No.692436 真・恋姫†無双 異伝「空と命と夢の狭間に」第四十二話2014-06-08 07:47:54 投稿 / 全11ページ 総閲覧数:7173 閲覧ユーザー数:5101 |
「はぁっ、はぁっ、はぁ…死ぬかと思った」
「どうしたんだ、一刀?あんな施術を施さなければならない程の容体に陥るなんて…まるで
猛毒を口にした患者みたいだったが」
「…ある意味あれは毒に匹敵すると言っても決して過言じゃない。今思い出しただけでも震
えが止まらない。あれはもはや人の食べる物じゃない」
俺が今いるのは華佗の診察室である。何故俺が此処にいて治療を受けたのかというと…。
・・・・・・・
~回想~
「一刀、ちょっと良いか?」
昼食を摂ろうと部屋を出た俺に命が声をかけてくる。
「何かあったのか?」
「お主はこれから昼食じゃろう?良ければ一緒にと思っての…その、妾が作った物じゃが」
「命が?」
「妾が作った物では不服か?」
「いや、不服というわけでは無いけど…皇帝自ら料理をするというのがあまり想像出来なか
っただけで。夢の料理は時々食べた事があったけど」
「妾だって料理位出来るぞ。さあ、後は食べてみてのお楽しみじゃ」
命の手料理か…夢も空様もあんなに料理上手だし、これは少しは期待しても良いのかな?
この時の俺はその後で待ち受ける惨劇など思いも寄らなかったのだったが…。
「さあ、遠慮無く好きな物から食べると良いぞ」
命はそう言ってそれはそれは笑顔で勧めるのだが…そこに広がっていたのは、赤一色に彩
られた食材の数々であった。一体どれが何の料理なのだろう?
「なぁ、この赤いの何?」
「唐辛子じゃが、何か変か?」
えっ…この赤いの全部が唐辛子なのか?一体これにどれだけの唐辛子が使われているんだ
ろう…もはや唐辛子の粉の山の中に食材のような物が見えるだけの状態なんですけど。
「どうした一刀?食欲が無いのか?もし無くても辛味は食欲増進の効果があるから一口食べ
れば途端に解決じゃぞ」
「…これって味見とかしたのか?」
「味見?そんなの当然であろう。人に食べてもらう以上は自分で味を確かめるのは最低限の
礼儀ではないか」
…味見したのこれ?っていう事は見た目程辛くは無いという事か?それなら何とか…。
俺はそう思いながらとりあえず一番近くにある回鍋肉のような物を箸に取り一口食べる。
ふむ…確かに思った程の辛さは…辛さは…辛、さ、は…か、ら、さ、は……………。
「モガガル!?」
次の瞬間、俺の口から出たのはそんな必殺シュートを喰らったドイツ人の如き意味不明の
叫び声だった。
何だこれ、辛いじゃない…もはや痛みしか感じない。俺は慌てて水を口にするものの、口
の中の痛みはまったくと言って良い程和らぐ事は無かった。
「どうしたのじゃ?何か失敗したかのぉ」
命はそう言いながら一口食べて顔をしかめる。やはりさすがにこれは失敗だったと認識し
たのだろうか…とか思ったその瞬間、
「確かに少し辛味が足らんな」
そんな事を言い出しやがった目の前の皇帝様は恐ろしい程の勢いでさらに唐辛子の粉をか
け始める。何これ、新手のパワハラか何かですか!?
「うむ、これで良かろう。さあ、遠慮せずに食べると良いぞ」
命はそう言ってそれはそれは清々しい程の笑顔で俺にこの殺人兵器を食すように勧める。
ああ…これは俺も此処で死ぬのか。まだ見ぬ我が子よ、顔も見る事無く先立つ父を許して
くれ。そしてその元凶となった伯母上を責めないでくれ。
俺はそんな事を思いながら覚悟を決めて食べ始める。
「どうじゃ、美味しいであろう?」
命はそう聞いてくるが、もはや俺にはそれに答える余裕は欠片たりとも存在してはいなか
った。既に俺の口も喉も胃の中も辛さなどとっくに通り越した痛みに全てが支配されてい
たからである。しかもどうやら命はこの食事の中に一服盛っているようだ。これは空様の
時と同じ薬だな…まさか命もそういう事を?しかし、それ以上の辛味と痛みによって俺は
そんな気を起こす事はまったく無かったりする。それどころか、薬のせいも相まっておそ
らく俺の血圧は今とんでもない事になってるに違いない。やばい、段々意識が朦朧としか
けてきた。マジで此処で死ぬのだろうか、俺?
そんな事を考えながらも時間は過ぎ、俺は何とか全ての料理を平らげる。もはやこれは奇
跡と呼ぶしか無いな…でも、マジでやばい状態だ。
「どうじゃ、一刀?」
命は何かを期待するかのような眼で聞いてくるが…ああ、やばい。このままじゃ俺の胃の
中からとんでもない物があふれ出して来そうだ。
そこからどうやって俺は華佗の所まで行ったのかはっきり覚えていない。駆け出す寸前に
命が何やら俺を呼び止めるような言葉を言ったような気もするが、その時の俺には一刻も
早く華佗の所に辿り着いて治療を受ける事しか頭に無かった…というより後は朦朧とする
意識との戦いであったというのが正しいかもしれないのだが。
・・・・・・・
「というわけだ」
「…一刀、お前良く此処まで持ったな」
俺から顛末を聞いた華佗が最初に発した言葉はそれであった。
「やっぱりそれほどやばい状態だったか?」
「ああ、おそらく途中で意識を失っていたりもう少し治療が遅れていたらお前の身体にとん
でもない障害が出たかもしれない位のな」
マジですか…はは、良かった、父さん、母さん、俺生きてるよ!生きてるって何て素晴ら
しい事なんだ!
「とは言っても出来れば今日はもう休んだ方が良い。無理はするな」
「分かった…今日はもう寝る」
次の日。
「おはようございます…」
昨日の後遺症という程でも無いのだろうが、何だか重い身体を引きずって朝議の席に来た
俺を出迎えたのは、
「おはよう、一刀…昨日は随分な対応じゃったのぉ」
何だかご機嫌斜めな命であった。
「随分な…何したっけ?」
「覚えておらんとは…ますますけしからぬ事じゃな。食事が終わった後、何を思ったのか妾
の方に皿を全てぶちまけて逃げるようにいなくなったではないか!危うく怪我をする所じ
ゃったぞ!」
そう言って皇帝様はお怒りの様子を見せるのだが…俺、死にそうになったんですけど?
「ええっと…その、ごめん」
「ごめんで済まぬわ!そもそも妾の気持ちを…『命、落ち着け。朝から何をそうカリカリし
ているのだ?』…母様には関係の無い事じゃ!」
そこに空様がやってきて声をかけるが、命の機嫌は収まらない。
「一刀、何があった?」
「ええっと…何と言えば良いのか『一刀、姉様をかばう必要はありませんよ』…夢?」
そこに夢がやってくるが…何だか険しい顔をしてそう言う。
「どういう事だ、夢?命が一刀に何をしたんだ?」
「姉様が一刀に手料理を振舞ったそうです。華佗から聞きました」
「手料理?…命、まさかお前!」
夢の言葉に空様の表情が強張る。
「えっ!?…え、ええっと」
その剣幕に今度は命の方がドモる。
「はっきり言え、どのような料理を出したんだ?」
「その…普通に料理を…」
「一刀、何を食べた?」
命から答えを貰えないと見るや、今度は俺の方に話を向ける。
「一刀、ちゃんと言った方が良いですよ。此処で姉様をかばった所でまた苦しむ者が出るだ
けなのですから」
夢もそう言うのなら此処ははっきり言った方が良いのだろうか?
「ええっと、どんな料理っていうか…全てに唐辛子の粉が山盛りにかかっていたんだけど…」
俺がそう言った瞬間、
「この…大馬鹿娘が!」
空様はその言葉と共に命の頭に拳骨を入れる。
さすがは空様の拳骨というべきか、凄まじい音と共に喰らった命の眼から火花が散ったよ
うに見えたりする…凄ぇ痛そうだな、おい。
事実、喰らった命は頭を抑えてうずくまったまま動けなくなっている。
「お前の好みに合わせたらまともに食べれる者などいなくなるからやめろと何度も言っただ
ろうが!」
「えっ…でも一刀はちゃんと『その後、一刀は華佗の診療を受けて何とか事無きを得ただけ
なのですけど』…本当か?」
「…すまん、あの後まともに会話する事は無理だった。だから命の方に皿をぶちまけたのも
正直ちゃんと覚えてない」
俺がそう言うと命は沈鬱な表情で地面を見つめていた。
「一刀、お前も体験した通り命の辛さ好きは度を越し過ぎていてな、過去に何人も医者送り
になっているんだ。しかし何度言ってもこやつめは理解せんでな、私や夢がいる時はそう
ならないように食事を作らせなかったり辛味の調味料を遠ざけたりしていたんだが…皇帝
になった以上、さすがにそういう事はしないだろうと思っていたのが間違いだったようだ」
「姉様、正直な話今回のは私も許す事は出来ません。しかもただ辛いだけでなく何やら薬ま
で盛ったとか…まだ一刀がこうやって無事だったから良かったものの、何かあったらどう
されるおつもりだったのです?しかも自分のやった事を棚に上げて一刀を糾弾しようとま
で…知らなかったでは済まされませんよ」
「そんな…妾はただ一刀と…それに妾の好みを知ってもらいたかっただけで…」
二人に詰め寄られ、命は完全に泣き顔になっていた。しかし、この光景を見ていると何だ
か命が少し可哀想になってきたような気もするのだが…。
「あ、あの…一応俺も大丈夫だったわけだし、此処は一つ穏便に『一刀は黙ってろ(てくだ
さい)!』…はい」
一応とりなそうと声をかけるのだが、二人の雰囲気はもはやそれを聞くような感じでは無
かった。でもこのまま命が一人追い詰められるのをただ見ているわけにも…仕方ない。
「あっ!?」
俺がそう叫んであさっての方を指差すと、三人の眼が何事があったかとそっちに向く。
俺はその隙に命の手を取ると一気に駆け出す。
空様と夢はあっと言ったような顔をしたが、俺達は一気に二人の視界から消える。
「…まったく、一刀も自分が被害者だというのに甘い事だな」
「まあ、さすがに姉様も今回は反省するでしょうし、今日の所はこれ位にしておきましょう」
二人はそう言うと苦笑いを浮かべていたのであった。
・・・・・・・
「ふう、どうやら見逃してくれたようだな」
俺は二人が追って来ない事を確認すると、命を引っ張っていた手を離す。
「あっ…」
命は何だか名残惜しそうな声をあげるが、何やら言いにくそうな顔をしながら話し始める。
「一刀…妾の料理はそんなに辛かったか?」
「えっ…うん、本人を目の前にしてはっきり言うのも何だけど…あれは正直人の食べる物じ
ゃないって感じだった」
俺がそう言うと命は沈んだ顔をする。
「すまぬ…そうだったとは知らずに、妾は勝手な事ばかり言ってしもうた。その、許してく
れとはとても言えぬが…今度、この埋め合わせをさせてくれぬか?今度はちゃんと食べれ
る物を作るから、な?」
命はそうすがるような眼で訴える。さすがにそう言われると…。
「だが断る」
「えっ!?」
「…というのは冗談だけどね」
「…お主、かなり意地悪じゃぞ、それ」
「ごめん、ごめん」
・・・・・・・
そして三日後、俺の前に並べられた命の作った料理の数々には、前と違ってまったく唐辛
子の赤い色は無い。とても色とりどりで美味しそうだ。
「では、いただきます」
俺は箸を取り、一番近くにある肉団子を一個口に入れる。
「…ど、どうじゃ?」
「…うん、美味しい。凄く美味しいよ」
「そ、そうか!?…良かった」
俺の感想を聞いた命の顔は安堵の色に包まれる。実際、普通に美味しいのだけどね。命も
辛味の量がおかしいだけで、それさえ無ければ問題は無いという事だな。
そして他の料理もとても美味しく、あっという間に全て平らげていた。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったよ」
「そ、そうか…ふふ、そうか、美味しかったか…ただそれだけを言ってもらえるのがこんな
に嬉しいとはな」
命はそう言ってとても嬉しそうに微笑んでいたのだが…。
(でも何としても一刀にも妾の好みの辛さを好きになってもらいたいのじゃがのぉ…何とか
うまくいく方法を考えようかの?母様と夢にばれないように…な)
内心そのような恐ろしい事を考えていた事はまったく気付かなかったのであった。
・・・・・・・
数日後。
「さすがは陛下です!このような美味しい物をお作りになられるとは!」
「そうか、そうか、凪の口に合ったようで何よりじゃ。さあ、ドンドン食べると良いぞ」
命はそう言って凪に料理を勧めていたのだが…。
「まさか陛下が凪と同じ味覚の持ち主とはなぁ…世の中分からんわぁ」
「ううっ…沙和、見てるだけで気分が悪くなってきたのぉ」
真桜と沙和はそう呟くとさっさとその場から逃げ出していたのであった。
(ちなみに命は凪が街の食堂で何時も辛い物を食べているとの情報を聞いて今回の席を設け
たとの事らしい。真桜と沙和は命が労をねぎらってご馳走してくれるらしいと聞いて凪に
ついてきたのだが、赤一色の料理を見た瞬間に『用事を思い出した』と退席している)
「よし、やはり世の中には分かってくれる者もいるという事じゃな!何だか自信が湧いてき
たぞ!!」
命はそう言いながら満足そうな笑みを浮かべていたのであった。
続く。
あとがき的なもの
mokiti1976-2010です。
今回は、命が暴走したお話でした。
しかし山盛りに唐辛子をまぶした料理に薬まで盛られて
よく一刀は華佗の所まで持ったものです…。
ちなみに今回、さすがに空達に怒られた後なので、一刀
には普通に料理を振舞っただけで事には至っておりませ
んので。命とのそういう話はまた後ほどという事で。
そして一応今回で一旦拠点は終わりにして、本編へと戻
ります。
一応、中原には平穏らしき物が訪れていますが、それを
脅かす者達が…という話です。
それでは次回、第四十三話にてお会いいたしましょう。
追伸 作中の「モガガル!?」は昔に週刊少年ジャ○プ
で連載されていた『コスモスストライカー』とい
う漫画に出てきた台詞です。多分知ってる人は少
ないでしょうが。
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それでは今回は拠点の最後という事で…
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