「にゃあ、にゃあにゃにゃあ?」(貴女がアルフの言っていた久遠ですね?)
「くぅ?」(貴女、誰?)
「にゃにゃにゃ、にゃあにゃあにゃ」(申し遅れました。私はリニスと言います。先日、貴女と戦った狼…アルフの師といったところです)
「くぅくぅくくぅ?」(そのお師匠さんが久遠に何か用?)
「にゃにゃにゃっ、にゃ、にゃにゃあ?」(貴女がアルフを倒したと聞きましたので是非私とも一度お手合わせ願いたいのですが?)
「くぅ…」(面倒臭い…)」
……どうも、長谷川勇紀です。
ただ今八束神社に来ております。
今、俺の目の前では子狐と子猫の会話が繰り広げられているっぽいです。
『くぅくぅ』『にゃあにゃあ』では何を言ってるのかさっぱりですけどね。
『はあ~、さっぱり、さっぱり』
…というフレーズが脳内で流れています。
「にゃうにゃうにゃにゃにゃ」(そこを何とか!一応教え子の敵討ちも兼ねて来たのです)
「くぅくくぅくくぅ」(それはそっちの都合。久遠には関係無い)
……動物の言葉を理解出来ないのが悔やまれる。
美緒さんなら理解出来るのに……。
念話使えばリニスさんと会話出来るけど、今は久遠との対話で忙しそうだから俺は何もする事が出来ない。
「せめて他に誰かいてくれたらなぁ…」
俺の話し相手になって貰って時間潰せるのに。
那美さんは今日は神社に来ていない。
…………ヒマだ。
「にゃぁ……」
ん?
俺の足元には元気を無くし、落ち込んだ様子のリニスさんが。
「《どうしたんですか?》」
「《うぅ…何度も頼み込んだのですが、手合わせしてくれないのです》」
聞くところによると、久遠に勝負を申し込んでいたのだとか。
念話によるリニスさんの説明でさっきの『くぅくぅ』『にゃあにゃあ』の会話の内容を知る事が出来た。
てかリニスさん……アンタも
「《あのアルフを瞬殺したという実力…是非この目で見たいと思っているのですが……》」
瞬殺……。
確かに久遠の電撃を浴びたアルフさんは反撃する事無く負けたけど、アレは久遠の唐突の攻撃だったからなぁ…。
悪い言い方をすれば不意打ちとしか言葉に出来ない。
耳が垂れ下がっているリニスさんをそっと抱き上げる。
「《ま、久遠の気が変わるまで待つしかないですよ》」
「《……ですね》」
リニスさんを抱き抱え、胸元に寄せて頭を撫でる。
「ふみぃ~~……(はうぅ……気持ち良いです~~)////」
うむ!!!可愛らしい表情と鳴き声を上げる子猫形態のリニスさんも良いね!!!
ビバ小動物!!!!
「くぅ~~~~……」
はっ!!?
物凄い視線と共に、地の底から聞こえてくる様な低い唸り声が!!?
我が至高の
「くぅ!!くくぅ!!」(こら猫!!勇紀から離れろ!!)
「…………にゃふ♪」(…………ふっ♪)
『くぅくぅ』と吼える久遠をリニスさんは俺の腕の中から見下ろし………不敵な笑みを浮かべた。
「っ!!…くぅ~~~~っっ!!!!」
久遠の怒りゲージがどんどんと膨れ上がっているなぁ。
原因は……言うまでも無く俺が抱いている子猫形態のリニスさんだろう。
「……………………(随分怒ってますねぇ……ん?ならコレを利用すれば…)」
優越感に浸ってるっぽいリニスさんが久遠をしばらく見下ろした後、俺の方を向く。
どうしたんだろうか?
「……にゃうん♪」
「かはっ!」
俺の腕の中でリニスさんがとても愛らしいポーズを取る。それはもう言葉に出来ない程の愛らしいポーズだ。
そのあまりの愛らしさに俺は凄まじい衝撃を受けた気分だった。
「にゃうぅ~~……(せ、せっかくですから……)////」
リニスさんは身体を伸ばし、顔を近付けて来たかと思うと
ペロペロ
「うひいっ!!?」
頬を舐められた。
リニスさんの突然の行為に驚いたのと、ちょっとくすぐったい感じのせいで素っ頓狂な声を上げてしまったよ。
「にゃうにゃう(な、なな、舐めちゃいました!勇紀君の頬を舐めちゃいましたよ!!)////」
つぶらな瞳で見つめてくるリニスさんに、理性を崩された俺は気付けば頬擦りしまくっていた。
「リニスさん可愛いッス!マジパねえッス!!これからもその姿でいて下さい!!!」
「にゃうぅ……(可愛いと言ってくれてはいますが……あくまで
「くうぅ~~~!!!!」
ドカッ!!
「痛っ!?」
俺の足に何かがぶつかった。
それは久遠だった。どうやら俺の足に体当たりした様だ。
「はっ!!?俺は一体何を!!?」
久遠に攻撃され、足に感じた僅かな痛みと衝撃のおかげで正気を取り戻した俺。
確かリニスさんの愛らしいポーズを見て頬を舐められてから暴走した様な……。
「くぅくぅくぅ!!!!」
俺の足元では久遠が超怒っている。前足で俺の靴をペチペチと叩いていた。
そういやさっきから久遠の事全然構ってなかったな。
もう一度、俺はリニスさんに視線を戻すと
「にゃう♪」
「くっ!!」
再び愛らしいポーズを取るので俺は即座に視線を逸らした。
あ、危ねえ危ねえ…。あのまま見続けたらまたリニスさんに魅入っていたかも。
……ま、まさか!!?
これは子猫が放つ『ニコポ』ならぬ『ネコポ』なのでは!!?
だとしたらとんでもない威力だ。小動物をこよなく愛する俺にとっては効果覿面。下手したらリニスさんの魅力にメロメロになって堕とされていたかもしれない。
こりゃリニスさんに視線を合わせる時は注意しないといけないかも。
久遠の嫉妬による電撃攻撃だけは勘弁してほしいからな。
「くぅ!!くくぅ!!!」(猫!!降りて来い!!久遠、勝負受ける!!)
「にゃ?にゃうにゃう?」(へ?私としては願ったり叶ったりですが何故心変わりしたんです?)
「くうぅ!!くぅくくぅ!!」(勇紀を誘惑する悪い奴は久遠が退治する!!!)
「にゃ……にゃあにゃあ」(あぁ……そういう事ですか)
……何だか再び言い争ってるんですが?
んお?
俺が抱いていたリニスさんがスルリと抜け出し、地面に向かって飛び下り、華麗に着地する。
そして睨み合う小動物達。
しばらくは沈黙が続いていたが、誰かが合図を出した訳でも無いのに、2匹の小動物は同時に動き相手に襲い掛かっていた………。
神社の縁側に座って小動物同士の決闘を眺める俺。
ただ、先日のアルフさんVS久遠の時の様なじゃれ合う感じの戦いでは無かった。
「にゃううぅううう!!!!」
リニスさんの鳴き声。
久遠の攻撃力が下がった。
「くぅ~~~っっ!!!」
久遠の睨みつける。
リニスさんの防御力が下がった。
「にゃうっ!!」
バシュッ!!
リニスさんの引っ掻く。
久遠はダメージを受けた。
「くぅ!!」
ドカッ!!
久遠の体当たり。
リニスさんはダメージを受けた。
「にゃううぅぅ!!」
バキッ!
リニスさんの跳び蹴り。
久遠はダメージを受けた。
「く!!く!!く!!」
シュッシュッシュッシュッ!!!
久遠の高速移動。
久遠の素早さがグーンと上がった。
……………………。、
俺は2匹の決闘がどう見てもポケモンバトルにしか見えない。
気付けば脳内でポケモン風のメッセージを流していた。
あの2匹にとってはガチのバトルなんだが、繰り出す技は魔法や妖力じゃなく物理技ばっかであり、ポケモンの技に変換出来てしまうのだ。
……これはこれで面白いな。
俺は脳内でメッセージだけではなく戦闘時のBGMも流しながら2匹の決闘の行く末を見守る。
「くぅ!!!」
ドカッ!
久遠の頭突き。
リニスさんはダメージを受けた。
「にゃにゃにゃにゃにゃ!!!」
バシュバシュバシュバシュ!!
リニスさんの乱れ引っ掻き。
4回当たった。久遠はダメージを受けた。
「くお~~~ん!!!」
ドゴンッ!!
久遠の捨て身タックル。
リニスさんはダメージを受けた。久遠は技の反動を受けた。
あ、久遠の奴、少しフラフラしてる。
無理も無いわな。捨て身タックルは自分にもダメージが返ってくる技だから。
けど今の一撃はリニスさんにも結構ダメージ与えたみたいだし。
……ゲームでいう
「みゃうっ!!」
ガブッ!!
リニスさんの噛み付く攻撃。
久遠はダメージを受け、怯んだ。
痛そうだなぁ…。
「くうぅぅぅ!!!」
久遠の気合溜め。
これで久遠の攻撃はリニスさんの急所に当たり易くなったな。
「にゃにゃにゃにゃにゃ!!」
バチンバチンバチン!!
リニスさんの往復ビンタ。
3回当たった。久遠はダメージを受けた。
リニスさんは器用に後ろ足で立ち、二足歩行したまま久遠に近付いて前足で叩く。
「くぅ!!く!!く!!」
ピョコピョコピョコ!
久遠の剣の舞。
久遠の攻撃力がグーンと上がった。
……ちなみに俺の心に対する効果は抜群だ。
あまりにも可愛らし過ぎる踊り……モフりてぇ。
「にゃんっ!!」
バキッ!!
リニスさんの回し蹴り。
久遠はダメージを受けた。
……どうでも良いけど、ここまで攻撃されてどうして久遠もリニスさんも一歩ものけぞったり吹っ飛んだりしないんだろうか?
今の回し蹴りとかどう考えても吹き飛ばされる程の威力なのに。
謎である。
「くぅ!!」
ズシャッ!!
久遠の砂かけ。
リニスさんの命中率が下がった。
「うにゃっ!!」
リニスさんの砂かけ。
久遠の命中率が下がった。
このターンはお互い同じ行動を行ったか。
リニスさんも久遠も前足で自分の目元を拭っている。
……ポケモンでもああやって砂を払えば命中率が戻るんじゃないのか?
「くぅくぅ!!」
ドカッ!
久遠の二度蹴り。
1回当たった。
砂かけの影響か1回は外れてしまった。
「にゃ、うーーーん!!!」
パアアァァァ…
リニスさんの
リニスさんの
……リニスさん、治療魔法使えたのか。
「くぅーーー!!!」
バリバリバリ!
久遠の
リニスさんは身体が痺れて技が出にくくなった。
あ、マヒ状態だ。
「(ていうか……)」
遂に魔力、妖力を使い始めましたか。
俺はそっと認識阻害と人払いの結界を張る。第三者の目に見られない様に。
「くぅ!」
バチッ!
久遠の
リニスさんはダメージを受けた。
「にゃお!」
ビュビュビュ!
リニスさんの
久遠はダメージを受けた。
……命中率が下がっても誘導弾なら関係無いよねー。
「くぅ!!」
パチンッ!
久遠のはたく。
リニスさんはダメージを受けた。
「にゃ!」
ボスッ!!
リニスさんののしかかり。
久遠はダメージを受けた。久遠は身体が痺れて技が出にくくなった。
久遠までマヒしちゃったかー。
「くぅくぅ」
チリンチリン
久遠の癒しの鈴。
久遠は状態異常から回復した。
あの鈴ってそんな便利な効果があんの!?流石にビックリだよ!
「うにゃっ!!」
ズビシッ!
リニスさんの空手チョップ。
久遠の急所に当たった。久遠はダメージを受けた。
「くぅぅぅ……くおーーーーん!!!」
バリバリバリバリバリ!!
久遠の10万ボルト。
リニスさんはダメージを受けた。
……………………。
「久遠もリニスさんもヒートアップしてきてるなぁ」
こりゃ、認識阻害、人払いだけじゃなく普通の結界も張って空間を切り離した方が良さそうだ。
そう思った俺は追加で結界を張る。
これで2匹共、本気で魔法、妖気をブッ放しても神社に影響はない。
……結界を貫通されなければの話だが。
「にゃ……うーーーーーん!!!!」
バシュウウゥゥゥゥゥッッッ!!!!
リニスさんの
久遠はダメージを受けた。
……だから吹き飛ぼうよ久遠。どう見ても今の一撃は吹き飛ぶ筈の威力だから。
「く、く、くううぅぅぅーーーーーーっっっ!!!!!」
ピシャアアアァァァァァンンンッッッ!!!!!
久遠の
リニスさんはダメージを受けた。
……おいおい、見た目からしてシャレにならんぞ。さっきリニスさんが放った
「……………………」
ん?
リニスさんが静かになったな。
パワーを溜める技でも出すつもりなのか?
「…………にゃううぅぅぅ………」
パタッ
倒れた!?……て事はこの勝負…
「くぅ~♪」(久遠の勝ち~♪)
…どうやらリニスさんは教え子の敵討ちを出来なかった様だ………。
久遠とリニスさんのポケモン風バトルが行われて少し時が過ぎ…。
今日は世の中の恋人同士がイチャイチャチュッチュする日……クリスマスである。
そして世の独身男性が世界を呪う日と言っても過言ではない。
ちなみに俺も呪う側の人間だ。……彼女ほしいです。
…まあ、そんな事は置いといて俺は現在……
「ジェットスマッシャー!!」
「えいっ!!」
…神社とその周囲一帯を結界で囲みながら、リニスさんと久遠のガチバトルを観戦中です。
リニスさんが放った砲撃と久遠の電撃がぶつかり、爆発を起こす。
今日はリニスさんも久遠も人型でのバトル中。
リニスさんのリベンジマッチという訳だ。
大人姿のリニスさんに対し、久遠は子供形態だが実力は伯仲してるなぁ。
「あの威力の電撃をほぼノータイム……脅威としか言い様がありませんね」
リニスさんは目を細め、久遠を一層警戒する。
気持ちは分かりますけどね。
久遠の放つ電撃……というより妖力を用いての攻撃には『溜め』が無いからねぇ。
それでいて真っ向から砲撃魔法を迎撃、相殺出来るだけの威力があるんだもん。並の魔導師なら一発で倒せる。
後、殺傷攻撃。バリアジャケットの強度が薄いとヤバい事間違い無し。
「くぅ……猫の姿の時より強い」
久遠も久遠で空中にいるリニスさんを見上げながら言う。
まあ、小動物の姿は省エネモードみたいなもんだからなぁ。
「アルフが負けたというのも納得出来る強さですね」
いえ…アルフさんと久遠は人型で今みたいなガチバトルはしてませんよリニスさん。
「私も前回は負けましたが……今回は必ず勝たせていただきます!!」
「くぅ…久遠も負けるつもりは無い」
…リニスさんに触発されて、久遠もやる気が出ている。
てか久遠も大人モードになれば空飛べるのに。
「(変身する気は無いのかな?)」
久遠なら大人モードにならなくても空戦魔導師相手に遅れは取らんだろうけど、それはあくまで一般の魔導師の場合。
リニスさんクラスの相手だと結構苦戦しそうだが…。
リニスさんと久遠を交互に見ていたら再び、砲撃と電撃が飛び交い始めた。
「セイバースラッシュ!」
リニスさんは砲撃後、すかさず誘導弾で追撃を掛ける。
正面、右、左の3方向から誘導弾が久遠に迫る。
「くぅ!!」
バックステップしながら誘導弾を1つずつ電撃で落としていく久遠。
「これはどうですか?」
「っ!!?くぅ!!!」
今度はバインドで久遠を拘束しようと動くリニスさんだが、久遠はそれを躱し、反撃の一撃をリニスさんに放つ。
リニスさんは障壁で久遠の電撃を防ぐが
「っ!!?彼女は何処へ!?」
一瞬、電撃に意識がいった瞬間久遠を見失い、すぐさま下を見た時には久遠の姿を見失っていた。
「やぁ~~~~っ!!!」
「っ!!?」
当の本人は足に妖力を込め、一瞬でリニスさんよりも高い場所にまで跳んでいた。
今は重力に引かれ、自由落下しながら大きく片足を振り上げている。
「くっ!?」
咄嗟に身体を捻って振り下ろされた久遠の片足…踵落としを回避するリニスさん。
そのまま地面に着地した久遠は再び上を見上げる。
「もう一度…ジェットスマッシャー!!」
砲撃を放ったリニスさん。今度は先程より威力が低い分、速度を重視しているためグングンと久遠に迫る。
「えいっ!」
「んなっ!?」
俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
久遠は妖力を前方に展開して、リニスさんの砲撃を別方向に弾いた。
ただ、弾くだけなら驚きはしないが久遠の前に展開された妖力は俺達魔導師が展開する障壁と瓜二つの形だった。
おいおい…
「久遠…いつの間に障壁なんて張れる様に……」
「見て覚えた」
マジかよぉ…。
久遠にそこまでの戦闘センスがあるなんて全然知りませんでしたよ。
しかもあの障壁、メッチャ硬そうだぞ。
「……その障壁、私の砲撃魔法で突破するのは厳しいですね」
「えっへん♪」
あ、ちょっと嬉しそうだな久遠の奴。
けどリニスさんの呟きは当たってるだろう。
俺だって
障壁破壊の効果を持つクリュサオルでも突破は厳しい。
まあ、俺が久遠に攻撃するなんて万が一どころか兆に一の確率も有り得ないが。それこそ『とらハ3』みたいに久遠が暴走でもしない限りは。
久遠はゆっくりと妖力で作った障壁を解く。
「???何故、障壁を解くのですか?」
「コレ使ってたら攻撃出来ない」
ああ……そういう事か。
あんな硬い障壁張りながら攻撃出来たら、リニスさんからすれば無理ゲーも良いとこだよな。
「攻撃と防御が同時に出来ない……なら私にも勝機は充分ありますね」
「同時に出来なくても久遠、負けるつもりは無い」
……うーん。
このままだとリニスさん、負けるんじゃね?
ただでさえ飛行魔法で魔力を少しずつ消費してるのに、攻撃魔法使ってたら余計に魔力が尽きるのが早くなる。
逆に久遠は飛んでない分、無駄に妖力消費してないしリニスさんの行動に合わせて攻撃又は防御に妖力を使えば良いだけだ。
「やあっ!」
久遠が手をリニスさんに向かって掲げるとリニスさんの両手両足に、光輪がはめられる。俺達魔導師にとってはソレは見慣れた物……バインドだった。
「マジか!?」
久遠の奴、妖力でバインド作りやがった。
「バインド!?私が全く感知出来ないなんて!!」
リニスさんも拘束されて初めて気付き、驚愕する。
「くうぅ……」
久遠は低く唸り、指先に妖力を集め始める。
普段使う電撃ではなく純粋な妖力の塊。
…もう俺達が使う砲撃魔法と遜色無い。行使する力が魔力か妖力かっていうだけだ。
攻撃と防御は同時に出来なくても、攻撃とバインドは同時行使が可能なのか。
今の久遠はシュテルやなのはを連想させるなぁ…。
「食らえーーーっ!!!」
久遠の叫びと共に指先から放たれる妖力の砲撃。
まるで幽遊白書に出て来た霊丸だぞ。見事に妖力を放出してるポーズがソレと一致してるもん。
……何て呑気に思ってる場合じゃない!!
あんな威力の砲撃をまともに受けたら……
ドオオオオォォォォォォンンンンンッッッ!!!!!
妖力のバインドで縛られていたリニスさんは避ける事が出来ず、直撃を受ける。
しばらくは空中に爆煙が舞う。
だ、大丈夫かリニスさんは?
非殺傷じゃない砲撃をまともに受けて下手したら……
徐々に煙が晴れていく中、俺は不安を募らせる。
やがてリニスさんの姿を視認出来る様になり、とりあえずホッとした俺だったが
「……………………」
同時にリニスさんの身体がグラリと傾き、落下し始める。
リニスさん、意識を完全に失っている様だ。
「リニスさーーーーーーーーん!!!」
俺はリニスさんの落下地点にまで駆け寄る。
『剃』を使って瞬時に移動したので余裕を持ってキャッチする事が出来た。
リニスさんのバリアジャケットは所々焦げ付いて煙がプスプスと立っており、煙の立っている部分からは白い肌を露出させていた。
「くぅ……今回も久遠の勝ち♪」
リニスさんを撃墜した久遠は人差し指と中指を立て、コチラにVサインを向けていた。
「久遠……コレは流石に……」
ちょっとやり過ぎじゃないか?
「…手加減したよ?」
「アレで!?」
なら久遠が本気で妖力の砲撃を放ってたらリニスさんマジで消滅してたんじゃ……。
子供形態であるにも関わらずマジパねえ妖力を発揮する久遠。
この子にこれ以上、魔導師としての戦いを見せて良いのだろうか?このままだと
今の久遠を見て俺はそう思わずにはいられなかった………。
「ん…んぅ……」
「あ、目が覚めました?」
ゆっくりと目を開け、意識を取り戻すリニスさん。
あの戦いの後、意識を失ってるリニスさんを神社の縁側まで運び、俺が治療魔法を使いながら看病していた。
「ここは……?」
「リニスさん、意識を失う直前の事覚えてます?」
「…………あぁ……私、負けたんですね」
どうやら自分の身に起きた事を思い出した様だ。
目に見えて分かる様に若干落ち込んでいる。
「一応、治療は施したんで痛みなんかは無いと思うんですけど」
「…そうですね。ご迷惑お掛けしました」
いえいえ。
「そう言えばあの子は?」
「ああ、久遠ですか?久遠なら…」
俺が指差す方向では
「~~zzz…~~zzz…」
子狐の姿に戻っていた久遠が丸まって寝ていた。
電撃だけではなく妖力のバインドや霊丸モドキの砲撃妖力やらで意外に消費が激しかったらしく、リニスさんの治療を行う直前にはもう夢の世界に旅立っていった。
まあ、魔法っぽく使ったので普段の電撃の様に力加減がまだ上手く出来なかったんだろう。
…そう考えたら『手加減した』っていう言葉も怪しいもんだ。
本人的には手加減したのかもしらんが実際には本気でブッ放してたんじゃあ…。
「(この事は那美さんに言っておこう)」
で、ちゃんと力加減が出来る様、特訓させないと。
「んっ…」
ゆっくりと身体を起こし、立ち上がるリニスさんだが
「あっ…」
フラッとしたかと思うと前方に倒れてきたので、リニスさんが地面に倒れ込まない様、正面から受け止める。
「あ、ありがとうございます…」
「いえ……けど、どうしたんですか?」
「どうも魔力が……ほとんど無いみたいで妙な疲労感があるんです」
俺の肩に顎を置き、頬をくっつけて体重を預けているリニスさんに言われた。
…言われてみるとリニスさんの魔力がかなり減少してるっぽい。
久遠とのバトルでそこまで魔力使ったっけ?そんな風には見えなかったんだけど。
「あのバインドに拘束された時でしょうか…魔力が吸い取られていく様な感覚があったんです」
……マジ?
妖力版のバインドには魔力の吸収効果あんの?だとしたら拘束された瞬間、魔導師にとっては結構な痛手だぞ。充分致命的にもなり得るし。
「はぁ……このまま帰ったら皆に心配掛けそうですね」
「じゃあ、魔力がある程度回復するまで待ちます?」
「そう……ですねぇ……」
少し考えるリニスさん。
…さっきから思ってたんだが、耳元で喋られると少しくすぐったいかな。
ま、リニスさん疲弊してるし、体重を俺の方に預けてるぐらいだから肉体的には問題無くても満足に動けないんだろう。
これぐらいは我慢するか。
「……………………」
と、思ってたらリニスさんはゆっくり俺の肩から顎をどけて正面から向き合う形になり、視線が合う。
「……………………」
ジーッと見詰められて十数秒…。
「…………////////」(ボンッ!)
いきなり顔が真っ赤になっちゃった。
「あの…大丈夫ですか?」
魔力があまりにも少な過ぎて体調が崩れ始めたんじゃあ…。
「え、ええ!!大丈夫です!!(わ、私今勇紀君の頬に自分の頬を合わせて…それに体重も預けてて…は、傍から見たら私が勇紀君に抱き締められてる様に見えるじゃないですか!!)////////」
凄い勢いで首を縦に振るリニスさん。
「(よ、よく考えればこれはチャンスなのでは?幸いにも他に人影はありませんし、あの子も寝てますし…)////」
…振るのを止めたかと思うと、一瞬だけ久遠の方を一瞥し、また視線を俺の方に戻す。
「(そ、それにテスタロッサ家で彼とキスしてないのは私だけですし……これはもうやるしかないですよね!)////」
真剣な表情を浮かべ、リニスさんは何度も首を縦に振る。今度は先程の様に勢いは無く、小さく上下に繰り返すだけだった。
「あの!勇紀君!!////」
「は、はい!!」
いきなり大きな声で呼ばれたので俺も思わず声が大きくなって返事してしまった。
「ま、魔力の回復を待っていて帰りが遅くなり、皆に迷惑掛けるのもアレですので、勇紀君の魔力を分けていただけませんか?////」
「お、俺の魔力ですか?」
「はい。い…いけませんか?」
「いえ、別に断る理由は無いですね」
リニスさんが充分身体を動かせる様になるのに、どれぐらいの魔力をあげれば良いのかは分からないが、俺の総魔力量の4分の1ぐらいあげれば充分だろうと推察する。
俺が了承の意を伝えるとリニスさんもホッとした様子。
「で、では……頂きますね…んっ!////」
「ふぐっ!?」
俺の両頬に手を添えられたかと思うとリニスさんにいきなり唇を押し付けられた。
「ん……ふぅ……////////」
「んぐっ…ちゅっ……////」
リニスさんにキスされてから、俺の身体から少しずつ魔力が吸い取られ、リニスさんの方へ流れ込んでいくのが何となく分かる。
「んうぅっ……れろっ…////////」
「んんんんんっっ!!!!!!?」
俺の口の中に何かが入り込んできた。
これ………リニスさんの舌ぁっ!!?
目の前の使い魔さん、俺にディープなキスをし始めたよ!!!
「ちゅっ……ちゅうぅっ……れろっ……////////」
「んくっ…くちゅっ……れるっ…んむっ……////」
リニスさんの舌が俺の口内で暴れる様に動く。
……ヤバい。ディープキス、メッチャ気持ち良い。
口内で舌が絡まり、頭がボーッとし始めた頃にリニスさんが自分から唇を離してくれる。
俺とリニスさんの唾液が混ざって出来た糸が唇の先からツーッと伸び、少ししてプツッと切れる。
俺の……ディープキス初体験……。
「「……………………////////」」
どちらも無言。言葉を発せない。
リニスさんだけじゃなく今の俺、絶対に顔真っ赤ですよね?
「ま……魔力の供給、ありがとうございました////////」
「い、いえ!!お粗末様でした!!////////」
お互いに視線を合わせず、言葉を交わす。
チラッ…×2
「「っっ!!!」」
ババッ!!×2
だ、駄目だ。視線を合わせられない。
冬の冷たい風が吹き、寒い筈なのに俺は体温が凄く上昇し、寒さなんて全く感じる事が無かった。
それから久遠が目覚め、俺はリニスさんと分かれて久遠をさざなみ寮に送っている最中も頬の色が赤色から戻る事は無かったのだった………。
~~リニス視点~~
私は家に帰って来て、家に居たアリシアとアルフに久遠という子狐との決闘の結果を伝え、リビングの隅に座っていたのですが…
「ううぅぅぅぅ……////」
な、何て……何て事をしてしまったんでしょうか私は。今思い出すだけでも恥ずかしい!
「リニス…いい加減唸るの止めなよ」
「そうだよ。あの狐に負けたのが悔しいのは分かるけどさ」
アリシアとアルフが何か言ってますが私の耳には入って来ません。
本当に何てことをしたんでしょう。
私は確かに勇紀君とキスをしようと思いましたが唇を触れ合わせる程度で済ませるつもりであって
「(し、ししし、舌を入れるつもりなんてこれっぽっちも無かったのに!!!)////////」
何だかキスをしてたらどんどん気持ちが昂ぶっていって、気付いたら本能を抑えきれなくなってそのままディープキスを……。
「~~~~~~~~~っっ!!!!////////」
ドガン!ドガン!!
「リニス!壁に拳がめり込んでるから!!壁がへこんでいってるから!!!」
「壁が悲鳴あげてるから!!殴るの止めておくれよ!!」
でででで、でも……途中からはゆゆ、勇紀君の方からも舌を絡めて来てくれて…。
それがまた嬉しくてもう、頭の中がグチャグチャになって……。
「ああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!私は、私はあああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!////////」
ドガガガガガッッ!!!!
「「お願いリニスもう止めて!!!壁が、壁があああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!!!」」
~~リニス視点終了~~
~~キャラクターステータス~~
NO.0013
八神ザフィーラ
LV 83/ 999
HP 8500/8500
MP 660/ 660
移動力 6 空 A
運動性 125 陸 A
装甲 1900 海 B
照準値 140 宇 -
移動タイプ 空・陸
格闘 206 命中 197 技量 200
射撃 170 回避 173 防御 222
特殊スキル 援護攻撃L2
援護防御L4
底力L3
ガード
インファイトL3
カウンターL3
~~あとがき~~
リニスイベント終了~。
ついでに本編で勇紀とのディープキス一番乗り。
久遠もタイミング良く爆睡してたので電撃制裁もありませんでした。
さて…次回で中学生編終わらせるかもう一話だけ挟むか悩みます。
挟む内容は高校生編に回しても良いんですけどね。
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神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。