No.691009

インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#123

高郷葱さん

#123:飛び立つ戦人たち



サブタイトルのアイディアが浮かばない、ゆっくり描く暇がない、時間があるときでも上手く筆が進まない。

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2014-06-02 01:03:57 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1066   閲覧ユーザー数:1021

艦隊の突出と誘導弾の一斉射で動き出した状況は乱戦というに相応しい混沌具合を見せていた。

 

艦隊は速射砲と高性能機関砲(CIWS)でゴーレムに立ち向かい、その直掩機と化したIS隊が対艦攻撃をさせまいと奮闘する。

 

 

少なくない数に痛手を負わせたとはいえ、まだ稼動するゴーレムの数は多い。

 

 

 

別働隊の母艦は、見事なまでの敵中強行突破を敢行する羽目になっていた。

 

 

 

当然ながら、ゴーレムがその二隻を見逃すはずはない。

 

 

 

寄って集って袋叩きにされるのが目に見えた状態。

 

ゴーレムの砲門が二隻にあわせられる。

 

 

 

―――拙い!

 

 

 

その場に居た誰もが二隻の轟沈と作戦の失敗を覚悟し、それでもあがこうとした瞬間…

 

 

 

 

 

海が、立ち上がった。

 

 

 

 

 

そのまま大波がまるで意思を持っているかのように、ゴーレムの砲撃に割ってはいる。

 

――着弾。

 

熱線砲のエネルギーが熱に変換され、瞬間的に蒸発した水が再び冷却されて白い湯気になる。

 

濛々と立ち込める湯気にエネルギーを奪われ、進路を乱されたビームは海面にたどり着く前に霞と消える。

 

 

 

そのとき、一体何が起こったのかを正確に理解できた者はほぼ皆無であった。

 

『強行突破を図った二隻を狙ったゴーレムの砲撃が、唐突に起こった大波により遮られた。』

 

ただそれだけであるのだが、それが起こった理由が理解できない。

 

波が起こるような気象状態でもなく、そもそもでゴーレムの砲撃をちょうどよく遮る大きさの波が起こるなど奇跡というより異常というべきことだ。

 

誰もの理解が追いつかないまま数瞬が過ぎ、立ち上がっていた波の残りが飛沫を散らしながら元へと戻ってゆく。

 

 

 

一体、何が?

 

 

 

――その答えは波が去った直後に再び二隻を狙って砲撃体勢に入ったゴーレムに上空から襲い掛かった。

 

グシャリ。

 

致命的な破壊音とともに、直撃を受けて胴体部を大きく抉り取られたゴーレムが海面へと叩きつけられる。

 

 

 

そして―――爆発。

 

火薬によるものとは違う、独特な爆発が起こりゴーレムも、護衛艦隊も、IS隊も、その爆心地に注意が傾く。

 

その隙は逃さないといわんばかりに、大量の高機動小型誘導弾(ハイマニューバマイクロミサイル)がゴーレムたちに降り注いだ。

 

高性能爆薬が巻き起こす爆炎。

 

その中から再び大空へと舞い上がった、二機のIS。

 

だが、その二機があけた穴は、突入部隊が強引に押し入るための活路として十分なものであった。

 

 

 

その間隙を縫って、二隻の護衛艦が突破し二機もそれに追随してゆく。

 

追撃しようとしたゴーレムは、置土産だといわんばかりのミサイルと、『送り狼は許さん』と攻撃を再開したIS隊に阻まれ、海面へと叩きつけられた。

 

 

 

 * * *

 

「満を持しておねーさん、参上!」

 

「間一髪だったね。」

 

周囲に群がってきたゴーレムを一蹴し、『しまかぜ』の後部甲板に降り立った二人組を迎えた学園の面々は驚きに目を丸くしていた。

 

「か、会長!?」

 

「母様ッ!?」

 

現れた二人組はどちらも『ここに居るはずのない面々』である。

 

――更識楯無と千凪空。

 

片やキャノンボール・ファストの一件で入院中、作戦に先立って本州へ搬送されたはずの人間であり、もう片方も学園首脳陣謀殺未遂以来行方がわからなくなっていた人間である。

 

その驚きは、一週回った結果、かえって落ち着いてしまうほどの大きなものであった。

 

「無事だったんだな!」

 

「詳しい話は全部まとめて後。今は目の前の大事に集中、だよ。」

 

駆け寄ってきた一夏たちに少しばかり緩めな笑顔を向ける空。

 

その『いつもどおり』な様子に一夏たちの間にあった緊張の糸も少しばかり、緩む。

 

「大遅刻だぞ、千凪。」

 

そこに、千冬たちがやってくる。

その顔には隠そうとして隠し切れない喜びが浮かんでいた。

 

「すいません、織斑先生。ちょっと野暮用を色々片付けてたら遅くなっちゃって。」

 

そういいながら、空は真耶に数枚の紙を手渡す。

 

「これから、陽動の航空隊が敵本拠地を強襲します。第二波と同時に海面すれすれの低空から突入してください。」

 

「了解です。――各員出撃用意。世間知らずなお嬢様に何がしてはいけないことなのか教えてあげましょう。」

 

にこり。

 

童顔な真耶がさらに幼く見える朗らかな笑顔であったが、その場に居る全員は獲物を前にした肉食獣が浮かべる獰猛な笑みにしか見えなかった。

 

「――ああ、そうだ。束さん?」

 

「何かな?」

 

「束さんにお届け物です。ああ、大丈夫。サインも判子も要りませんよ。」

 

下手な冗談と共に渡された、A4サイズのトランクは見た目不相応に堅牢なものだった。

 

指紋認証式のロックを外し、開封する。

 

――中身は、丁寧に梱包された薄桃色の六角結晶体であった。

 

「これって―――!」

 

ISじゃないか。

 

「はい。きっと必要になるだろうからと、持たされました。」

 

束の驚きとそのほかに色々なものが混ざった視線を、空は真正面から受け止めた。

 

「確かに、必要かも知れない。――でも、私は操縦に関してはドがいくつも付く素人だよ?」

 

「その辺も考慮してるといってましたし、最強の直掩機(エスコート)がいます。ですよね、織斑先生。」

 

「ん、まあ。幼馴染に死なれるのは流石に御免被りたいからな。」

 

「まったく、素直じゃないんだから。――おっと。」

 

空は茶化すようにつぶやきながら、ヘッドロックをかまそうと伸びてきた千冬の腕をよける。

 

「うるさい。で、どんな機体なんだ?」

 

千冬の問い。

照れ隠しが多分に含まれているのはその場にいるほぼ全員がわかっていた。

 

「超長距離狙撃に戦域管制、クラッキングまでなんでもござれの電子戦特化機だそうです。武装は自律多目端末(ビット)四基と大口径収束粒子砲(メガ・ビームカノン)を一基。一応、ハンドガンとかの汎用武装もあるはあるそうです。」

 

周囲の全員が興味津々という様子で聞き耳を立てる中で千冬は頷く。

 

「なるほど。これなら運動音痴の束でも大丈夫そうだな。」

 

「確かに苦手だけど、運動音痴は言いすぎじゃない!?」

 

そんなやり取りに、その場が笑いに包まれる。

 

ただ一人、『心外だ!』といわんばかりの束だけは頬を膨らませているがまったくもって怖くもなんともない、むしろ可愛げすらあるために笑い声はとまらない。

 

決戦前とは思えない、気負いなく笑う彼女たちの頭上を幾筋かの飛行機雲が超えて行く。

 

「さて、我々の出番はもうすぐだ。こんなつまらんいざこざで怪我なぞするなよ。」

 

「はいっ!」

 

 * * *

[side:箒]

 

『それでは、御武運を。』

 

「ありがとう。――全機、発進するぞ。私に続け!」

 

ここまで世話になった護衛艦の乗員(クルー)たちに見送られながら、艦後部のヘリ発着用であったデッキから空へと飛び立つ。

 

不恰好な返礼を返してから、指示されるままに編隊を組む。

 

 

 

先頭はラウラと黒ウサギ隊の面々。

 

その後に教員部隊とシャルロット、鈴が陣取る。

 

戦闘となるとエネルギーの消耗が激しい私や一夏、セシリアは最後尾で、山田先生と千冬さんは不慣れな姉さんの手を引きながら私たちの少し前を飛んでいて、空と楯無先輩はその援護に入れる場所に陣取っている。

 

空が持ってきた、姉さんの機体。

 

学園のセキュリティを突破するための電子戦仕様機であり、武装は自律多目端末(ビット)と大口径収束粒子砲くらいしか積んでいないという。

 

ヘッドギアから生える高性能センサーマストがまるでウサギの耳のようで、ビットを接続したスカート状の腰アーマーとあわせて一時期の姉さんがハマっていた『一人不思議の国のアリス風』な服装を彷彿とさせるその機体の名は『朧月』。

 

高性能なセンサーで敵をいち早く補足し、自身はジャミングで位置を悟られぬまま超長距離の砲撃で仕留めるという、ファンシーな見た目からは想像し難い冷徹さを備えた機体。

 

 

―――肩を並べて空を飛ぶなんて、夢にも思わなかった。

もしかすると、この状況こそが空斗さんの望んでいたものだったのかもしれない。

 

 

そんな、他愛もない想像を遮ったのはほかならぬ姉さんの声だった。

 

 

「ん、っと。IS反応を検知したよ。」

 

『電子戦特化機』の名に恥じぬ高性能センサーは早くも学園周辺に展開している機体を補足したらしい。

 

「数は判るか?」

 

「んーと、センサーに限りだと十機も居ないかな。光学センサーの解析結果によるとラファールと打鉄がそれぞれ半々。ゴーレムは見当たらないよ。」

 

吉報と捉えるべきか、凶報と捉えるべきか。

 

少しばかり思案した千冬さんと山田先生はこくり、と頷きあう。

 

「束、当たらなくてもいい。その『デカブツ』で脅してやれ。」

 

「わ、わかったよ。」

 

姉さんの朧月が、右腕に展開した杖状の収束砲ユニットを構える。

 

腰につなげられていた四機のビットも展開し、まるで砲身を形作るかのような位置につく。

 

「エネルギー、チャージ開始。」

 

薄紅色の閃光が、収束砲ユニットの先端部分で周囲から燐光を集めながら輝きを大きく成長させてゆく。

 

そして―――

 

「臨界点突破。擬似砲身、展開。」

 

人の背丈ほどにまで成長した光球がぎゅっと拳大にまで押し込められる。

 

四機のビットからは矢印のようなマークが展開され、砲身の展開完了を告げる。

 

 

―チャージ開始から十数秒。

 

全ての発射準備が整った。

 

 

 

「友軍機の射線上からの退避を確認。――学園上空の第二次攻撃隊も安全圏に離脱を確認。」

 

空の声に、姉さんがゴクリと息を呑む。

 

初陣で、初めて引く引き金。

 

それは、どれほど重いものなのだろうか。

 

「――束。」

 

「収束砲―――発射。」

 

かちり、とごく小さな音であるはずのトリガーが引かれる音が嫌に耳につく。

 

一方で、音も無く極太の閃光が空を駆け抜ける。

 

 

 

決戦。

 

その最終幕がいま始まろうとしていた。


 
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