No.702094

インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#124

高郷葱さん

#124:望まぬ帰還



サブタイトル考えるのが一番大変という不思議。

2014-07-20 00:11:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:876   閲覧ユーザー数:850

戦闘開始から、早くも一時間が経過した。

 

その間に起こった事といえば、海上幕僚長座乗の戦艦『あしはら』の参戦と別働隊の戦域突破くらいであり、それ以外は淡々とした消耗戦が続いていた。

 

そう、消耗戦である。

 

撃墜対被撃墜比率(キルレシオ)的にいえば無人機側が圧倒的に負けている状態であるが、そちらに『疲労』という概念は存在しない。

一方の護衛艦隊とIS隊は数字の上では勝っていても元々の絶対数が少ない上に疲れてくればミスもする。

 

さらにゴーレムにはISだろうと艦艇だろうと『当たれば致命傷』となりうる火砲がある。

それに対峙し続けることによる緊張は当事者でなければ図り知ることができないほどの重圧になっている。

 

――この状況で、艦隊に一隻の撃沈も出ていないことはもはや『奇跡』といっても過言ではないだろう。

とはいえ、虎の子の対IS多弾頭誘導弾を撃ち切ってしまい通常の速射砲と対空誘導弾(SAM)で応戦していた数隻が艦隊を脱落している。

 

どうにかしなければ数に勝るゴーレムによって押しつぶされてしまう。

だが、どうしようもない。

 

艦隊直掩を担当しているISがいるからこそ艦隊の被害が抑えられているのであって、彼女らを攻撃にまわせば撃沈される艦も出てくるだろう。

 

 

『あしはら』の砲撃と、別働隊突破の際の置土産(ミサイル一斉掃射)である程度は戦力をそぎ落とすことができたため、艦隊と行動を共にするIS隊もシフト制をとって補給・休憩を行わせる余裕はできている。

その余裕とて機体への弾薬とエネルギーの補給や操縦者への軽食の提供くらいならできるが休息というには大きく疑問が残る程度でしかない。

 

蓄積する疲労、消耗してゆく燃料や弾薬。

 

護衛艦隊のほうも弾薬の底は見えつつある状況での打開策など、『神風(キセキ)』を祈る位になってしまう。

 

 

『現状維持』は綻びはじめており、緩やかに破滅へと向かっていることは誰もが理解していた。

 

何か、打つ手は―――

 

そう、誰もが思うようになったころ…

 

 

 

「ん?」

 

ゴーレムと力比べの最中であったイーリス・コーリングは突然の火器使用宣言(Fox3)に内心で首を傾げつつも、『その場にいると危ない』と告げる自分の勘に従うことにする。

 

押し合いを繰り広げていたところを突然引き、バランスを崩したところに勢いを乗せた回し蹴りを喰らわして強引に距離をあける。

 

一体、何が起こるのかと興味半分に待つこと数瞬。

 

同じようにゴーレムと密着状態であった機の殆どが離れたと同時に輝く羽が大空を舞った。

 

ばら撒かれた羽は寸分たがわずにゴーレムたちへ殺到し―――爆発を起こす。

 

銀の(シルバー)(ベル)?」

 

イーリスはそれに見覚えがあった。

 

親友が試験操縦者(テストパイロット)をやっていた、不可解な暴走事故により解体処分となった試作軍用IS(シルバリオ・ゴスペル)の象徴ともいえる武装だ。

 

「あれは―――!」

 

ちょうど、太陽を背負うようにして佇むISの姿。

 

それはまるで現世に降臨した天使。

 

 

だが、イーリスは思う。

――あの天使サマの中身が自分の予想通りならば間違いなく『天使の皮をかぶった怪物(ナニカ)』だ。それも特段におっかない類の。

だが、現状考えうる最高級の増援でもある。

 

イーリスはそれまで使っていた中刀を収める。

新たに呼び出すのは殴打用籠手(ナックルガード)

 

「よォし、いっちょ殺ってやるか!」

 

気合を入れなおす。

がちん、と打ち合わされた籠手が火花を散らす。

 

それとほぼ同時、圧縮粒子ビーム特有の(大気が灼熱化しながら押しのけられてゆく)音を響かせながら青白い閃光がゴーレムたちに襲い掛かった。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 

 

 

 

 * * *

 

異変に気付いた『打鉄』が光学センサーで情報収集しようと振り返ったのと、その胴体に特殊鋼の杭が押し当てられたのはほぼ同時のことであった。

 

――ズドン。

 

重い炸裂音。

貫通した杭が背中側に突き出し、破片となった部品を撒き散らす。

 

 

その部品を浴びながら、慌てて銃を構えようとする『ラファール・リヴァイヴ』であったが、それは叶わなかった。

 

もう一機の襲撃者が叩き込んだ打突用杭がラファールの非装甲部にめり込む。

 

ばちぃ。

 

閃光と共に高圧電流が流し込まれ、機体を内側から灼いてゆく。

 

時間にして数秒もない時間ではあったが、それでも精密機械(無人化IS制御ユニット)を破壊しつくすには十分であった。

――いくら過電流対策をしていても、シールドの内側に直接高圧電流を流し込まれてしまっては『対策』など無いも同然であった。

 

 

「無力化を確認。」

 

「周辺に敵影、なし。」

 

崩れ落ちた二機の無人機化されたISを余所に、二人組の襲撃者は周囲を伺い、敵影がないことを確認してからそれぞれが使っていた武器を収納(クローズ)する。

腕部固定型の杭撃ち機などという『威力しか取柄のない武器』は、取り回しや使い勝手が極めて悪い。

 

「もう、いいですよ。」

 

襲撃者――空の声にその傍らで待機していた四人組が姿を現した。

 

「ほんと、容赦ないなお前ら。」

 

まず現れたのは舞風西式(ゼファー)を纏ったマドカであった。

 

同じく完全武装状態の楯無、スコールの二人に守られるようにして束が続く。

 

「どうせ無人機だし、下手に手心を加えると後が厄介。」

 

マドカに対して『何当たり前のことを言うんだ』といわんばかりの簪。

 

初撃で打鉄を纏っていた制御ユニットの腹をパイルバンカーでぶち抜いた簪を見て、楯無がパイルバンカー恐怖症(トラウマ)を再発させかけたのは蛇足である。

 

「うん、まあ、それは判ってるんだが…」

 

マドカ自身、速やかに無人機を無力化しろといわれたら制御中枢の破壊を選ぶ。

 

だが、極太パイルバンカーで機体の装甲ごとぶち抜くなどという選択肢はとらないだろう。

 

「――それより、本当にここでいいのか?」

 

おそらく、この話は続けても無益だ。

 

そう判断したマドカは話を変えることにする。

 

話題は、現在自分たちのいる場所について。

 

――彼女たちはいま、学園の敷地の片隅。

緑地化され雑木林となっているその一角にひっそりと立てられた一戸建ての前にいた。

 

平屋建てのその家屋には『用務員室』と書かれた木製のプレートが扉の横に貼り付けられている。

 

「表向きは用務員室ってことになってますが、実際は―――」

 

かちゃり、とドアのロックが外される。

邪魔になるISを解除して中に入るとそこには何の変哲もない板の間と畳敷きの部屋が―――

 

「え?」

 

広がって、いなかった。

 

確かに、入ってすぐの部分は日本家屋らしい畳敷きの部屋が広がっている。

だが、入り口からすれば死角になる部分はそうなっていなかった。

 

まるでアリーナの管制室のような機材がそろえられたそこは『用務員室にある制御板』というには余りに異質すぎる。

 

「――理事長室でもあるんですよ。」

 

答え自体は、酷く単純なものであった。

これはIS学園の最高権力者である理事長が学園のシステムに対して最上位権限を持ってアクセスするための端末である。

 

「ここなら学園施設全体に対して管理者権限でアクセスをかけられます。ジャミングをかけながら情報を遮断してやれば各個撃破も可能でしょう。」

 

「だから、私はこっちだったんだね。」

 

促されるままに束はコンソールの前に立つ。

 

空が渡してきたパスコードで端末を起動させると、いくつものウィンドウが所狭しと展開されてゆく。

 

「それじゃあ、楯無会長、スコールさん。篠ノ之博士の護衛はお願いします。――僕たちは外でお客さんの相手をしてますから。」

 

にっこりと笑みを浮かべた空は腕部のみを部分展開。

 

その手には銃身の下に大型の擲弾発射機(グレネードランチャー)が備え付けられた突撃機関銃(アサルトマシンガン)が握られていた。

 

「―――それじゃ、始めるよ。」

 

束の指が、コンソールに触れた。

 

 * * *

 

電波攪乱(ジャミング)が始まったようですね。」

 

目に見えて慌てている様子を見て、真耶はポツリとつぶやいた。

 

打ち合わせの通りならば、束たち先発隊は無事理事長室を占拠し、メインフレームに対する侵入と学園全域に対する電波妨害を行っているはずだ。

 

同時に、真耶たちがいる場所とちょうど正反対の側で千冬率いる一隊―一夏ら専用機保有者たち―が強襲揚陸を敢行し、盛大に暴れているはずだ。

 

「それでは、私たちも行きましょうか。」

 

「了解だ。」

 

レーダーは束の手によって妨害されている。

 

敵戦力は、突如として現れた『精鋭部隊』の対処にてんやわんやしている。

 

見事なまでに術中にはまってくれている状況に、少しばかり不安を覚えながらも真耶は機体に外付け式ロケットブースターを装着させる。

 

「各機、ステルスモードを維持したまま一気に突入します。目標は第一アリーナの奪還。そこから地下施設へ突入します。」

 

ガトリングガン内臓式の騎上槍(ランス)をしっかりと握り締めながら、真耶は不安を払うべく目の前に意識を集中させる。

 

 

 

全員が突入の準備を完了させたのをしっかりと確認してから、深く深呼吸。

 

もう一度吸って、今度は声にして吐き出した。

 

「突入!」


 
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