No.690962

紅と桜~私が受け取った大切なひとつ~

雨泉洋悠さん

今日の放送が開始する前に上げたかった!
無理でした…(現在22:35)
放送終了後に作品説明の追記とかやるかもしれません。

2014-06-01 22:43:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:770   閲覧ユーザー数:770

   紅と桜

     ~私が受け取った大切なひとつ~

              雨泉 洋悠

 

 つまりは、そういう事なんよ。この何も聞こえなくなる瞬間に、見える真実。

 それを紡ぎだした者が、それを誰の為に紡いだか、誰に、何を伝えたいのか。

 これに直ぐに気付く事が出来るのなんて、それをずっと見てきた者、だけなんよ。

 それはつまりは、ウチとあの子、この世界でたった二人だけ、一つの想いを共有出来る唯一の、存在だからなんよ。

 

「真姫ちゃん!」

 ライブの後、不意に耳に届く、懐かしい、元気な声。

 ちゃんと来てくれてたんだ!

 私が振り返ると、そこにある、明るいミディアムヘア。

「まこちゃん!」

 手紙の中以外で、初めて呼ぶその名前。

 私がここに来れる為の、最初の力をくれた人。

「ライブ、凄い良かったよ」

 久々に見る明るい笑顔、やっぱり穂乃果に少し似ている気がする。

「何か、中学校時代の真姫ちゃんと全然違ったね。びっくりしちゃった」

 ああ、そう言われると、何か恥ずかしい。

 やっぱりまこちゃんでも思いつかなかったよね、私がこんな事やりだすなんて。

「そ、そうよね。ちゅ、中学の頃の事は、あんまり言わないでよ。は、恥ずかしいから……」

 段々と、小さくなっていく私の声。

 思わず目を逸らしちゃった、そしたらさっきまで向かい合っていた、にこ先輩の顔があって、またちょっと恥ずかしかった。

 だって、にこ先輩何でかちょっと戸惑った感じを出しながらも、いつもと同じ眼で私の事を見ているものだから。

 まこちゃんに突っつかれて、恥ずかしいところを、にこ先輩に見られて更に恥ずかしいとか、自分でも意味わかんない。

「真姫ちゃん、そういう顔、人に見せられるようになったんだね」

 そんな事を、まこちゃんが優しく言うものだから、あの日、自分の想いとか感情を、まこちゃんに見せる事が出来なかった自分を思って、少し切なくなった。

 私は、またまこちゃんの方を向く。

「うん、あの日よりも少しだけ、ね」

 まこちゃんは、私が今の私になることもまだ出来なかった、中学時代の、あの日の、私を知っているから、一番素直に、なれてしまうのかもしれない。

「真姫ちゃん、その人がにこ先輩でしょ?」

 そう言って、私を挟んで反対側に立つにこ先輩の方に視線を向ける、まこちゃん。

「あ、うんそう。あれ?まだ紹介とかしてないのに」

 言いながら、にこ先輩とまこちゃん二人が視界に収まるようにする。

 にこ先輩を視界に入れる時、一瞬だけ見えた、何かを我慢しているような感じの顔が、少し気になった。

 でも、直ぐに部長の顔に戻って、先輩らしさをにこ先輩は見せてくれる。

「アイドル研究部部長で、三年生の矢澤にこです。真姫ちゃんと同じ、ミューズの一員として、活動してます」

 そんな普段見せない、その可愛らしい外見とは裏腹に、ちゃんとした先輩としての、部長としての姿も持っている、にこ先輩。

「尾崎まこです、真姫ちゃんとは、中学時代からのお付き合いなんです。今もお手紙のやり取りをしているので、矢澤先輩のお噂はかねがね聞いてます」

 まこちゃんが、そんな無難な感じの、返答をする。

 にこ先輩は、部長の姿を崩さない。

「よろしくね、尾崎さん」

 どう?まこちゃん、にこ先輩、可愛くて、格好良いでしょう?

 

 そうなのまこちゃん、私のにこ先輩は、とっても素敵な人なの。

 

 にこ先輩の後、皆をひと通り紹介した。

 海未先輩の反応が、何か面白かった、早すぎます!とか言っていたのは、何でだろう?

 ひとまずは、着替えを済ませた後に、私はまた、まこちゃんと二人で話している。

 

 にこ先輩は、まだ着替え中。

 

「真姫ちゃん、矢澤先輩の事、にこ先輩、って呼ぶんだね。手紙の中と同じだね。いつまで先輩付けで呼ぶの?」

 まこちゃんが、見たこともないような、ニヤニヤ顔で言って来る。

「な、何言ってるのよ!まこちゃん、意味わかんない!」

 まこちゃんたら、今度はくすくすと笑ってる。

 

 どっちの仕草も、やっぱり穂乃果に少し似ているなあ、と思う。

 

「解っちゃった、真姫ちゃん。大切なんだね、先輩の事」

 優しい眼差しで、私を見てくれるまこちゃん。

 普段お手紙でも良く出してるし、まこちゃんに対して隠そうとしてもしょうがない、恥ずかしいけれど、私はいつもの様に無言で肯定する事にする。

「呼べると良いね、私の時みたいに、まずはお手紙の中で練習してみたら?」

 ああ、恥ずかしいなあ。でも、そうだね、言葉にまだ出せないなら文字で練習だね。

 私は、まこちゃんを見つめ返す。私の苦笑いで、まこちゃんは全部受け取ってくれる。

「言えると良いね、いつかちゃんと、大切だって事」

 そこでまこちゃんは、視線を逸らす。

「まこちゃん、ありがとう。私がここに来るまでの、最初の一歩。先に進む力をくれたのは、まこちゃんだよ」

 ふいっと、横を向いたまこちゃん。久々に見た、まこちゃんの大きな胸も、一緒に揺れる。

「真姫ちゃん、今日は後片付けもあるだろうし、私帰るね。またお手紙かメール頂戴ね。もう少しだけこっちに居るし」

 そう言うと立ち上がって、そそくさと歩き出すまこちゃん。

「あ、うん。今度は二人で遊ぼうね。あの日みたいに」

 

 私が言ったその言葉は、まこちゃんには聞こえなかったかな?

 

 そんな感じで、まこちゃんの姿が少し小さくなった頃、希先輩が着替え終わって出てきた。

「あれ?尾崎ちゃんはどうしたん?」

 既にそんな呼び方になっている希先輩らしさが、少し羨ましいそんな感じ。

「あ、今日は先に帰るって」

 私はもう大分小さくなっている、まこちゃんの背中を指差す。

 途端に、希先輩が走り出す。

「うち、用事あるの思い出したから後片付け皆で頼むな。ごめんな、大切な用事なんよ」

 口調は柔らかだけど、強い感じを含んで一気に速度を上げ始める。

「それと、にこっちそろそろ着替え終わって出てくるから、後頼むな、真姫ちゃん」

 何て言ってるけど、これはちょっと意味わかんない。

 

 

 

 追いついて声を掛けて、直ぐに尾崎ちゃん気付いてくれたんで、途中まで一緒に帰ろうって誘ったんよ。

「尾崎ちゃん、真姫ちゃんどうだった?」

 さっき一応聞いてみたけど、尾崎ちゃん呼びで大丈夫言うてたんで、遠慮なくそう呼ばせてもらうことにしたんよ。

「素敵でした、今まで見た中で、一番輝いてる真姫ちゃんが見れました。つまりはそれって、この場所に一番輝ける理由があるってことなんですよね?」

 やっぱりなあ、尾崎ちゃん、うちとほとんど同じやん。

「曲が始まる直前、全部の音が消えた僅かな時間。真姫ちゃんの顔見ていたら、解っちゃいました」

 真姫ちゃんとお手紙のやり取りをしているとは言っていたけど、多分まだ確実な何かは感じていなかったんやろうね。

 それを、あの瞬間のみで感じ取るとか、えりちでもできなかった芸当や、うちか尾崎ちゃんでもなければ解らへん。

「私、真姫ちゃんの事、一番理解している自信があります。誰よりも……だから、今日だけはもう一緒に居たくないんです。真姫ちゃんが、矢澤先輩の事ばかり見ている姿、考えている姿、今日だけは、もう見ていたくなかったんです……」

 後半、消え入りそうに、囁くような心の叫び、うちと同じ、それでもうちにはえりちがいるから、ずっと恵まれてると思う。

 尾崎ちゃんは、いまあの日の私と同じなんやね。

 うちが尾崎ちゃんにしてあげられることなんて、これぐらいや。

 尾崎ちゃん、自然と身を任せてくれる。尾崎ちゃんの、心の暖かさ、うちの胸元に染み込んでくる。

「真姫ちゃんのはまだこれからですけど、希さんのはお見事ですね」

 尾崎ちゃん、やっと笑ってくれたんよ。

「そうやね、にこっちのは、もうこれまでッて感じやけどね」

 尾崎ちゃんに、うちの最上位レベルの笑顔見せてあげたんよ、特別やん。

「ひどいですね、希さん」

 笑い泣きの顔でうちを見る尾崎ちゃん。

 

 違うよ、尾崎ちゃん。

 酷いのはね、うちらの事なんか、露ほどにも考えずに、うちらを袖にする、二人の素直になりきれない、ウチラの大切な親友達なんよ。

 

 

 

 絵里先輩に、先に出てきたにこ先輩と、私が無言で並んでいる姿を見られて、後片付けは残りのメンバーでやっておくから早く帰れと追い出されたのがさっき。

 空がオレンジ色に染まる時間、にこ先輩と二人で今も無言で歩いている。

 にこ先輩の、色白の頬に、夕日の色が差して、ちょっと物憂げな表情も相まって、感じさせられる、らしくない色っぽさ。

 可愛いのに格好良くて、幼いのに色っぽくて、先輩なのに、いつもはそんな事感じさせないぐらいに、駄目だったりもする、そんな素敵な人、にこ先輩。

 そんな事、恥ずかしすぎて、まだまだとても言えない。

 

 まこちゃんの言うように、いつか言えるといいな。

 

「にこ先輩、まこちゃんどうでした?私の大切な友達なんです」

 

 その頬が少し赤みを増す、素敵な色。

 

「うん、良い子ね。真姫ちゃんが大切にしている気持ちも、凄く解った」

 少し微笑んで私の方を見るにこ先輩。

 

 どうしてちょっとだけ、淋しげなのかな。

 

「あの子が真姫ちゃんの、大事な始まりだったんだね。それに引き換え私は、始まりなんて情けなかったし、それからもあんまり真姫ちゃんの為になれてないのが、何か申し訳ないなあ、寂しいなあなんて思っちゃったりなんかして」

 おどけて笑ってみせる、にこ先輩。

 何で?どうしてそんな事言うの?もう私はいくつも先輩にもらってるよ?!

「そんな事ない!にこ先輩、私に色んなものを、ちゃんとくれてるよ!まこちゃんと比べたりする必要ないよ!どっちも大切!」

 にこ先輩、びっくりした顔してる。

 ほっぺたが、もっと赤みを増していて、可愛い。

 思わず手が伸びる。

「今度そんな事言ったら、また突っつきますからね!」

 そっぽ向いたふりして、ちらっとにこ先輩の方を見る。

 良かった、先輩いつもみたいに可愛い笑顔で笑ってくれてる。

 

 まこちゃん、大丈夫だよ。

 まこちゃんがくれた、私に蒔いてくれた大切な種が芽吹いて、私がちゃんと、私自身の手で、にこ先輩に向けて伸ばせているから。

 

次回

 

ピアノ

 


 
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