No.676645 戦国†恋姫~新田七刀斎・戦国絵巻~ 第3幕立津てとさん 2014-04-06 04:13:03 投稿 / 全8ページ 総閲覧数:2192 閲覧ユーザー数:2025 |
第3幕 旅立ち
堺 裏の山
新田七刀斎と名乗る男の体は血に塗れていた。
しかし、その血は本人の物ではなく、すべて倒した山賊たちの血だった。
「ハハハハッ・・・面白かったなぁ、お前もそう思わないか剣丞」
『ふざけるな!一体どうなってるんだ』
「オレが一時的に体を借りてるだけだ。じき戻るだろ」
『じきって・・・なんなんだお前は!』
「さっきも言ったろ。オレは新田七刀斎だって」
本来の剣丞の意識は内部に封じ込められているというような状況だった。
おそらく七刀斎の意識があった場所と剣丞の意識があった場所が入れ替わっているのだろう。
『なんだよ七刀斎って、早く俺の中から出てけよ!』
「そいつァ無理だ。オレはお前なんだからよ」
『ハァ?それってどういう――』
「剣丞さーん!」
「新田の旦那ー!」
「剣丞ー!」
遠くから声が聞こえてくる。
それは、剣丞を助け娘を救うために堺の町で集められた町人たちや自警団の声であった。
『み、皆・・・!』
「町の奴らか・・・ところで剣丞よぉ、おかしいと思わなかったか?」
『おかしい?』
七刀斎の突然の振りに戸惑う剣丞。
『おかしいって、何がだよ』
「この人攫いそのものだよ。お前なんとも思わなかったのか?」
『ええっ、別に何も・・・』
「ハァーッ、だからお前は馬鹿なんだよ」
『な、なんだと!?』
七刀斎はもう1度ため息を吐くと、そのおかしいという点を語りだした。
「そもそも、堺は自治都市だ。暗愚な大名の町ならともかく、治安の面では日の本トップクラスのこの町で何で誘拐事件なんか起こる?」
『そっ、それはそうだけど・・・』
「間違いなくこいつらに娘を攫うよう頼み、手引きした奴がいる」
『そんな!それって一体誰が・・・』
「さぁな、それよりもう町の奴らが来る。また今度な」
『えっ、あっおい!』
そう言って七刀斎は剣丞の意識からフェードアウトしていった。
「剣丞さーん!」
「エー・・・リカ・・・」
「・・・よかった!」
町人たちの先頭にいたのはエーリカであった。
集団から突出して走っていたエーリカは剣丞の姿をみるや否や間を置かずに走り、胸に飛び込んできた。
思わずバランスを崩しかけるが、なんとか倒れずに踏みとどまる。
「もう!お1人で行かれるなんて何を考えてるんですか!」
「いやぁゴメン・・・アハハ」
「でも、無事でよかったです・・・」
剣丞から離れ、まじまじと辺りを観察するエーリカ。
彼女の顔は安堵から徐々に驚愕へと変わっていった。
「剣丞さん、これ・・・あなたが?」
「えっ?・・・あっ!」
剣丞は自分の服を見てようやっと気づいた。
七刀斎が暴れた跡はきっちりと残されているのだ。
「違うんだエーリカ、これは・・・」
「大丈夫ですか!?怪我は?」
「いや、これは俺の血じゃなくてだな」
「ではこの惨状は、剣丞さんが・・・?」
七刀斎の仕業とはいえ、やったのは剣丞自身だ。
剣丞は何も言えず黙り込んでしまった。
「そんな・・・」
そこにやってくる町人たち。
彼らは剣丞と周りの状況を見て絶句していた。
「おいおい、なんだよこりゃあ・・・皆アンタがやったのかい?」
「あ、ああ・・・多分」
ここにいる町人はいずれも剣丞を知っている面々であったが、その剣丞がこのような血だまりを作ったことに信じられないでいた。
しかし、斬り刻まれた死体や元の部位がわからない肉片などを見て、人々は事実を飲み込んでいく。
「――まさか新田さんがこんな人だったとはな」
「ッツ!!」
「――優しい人だと思ってたけど」
「――人間をこんな惨たらしく殺せるのか」
「――人殺しに快楽でも感じてるんじゃねぇのか」
攫われていた娘の無事や、それを助けに行った剣丞の安否を確認する前に、町人たちの間に剣丞を恐れる声が広がっていった。
その中で1人、辺りを泣きそうな顔で何かを探す女性がいた。
「娘は・・・娘はどこに」
先程剣丞に泣きついた母親であった。
母親は娘の姿を確認すると、ついに涙を零しながら娘を抱き上げた。
「あぁっ、良かったあぁぁ!!」
ワンワンと人目も気にせず泣きじゃくる母親に、町人たちは剣丞のことを一旦置き、顔を綻ばせる。
「とりあえず、娘さんも無事だったことだし今日のところは帰ろうぜ!」
船長のその言葉に町人たちは頷き、とにかくみんな無事で良かったということで2人を置いて先に帰ったのだった。
数分後
月明かりが照らす山の広場で、剣丞とエーリカの2人が佇んでいる。
2人とも何も言えずに黙り込んで山賊たちだったものに刺したままであった刀を拾っていた。
「・・・帰ろうか」
「はい・・・」
全て拾い終えた2人の間に言葉は少なく、ほぼ無言のまま2人は帰宅した。
(エーリカも思ってたのかな・・・)
「――まさか新田さんがこんな人だったとはな」
「――優しい人だと思ってたけど」
「――人間をこんな惨たらしく殺せるのか」
「――人殺しに快楽でも感じてるんじゃねぇのか」
「・・・クソッ!」
寝室に入ったところで乱暴にホルスターと刀を部屋の隅へ投げる。
制服を脱ぎ、肌着になったところで布団へと倒れ込んだ。
『おいおいふて寝する気かよ』
「うるせぇ、黙ってろ」
布団を深くかぶる剣丞。
しかし、頭の中の声は布団など気にせず響き渡る。
『まぁ周りの評判なんて気にすんなよ。突っかかってくる奴がいたら斬りゃぁいい』
「もう黙っててくれ・・・」
『・・・わかったよ。寝てやるよ』
それきり声は聞こえなくなり、静寂が暗い部屋を支配するようになった。
剣丞は眠ろうとしていたが眠れず、いたずらに寝返りをうつばかりでイライラしながら天井を見つめていると、襖の向こうから声が聞こえてきた。
「剣丞さん、まだ起きていますか?」
「・・・・・・うん」
剣丞の返事の後で襖が開き、就寝着姿のエーリカが入ってくる。
長い金髪は後ろで縛られてはおらず、スゥッと流れていた。
「どうしたんだ?こんな時間に」
「いえ、剣丞さんが眠れてないのかと・・・思いまして」
布団から頭だけを出してエーリカを見る。
「そういうエーリカは寝ないの?」
「ええ、そうですね。寝ますか」
エーリカはそう言って剣丞の布団に潜り込んできた。
「え、ちょ、ちょっと!?」
「1ヶ月だけですが、剣丞さんの気持ちはわかる気がします」
「えっ?それって・・・」
一瞬、剣丞はエーリカが自分に告白してくるのではないかという淡い期待を胸に抱いたが、すぐにそれは思い過ごしであることを知らされる。
「あなたは悪いことはしていません」
エーリカとは反対を向く剣丞の背中に触れながら、彼女は剣丞の頭を撫でた。
「私も少々驚きましたけど、重要なのはあの娘も助かってあなたも無事だった。それでよいと私は考えています」
「エーリカは優しいからそう言ってくれるけど、他の人たちは・・・」
先程剣丞に対する町人たちの気持ちはエーリカにも聞こえていた。
明日から彼の堺での肩身は狭くなるであろうこともなんとなくわかる。
「全てを話してわかってもらうしかありません。あなたは人にあんなことをする人ではないと」
「そう、だな・・・」
今までエーリカは未来の話や自分の事を話して疑ったことはなかった。
きっと七刀斎と名乗る別の意識の事を話しても彼女はきっと受け入れてくれるだろう。
だが、
(これ以上エーリカに迷惑をかけていいのか?)
ただでさえ身元不明である自分を居候させてくれている上、自分のせいで堺でこの協会の評判が悪くなればエーリカの目標と言っていた天主教布教にも関わってくる。
「剣丞さん」
「エーリカ?って、何を・・・!」
エーリカは布団の中で、体を密着させてきていた。
「私は、剣丞さんを疎くは思いません」
「えっ・・・」
「私は剣丞さんを裏切りません。ですから、安心してください」
力強く抱きしめられたことにより、エーリカの優しさが力と共に流れ込んでくるような気がして、剣丞は思わず泣きそうになった。
「・・・ありがとう・・・・・・」
「いいえ」
クスッと笑い力を緩めるエーリカ。
「もう寝ましょう。明日も湊で水揚げでしょう?」
「ああ・・・」
「ではなおさらです。今日は私がずっとこうしてますから」
エーリカが剣丞の頭を撫で続ける。
その心地良さに、だんだん瞼が重くなる。
「あり、がと、う・・・エー、リカ・・・」
「いいえ、おやすみなさい――」
それっきり剣丞は夢の世界へと落ちていった。
「――剣丞」
翌日 堺の湊
剣丞は昨日と同じように船長の船へ顔を出した。
「おはよう」
「おおー剣丞!昨日は大変だったなー!」
昨日の決死隊に参加していたはずの船長は快活に返してきた。
「おっちゃん、俺・・・」
「おら剣丞、もう網上がってんぞ」
「お、おう!」
渡された綱を受け取り、引く剣丞。
「仕事ン時くれぇは無心になれ。それが職人ってやつだ」
「おっちゃん・・・ありがとう」
しかし、作業中は気にならなかった雑踏に潜む言葉も、休憩時間になると耳に入ってくる。
「――おい、アレ・・・」
「――ああ、例の殺人狂だぜ」
いつのまにか殺人狂と呼ばれるまで尾ひれがついてしまった。
「剣丞、あんまり気にするな」
「あ、ああ・・・」
一緒に昼飯を食べていた船長が気を利かせてくれるも、剣丞はまともに食事が喉を通らない心持ちだった。
夕方
仕事が終わり、給金を貰い帰路につく剣丞。
そこでも剣丞はヒソヒソと交わされる話を聞くことになっていた。
「――ああ怖い怖い」
「――あんな危険人物が住んでるなんてなぁ、堺もおっかねぇ」
「・・・・・・」
剣丞は誰とも目を合わさず教会に辿り着いた。
「おかえりなさいませ、剣丞さん」
「ああ、ただいま・・・」
エーリカは剣丞の顔を見てすべてを悟ったようだった。
「剣丞さん」
「悪い、ちょっとすることがある」
「は、はい・・・」
剣丞は自室にこもり、何か作業をしている音を出し始めた。
それからしばらくして――
「エーリカ」
「ッ、はい?」
襖を開けた剣丞は、ホルスターを装着し、荷物を持った姿だった。
「剣丞さん、それは・・・」
「ごめん、俺この町を出ていくよ」
その言葉を言われた時のエーリカの顔を、剣丞は忘れられそうになかった。
「そんな!どうしてですか剣丞さん」
「今日ずっと考えてた。やっぱり俺、町の皆から怖がられてるっぽいからさ。俺みたいな奴が住んでるとこの教会の評判も悪くなるだろ?」
「だからって・・・」
「それに、俺は思ったんだ・・・この刀を持ってこの時代に来たことには、意味があるんじゃないかって」
「意味・・・?」
それはこの世界に慣れてからずっと思っていたことだった。
ただ堺の町で平和に暮らすだけなら、わざわざこんな特殊な使い方をする刀など必要ない。
ならばその存在理由とは何か、ずっと自問自答してきたのだ。
「俺は、この世界を見てみたい。いいや、見なくちゃいけないんだと思う」
「世界・・・日の本ですか?」
「ああ。俺の伯父さんは、天の御使いとして三国志の時代に飛ばされて乱世を鎮めたらしい。その話が本当かどうかわからないけど、本当なら俺にも、それをしなくちゃいけない気がするんだ」
「剣丞さんは剣丞さんです!それにまだ日の本の乱世は始まったばかり・・・何ができるというのですか」
剣丞はそこで頭をかく。
「ごめん。本当は俺、気持ちよくこの町を出ていける口実が欲しいだけなのかもしれない」
その顔は、いたずらがバレた子供のようだった。
「剣丞さん・・・」
「だから、ごめん」
「なら私も行きます!剣丞さんの行くところならどこでも!」
「駄目だエーリカ。君にはこの堺で天主教を広めるんだろ。俺なんかにかまけて本来の目標を忘れちゃいけない」
「そんな・・・」
エーリカはそれ以降言葉を投げかけてこない。
「・・・・・・それじゃ」
そう言って剣丞が教会を出ると、見覚えのある顔が目に入って来た。
「キャッキャ♪」
「こらこら、暴れないで。新田さん、昨日は本当にありがとうございました」
娘を背負ったまま母親は深々と頭を下げた。
「本当は昨日の内にお礼を言いたかったのですが、慌ててしまっていて・・・新田さんはどこかにお出かけですか?」
「え、ええまぁ・・・ちょっとこの町を出ようかなと思ってまして」
「ええっ、何故!?」
母親は町で流れている剣丞の噂を知らなかったのだ。
それを剣丞が説明すると、母親は顔を真っ赤にして怒り出した。
「そんな!新田さんは私の娘を救ってくれた無二の恩人です!それをそのように悪くいうだなんて・・・」
「でも、俺のしたことは本当なんです・・・俺が、あんな惨たらしく人を殺したんです。この手で」
自分の手を見ながら告白する剣丞。
彼の目には自分の手が血に塗れて見えた。
「けどよ、それがなんだってんだよ」
「お、おっちゃん!」
剣丞の横からかけられた声の主である船長がその会話に混ざる。
「おっちゃん、何で・・・さっき別れたばっかだろ」
「バカ野郎。お前さんが暗い顔をしてたからちょっと励ましに来たんだ」
船長は続けた。
「戦いってのが汚いなんて当たり前だ。それよりも町の連中はどうしてそこの娘さんに何事もなかっただけで万々歳だとは思えねぇのかねぇ」
エーリカとほとんど同じことを言う船長の言葉に、剣丞は目頭が熱くなる思いだった。
「ありがとう、おっちゃん・・・でも俺は決めたんだ。この町を出て日の本を見る」
「そうかい・・・で、止めなくていいのかい?嬢ちゃん」
「はい、弁は尽くしました」
剣丞が振り返ると、そこにはまだエーリカがいた。
「もう剣丞さんの思いを止めることは叶わないのですね」
「ごめん・・・」
「・・・ならばせめて、門まで送りましょう」
船長と母娘を帰らせ、2人だけで堺の北門まで来た剣丞とエーリカ。
「本当に行ってしまうんですね」
「ああ」
「やっぱり私も」
「駄目だ」
目に見えて落ち込まれ、少し困る剣丞。
「そんな顔しないでよ。きっとまた会える」
「しかし今は乱世。今生の別れとなってもおかしくはありません・・・!」
エーリカの肩は震えていた。
「うーん、じゃあ約束しよう」
「約束、ですか?」
「ああ。俺はどんなことがあっても、またこの堺に帰ってくる。帰ってきてエーリカとまた会うんだって」
「剣丞さん・・・」
少しキザすぎるかと思った剣丞だったが、その気持ちはエーリカにしっかり届いているようだった。
「わかりました。その言葉を信じましょう」
「ありがとう、エーリカ」
「しかし、この事だけは常に念頭に置いてください」
エーリカは急に表情をきついものにして言った。
「『鬼』に、ご注意を」
「鬼・・・?」
「はい。鬼とは人の倍ほどある体躯、強靭な肉体、鋭い牙と爪といった。まさにバケモノです」
これが友達と休み時間に話す妄想劇ならば笑って飛ばせただろう。
しかし、言っているのはおちゃらけた友達ではなく、あのエーリカだ。
「そして、人を襲います」
「なんだって!?」
「男は殺し、女は巣に持ち帰って子種を植え付け養分にする・・・最悪の存在なんです」
「そんな・・・それが本当なら、この国は・・・!」
「私の本国より命じられた任務は2つ・・・1つは天主教の布教。そしてもう1つが、鬼の討伐なんです」
「鬼の、討伐・・・?」
コクンと金色の頭が上下に動いた後、また話を続ける。
「この町の周りは私が警戒しているので目撃されていませんが、鬼は畿内で増えていると言います。十分にご注意を」
「・・・わかった。にわかには信じられないけど、エーリカが言うんならソイツらはとんでもないんだろうな」
「はい。そしてその鬼を束ねているという者にも気を付けてください」
「鬼にもリーダーがいるのか」
「はい。その者の名は――」
エーリカは一呼吸置いてその名を口にした。
「フランシスコ・ザビエル」
「ざ、ザビエル!?」
剣丞は聞き覚えのある名前に驚愕した。
ザビエルといえば、現代では必ず教科書に載っている歴史の偉人だ。
その教科書内の絵から鬼を操っているというイメージがどうしても湧かない。
「十分に気を付けてください。私に言えることは以上です」
「ああ、わかった。重要な情報をありがとうね」
「あっ・・・」
思わず剣丞は、彼女の頭を撫でていた。
「あっゴメン!嫌だったかな?」
「いいえ、もっと続けてほしいくらいでした」
微笑みながら首を横に振るエーリカ。
「では、私も最後に・・・」
そう言ってエーリカは、剣丞の不意を突いて頬に唇を付けた。
「なっ・・・!」
「ここまでくれば門番からも見えていませんからね・・・帰ってきたときは、本当の口付けをしましょう。それまでお預けです」
「・・・うん、わかったよ。ありがとう!」
「行ってらっしゃいませ、剣丞さん」
「行ってくるよ、エーリカ」
こうして2人は、いつものように別れを告げたのだった。
剣丞
(とりあえず近いし京都に行くか。この時代の京都は楽しみだなー!)
剣丞は初めての1人旅に少しばかり気分を浮かせていた。
(鬼・・・か。なるべく会わないようにしたいが、人が襲われてたらやるっきゃないよな・・・)
(それに俺の中にいる新田七刀斎。コイツは何なんだ?)
(刀にとり憑いてる奴かと思えば、刀を持ってない時にも話しかけてきやがる)
(いや、むしろ・・・)
(刀じゃなくて、最初から俺の中にいた・・・そんな感じがするのは気のせいなのか・・・?)
エーリカ
(剣丞さんは行ってしまった・・・)
(塞ぎ込むかと思っていましたが、お強い人でした)
(情が移りすぎてしまったのかもしれませんね。昨日の夜もまさか飛びつくとは・・・)
(今日だってあんなに取り乱すなんて・・・知ってたじゃないですか、彼がこの町を出ることは)
「おい聞いたか?織田と今川の田楽狭間での戦い!」
「ああ、聞いた聞いた。織田の奇襲で今川義元が討ち取られたって」
「ああ、なんでもその時織田側に、光を纏った天人が舞い降りたって話なんだよ」
「ええーっホントかよ!こりゃあ時代は織田に傾きそうだな」
エーリカは教会までの帰路で様々な噂話を耳にした。
(幕は上がってしまった)
(新田剣丞は田楽狭間に舞い降り、舞台はプロローグを終える)
(イレギュラーたるあなたは私の下から旅立ち・・・私の駒として、舞台を台本通りに進行させる)
笑いを浮かべながら歩くエーリカ。
しかし、教会に着き剣丞が暮らしていた部屋を見ると、彼女の心の中にチクリと刺すようなものがあった。
(不思議ですね。すべてはプラン通りだったのに、あなたに伝えた気持ちの全てに嘘偽りはなかった・・・むしろ暴走しそうなのを気にして、抑えてすらいました)
(・・・何故でしょう)
(予定通り駒が手元から去っただけだというのに・・・)
その場に崩れ、昨晩彼と共に寝た布団を見る。
「涙が・・・止まりません・・・っ」
零れ落ちるその雫は、彼との思い出を薄く濡らしていくのだった。
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一応剣丞の一人称は「俺」で七刀斎の一人称は「オレ」と分けております。
やはりちょっとでも区別をつけないと書いててこんがらがって来ちゃいます。稚拙な文章ですが4本目、どうか少しでも皆様の楽しみのひとつとなることを願っております。
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