぜっっったいに!! 月の事や私が喋ったなんて漏らすんじゃないわよ!? あの子、颯馬にその性癖バレるのが……とても怖がってるから………。 だから、その内容も公開禁止!!」
………仕方ない。 今、仕える主の忠義に報いなければな。
私は、書き留めた竹簡を……人目に付かないよう、庭で焼いて処分した。
月様の部分だけ………適度に誤魔化すか。
ーーー
★『華雄の真名が無い』☆
詳しくは知らないが、華雄殿に真名が無い。
その件で聞こうと部屋を訪ねると………留守だった。
愛紗「また、鍛錬に出掛けたのか? ………あれっ?」
何時も自分の幸せより、主の守護を優先する華雄殿。 密かに尊敬の念を持っているのだが、何時も持って行く金剛爆斧が置いてある。
宮廷内の者に聞くと、川へ向かったと聞く。
胸騒ぎがしたので…………後を追いかけた。
ーーーーーーー
ーーーーー
〖 洛陽 郊外 河川敷 にて 〗
華雄「…………………」ポイッ ────ポチャン!
ハァ、ハァ、ハァー!
どうやら………華雄殿は無事だったようだ!
川岸に腰を下ろし、顔を川に向け……小石を投げている。
でも、様子が変だ……?
『声を掛けてみようか?』……と思い、足を踏み出そうとすると……
華雄「…………愛紗……か?」
顔を此方に向けず、声を掛けてきた!?
愛紗「………何故、分かったのです! 気配が漏れていました?」
華雄「後ろからの足音、呼吸を整えた時の声、それと……これだよ」
華雄殿の指した場所は、自身の左側。 そこに磨かれた銅鏡が置いてあった。
華雄「武人に取って左側は死角だから。 直ぐに誰が来たか分かるように準備してあるんだよ。 このような隙だらけの時でもな………」
私は益々感服して、傍に近付こうとした! この孤高の武人と言葉を交えてみたかったのだが………。
華雄「………すまん、愛紗。 今日は……誰とも会いたくない。 仕事なら別だが……。 とある事情があり、休みにして貰った!」
愛紗「どうしたのです? 貴女程の武人が……泣いている!?」
華雄「──────!」ガバッ!
少し近付いた時に、銅鏡に写し出された物。
…………目を赤くして、落涙数行が克明に分かる、華雄殿の泣き顔だった。
慌てて銅鏡を取るが、既に私に見られている。
顔を見せたくない華雄殿は、こちらを向かずだが、訳を話してくれた。
詳しくは言えないが………と前置きをして。
華雄「私が真名で呼ばれていた記録があったそうだ………」
ポィ───────ッ! ポチャン!
愛紗「───────!」
……『華雄殿の真名があった』と言う報告。
この大陸で真名が無い者など少数。
親より授けられる……自分の根幹になる名前。
それなのに、真名を受けた記憶が無いため名乗れず、署名な将なのに関わらず、『真名が不明の半端者』扱いされ続けたと言う………華雄殿!
どんなに喜んだ事か……多分、私の思っていた以上の喜びようだったのだろう! 真名を最初から知っている私には、とても考えれない気持ちだろうと察しられた。
でも、どうして……落ち込み………泣いて………………?
華雄「その後……詳しく……調査して貰ったら……………」グッ!
……その喜びも束の間。 結局は『誤報』だったそうだ…………。
ポイッ、ポイッ……シュシュシュシュッ!!
ポチャッ! ポチャッ! ポチャッ! ボチャボチャボチャ!
華雄殿は、一掴みして小石を拾い上げて、川面に向かい……滅茶苦茶に石を投げつけた……………。
華雄「………なぜなんだ! どうしてなんだよ! 今頃になって……私に希望を与え……また奈落の底に叩き落とすんだ!? 馬鹿野郎ぅぅぅ───!!」
華雄殿は、座ったまま………大声で叫んだ後、嗚咽を漏らす。
華雄「ううぅぅぅ─────────!!」
正直───声の掛けようがなかった。
『 真名が無い者の気持ちは、真名が無い者しか分からない! 』
私が何か言っても、慰めにもならない。
私は、短くも……ゆっくり想いが届くように……語る。
愛紗「…………それでも、『皆さん』待っています。 貴女の元気な姿を見たい為に。 私も…………待っていますので…………!」
私は、華雄殿に声を掛けた後、宮廷内に戻った。
いつか、時が解決してくれれば………そう想わずには、いられなかった。
ーーー
★『《とある人物》の年齢を語ると、どこからか射られる矢』☆
〖 洛陽 宮廷内 愛紗部屋 にて 〗
蒲公英より貰った竹簡を読み、中身を確認していた。
愛紗「その人物の名は…………こ『シュッーン! ガッ!』………」
一本の矢が、私の顔近くを通り過ぎて………壁に刺さる。
窓を開けて屋根を見た。 庭を見た。 天井も見た。
入り口も見た。 部屋全体を見た。
………………異常は無い。
・・・・・・☆
────よしっ! 調査終了!
ーーー
★『風様が偶に見に行く《こめんと欄》』☆
〖 洛陽 宮廷内 風の部屋 にて 〗
洛陽の三軍師と恐れられた風様が……すっかり怠惰な生活に陥ってしまっている。 原因は、敵の計略が……周到に動いてている為だ。
風様の真名を……松永が謀略を用いて汚したのが原因……だと。
☆★☆ ☆★☆ ☆★☆ ☆★☆
『真名』とは神聖にして─────その人物の魂を示す大事な物。
この世界は……自分達の魂を、他人にも伝わる手段として『文字』を利用した。 五感で伝える事が出来る、簡単で有効な方法。
『目』で見て、『口』で発音し、『耳』で聞く。
『鼻』と『手』は直接の接触は出来ないが、その魂の器である『本人』を知る事の手段になるため、副次な意味合いで利用できた。
☆★☆ ☆★☆ ☆★☆ ☆★☆
ーーー
風「お酒は……二日酔いが酷いから、もう呑まないんですー! 変わりに健康にいい牛乳にしたんですよ!!」
確認と様子を伺いに風様を尋ねると、机の上に………ヤケ酒……では無く、ヤケ牛乳を朝から飲んでいらっしゃる。 近頃は、牛よりも山羊の方が飲みやすいと、にこやかに語ってくれるが、仕事はどうしたんです、仕事は?
バアァ──────ン!
詠「アンタねぇ───!! いい加減に仕事しないよ!!」
風「ぐぅー」コクコク ゴクン!
稟、詠「「寝るなぁ────!」」
三軍師の二人が部屋に突然入り込み、風様に怒鳴りこむ!
しかし、どこ吹く風か………器用に寝ながら牛乳を飲んでいる。
稟「風ぅ! 何時までも策として、仕事をしないんですか!? 松永の策が上手くいっているように見せかける為、風が部屋に閉じこもっていましたが、此方が限界です!! 早く仕事を始めなさい!!」
稟様の言葉を受けて、目を覚ました風様。
風「まぁまぁ……イライラは鼻血の元。 南蛮より手に入れた『混ぜると色が変わるお菓子』を食べれば……怒りも収まりますよ?」
風様は、机の上に乗っていた二つの菓子を混ぜて、捏ねだした。
詠「何やってんのぉよ!! 『練るな!』」
風「起きてますよぉ~?」
ニヤリと笑いつつ、そのまま菓子をこね回していた。
★☆☆
愛紗「良かった! 松永達を嵌める為、演技をしていたのですね!?」
詠様達が怒りながら帰られた後、私が安心すると……風様は力無く笑った。
風「………演技はさっきの態度ですよー。 本当は……精神的にヘトヘトなんです……」グラッ!
愛紗「あっ!!」
倒れそうになる身体を……急いで支える! 思ったより軽い身体だった。
慌てて寝台に寝かすと………息が荒くなり、此方を潤んだ目で見る。
風「ハァハァ………風だって、この世界の人間なんですー。 真名を弄られるのは、極度の精神的負担になるんですよ~。 ……ですが、真の軍師は、逆行をも我が力に変えちゃうんです! 颯馬お兄さんのようにー!!」
愛紗「そ、そんな! 貴女程の軍師が……それ程までの負担を負っていたなんて……!! 申し訳ありません!! 全然気付きませんでした!!」
私は、急いで謝罪して……風様の手を握る!
くっ! こんな細い手で、あんな重圧に耐えさせるとは………!
『松永久秀』なる謀略家の手腕は、風様より上手だと認めざるえない!
しかし、この世界の真名の意味を知りながら……その弱味を突くとは!!
おのれぇ~~!! 松永あぁぁ!! ただではすまさん!!!
風「あ、愛紗さん……。 風は、どうなってもいいんですー! ただ……他の皆さんには、風のような思いをさせたくない……。 だから………力を貸して下さい……。 お願いします…………!」
愛紗「もう、何も言わないで下さい! 必ずや、この関雲長! 松永等を討ち取り───皆を守り抜いて、ご覧にいれます!!」
風「……あ、ありがとうです………ぅ」ポテッ
眠られたか………。
私は、風様の手を優しく布団の中に入れる。
そして、涙が零れ落ちる寝顔に、改めて誓った!
愛紗「風様! ご安心されよ!! この関雲長が、逆賊『晋』を倒し、再び風様の名誉を回復させてみせる!!!」
そう、小さい声で宣言し…………私は、静かに部屋を退出した。
ムッ? 私の役目を忘れてないかって!?
その前に───風様の無念を晴らすのが先決! 無念を晴らせば、その悪意ある掲示も自然に消えるだろう!!
天城様も、話せば分かってくれるさ!!
ーーーーーー
シ────ン
風「……………行っちゃいましたか?」
寝ていた風が、辺りに人が居ないか確認して、寝台から起き出す。
ゴソゴソ ポン!
風「…………えーと、これで十一人目……っと!」
寝台の下から取り出した竹簡に、『風に協力してくれる人』の名前が書き加えられた。 兵士から官僚と色々、この応対で風に同情したり、久秀に対して怒りを覚える者で協力を申し出た者達である。
勿論……風は健康体。 多少?は悩み苦しみもした。 酒を飲んで二日酔いになったのも間違いない。
だが───何時までも弄られたままで、終わる風では無い!!
…………………伊達に面の皮は厚くないのである。
風「ふふっ! 久秀さんに目にモノを見せてあげるですよー!!」
人の義理人情を逆手に取って、駒と扱う……風の人心操作術。
風「おぉー! 今回は関雲長将軍ですねぇ! 頼りにさせて貰いますよ!!」
風が何を考えているのか………知る者は居ない。
◆◇◆
【 猫屋敷の怪 の件 】
〖 洛陽 宮廷内 謁見の間 にて 〗
『洛陽の《お猫様屋敷》』
元宦官十常侍『張譲』の屋敷だった。
もはや、誰も住んで居なかったのに…………いつの間にか、多数の猫達と管理人が住み着くようになった。
ところが、つい最近………夜中まで明かりが灯り、人の話声が聞こえる……と噂が立っていた。 その調査のため、私が向かう事になっている。
ーーー
愛紗「………う、うら若き乙女を……しかも、夜に……一人だけで猫屋敷に向かわせるなんて……な、何を考えているんだぁ!!」
猫屋敷に向かっているが……刻は既に夜遅く (午後10時頃) の時間帯。
★☆★ ★☆★ ★☆★ ★☆★
私は、天城様へ報告と同時に、今から猫屋敷を探索する事を伝えた。
颯馬「……それなら、正体を確かめる為、夜に行かないと駄目だよ?」ニヤニヤ
な、何ですとおぉぉ───!!
わ、私に…………『化け猫の餌食になれ!』っと言われるのかぁ!!
流石の私も天城様の笑顔に腹立ち、反論しようとしたが…………
義弘「アンタねぇ! 戦場で何十何百何千の敵兵を斬ってきたのでしょう? それなのに……なんで、お化け如きに怖がる訳ぇ?」
ご主人様の本家と言う『鬼島津義弘』殿が私に向かい、罵声を放つ!
義弘「ちょっと! なんで『鬼島津義弘』なんて、私限定にするのよ!?」
愛紗「北郷一刀様が申したのだが!?」
義弘「………この世界、ア、アイツの所為(せい)で『鬼』の名が広がたんだよ………うぅぅぅ!!」
歳久「ひろねぇ……異名を伏せる事など無理ですよ? 遅かれ早かれ『鬼』の名は広まるのですから。 『大人しい楚々としたひろねぇ』など……とても思い浮かびません!」
義弘「としちゃんっ!! ひどっ!!?」
鬼島津……いや、義弘様の隣に居た人物が、義弘殿を制し名乗り出る。
歳久「孫呉で紹介されましたが、念の為、再度名乗らせて頂きます。 島津四姉妹の一人、島津歳久。 『天の御遣い』なる大袈裟な異名が噂されていますが……気にされないように願います」
愛紗「はっ、はいっ! ………こちらこそ、宜しくお願いします!」
うぅっ……嫌みを言われてしまった。 気落ちしてしまう………。
いやいや、こんな事では駄目だ。 誠心誠意、お仕えしなければ!!
歳久「天城颯馬より、申し渡されました件ですが……」
★☆★ ★☆★ ★☆★ ★☆★
その後、結局……言い包めら(いいくるめら)れて、向かう事になった。
ーーーーー
トボトボと……夜道を歩いた。
この道が……今後の自分自身の末路に重なって見える。
そのため、夜空の月を見ながら……最後の別れの言葉が紡ぎ出された。
愛紗「 姉上、鈴々、元気で……。 朱里、雛里………皆を頼む。
星……お前の忠告、もっと早く耳を傾けていたらなぁ………。
…………ご主人様、もう一度……お会いしたかった…………」
教えてもらった暗い通路を……月明かりを頼りに進む。
松明を持てば明るいが、猫屋敷の『何か』に気付かれると不味い。
震える足を、無理やり進めさせ………門まで到着する事ができた。
★☆☆
愛紗「此処がそうか………」
大きな門から見上げると……三階建ての大きな屋敷。
かの……十常侍筆頭の張譲が住んでいた屋敷だけある。
庭は、手入れが行き届けられていて、綺麗に掃除がしてあり、窓も壁も廃屋とは思えないほど新しい。 管理を任されている人物は、余程しっかりした人物なんだろう。
しかし、大きいだけに辺りが暗く、光が殆ど分からない状態。
愛紗「こ、この中を……入って、か、か、か、確認しろ………か」
私の頭の中では、『無理! 無理! 無理!』と単語が飛び交い、足は竦んで動けない。 で、でも、任務だ! 入らなければ───!!
──────スッ!
??『まどろっこしい方ですねぇ! サッサと入って下さい!!!』
う、後ろで……声が!?
??『───問答無用! お猫さま方が待ってます!!』
どんっ!!
愛紗「な、何ぃ───っ!?」
後ろを押された私は、暗闇の道をヨタヨタと歩き、扉に張り付く。
ギイィィイイィィイ!! バッ!!!
愛紗「うわあぁぁぁ!!」
扉が急に開いて、前にのめり込み……四つん這いでの状態で倒れた!
何がなんだか分からないが、これで、私の最後だぁ─────!
★★☆
??「………目、開かない?」
??「少し……怖がらせたか?」
??「美以に任せるのにゃ!」
プニプニ! プニプニ!
か、顔に柔らかい者が当たる? な、何んだ!? この気持ちいいのは……。
美以「これでもダメにゃのかぁ! 美以の『肉球』に反応しにゃいなんてぇ───!?」
あぁぁ…………柔らかい物が………遠退いていく………
美以「フゥ───! カプッ!!」
いっ? いっったあぁっっい──────!!
急に青天の霹靂如し展開に、私は付いていけず……転げ回る!
ドタンバタン! ドタッバタッドタッバタッ!
??「止めなさい! 暴れると猫ちゃん達が怖がるでしょう!」
慌てて起き上がり、噛まれたお尻をさすりながら、目を開く……。
もっと客間だったのだろうか? 人が二十人ぐらい寝る事が出来る広間に、猫が二十も三十………沢山いる!!
色々も白、黒、斑目、焦げ茶。 大きさも様々な猫が……寛いでいた。
??「やっぱり遅くなったようねぇ……怖がり屋さん」
??「余りにも遅いので、門まで迎えに出れば………震えながら立ち止まっていました!!」
??「猫……怖い? 可愛いのに…………」
美以「全く失礼にゃ!! 美以は美以なのにゃ!!」
??「……人間、誰でも弱みは有るものさ!」
??「それを克服できるのも……また人間ですからね」
あ、あれ? 聞いた事のある声が…………!!
颯馬「ようこそ……猫屋敷へ!! 歓迎するよ、愛紗!!」
愛紗「………へっ?」
私は事態が掴めず、間抜けな返事で応じる。
そこには、天城様や島津の二姉妹、恋、明命、美以や配下の将が立っていた。
歳久「どうでしたか? 洛陽勢の将達とは……接する事が出来ました?」
歳久様が……私に近付いて……今回の件を説明する。
歳久「今回のコレは、名目は『調査』になっていますが、実質上は『貴女に洛陽や将に馴染んで欲しくて、颯馬が提案した事なんです!」
愛紗「………………………はっ?」
颯馬「君は……責任感が強くて我慢強い。 それは素晴らしい事だけど、何か息抜きはしているのかい? ここには、君の知り合いは殆どいないんだ。 そのまま、緊張ばかりしていると……何時かは倒れてしまうぞ?」
愛紗「そ、そんな事は────!」
明命「私が見ていた限り、会った方にはガチガチでしたね。 もぅー、見ているのが気の毒な程………」
トラ「トラも思う!!」
シャム「シャムも!!」
ミケ「……………zzz」
愛紗「───────!」
恋「警戒心強いのは………自分に自信が無いから。 普段と変わらずボォーとする………皆、集まってくれる……」
義弘「そ、そうよ! さっきは、あんな事言ったけど………お化けを怖がるのは……謝罪の意識が強いからって、聞いた事あるしぃ!
…………颯馬に対して、散々嫌な思いさせたアンタだけど……当の颯馬が許しているのに、外野の私達が恨むのも変だしねぇ。 だから、許してあげる!」
歳久「…………今の敵は『晋』なのに、内部抗争していては、勝てる戦も負け戦になってしまいますから! だから、一時休戦にしてあげます!
ですが……私は……貴女を許してなんかいませんから。 颯馬の受けた苦しみは、まだまだ、こんなモノではないはずですよ?」
颯馬「ま、まぁ……なるべく穏便に………」
愛紗「で、では! 最後のここは!?」
明命「星さんからお聞きしました! 可愛い物が大好きだと!」
★★★ ★★★ ★★★ ★★★
『愛紗の好きなモノ……それは当然、一刀殿だ! クククッ! いやいや真面目に答えるとしよう。 小さい動物なども…よく見ていたな。 猫や犬、小さい子供……やはり、日頃から弄られるから、癒やしが欲しいのだろうよ!
んっ? 私が原因じゃないかって? それは違う! 私は愛紗が心配でな? 誰か達に弄られて、心が弱くならないように、鍛えてあげているのだ! 礼にメンマを私へ贈ってくれても、罰は当たらないぞ!?』
★★★ ★★★ ★★★ ★★★
愛紗「あぁぁのぉ! メンマの遣いは!!!」
明命「……ですから、お猫さま達で、疲れた身体を癒やしては、如何かと!」
愛紗「………………………」
★★★
猫「ミュウ! ミュウ~!」 猫「にゃ~にゃ~!」
ゴロゴロゴロ ゴロゴロゴロ
明命「あぁ~天の国に勝るとも劣らない幸せ王国ですー!!」
義弘「天の国にも、こんなとこ……無いわよ。 それに、お父さんも居ないし! はぁ~極楽、極楽っと!!」
愛紗「………………………」
美以「ん~? 何を固まっているのにゃ?」 ポンポン!
愛紗「………そうか。 私は確かに固かったようだ……。 ご主人様や皆に迷惑を掛けないように、体面を気にして自分を抑えていた。 そうだな、此処なら、羽目を外しても苦情は無いだろう! ならば…………!!」
美以「こ、こらぁ!! 離せ、離せなのにゃ!!」
愛紗「あぁ~猫、猫、猫ぉ! う~ん! 和む、和むぅぅ!!」
美以「シャム、トラ、ミケ!! 美以を助けるのだぁ!!」
ーーー
ミケ「みぃー様………ミケも……」
明命「お猫さま! やはり、お猫さまは、この大きさが最高ですぅ!!」
ミケ「ウニャ───ン! そこ駄目にゃ~!!」
ーーー
トラ「だいおー、トラも………捕まった………」
義弘「あぁ~可愛い可愛い可愛い~~~えへへへ!!」
トラ「ふにゃ~!! ふにゃ~ん!!!」
ーーー
シャム「みぃしゃま…………zzz」
歳久「寝姿を観察するのが………最高ですね!」
ーーーーー
颯馬「楽しんで貰えて良かった。 さて………俺も宮廷に戻り………」
グイッー! ドサッ!
颯馬「お、おいっ!!」
恋「恋も眠い………颯馬も寝る……」
颯馬「恋! 俺は仕事があるから!!」
恋「颯馬も……お疲れ。 だから……早く休む。 皆……心配するから……」
颯馬「いや、まだ仕事が残ってるから………」
恋「駄目!!」
颯馬「…………しょうがないな。 それじゃ、横にさせて貰うよ」
他の将達が騒ぎ立てる中、恋と颯馬は仲良く寝た。
ーーーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
洛陽七不思議の一つ 『猫屋敷』
多数の猫達だけが住む屋敷であるが………夜になると……若い女性達が狂喜乱舞する声が響き渡る……得体の知れない場所として、恐れられている。
ーーーーーーーー
ーーーーーーー
あとがき
最期まで読んでいただき、ありがとうございます。
オマケが長くなったので、別にして出そうと軽く考えたのが運の尽き。
文字数が二千文字しかない、短い物でした。
これでは、話としてつまらないって事で、足しに足しまくり、一万文字数を超えました! 一昨日か昨日に投稿するとほざいてしまい、申し訳ない!
作品中の華雄の話は、なかつきほづみ様の情報を目にしまして、小説で華雄の無念さを表せないかなと思っての事。
作者様に御許可を得るべきか悩んだのですが……情報の元が閲覧可能な場所なので、いらないのではないかと、示唆する者がいましたので……御許可無しでおこないました。 もし、御不快でしたら、削除するつもりです。
こんな話ですが、また、よろしければ読んで下さい。
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義輝記の続編です。よろしければ読んで下さい。