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戦国†恋姫~新田七刀斎・戦国絵巻~ 第4幕

立津てとさん

どうも、たちつてとです
休日ということもあり、今回は更新速度早めでした

戦闘シーンを書くのはとても好きなんですが、それをちゃんと文章で表せているかどうか不安でしかたないこの作品をどうか引き続きよろしくお願いします

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2014-04-06 22:09:17 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2084   閲覧ユーザー数:1864

 第4幕 千年王都

 

 

 

 

空は蒼く晴れ渡り、飛ぶ鳥の位置が遥か高く見える。

広い街道を他の旅人に交じり、剣丞は京都を目指して歩いていた。

 

この時代の旅人は珍しくない上に陽気な人間が多いのか、剣丞に話しかけてくる者も多かった。

 

「なぁ兄ちゃん知ってるか?田楽狭間の天人の話!」

 

大抵は剣丞の持つ刀や着ている服について聞いてくる者がほとんどだったが、他は旅人の間でトレンドなのか、『織田家』『田楽狭間』といった単語で埋め尽くされていた。

既に何人もの旅人に教えられてきたので、剣丞は十分話についていける。

 

「織田と今川が戦ってたら織田側に舞い降りたって話だろ?」

「おお知ってたのかい。これからどうなっちゃうんだろうねぇ」

「織田は天下の近くまで行くよ。多分」

「ん?なんで兄ちゃんそんなことがわかるんだい?」

「え、あ、何でもないよ!それじゃ!」

 

剣丞は慌てて旅人との会話を終え、先を急いだ。

 

(うーん、知識って意外と口に出ちゃうもんだよなぁ・・・)

 

剣丞は以前エーリカにもらった畿内の地図を広げて現在位置と目的地の場所を確認する。

 

「今日中に着きたいし、近道して山の中を行くか」

 

現在位置から京までの間にはそれなりに大きな山があった。

街道はその山を迂回する形で敷かれているため、山を通った方が短い時間で着くと予想される。

 

まだ日は高いが、沈む前になんとか京に着きたい剣丞は、山の中を突っ切るルートを選択した。

 

「これでも山は慣れてるしな」

 

剣丞は街道を外れ、山の中に入っていった。

 

 

 

 山中

 

街道と違って木々に遮られ、街道で浴びていたはずの日光をは少なくなってしまったが、剣丞は黙々と山中を進んでいた。

 

「こんなの飛騨山脈や奥羽山脈に比べたら朝飯前だ」

 

屋敷にいた頃は朝練と称して山に入らされることも多かったので、実際に朝飯前であった。

 

「この調子なら日が沈む前に着きそうだな」

『はたしてそう上手く行くかな?』

 

いちいち口を出してくる七刀斎を無視し、ずんずんと山道を進む剣丞。

予定通り半分を超え、京へと続く橋を遠く向こうに視認できた。

 

「よし、あと少しで・・・」

 

 

「きゃああああぁぁぁぁーーーーーー!!」

 

剣丞が山を下ろうとしたその時、辺りを劈く女性のものらしき声が聞こえてきた。

 

「近い・・・なんだ?」

 

茂みや木々を分けてその声のあった場所へと猛スピードで向かう。

我ながら驚くほどの速度で、その場所にはすぐ着いた。

 

が、剣丞の目に飛び込んできたのは叫び声をあげた少女ではなく、それよりももっと異形な形をしたものだった。

 

「なん、だ・・・アレ」

『ほう・・・』

 

明らかに人よりも大きな身長、強靭な体。

それは堺を出る際にエーリカに伝えられた鬼そのものだった。

 

「あれが鬼、だってのか・・・!」

 

その鬼の視線の先、そこには腰を抜かしたらしい少女の姿があった。

 

「クッ、やるしかねぇ!」

 

荷物をその場に置き、勢いよく少女と鬼の間に割り込む剣丞。

突然の横槍に、鬼は少し歩みを止めていた。

 

「大丈夫か!?」

「ッ、は、はい・・・」

 

まだ動けるような状況ではなさそうだったが、返事を返せるだけマシだろう。

剣丞は少女を背に、腰の刀を抜き中段に構えた。

鬼もまた、剣丞の敵意を感じたのか吼えてみせた。

 

「ガァァァァァーーーー!」

「クッ、やれるのか・・・?」

 

あの丸太のような筋肉の塊に殴られたらひとたまりもない。

先手必勝だ、と剣丞は考えた。

 

「うおおおぉーッ!」

 

一気に踏み込み、鬼目掛け袈裟懸けに刀を振り下ろす剣丞。

しかし鬼はその体躯に似合わない俊敏さで後ろに飛んで避けた。

 

「チッ、ならばコイツで!」

 

後ろに開いた手を回し、小刀を掴みそのまま鬼に投げつける。

 

「ゴォォォォ」

 

小刀が胸に突き刺さり、呻く鬼。

 

「ひるんだ・・・!今ならッ」

 

今度は逃がすまいと先程よりも速く踏み込む。

 

「だぁぁぁーー!」

 

下から上へ斜めに斬り上げる。

その斬撃は鬼の右腕を持って行った。

 

「グガアアァァァーーーーー!」

 

それは痛みによるものなのか、怒りによるものなのかはわからなかったが、鬼は残った左腕を剣丞目掛け振り回す。

 

「その程度の攻撃ならッ!」

 

横薙ぎに振り回される腕を屈んで避ける。

今度は脇差を抜き、鬼の腹に突き刺した。

 

「グゥゥルルル・・・」

 

鬼が弱り始めるのを剣丞は動きと声で確認する。

 

(チャンスだ・・・!)

 

無我夢中で刀を振り鬼を斬り刻んでいく。

 

この時、剣丞は気付いてないことが2つあった。

 

1つ目は何度も斬って血に濡れているはずの刀の切れ味が全く落ちていないこと。

そして2つ目、それは自分が新田七刀斎と同じように相手を破壊して倒す戦法をとっていることだった。

 

残りの左腕も落とされ、自らの血で塗れる鬼。

しかし剣丞は鬼の周りを目まぐるしく動き回っていたので、ほとんど返り血を浴びていなかった。

 

「これで、終わりだぁぁーッ!!」

 

今度こそ鬼を袈裟懸けに思い切り斬り裂くと、鬼はその姿をサラサラと消しながら倒れた。

 

「ハァッ、ハァッ、倒せた・・・」

 

アドレナリンによって封じていた疲れを一気に感じながら、剣丞もその場にへたり込む。

そこに、先程の少女が近づいてきた。

 

「あ、あの・・・」

「あっ、怪我はない?」

「はい!お助けいただきありがとうございました」

 

礼法などを全く知らない剣丞でも、その少女のお辞儀は一切の無駄ない動作に見えた。

 

「俺は新田剣丞だ。あの、君は?」1

 

白い、上品な和服を着ている少女はどう見てもその辺の町娘には見えない。

 

「あっ、申し遅れました。私は・・・」

 

そこで言いよどむ少女。

彼女は1つ間を置いてこう答えた。

 

「私の名は双葉といいます。京の町に住んでいるのですが、出かけている最中に皆とはぐれてしまって・・・」

「双葉ちゃんか。よし、ちょうど俺も京に行くから一緒に京までいこうか」

「えっ、よろしいのですか?」

「うん。ああいうの無しでもこんな山の中を君みたいな女の子1人で歩くのは過酷だからね」

 

先程まで鬼がいた場所をチラッと見る。

 

「・・・わかりました。ありがとうございます!」

 

春の花のような笑顔を浮かべる少女に、剣丞は少しだけ目を奪われていた。

 

 

 

山を下る途中、2人は様々なことを話していた。

 

双葉は元気で活発の姉の話やその姉に振り回される従者の話を。

剣丞はこれまでいた堺や旅路の話を。

 

剣丞のする話を、双葉はこれまでにないほど目を輝かせて聞いていた。

 

「まぁっ、新田様の暮らしていた所はとても魅力的なのですね」

「魅力的というほどじゃないよ。でもいい町だと思う」

「羨ましいです・・・私なんてお屋敷からあんまり出たこともなくて、今日のこの山が最初で一番の遠出でしたから・・・」

 

双葉の話を聞けば聞くほど、彼女はどこかの貴族の箱入り娘なのだろうと思い知らされる。

 

「1人で山に入ってたの?」

「いえ、本当はその姉と従者の人と一緒に入っていたのですが・・・はぐれてしまって」

「ええっ、それじゃあまだその人たちは山の中で君を探してるんじゃないのか!?」

「そうですね・・・ですが、姉はいつも周りを振り回しているので、少しは困らせてやろうかなと思います」

 

エヘヘといたずらっ子な笑みを漏らす双葉。

いかに箱入り娘であろうと、年相応な笑顔を浮かべる彼女はとても魅力的に見えた。

 

 

 麓 

 

和気藹々と過ごし、ついに麓まで来た2人だったが、急に剣丞はその表情を険しいものへと変えた。

 

「双葉、君は先に京に入っててくれ。お別れだ」

「何を言っているんですか?新田様」

 

双葉は剣丞を見て気が付いた。

2人の後方から、何者かの唸り声が聞こえてくるのだ。

 

「多分さっき倒した奴の仲間だ。俺が食い止めるから、早く家に帰るんだ」

 

双葉は何か言いたげな顔をしていたが、一瞬躊躇った後に頷いた。

 

「・・・わかりました。絶対に死なないでくださいませ」

「ああ、当たり前だ!」

「それと、これ」

 

双葉が剣丞に手渡したのは、絹の刺繍が施された手ぬぐいだった。

 

「これは?」

「今日のお礼です。私とあなたが、また会えますようにと」

「そうか、ありがとう!」

 

そう言って剣丞は満面の笑みを浮かべて元来た道を走っていった。

 

「どうかご武運を・・・剣丞様」

 

 

 

「「「「グルルルルルル・・・」」」」

 

「4体か・・・」

 

予想通り、鬼たちは剣丞と双葉が来た道を追って来ていた。

近くの茂みで隠れていた剣丞が様子を伺っている。

 

『ヘッ、たった4匹かよ。オイ剣丞、オレに代われ』

「はぁ?お前何・・・言って・・・ぅぅ」

 

剣丞の頭が一瞬だけガクッと下がり、再び上がる。

見えた顔には狂気の笑みが貼られていた。

 

「ククク、悪いな」

 

4体の鬼の前に身を出し、仁王立ちをする。

鬼はいずれも彼の姿を確認し、咆哮をあげた。

 

「久しぶりに遊べそうだしな。ブチ殺してやるよ、アホ共!」

 

両手に1本ずつ刀を持った七刀斎は、笑い声をあげながら鬼たちに向かっていった。

 

 

 

 京

 

双葉は自分の家へと戻ってきていた。

古くなった門をくぐり、母屋へと入る。

 

「双葉ーーー!!」

「一葉お姉さま・・・」

 

涙目になりながら双葉は姉が近づいてくるのを聞いた。

 

「お姉さま、私・・・」

「ッ馬鹿ものぉ!」

 

てっきり平手打ちでも飛んでくるものだと思っていたが、双葉が姉に受けたのは、熱い抱擁だった。

 

「心配したんだぞぉ・・・ッ幽が、余に愛想を尽かしたから双葉は帰ってこないのだとか言い始めてぇ・・・ッ」

「お姉さま・・・ッ、うぅ・・・」

 

双葉に抱き付き、涙を流す姉に、双葉も釣られて泣くのだった。

 

 

 

「ハッハッハッハッハァーーッッ!!」

 

ズバンという音が聞こえそうなほどの斬撃と共に、鬼が1体崩れ落ちる。

これで彼の周りに4つめの巨躯が転がることになった。

 

倒れているどの鬼も血塗れで呻き声もあげられず、もはや虫の息である。

 

「あーあ、つまんねぇな。あの女が十分注意しろっつーから楽しみにしてたのによぉ」

『何で死なない程度にしてるんだよ。お前だったらすぐ殺しそうなのに』

「バーカ、さっきのを見なかったのか?殺したら消えちまうだろ。だからこうして死ぬ前に色々調べんだよ」

 

そう言ってしゃがみ、瀕死の鬼の体を見る七刀斎。

 

『・・・なにかわかったか?』

 

尋ねられた七刀斎は面白くないという顔をして立ち上がった。

 

「ああ、瀕死体を調べただけじゃ何もわからねぇってことがわかったぜ」

『意味ねーじゃねぇか!』

「だが面白いこともわかった」

『えっ?』

 

七刀斎が念入りに調べたのは筋肉だった。

 

「コイツらには個体差がある。筋繊維の密度がモノによって明らかに違うからな」

『よ、よくわかるな・・・』

「触りゃわかる」

『いやわかるわけねぇだろ!なんだその超技術!』

「それに戦ってても攻撃のスピードにバラつきがあったりしたから、多分鬼も成長するんだろうな」

『ええっ、それじゃあ鬼が成長してメッチャ強くなったりしたら・・・!』

「うるせぇなぁ・・・むしろ喜ばしいことだろ」

 

調べた時とは打って変わって、ニィと口角を上げる七刀斎。

 

「今ブチ殺した鬼どもはハズレだったが、もしかしたら超強い鬼とかいるかも知れないんだぜ?」

『お前・・・』

「んじゃあ俺は休むから後はお前の好きにしな。京に行くんだろ?」

『あっ、お前待ッ・・・』

 

表に出てきたのと同じように、七刀斎は意識を剣丞に返したのだった。

 

 

 

 京

 

西日も山々の間に身を潜め、オレンジと黒の両方が空を支配する黄昏時。

鬼に止めを刺し、剣丞が京に入ったのはそれくらいの時だった。

 

「や、やっと着いた・・・まずは宿を探さないとな」

 

現代では街灯によって夜でも明るかったが、その約500年前であるこの時代にそんなものはない。

日が出ている内に宿を探すことは旅人にとって死活問題なのだ。

 

「にしても、ここがあの京都かよ・・・」

 

家は古く、道も舗装されていない。町の雰囲気も暗く、これでは堺の方が何倍もマシであった。

 

「こりゃあひでぇ」

『野武士のいざこざだろ。検非違使もこの時代じゃまともに機能なんてしてないからな』

 

道の片隅に見えたのは、人だったものだった。

思わず顔を顰めて目を逸らす。

 

この調子だと、宿を確保する前に襲われる可能性すらある。

 

「どこだぁ~宿・・・」

 

そのとき、前からくる4~5人の男たちとぶつかった。

 

「いてっ」

 

「あぁ?テメェ前見て歩きやがれ!」

「おいこんな奴に構ってる場合かよ、仲間がやられちまうぞ!」

「ああ、そうだった・・・あの女、俺たちが行っても勝てるのかぁ?」

「ビビんじゃねー!行くぞ!」

 

ぶつかった男たちは剣丞を一瞥し、走り去って行った。

 

「なんなんだこの町は・・・」

『オイ剣丞』

「なんだよ。お前の声は耳障りだから聞きたくないんだが」

『それよりさっきの奴らを追え』

「はぁ?なんでそんなことをしなくちゃならないんだ」

『いいから追うぞ!』

 

一瞬で剣丞から七刀斎にシフトする体。

 

「さっきは軽い運動しかできなかったからな・・・楽しみだぜ!!」

 

七刀斎は意気揚々と男たちが向かった方向へと走り出していった。

 

 

 

そこには、1人の女性を囲むように刀を持った十数人のチンピラがいた。

しかし、囲まれてる女性の顔に焦りの色は無い。

逆にチンピラたちの方が額に汗を浮かべていた。

 

「なによ。仲間を連れてくるって言ってたのにやってきたのはただの雑魚?」

「こ、このアマァ!!」

 

怒ったチンピラが女性に斬りかかるも、易々と避けられ逆に頭に峰打ちをくらっていた。

 

「こいつ、クソ強ぇ!」

「フフーン、当然よ」

 

女性は銀のツインテールをなびかせて得意げに胸を張った。

右手には柄や鍔の装飾が豪華な刀が握られている。

 

「あの真ん中分けの女といいこの町はどうなってやがんだ!」

(真ん中分け?・・・あぁ、公方さまね)

 

女性は何かを察したような顔をし、言い放った。

 

「さぁ、私に勝てる奴はいないの?いないならここで全員始末しちゃうけど!」

 

彼女のあまりの威圧感を前に、誰一人として前に出る者はいなかった。

 

「あらあらだらしないわね・・・じゃあこれでおしまいね。三昧耶・・・」

 

女性から白いオーラのようなものが立ち上る。

チンピラたちは何も出来ずにただどよめくだけだった。

 

しかし、チンピラたちの間を縫って飛んでくる銀色の閃光が、彼女の集中力を削いだ。

 

「クッ、何?」

 

飛んできたものを持っていた刀で弾く女性。

それは、1本の小刀だった。

 

「オラオラどけどけ!」

 

粗暴な声と共に、女性の目の前にいたチンピラたちの壁が割れ、複数の刀を持った男が現れる。

 

「今の氣、とんでもねぇモンだったな・・・オレと遊んでくれよ」

 

男は、玩具を見つけた子供のような目をしながら女性の前に立ちはだかった。

 

 

 


 
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