No.695754 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第四十四話2014-06-22 08:03:37 投稿 / 全14ページ 総閲覧数:6866 閲覧ユーザー数:4831 |
「予想以上に荒れてるな…」
俺達が交州に来てから目に入る光景のほとんどが荒れ果てた土地と壊れた家々ばかり
であった。
「まだ人的被害に関してはほぼ無いようですけど…土地や家がこんなになってしまって
いたら生活を立て直すのもままならないですね」
輝里もこの光景に眉をひそめる。
「南蛮の連中を追い出すだけでなくこの人達の今後の生活再建についても考えていかな
ければいけませんねー」
「その辺りの提言もまとめておいてすぐに陛下に奏上出来るようにしておきましょう」
風と燐里の言葉に俺は頷きを以て返す。
「申し上げます!南蛮の軍勢は占拠していた州都を退去して森林地帯に逃げ込んだ様子
です!」
そこに斥候からの報告が入り、それを聞いた者達は一斉にどよめく。
「州都を放棄?わざわざ城を捨てて逃げるなんて…」
「蒲公英達が大軍だったから恐れをなして逃げたんだよ!」
でも本当に逃げるんだったらとっくに交州からも逃げていくだろうしな…これは罠と
見ておくべきか。むしろ此処で追っていったら向こうの思う壺だろう。
「まずは州都周辺を完全に抑えてから南蛮軍の後を追う!もしかしたら城内に罠が仕掛
けられている可能性もあるので注意しつつ進め!」
俺達が交州の州都に入場して二日、南蛮の連中の動きはまったく無いまま過ぎていた。
「どうだ?何か妙な動きとかは無かったか?」
「いや何も…むしろ何も無さ過ぎて不気味な位や」
及川にも探らせたが、まったく動きを掴む事が出来ずにいた。このままではあまり良
い事は無いな…こちらは遠征軍、補給は今の所問題は無いがあまり長い事動かずにい
ると兵達の士気にも関わるので何もせずにいる事自体が問題になる可能性がある。
「いっそ森に火でもかけて炙り出したら?」
横にいる曹操さんがそんな提案をしてくる。
「それも一考の余地はあるでしょうが…無闇にやって、ただ焼野原だけが残ったなんて
結末になったりしたら今後の交州の運営にも支障をきたすでしょう?それは最後の手
段ですね」
「ならどうするの?」
「一つ考えはあるのですが…作戦とは言い難い物で良ければ」
・・・・・・・
「みぃしゃま、みぃしゃま、起きてください!」
「うみゅぅ~、どうしたにゃ?みぃはずっと森の中で敵を待っていて疲れたから今日は
寝ていたいのにゃ~」
こちらは南蛮軍の陣である。陣とはいってもただ森の中で思い思いに待ち伏せしてい
るだけなのだが。しかし、二日間もじっと待っていた為に逆に皆が疲れてしまい、大
将とおぼしき『みぃ』とよばれた少女が寝始めると他の兵も皆寝入ってしまっていた
のである。
「でもでも、向こうから何だかすごく良い匂いがするのですにゃ!」
「良い匂い?…おおっ!?これは、なかなか良い匂いにゃ!おそらく奴らも待つのに疲
れてご飯を食べ始めたにゃ!これは奇襲する良い機会にゃ!」
みぃと呼ばれた少女はそう言うと眠る仲間達を起こして行動に移ったのであった。
・・・・・・・
「これで本当に来るのですか?普通に考えてもこんなので来るはずが…」
輝里は眉をひそめながら俺にそう聞いてくる。
「大丈夫、大丈夫」
一応、俺はそう言ってなだめるが…まあ、確かに普通は無いよね。でも、もし報告通
りであれば…。
ところで此処で何をしているのかというと、実は普通に料理を作って置いただけだっ
たりする。しかもあまり南方では見かけないような料理ばかりを並べて置いてある。
輝里は絶対こんなので引っかかるわけは無いだのこんなのを作戦と認められないだの
と最後まで抵抗感を示して今も横でぶつくさ文句ばかり言っているのだが。
しかし報告や人々への聞き込みによると南蛮の連中は何よりも食糧に執着を示してい
たらしいので(土地が荒れているのも作物を根こそぎ掘り出していったから)これに
興味を示す事は間違いないと…思うのだけどね…来るよね?
「かずピー、あれ!」
その時、及川が俺を呼びながら指差した方を見ると…来たか!
そこに見えたのは、何だか…猫?のような姿をした者達だった。
「あれが…南蛮兵?」
訝しげに見てると、一人が料理に近付いた瞬間、近くに蒲公英が掘っておいた落とし
穴に落ちてしまう。それを見た瞬間に他の連中の動きが止まり、落ちた仲間を助けよ
うとする。
「本当は全員落ちた所で行きたかったが仕方ない…出撃!」
俺の号令で旗が振られると、隠れていた軍勢が飛び出して南蛮の連中を囲もうとする
が、逃げ足が速く取り逃がしてしまう。
「一刀さん、ダメです追いつけません!!」
「仕方ない、穴に落ちた奴を捕まえろ!」
・・・・・・・
「放せ~~~っ!痛いにゃぁ~~~~~」
そう言って喚いていたのは…やはりどう見ても猫だ。そして既に周泰さんの眼が何だ
かとてもあやしい感じになってきている。
「申し訳ないが放すわけにはいかなくてね。一応君は捕虜って分かってるよね?」
「捕虜!?…まさか、食べる気にゃ!?トラは美味しくないにゃ!やめるにゃ~~~っ」
とりあえずこの子の名前はトラというのだな。
「ええっと、トラちゃん?とりあえず食べはしないから大丈夫。むしろこれをどうぞ」
俺はそう言って餡まんを一個差し出す。
トラは訝しげに匂いを嗅ぐが、甘い匂いに誘われたのか一口食べると途端に眼が輝き
だしてあっという間に食べてしまう。
「どうだった?」
「美味しかったにゃ!お前良い奴だにゃ!」
「分かってくれたら良かった。ところでさ、他の人は今どの辺にいるか教えてくれない
かな?」
「それとこれとは別にゃ。南蛮の者達は仲間を売ったりしないのにゃ」
やはりそう簡単にはいかないか…それじゃ仕方ない。
「孫権さん、少し周泰さんを貸してほしいのだけど」
「明命を?」
「私ですか?」
俺の問いかけに二人はきょとんとした顔になる。
「そう、周泰さんにちょっとやってほしい事があってね…」
・・・・・・・
「みぃしゃま、大変だにゃ!トラが…」
「どうしたのにゃ、ミケ?何があって…にゃにゃ!?」
ミケと呼ばれ子が慌ただしくやってきての報告にみぃと呼ばれた子の眼に飛び込んで
きた物は…。
「やめるにゃぁ~~~っ、トラは猫じゃないにゃ~~~~~っ!」
「まあまあお猫様、そう仰らずに…モフモフモフモフ」
ひたすら周泰にモフモフされ続けているトラの姿であった。
「大変だにゃ!皆、トラを助けに行くにゃ!」
そしてみぃ達は慌ててやってくるのだが…。
「うにゃぁぁぁぁぁ!?何でこんな所に落とし穴があるにゃ!?」
「ふみゅうぅぅぅ…網の中で絡まって動けないにゃ…」
仲間達が次から次へと罠に落ちた為、結局はみぃ一人が逃げ出すのが精一杯な状況に
なっていたのであった。
「おのれぇぇぇ…覚えてろにゃあぁ…」
・・・・・・・
「ねぇ、お兄様?」
「何だ、蒲公英?」
「今此処に二人しかいないんだけど、こいつらもっと一杯いなかった?たんぽぽが作っ
た罠に全部はまったはずだけど…」
蒲公英の言う通り、四方八方に張った罠に全てはまっていたはずの南蛮兵は今目の前
に二人しかいなかったりする。
「そういえば…でも逃げた風には見えないしな。術的な何かで増やしていたとか?」
「…そういうのってありなの?」
「さあ?俺にもさっぱりだけど…」
とりあえずそれについてはおいておくとして…逃げたもう一人の行方を捜す方が先決
だな。一人だけ服装が違って見えたのでおそらくそいつが南蛮の首領と見て間違いな
いだろうし。
そして次の日。
「どう、南蛮兵の様子は…って聞くまでもないか。さすがは周泰さんって所か」
捕まえた南蛮兵の世話を任せた周泰さんの所に行ってみると、完全に周泰さんになつ
いた感じで丸まって寝ていたのであった。
「あっ、北郷様!おかげ様で一晩中モフモフな時間を過ごしましたよ!」
「そう…それで何か分かったかな?」
「はい、こっちの子の名前がミケでこっちの子の名前がシャム、そしてどうやら取り逃
がしたもう一人が南蛮の王だそうで、名前は孟獲というそうです」
なるほど…予想通りあの子が孟獲か。
「それで?何で今になってこっちに攻め込んできたのか聞けたかな?」
「えっ…あっ!?モフモフに夢中でそれを聞くのを忘れてました!」
「忘れるな!!」
・・・・・・・
「申し訳ありません、北郷様…せっかく部下に任せてもらっていたのにこの体たらくで」
「いや、孫権さんが謝る事は無いけどね。南蛮兵を手なずけるという目的は達成してい
たわけだし。それで周泰さん、どうだった?」
「はい、どうやら誰かに『南蛮の総力を以て中原を攻めたら幾らでも美味しい物が食べ
られる』と唆されて来たらしいですが…名前まではあの子達は覚えていないようです」
ふむ…やはり孟獲を捕まえるしか無いという事か。
「でもどうするの?多分もう食べ物で釣る手は使えないわよ。それに残ったのが一人だ
けだから捜すのも容易じゃないでしょう?」
曹操さんの懸念も尤もだが、今となってはそれしか手は…そう思っていたその時。
「申し上げます!山のような巨大な生物がこっちに迫って来ております!!」
慌てて駆け込んで来た兵士の報告に場は騒然となる。
「山のような生物?そんなのがこの世にいるはずが無いでしょう!?」
「とりあえず眼で見てからだ!」
・・・・・・・
「何あれ…あんな生き物見た事無いわよ!?」
外に出ると遠くから大きな動物が迫って来るのが見えて、曹操さんを始め皆がそう騒
いでいたが…。
「やはり象か」
「予想はしてたけどな…でも野生の象はさすがの迫力やな」
俺と及川だけがそう普通に話をしていた。まあ、見た事があるというだけなのでどう
対処すれば良いとかが分かるわけでは無いのだが。
その時、象の上から人影が現れて大声で叫ぶ。
「我が名は南蛮王孟獲にゃ!おとなしく仲間達を返して軍を引き揚げるなら良し、さも
なくば我が巨象で全て踏み潰してやるにゃ!」
それは一人逃げていた孟獲であった。
「みぃさまにゃ!!」
「みぃさま~~~っ!」
「みぃしゃま~、ここにゃ~」
南蛮兵達はここぞとばかりに騒ぎ出す。
「あんな大きい物、一体どう対応すれば…」
「さすがに風もあれは…」
「でもこのままじゃ…」
さすがの輝里達もあんなのが相手じゃ策の立てようも無く半ば呆然と見つめていたその
時、象の前に躍り出る二つの影が…空様と恋だった。でも幾ら二人でも象が相手じゃ…。
「行くぞ、恋!」
「…うん」
しかし二人は自信あり気に頷くと得物を振り上げ一気に地面に叩きつける。その威力で
およそ直径2m程の穴が開き、そこにタイミング良く象の足がはまったと思ったその瞬
間、象はバランスを崩す。象は何とかバランスを取ろうとするが、上に乗っている孟獲
はその揺れに耐えきれず象の前に落ちてしまう。
「痛いにゃ~、でもまだまだ…えっ!?」
何とか起き上った孟獲の目の前に見えたのはそのまま直進してきた象の足の裏だった。
「にゃにゃ!?」
孟獲は逃げようとするが、どう見ても間に合うタイミングじゃない…くそっ、間に合え!
俺は足に気を込めて一気に駆け出す。何か輝里が叫んだようにも聞こえたが、俺はそのま
ま孟獲が踏み潰される前に何とか飛びついて象の足の下から救い出す。
「猛虎蹴撃!!」
それと同時に凪が放った気弾が象に直撃して象は倒れこみ、空様達が倒れた象を拘束
する。
「た、助かった…にゃ」
「良かった、無事のようだね」
「あ、ありがとう…」
「どういたしまして『どういたしましてではありません!』…えっ?」
俺が振り向くとそこには怒りの形相で仁王立ちしている輝里がいた。
「一刀さん…あなたは総大将なのですよ!もしあなたの身に何かあったら、あったら…あ
った、ら…うわぁぁぁぁぁん!!」
輝里はそこまで言った瞬間に泣き崩れる。
「か、輝里…」
「ぐすっ…私が、私が、策を献上出来なかった私が悪いのは分かっています。でも、でも
もう少し立場を考えて御身を大切にしてください。あなたに何かあったら、私は、わ、
私は…えぐっ、ひぐっ、ふえぇぇぇん…一刀さんが無事で良かった…良かったですぅ…」
輝里はそのまま俺に抱き付いて泣き続けていた。
「むぅ…輝里さんに先を越されました。でも輝里さんの言う通りですよ、お兄さん」
「私も風に同感です…でも一刀さんに何も無くて良かったです」
そう言う風と燐里の眼にも涙が浮かんでいた…さすがに少し無茶が過ぎたか。
「あ、あのぉ~~~…」
そこに半ば蚊帳の外となっていた孟獲が声をかけてくる。
「ああ、そうだった。怪我は無いようだね」
「お前のおかげで助かったにゃ…でも何でみぃを助けたにゃ?お前達はみぃ達を討伐しに
来たんじゃなかったのか?あのまま踏み潰されてみぃが死んだ方がお前達の目的に適っ
ていたんじゃ…」
そう言われて考えるが…あれ?
「何でだろうね?確かに君の言う通りだよね…ははっ、良く分からないな。そんなの将と
して失格なんだろうけど…少なくとも俺はあそこで君を助けてなかったら後悔してたか
ら、かな?」
「…変な奴だにゃ。でもありがと『『『みぃさま~~~っ』』』…うにゃ!?」
孟獲がそこまで言うと同時に南蛮兵達が孟獲に飛びついてくる。
「良かったにゃ、無事だったにゃ!」
「みぃさま、元気、元気!」
「みぃしゃま~、良かったにゃ~」
「こら、お前達、やめるにゃ、くすぐったいにゃ」
四人はしばらくそうじゃれあっていた。ちなみに後方でそこに入ろうとする周泰さんを
一生懸命取り押さえている孫権さん達がいたりするのであったが。
「うまいにゃ!こんな食べ物は初めてにゃ!お前、すごいにゃ!」
「そうですか?褒めていただいて光栄です」
それから一刻後、孟獲達は典韋ちゃんの作った料理を食べてとてもご満悦の表情になっ
ていた。
「ふう、まさか典韋の料理をこういう風に使うなんてね…典韋の料理の腕は私が認める位
だし大陸屈指なのよ?」
曹操さんはそう呆れた顔で言っていた。
「でも典韋ちゃんを推薦したのは曹操さんだったよね?」
「それはあなたが『美味しい料理を作れる人を』って言うから…ああっ、もう良いわよ」
曹操さんはそう言いながらも美味しそうに料理を平らげる孟獲を見て微笑んでいた。
「一刀…恋も食べたい」
「えっと…典韋ちゃん、大丈夫かな?」
「はい、料理はまだまだありますから」
典韋ちゃんがそう言うと同時に恋も孟獲達に交じって食べ始める…おおっ、これはなか
なか癒しの光景だな。
皆もそう思っているのだろう、一様にほっこりした表情になっていたのであった。
「流琉…ボクもお腹すいてきた」
「季衣には後で作ってあげるからちょっと待ってなさい」
「ごちそうさまにゃ!」
「満足していただけたようで何より…ところで君に聞きたい事があるんだけど」
「何かにゃ?」
「君達に交州を攻めるように言った奴がいるって話だけど、そいつの名前を教えてほしい
んだけど?」
孟獲は少し考えていたが、
「分かったにゃ、お前には助けてもらった恩があるにゃ。みぃ達に話を持ちかけてきたの
は『もうたつ』という奴にゃ」
名前を教えてくれた。
「もうたつ?他に誰かいなかったの?」
「そいつだけにゃ!」
もうたつ…もうたつ…何処かで聞いた名だな?俺がそう思っていると、燐里の表情が強
張っていた。
「孟達…まさかそれじゃ」
「燐里はそいつを知っているのか?」
「知っているも何も…張松と共に劉焉の腹心だった者です」
「それじゃ…」
「はい、間違いなく後ろにいるのは劉焉です」
くそっ、取り逃がしたのが此処で…これは簡単に終わる話では無さそうだな。
俺は唇を噛みしめながらそう考えていた。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
とりあえず孟獲達との戦いはこれで終わりです。
まだ色々と後処理が残っていますのでもう少しだけ
話が続きますが。
次回は後処理をするのと、北方での動きを少々という
予定です。
それでは次回、第四十五話にてお会いいたしましょう。
追伸 南蛮兵増殖の謎についてはまた後ほどお送りする
予定です。
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お待たせしました!
それでは今回より南蛮討伐編という事で…。
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