【F-ZERO GX ~Story Mode~ 奴らは“神”で武装する】
LAP.4 Ambience ~所詮はただの“駒”だった~
「てめーこら何しやがるんだよ!!信じられねぇ超うぜぇ!!こんな場所じゃなかったら今すぐにでもぶっ殺してやるんだがなぁ!!!」
…………はぁ。
怒りまくっている相手をよそに、思わず口から深いため息が漏れる。
俺は一体、いつまでこの罵倒に付き合えばいいんだ……?
「あ!!今てめー俺の事うざっっっとか思っただろ!?てめーの方がうぜぇんだよ全く!!こん中じゃあ面倒起こすなっておっさんから言われてるが、外で会った時には覚えてろよごるぁ!!!」
…延々とその罵倒聞かされてりゃ、誰だって「うざっ」て思うだろうよ…
と、口に出して言いかけたが、こういうタイプは関わると絶対にロクな事が無いので無視を決め込む。幸い、相手もマシンを下りてまで喧嘩をする気が今の所は無いようだしな。
だから俺は、ハンドルを握ったまま敢えて前を見据える。
しかし……流石にこの状態でマシンを走らせるのは危ない、か……
マシン右後方に手痛いダメージを食らっている。
普通の速度…一般的な公道なら走れない事は無いだろう。だが、時速1000km前後で走行しなければならないサーキットでは話が違う。下手な速度で走って再び事故るより、このままリタイヤした方が多分マシだ。
俺だって、好きでこんな状況に持っていった訳じゃない。
仕方がなかった…と言うより、これしか方法が思いつかなかった。とっさに取った方法がコレだったと言うか……まぁいづれにせよ、既に起こしてしまった事をどうこう言っても仕方がない。
まあ、初めてコースに出たにしちゃあ上出来と言うか、頑張った方だと思うんだ……いや、自画自賛している場合では無いんだが……
BS団はシャドーとブラッド二人掛かりでファルコンを潰そうとしていた。だから、そのうちのどちらかを相手をしてやったら、少しはファルコンも楽になるだろうと思ったんだが……
で、結果……
ブラッドのマシンの進行を妨げるように俺が前に出た結果、こうなりました…と言った感じだ。具体的に言うと、カーブを曲がる時に俺がイン側から強引に抜いてブラッドの走行ラインを乱そうとしたんだが、強情なブラッドは全く譲らず、寧ろブーストで突っ込んで来た為に体当たりを食らう形になり、お互いに明後日の方向に吹っ飛ばされてこうなりましたと言った感じだ。
突っ込んで来るかも知れないと頭のどこかでは思っていたものの、まさかそれでリタイヤに追い込まれるとは思ってもみなかった。
まあブラッドのマシンも前方が潰れて同じように走行不能になっていた……から、俺に対して延々と文句を言っているんだが……お前が避ければ済む話だろ!?と言いたい所なのだが、話がややこしくなるので敢えて黙る。
「おいコラ聞いてんのか!?帰ったらあのおっさんにグダグダ言われるのは俺なんだぞ!?」
相変わらずやかましい……大体、その話は何回目だ!?と言いたい所なのだが以下省略。
ただ、ここが治外法権で互いに手出し出来ないと言う特殊な環境なのはブラッドも知っているらしく、いきなり銃をぶっ放して来ないだけマシと言えばマシなのだが……
ブラッド・ファルコン…4年前の大事故の時に怪我をして動けなくなったファルコンの遺伝子を盗んで作り出したクローンだったな確か。見た目は大人だが中身は4歳だからな……体力面だけ一端の大人以上と言うからタチが悪い……
と思っているうちに、救護車がこちらの方に走って来る。このマシンが彷徨いていると言う事は、レースの方が一区切りついたんだろう。あの車は、俺たちのようにコースに取り残された連中を回収する為に、レース終了後に実行委員会が走らせて来るものだ。
相変わらずブラッドは機関銃の如く喋り続けているが、俺は無視して救護車の方に乗って行く。ちなみにこの救護車、基本的にオートで動いていて一人しか乗れない。だからブラッドは、俺とは別の救護車に乗せられていく……相変わらずグダグダと文句を言いながら。
一緒に乗せると大げんかになると言うパターンが目に見えてるから、こうして別々に運んでいくのだろう。
この中から改めてコースを眺めると、観覧席には沢山の観客がいて、興奮はピークに達し、怒号のような歓声が沸き立っている。俺はレースに集中していたせいか、全然気にならなかったと言うか耳に入らなかったと言うか……必死だったと言うか……とにかく酷く他人事だった。
そして俺は、救護車の中でこっそりQQQと通信を取る。
今回、QQQはマシンに乗せず、レースの間に何かあったら困るから監視役を頼んでいた。
しかし今の所、俺が懸念していたような“歪み”は発生していない。
宝石も盗まれたりしておらず、表彰台の上に飾られている。
宝石はそれ自体を加工したり出来なかったから、外側だけをゴテゴテ飾って無理矢理チャンピオンベルトにはめ込まれているような形を取っている。
遠目で見ても分かるくらいに馬鹿デカい宝石……中央部分が怪しく輝き、何かが渦巻いているように見えなくもない。
視覚効果なのか、それとも……
…………
あ、そうそう、レースの方は目下の予想通り接戦を制したのはファルコンだったようだ。
……果たして俺は、少しは何かの役に立てたのだろうか……
とか考えていたら、救護車はサーキットのメインストリートに戻って来ていた。
俺は別に怪我をしている訳ではないので自分の両足で立ち……ブラッドが戻って来たら面倒くさそうだから、ちょこっと影の方に隠れる事にしよう……俺はさり気なくメインストリート手前の関係者用スペースにいるQQQに一番近い場所に陣取り、表彰台の方を見据える。奴はいつ来てもおかしくないからな。
それから間もなくして表彰セレモニーが行われようとしていた。
セレモニーのインタビューと言ったって、相変わらずファルコンはベラベラ喋るような性格でもないので淡々としていたが……その辺が一通り終わったら、あの、例の副賞が出されるのだろう。
「アノ宝石、ドウスルノデスカ?」
「デスボーンが固執しているのがアレなら、この時代からとにかく引き剥がして本部の方に送るしかないだろう。本部で解析してもらえば、奴が何故これに固執しているのかも分かるだろうしな」
ともかく、話が通じないような連中が手にしなくて良かった……と胸を撫で下ろしながら、俺はステージの上にある、あの宝石を見据えていた。
確かに大きくて奇麗だ。
だが奇麗すぎて浮世離れしてて…この世の物とはとても思えない……
あの宝石の中にあるモノ……
渦巻いて見えるモノは……
あれはひょっとしたら……
考えながらも俺はそのインタビューの間にQQQに目配せをして、さり気なくステージの近くに移動する。俺はインタビュアーの後ろの方から、QQQはファルコンの後ろから……本当ならすぐに対処出来るように彼らの隣にいたい気分なのだが、流石にこの時代の俺はそこまで権限を持っていない。
もし、奴が来るとしたら……この瞬間だろう。
チャンピオンベルトがファルコンの手に渡されようとした、その瞬間……
突如、インタビュアーの脇の空間が大きく歪む……
「!?」
瞬間、俺たちは弾き出されたようにステージの上に上がるが、いきなり真横に出て来た相手より素早く…と言う訳には流石にいかなかった。
何も無い所……空中からいきなり太い腕が伸び、ファルコンの手に渡ったばかりのチャンピオンベルトを鷲掴みにしてきたのだ。普通の人ならそこでひるむのだろうが、ファルコンは伸びて来たその手首を払い、強引にその手からベルトを引き抜く。
周囲は唖然とする…時間も与えられず、その腕に続き現れた巨体を目にする。人間なのかロボットなのか、その判断も付け難い異様な風体の男が空中から出て来たのだ。展開があまりに唐突過ぎて、間近にいるインタビュアーも何が起こったのか恐らく理解していない。
パイロット達の集団の前にいたブラックシャドーがデスボーンに対して何かを言いかけたが、その全てを聞く事無く、デスボーンはシャドーに右手を掲げ、まるで魔法のように相手を消し去ってしまった。
消し去った…少なくても、この場から、突如、ブラックシャドーはいなくなってしまった。恐らくレースに勝てなかった事の腹いせに、どこかに飛ばしたのだろう。
ここまで来て、やっと周囲にどよめきが走り出す。
俺たちは弾かれるように舞台の上に来た事は来たのだが、デスボーンの間にファルコンとインタビュアーがいる為に下手に手が出せない。ファルコンの方は戦い慣れているだろうが、インタビュアーは格好の餌食だろう。それにまだベルトはファルコンの手の中にある……インタビュアーの命を危険に晒してまで、無理に食って掛かる理由も無い。だから俺は相手の出方を伺う事にする。
だが、デスボーンは、それ以上の事をしようとしなかった。
シャドーをどこかに飛ばした以上の事を、しようとはしなかったのだ。
デスボーンは今度は高々と左手を上げ…その手には黒い宝石がはめられたベルトがあった。
デザインこそ違うが、今、ファルコンが手にしているベルトと似たようなベルトだ。
但し、デスボーンの持つそれは、黒い輝きを放ち、その中にはブラックホールでも閉じ込めたかのような暗雲が立ちこめているように見える。
その黒いベルトを掲げ、デスボーンはファルコンに向けて高らかに宣言したのだ。
「我が名はデスボーン…裏世界のグランプリ王者だ!明日、互いのベルトを賭けて統一戦を行おうではないか!!」
それだけを一方的に話すと、出て来た時と同じように一瞬で姿を消し、表彰台にはベルトを持ったままのファルコン、インタビュアー、そして俺たちの4人がポツーンと立っていた。
…………え?
それだけ!?
いや、騒動起こしてくれとは言う気はもちろん無い……
だが、何て言うか拍子抜けしたと言うか……
そんな俺たちの様子をよそに、一瞬どよめいていた観客席が再び歓喜の声を上げ始める。
「??…オ客サン、怖ガッテマセンネ……?」
「……た、多分、唐突過ぎる上に何もしてこなかったから、茶番と言うか演出と言うかサプライズと言うかエキシビションと言うか、ともかく、そんな類いのと間違われているんではないかと…まあ、ここで下手に観客にパニック起こされるよりは良かったが……っと、それよりブラックシャドーはどうなったんだ?」
「追跡ヲ試ミマシタガ、チョット追エマセンデシタ」
「そうか……」
そうして結局表彰式は、ブラックシャドーが行方不明になっている部分以外はつつがなく(?)終了し、俺はサーキット内の通路でファルコンと話す機会を得た。
俺はそこで、物凄くざっくりと、俺が追いかけ回しているのがデスボーンと呼ばれるあいつである事と、奴が欲しがっているのは恐らくその宝石である…と言う事を話す。
「所でファルコン……明日は行くのか?」
「ああ。恐らく用があるのはベルトだろう。だが、ひょっとしたら、私自身にもあるのかも知れないしな」
「ああ……」
ファルコンに用がある……俺も少しその可能性を考えていた。
本当に宝石だけが欲しいのなら……表彰台に立ち入る事が出来たのだから、例え強引な手段を用いてでも、ファルコンも一緒に飛ばすなり殺すなり何なりした方が話が早い筈なのだ。
だが、それをやらず、敢えて別の場所に呼び出そうとしている。
ならひょっとして、ファルコン本人にも用があるというのか…?
いやまさか本当に一緒に走りたいだけ……と言う事は無いだろう。
本当に、奴のやりたい事がイマイチよく分からない……
行動の読めない奴を相手にするのは本当に疲れる…理解しようと思っても出来ないからな……
「そう言えば…あいつからは何の“匂い”も感じなかったな……」
俺がそんな考え事をしていると、ファルコンが独り言のようにこんな事をボソリと言い出す。
「悪党には悪党なりの、大物には大物なりの“匂い”と言うか“空気”がある……だが、デスボーンと呼ばれる奴には、そう言った一切の“空気”が感じられなかった……まるで空っぽで虚ろで……“死臭”すら感じ取れなかった…」
……死臭すら感じない、か……
確かにそれは、俺も薄々感じてはいた。
計器で測れるものではない、本当に感覚的な話だが……
俺が思うに奴は……
俺は黙ったまま天井を仰ぎ見る。
奴は……
俺の仮説が正しければ……
ちょっと“やっかいな奴”を相手にしたと言える。
まあこうなってしまった以上はやっかいとか言ってられず、相手にするしか無いのだが。
時空軸の破損…
そうだ……
デスボーンには無理でも“奴ら”には可能な事だろう。
となると…俺はともかく、あまりファルコンには対峙してもらいたくないのだが……
でも、名指しされている以上、俺が止めた所で彼は行くのを辞めたりはしないだろう。
「ファルコン…本当に明日は行くのか?」
俺は改めて彼の意思を確認する。
「ああ…」
彼は改めてその意思を示す。
「だが、一つだけ問題がある……」
「何だ?」
「奴は肝心の場所を指定していない」
「……はぁっ!?」
淡々と話すファルコンの台詞に、俺は思わず声が裏返る。
確かに思い返すと、どこに来いとか確かに言ってなかったような気が……
記憶違いだったら困るので、QQQが常に録画している記録用のデータをファルコンと確認したが…
確かに、奴は場所を特定出来るような事を一言も言っていない……
ちょっと待て、これじゃ行きようがないだろうよ……
と思っていたら、俺の背後からデカい足音をバタバタさせてこちらに近付いて来る者がいる……
振り向くと、そこにいたのは……
「あー、超見つけた~!!!」
さっきからずーっとうるさかった例の四歳児……
「ブラッド…お前まだいたのかよ…とっくに帰ったと思ったが…」
「うるせぇ!!モノクロのおっさんには用が無ぇんだよ!!」
そう言いながらブラッドは俺を手で払いのけてファルコンの前に立つ。
モノクロのおっさん……???
って、俺の事かよ!?確かに白いメットに黒い服着てるが……26年間生きていて、そんなあだ名つけられたの初めてだぞ!?
そんな文句言いたげな俺を無視し、今度はファルコン相手にべらべらと喋り始める。
ファルコンの両肩に手を乗せて何だか妙に馴れ馴れしい……
「変なおっさんから伝言~。ファイアフィールドのサーキットの裏手にある洞窟から奥の方入って行けって。行けば分かるってよ。
後はなぁ~、こっちは伝言でも何でもねぇんだケド、あの変なおっさんをちゃちゃっと殺っちゃってくれよ。何か丈夫っぽいケド、火口に突き落とせばいくら何でも死ぬんじゃね?」
「……いや、デスボーンはその程度では恐らく死な……」
「だからモノっちは黙ってろって!!」
俺はブラッドの背後から無理矢理会話に加わろうとしたが…見事に玉砕する。
しかし……何だよ……モノっちって……あ、モノクロだからモノっちなのか……
もはや原型を留めてないな、このあだ名……
一方、相変わらずファルコンは淡々と黙ったままだ。だが、ブラッドの話はまだ続く。
「明日のレース、悪い事は言わねぇから一人で来た方がいいぞ?」
ブラッドはニヤリとそう釘を刺すが、恐らく、ファルコンは言われなくても一人で向かうつもりだろう。
ファルコンの身に用がある、なら彼は殺されない…否、殺せないかも知れない。
しかし、他の連中はそうじゃない。
少し考えれば分かる事だ。
「あの変なおっさんが来てからさぁ、うちのおっさんも言いなりになってっつーのかなぁ、何か親玉二人もいて指示系統滅茶苦茶なんだよなぁ~たまに言ってる事がちぐはぐでぇ、どっちの言う事聞いていいのか分かんねーっつーの!!!」
廊下にバカデカい声が響き渡る……て言うか、そんな大声出さなくても聞こえるから少しはセーブして喋れよ待ったく……
……ちなみに「変なおっさん」とはデスボーンの事で、「うちのおっさん」と言うのはブラックシャドーの事を言っている……らしい。自分より年上の連中は全部「おっさん」なんだな…俺も含めて…
以下、ブラッドの話が無駄に長い+ほぼ愚痴なので要約してしまうが、ある日突然現れたデスボーンとやらにBS団が牛耳られてしまい(恐らく、力でねじ伏せられたのだろう)ブラッドはその事が大変気に入らないようだ(そりゃまぁ、いきなりよそ者が乱入して来て乗っ取られたような感じだろうしな)
明日のレースでデスボーンが倒されればブラッド的にはハッピーだし、例えファルコンが倒されたとしても、ライバルが一人減ってくれるからハッピーなんで、どちらが勝っても嬉しいケド、BS団で大きな顔が出来る環境を取り戻せる的な意味合いで前者をご希望との事……
ちなみに、ブラックシャドーが先程消された件に関しては特に心配しておらず……と言うより、消えた事をイマイチ理解していないようだ。
心配してやれよ……と言いかけたが、どう考えてもそれは俺の台詞じゃない。
まぁ、本当に消えたら消えたで自分が仕切ろうと思ってるんだろうな……非常に前向きだと捉えていいんだろうかこれは……
そうしてファルコンはとうとう一言も返事すらせず、一方的にブラッドが喋り倒し、一通り愚痴を零すと、来た時と同じように、大きな足音をばたばたさせながら立ち去っていった。
……ブラッドがいなくなってからの静寂が耳に痛い……
「で、何の話だったか?」
「明日ハ、ふぁいあふぃーるどニ来テ欲シイトノ事ダッタカト…」
固まった筋肉を解すように、軽く肩を回しながらボソっ言うファルコンの問いに対してQQQが返事をする。そうだよな、要約すれば、その一言で終わる話だったんだよな……
しかし、ブラッドは何しに来たんだ…?
……ひょっとして、話し相手が欲しかったと言うか、愚痴零しに来ただけか!?
そして翌日……
ファルコンは言われた通りに、ファイアフィールドのサーキットの裏手に一人で来ていた。
そう、彼が一人で来た。
銀河連邦とか、他の連中は、いない。見当たらない。
サーキットの裏手には採掘場があり、そこには地下に続く長いトンネルがあった。ブラッドもといデスボーンの言っていた洞窟と言うのはこれの事だろう。採掘場なら大型の機械が普段から入っている…F-ZEROマシンが突入するのにも特に問題は無いだろう。
デスボーンが表彰台でレース場所を公言せず、ミュートシティから離れた場所を指定したのは、誰にも来て欲しくないと言うのもあったんだろうか……
そして俺はこっそりと…彼にも銀河連邦にも連絡せずに、遥か後方から彼を監視していた。
マシンは昨日徹夜で直し、大急ぎでこちらに向かったと言う手筈だ。
…どこかに“奴”の気配を感じながら…な。
そのままファルコンは、指示された洞窟へと駆け抜けていく。
ブルーファルコンが見えなくなったのを確認すると、俺はその洞窟の手前までマシンを走らせる。
そしてその脇にマシンを止め、風防を開けて地面に降り立つ。
俺は……
「??追イカケナインデスカ??」
「ああ……中の状況はお前のセンサーでモニタリング出来るだろ?」
「多少ノ事ハ分カリマスガ……」
「それで十分。恐らく、ここまで来たらレースは余興と言うか茶番だろう…ファルコンが勝つと思うよ…“奴ら”の思い描く筋書き通りなら、な……」
そう言いながら、俺は空を仰ぎ見る……昼間だと言うのに、夕陽のように赤い雲が空全体を覆っている…この惑星独特のものであるが、気のせいか、とても不穏なものに映る。
そして一緒になってQQQも空を見上げる……恐らく、俺が何を見ているのかを探っているのだろう。
だが、QQQの計器では“それ”は分かりようも無い。
確かにQQQは見た目は旧式のロボットだが、中身のセンサー最先端のものを使っている。だがそれはあくまで俺たちがいる29世紀Lvで最先端と言う話であり、当然、29世紀でも完全に解明出来た訳ではない現象は感知出来ない。
QQQにとって“それ”は、感じ取れないから“無い”のと一緒なんだ。
だが違う。
俺には分かる。
感じ取れない=そこに何も無い
…訳ではない。
確かに科学的には証明出来ない。
だが、俺には分かる……
人間には第六感と言うのか、不可思議なものを感じ取る能力でもあるのだろう…
そこに“奴ら”がいる。
俺だって、ずっと前からそれを感じていた訳では無い。
気付いたのは昨日レースが終わった後だ。
あの時から急速に“それ”を感じるようになった。
人畜無害そうに漂っているが、実際はそうではなく、異様な殺気を漂わせている…そんな空気のような存在を。
思い出せ、レースが終わった後、サーキットのメインストレートで何があった?
ファルコンとデスボーンが対峙していた……
あの時、二人は何を手にしていた?
チャンピオンベルト……
浮世離れした宝石が二つ……
ファルコンが持っていた光の鉱物と、デスボーンが持っていた闇の鉱物……
あの瞬間、二つの鉱石が近付いた瞬間……
あの時からだ!!
「お前らはもしや……」
空に向かって尋ねてやろうとした、その時だった。
遥か上空にいた“それ”は、地上にいる俺たちに向かって突進してきた!!
いや、物理的に何かが突進して来た訳では無く、俺が感覚としてそう捉えているだけだ。
実際には“何も動いていない”
だが俺には分かる。
“それ”はこちらに向かっている!!
“それ”は俺たちの背後を通り、すり抜け、猛スピードでファルコン達がいる洞窟へと向かっていく!!
まずい!!
同時にQQQも、急に洞窟の方に視線を向けて叫ぶ。
「二ツノ物体ガ、此方ニ急接近シテ来マス!!」
その報告を言い終わらないうちに、轟音を立てながら、見慣れぬ紫色のマシンが洞窟から飛び出して来る!!
中に乗っているのはデスボーンだ。
そして間髪入れずにファルコンのマシンも飛び出して来る。
彼は俺たちの存在に気付いたのだろう。ハンドルを切り、俺のマシンのそばに止まって風防を開ける。
間伐入れずに俺はファルコンに問いかける。
「…一体何があった!?」
「いや…私にもよく分からない。先行していた奴のマシンがいきなり暴走を始めた。入り口を爆破されたら困るから追いかけて来たんだが……」
そう言いながら、彼も周囲を見回している。
恐らく俺と同じで“それ”の感覚を察知しているのだろう。
デスボーンのマシンは俺たちより少し離れた所に止まっていた。
奴も風防を開け、その大地にゆっくりと足を下ろす。
その意図が読めず、俺たちは緊張の度合いを強める。
「…ん…?」
「あれは…?」
俺たち二人は小さく声を上げる。
何故なら、デスボーンが身につけて来たベルト……闇の宝石が怪しく輝いていたからだ。
いや、今までも輝いていたが…その光が更に強くなる。自然発光しているとはとても思えない明るさ……中にライトでも仕込んだかのような不自然な輝きだ。
そして、ファルコンがマシンの中に置いていた光の鉱物も、これまた同じように怪しく輝いている。
その二つはどんどん輝きを増し……
余りの眩しさに目がクラクラしてきた時……
“何か”の声がした。
何を言っているのかまでは分からなかったが、とにかく“何か”の声がした。
デスボーンの声かと思ったが、そこからでは無い……デスボーンの背後と言うか頭上と言うか、ともかく、何も無い空中から声が響いてくる。
ファルコンは無意識のうちに腰のホルスターに手をかけている。相手が少しでも怪しい動きをしたら撃つつもりなのだろう。
だが、俺は何もしなかった。
敢えて何もしなかった。
やった所で無駄だと言う事を、俺は知っているからだ。
何かのうなり声…怒号のようなもの……
まるで複数の人が同時に好き勝手言っているかのような騒音……
俺は思わず息を飲む。
二つの宝石が光り輝く中、突如デスボーンは抵抗する間もなく、背中に何かぶつけられたように身体をしならせ、宙に舞う。
その後、宝石の光は徐々に薄れ、眩しかった周囲が徐々に見えてくる。
そうして最初に見えて来たのはデスボーンの姿。
何かに貫かれたかのように空中を待ったデスボーンは、そのまま地上に降り立つ事は無く、数十センチの所をフワフワと不自然に浮いている。
まるで幽霊のようだ。
「肉体を得た所で、所詮、幽霊は幽霊か……」
俺は思わず吐き捨てる。
ファルコンは、そんな俺たちの様子をただ黙って見守っている。
「本意か不本意かは分からんが、取り敢えずお前はこの世界に干渉し、お望み通り、その肉体を得る事が出来た。肉体を得られたと言う事は、やっときちんとした“声”を上げる環境が整ったと言う事だろ?
……話し合いなんてアホな事を言うつもりは無い。でもせめて、名前くらいは教えてくれたっていいだろう?」
俺は不敵な笑みを浮かべながら、かつてデスボーンだった“そいつ”に話し掛けてみた。
「お前はもうデスボーンと言う名前では無い……お前は何だ?誰なんだ?」
そうだ、ハッタリだろうが何だろうが、俺はこいつに弱みを見せる訳にはいかない。俺は舌なめずりをして相手の出方を伺う。
そうして、見た目はデスボーンだが中身は既にデスボーンでない“何か”が、口をきいた。
そうして“何か”が名乗った名は、俺から言わせると大変ふざけたものだった。
To be continued.→ http://www.tinami.com/view/679821
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・と言う訳で、多分原作を知らなくても読むのに支障は無い、二次創作としてそれはどうなんだ?的なF-ZERO小説(笑)ちょっぴり長めですが、宜しかったらどうぞです。
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