前回の制裁から約一刻、リトと璃々は鈴々と別れて予定通り紫宛と合流した。
合流した時に桔梗も居て曰く、買いだめの酒が無くなったから買いに行く、らしい。
ついでに買い物に付き合うそうだ。
リトはこれでお役目御免というわけで帰ろうとしたのだが……紫宛と桔梗に強制的に付き合わされることに。
「おにーちゃん、にあうー?」
「おー似合ってる、似合ってる。でも個人的にはもちっと明るい色でもいいかな?」
現在は服屋に来ている。
本来の目的である璃々の洋服買いをしている最中だ。
ちなみに服を選び続けて二時間は立っている。
流石女の子の買い物…とでも言うべきなのか。
「リト君、こう言うのはどうかしら?」
「ん?どれどr…って何この服、スケスケじゃん!?」
「どう?リト君こう言うのがお好きかしら?」
「紫宛、見せればいいと言う物ではないぞ。このなーす服といった物もなかなかいけるかもしれん。どうじゃ、リト?」
「とりあえず言えるのは沙和あん畜生!!!」
「これ!儂らが居るのに他の女の名前をだすでないわ!」
「うふふ♪」
「いででででで!!!?二人して耳引っ張らないで!?」
ついでにいえば、リトは紫宛と桔梗の服も見ていた。
ただその服の種類と言うのが公に出るべき物ではないものばかり。
リトは流石にたじたじになっていた。
「大体なんだよここ!?普通の服屋じゃないの!?」
「表向きはそうだけど、実際には色々な物も売ってるのよ?」
「特に夜の営み用のが売れ行きがいいんじゃよ」
「だからって何でそれを俺に見せるわけ!?」
「疲れたぁ……」
「だいじょーぶ?」
「だいじょばない…」
服屋での買い物から一刻、リトは紫宛と桔梗に色々と迫られ疲れていた。
それだけではなく、他の店に行って買い物をしたときの荷物持ちの疲れもあるのだろう。
現在は休憩するために桔梗行きつけの店に来ていた。
当然…酒屋だ。
「なーにが、疲れたじゃ。若い者が情けない」
「あら…少し苛めすぎちゃったかしら?」
「問題なかろう。リトは鍛えているのだからな。そうそう倒れたりはせん」
「ストレスで倒れそうだけどねー!」
やけになって大声を出す。
まあ実際こう言うのに慣れていないリトにとっては苦痛なのだ。
ただでさえ呪いの関係で愛情が分からないとは言え、大人の女性に攻めよられてどうしていいのか分からないのも事実。
さっきも偶然を装って桔梗が下半身に抱きついてきたり、紫宛が目の前で着替えようとしたりもしていたし。
「ったく、ほんと羞恥心仕事しろよ…」
「ふふふ…ところでリト君、聞きたいことがあるのだけど」
「女性の好みは答えらんないよ」
「それはあとで聞くけど他のことよ」
「結局聞くんかい。で、何?」
「……この世界の、再創造が終わったら…あなたはどうするの?」
「……っ…!」
疲れた表情が一瞬で強張った。
まるで聞かれたくないことを…触れられたくないことに触れられたような…
事実、リトの言う再創造の時まであと半年を切っている。
これまで普通に暮らしてきたが、怪人が出ること以外では生活に影響は出ていない。
だからこのままでも…このまま再創造をしなくてもいいのではないのか。
紫宛はそう考えながらも、もし再創造したあとのことも考えていた。
リトの言う再創造の内容は知らされていない。
『再』と言うことでこの世界の世界観をそのまま受け継いだ世界にするのか、あるいはそれ以外か…
不確定で仕方がないが、それはリトがやること。
リト以外には知り得ないし、知ろうとはしなかった。
いやできなかったのかもしれない……リトがそうするように、仕向けたのなら。
そしてリト自身のことについても何も聞かされていない。
リトはこの世界を再創造する目的でここにいるのだ。
だとすればそれが終わればどうなるのか……おそらくは、自分の世界に帰るのだろう。
「…今それを聞くかな?」
「ええ。こんなときでしか、聞けませんから」
「そうじゃの。リト、お前はどうする気じゃ?」
「…………」
「黙りか。まあ、言いたくなければそれでいい。どのみち後でわかるからのぉ」
目を反らしたリトを見て軽く笑う桔梗。
――正直知られたくない…
―――黙っていた方が利口なのだろう…
そう思い、リトはテーブルに置いてあったつまみを一つ食べる。
だが次の瞬間…気が緩んでいたせいか…桔梗はリトの口に酒瓶を突っ込んだ。
「隙ありっ!」
「もごぉ!?…ガクッ」
「ん?なんじゃ…まさかこれだけで酔いつぶれたのか?」
「もう!桔梗ずるいわよ。私が飲ませたかったのに…」
「はっはっは早いもの勝ちだ。それにこれっきりと言うわけでも…」
わけでもないだろう、と言い終わる前に店の外から悲鳴が聞こえてきた。
何事か、と外を見ると十数メートル先で大火事が起きている。
次から次へと燃え広がり、あたりは大惨事になりかねない。
紫宛と桔梗は璃々にテーブルに突っ伏しているリトと一緒にいるように言う。
いざとなれば兵達が来て避難してくれるはずだと信じて、紫宛達は火事の現場に行った。
「…………」
そして、誰もが火事に注目する中…リトの指がピクリと動く。
「水だ!水が足りないぞ、どんどん持ってこい!」
「炎をこれ以上移すな!周りの建物を壊してでも移すな!」
火事場では兵や民間の有志達が火を消そうと尽力を尽くしていた。
ギリギリと言った様子…紫宛と桔梗も現場に到着し、指揮をとろうとする。
だが…兵達と合流しようとした矢先に、足元にナイフが飛んできた。
正面を見ると…そこには狙撃銃を持った異形達が。
「あれは…まさか怪人!?」
「こんな時に…!」
「―――お前達、ライダーの味方か!」
異形達…ブランク狙撃隊は中央に道ができるように避ける。
そこから別格の怪人…隊長ブランクがやって来た。
「意識がある…たしかデルザー軍団って言う組織の…」
「…だったらどうじゃと言うんじゃ!」
「ライダー出せ。俺、殺してリーダーなる!」
そう言って隊長ブランクとブランク狙撃隊は火事場にいる者達に向かって乱射する。
消化に取りかかっていた兵達の何人かは被弾した。
ここままでは全滅する…桔梗はどこからか豪天砲を取りだしブランク狙撃隊を撃とうとする。
だが…その前に桔梗が狙おうとしていた狙撃隊の眉間を誰かが撃ち抜いた。
銃弾が放たれた方向を見ると、そこにはブレストリガーを持ったリトが歩いている。
しかも腰にはL字のベルトが巻かれていた。
「リト君!?」
「お前…いつのまに起きて…」
紫宛が驚き、桔梗が質問しようとするがリトの様子がどうもおかしい。
いやに落ち着きがある…何事にも動じない鋼の心を持つような雰囲気を漂わせる。
「―――下がってな。ここは俺がやろう」
「リト、か…?」
「お前、ドクロ少佐が言ってた奴!お前、首、獲る!」
「やってみな。俺は人に対して手加減する男だが…」
《スカル!》
「
《スカル!》
リトは取り出したスカルメモリをロストドライバーに挿し、横に倒す。
するとリトの周りに風が巻き起こり塵が彼を包んでいく。
変身し終えたリトは先程の塵で形成された白いソフト帽を被り、隊長ブランクに一言告げた。
「さあ、お前の罪を数えろ…!」
「撃てッ!」
隊長ブランクの指示と同時にリトの変身した仮面ライダースカルに向かって銃口が向けられる。
しかし、スカルはそれよりも早くブレストリガーを変化させた二丁のスカルマグナムでブランク狙撃隊の前衛を正確無比に撃ち抜く。
どこも急所のど真ん中…スカルは隊長ブランクが撃たれた狙撃隊に気をとられている内に接近し、隊長ブランクの顎にハイキックをする。
「とぉ!」
「ウグッ!!クソ、骸骨のくせに…!」
「そう言うお前は骨のない奴だな、隊長?」
ナイフを撃つ隊長ブランクの攻撃を避け、スカルは一旦距離を取る。
隊長ブランクはフランケンシュタインの怪物の末裔…注意すべきは狙撃と怪力。
スカルは中近距離で戦う仮面ライダーだが、今回の戦闘では中距離からの攻撃が望ましい。
そう考えながらも、左右から撃ってくる銃弾をかわし狙撃隊を撃ち抜いていく。
「狙撃は狙い撃つからこそ狙撃だ。…鍛え直した方がいいんじゃないか?」
「キサマ…だま、れ!」
挑発しながら戦うスカル。
こうして会話している内にナイフの残量が無くなるのを待っているのだ。
そのすきに一気にけりをつける…そう考えていた。
思惑通りナイフを次々と減らしていく隊長ブランク…もう少しで隙ができると思った、その時だった。
「きゃあああ!!」
「ッ!?」
火事場で悲鳴が聞こえる…この声の主は紫宛だ。
スカルはすぐに振り向くと、そこには紫宛と桔梗の真上から燃えた柱が倒れかかっている光景が。
負傷者を支えながら移動していたのだろう…現在二人は動けずにいる。
このままでは負傷者共々下敷きになる…隊長ブランクの隙ができるにも関わらず…スカルは駆け出した。
「ぉおおおおおおお!!!」
「!?撃て!」
敵に背を向け駆け出すスカルに向かい、隊長ブランクは再び狙撃隊に指示を出す。
後ろからの攻撃を自身の超直感を使いながら避けるが何発か被弾する。
それでも痛みをこらえ、スカルは柱に銃弾を放ち削っていく。
少ししか削れていないがそれで結構……スカルは大きく跳躍し、柱を蹴り壊した。
「…ッぐ…!」
「リト君…背中を!?」
「無茶をしおって…!」
地面に着地し膝をつくスカル。
後ろがわの攻撃はきつかったのか、少しの間そこにいた。
そして、再び隊長ブランク達の相手をしようと振り返った時…両手のスカルマグナムが銃弾により弾かれる。
今のは接近していた隊長ブランクとブランク狙撃隊によるものだ。
スカルは手首を押さえながら銃口を向ける隊長ブランク達を見据えた。
「背後からの攻撃…そして不意打ちか。正面から戦わないのか?」
「勝ったのが強い、負けたのが弱い。卑怯、汚い、後から言える」
「それもそうだな…今のは油断した俺が悪いな」
「…ごめんなさい、リト君…私達が足手まといに…」
紫宛はうつ向きながらそう言う。
自分がスカルの邪魔をしたと思っているのだろう…申し訳なさと悔しさが入り交じった表情をしている。
桔梗も同じような表情をしていた。
だが、スカルは動じずソフト帽に手を添えている。
「…勘違いはするなよ、これは俺が受けた依頼でやったことだ」
「依頼…?」
「ここに来る前に『お母さん達を助けて』と言われてな。依頼者は…言わなくても分かるか」
紫宛と桔梗の頭に浮かぶのは一人の少女、愛娘とも言える存在。
だとしたらなんと情けないだろうか…愛する者に心配され、その愛する者と自分達の親しいものに怪我を負わせた。
スカルに向けて謝罪の言葉を送ろうとするが、紫宛と桔梗はスカルの手に注目する。
左右の指はそれぞれ地面のある場所に差してあった。
「弱い。人間、やはり弱い」
「そうだな。何かに頼らないと生きていけない人間は弱い。だがな、逆に何かを背負うことは人間の強みだ」
「何?」
「容量が少ない貴様に言おう。人は人を愛すると弱くなる。だがな、それは本当の弱さじゃあない。愛する者を失う事への恐怖から来る弱さだ」
「ヌヌ…訳、分からん!」
「そうかでは簡単に言う。貴様が言うほど人間は弱くない。少なくとも…」
瞬間…狙撃隊の生き残りはスカルの左右から放たれた銃弾で絶命する。
注意が削がれていた…隊長ブランクとブランク狙撃隊は注意を払っていなかったのだ。
―――先程弾き飛ばされたスカルマグナムを手に取った、紫宛と桔梗に。
「…貴様達をほぼ壊滅させられる位にはな」
「ぐ…!?キサマ、謀った!?」
「卑怯、汚いは後から言えるのだろう?」
隊長ブランクは動揺しながらも銃を構える。
…相手はもう銃を持っていない、このナイフで突き刺す!
隊長ブランクはそう思い、引き金を引いた。
勝利を確信した隊長ブランクだったが、彼はまた油断している。
紫宛と桔梗の持っているスカルマグナムはブレストリガーを変化させた物。
つまり、スカルにはまだ使用していない…本来の
スカルはすぐさまそれを取りだし、隊長ブランクの放ったナイフの真ん中を狙う。
超至近距離だった為、かなり賭けに近かったのだが…銃弾はナイフを貫通し、隊長ブランクの銃を弾いた。
「グオ!!…何故、敗れる。数、銃、弾…俺のが、多い」
「数が多ければいいものじゃない。貴様の敗因は弾一発に込める重さが違うことだ。もっとも…」
スカルはロストドライバーからメモリを抜き、腰のマキシマムスロットに挿す。
必殺の一撃を放った。
《スカル!マキシマムドライブ!》
「―――貴様には弾の一発も勿体ない!!!」
「ぐああああああああああああああああああ!?」
ドクロのエネルギーを蹴った【ライダーキック】が隊長ブランクを捕らえる。
大きく吹き飛ばされた隊長ブランクは地面を何回か跳ねると空中で爆発した。
一方の火事の方も大災害にならずにすみ、あたりは焼け焦げた後がある。
リトは変身を解除し、ソフト帽を残しながら紫宛と桔梗に近づいた。
「…これで依頼は完了だ。ついでに城まで送ろう。今日はもう疲れただろう?」
「ええ…たしかにそうね。璃々も戻っている筈だし…」
「じゃの。…どれリト。帰ったら儂がリトの疲れを取ってやろうか?もちろん、体を使っ…」
桔梗が言い終わる前にリトは桔梗に近づき、顎を少し上にあげて自分の顔を近づける。
桔梗は思考が追い付いていなく、驚いたままだ。
紫宛も横で驚いた表情をしている。
「…体を使って疲れを取る?だったら頼もうかな?」
「な…ぁ…?」
「何驚いてるんだ?癒してくれるんだろ?この指で…この胸で…この、唇で」
流し目で紫宛の方も見るリト。
執事モードとは違う色気に紫宛も桔梗も何も言えない。
紫宛が声を振り絞って『はい』と答えようとしたが、その前にリトは軽く笑いながら桔梗から離れた。
「なんてな。生憎俺は惚れた女しか抱かない主義でね。だから…」
「だか…ら…」
「そう言うことやりたいんなら、本気で俺を惚れさせて見ろよ。レディ?」
帽子を深く被りそう言ったリト。
城へ一歩づつ歩んで行こうとしたが…途中で前から倒れる。
どうしたのか…紫宛は急いでリトの元へ行くと、彼は爆睡していた。
「ん…あ…どこだここ…?」
リトは頭がくらくらしながら起きる。
そして寝ている前の事を思い出した。
買い物に付き合っていた事、桔梗に酒を飲まされたこと、隊長ブランクと戦ったこと。
ただ、戦闘の後から記憶がない…とりあえず起きようと思ったが、両側が固定されて動かない。
両脇を見ると…そこには紫宛と桔梗がリトを抱き枕にして寝ていた。
「………は?」
「んん……ぁん…ダメよリト君…そんなとこ…蕩けそう…」
「ふぁ…リトぉ……切ないぞ…焦らすなぁ…」
(ナニイテンダアンタラァァァァ!?ッデヴァャグココカラディナイドゥ…)
「―――紫宛、桔梗居るか?リトを探しているのだが…」
なんか寝言が色々ヤバイ…リトは急いで起きようとしたが扉が開く。
あ、と扉を見るとそこには愛紗の姿が。
ΟΔΟと言った感じの表情で固まっているが、段々と背後にどす黒い気が溢れているようにも見える。
滝汗をかきながら愛紗を見つめていると、愛紗は自分の武器を構えてリトに近づいてきた。
「…リト……どういうおつもりで?」
「あの、その、目が覚めたらここにいて…」
「やはり私のような者より熟れた体の方が好みですかそうですか」
「俺の話を聞けよ!?何で偃月刀構えるの!?むしろどこから出した!?」
「問答無用!!天誅ううううううう!!!」
「ウェアアアアアアアアアア!?」
遡ること数十分前…リトが部屋につれて来られた時間…
「うふふ…可愛い寝顔ね♪」
「じゃの。…して紫宛、さっきのリトの言葉…わかっておるの?」
「勿論よ。必ず私はリト君を虜にして見せる。その時は璃々も一緒にね」
「璃々も巻き込むのか…じゃが璃々も満更ではないかものぉ。儂も負けてはおれんわ」
「負けないわよ?…でも今日は疲れたわ。寝ちゃいましょう?取っても寝心地が良さそうな枕があるし♪」
「くっくっく…起きたらどんな反応するか楽しみじゃわい」
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