No.674360

【F-ZERO小説】LAP3 Jewel ~お前は一体誰なんだ…?~

【F-ZERO GX ~Story Mode~ 奴らは“神”で武装する】
・と言う訳で、多分原作を知らなくても読むのに支障は無い、二次創作としてそれはどうなんだ?的なF-ZERO小説(笑)ちょっぴり長めですが、宜しかったらどうぞです。

Prologue KILL ALL ~所詮それは“駒”だった~ http://www.tinami.com/view/668883
LAP.1 Distortion ~今はまだ…~ http://www.tinami.com/view/668886

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2014-03-28 22:46:42 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1177   閲覧ユーザー数:1174

【F-ZERO GX ~Story Mode~ 奴らは“神”で武装する】

LAP.3 Jewel ~お前は一体誰なんだ…?~

 

 サンドオーシャンの砂漠に俺たちはポツンと取り残されていた。

 無限に広がる砂漠……見た目的には何も変わってはいない。

 だが、その地下では重大な事が起こっていた。

 起こしてはいなけい事が、起こってしまった後だった。

 

 ……悲壮感に立ち止っている暇は無い……

 そう思い、アクセルを踏み込んでその場を後にしたが……

 想像以上に俺は疲弊していたらしい。

 市街地まで辿り着くと、俺はその疲労感に押しつぶされそうになっていた。

 

 早い話が眠くなってきたと言う事だ。

 

「僕ノ方デ運転シマショウ」

 状況を察したQQQが、マシンとコネクトして俺から半ば強引に操縦権を奪う。

「普段カラ僕ガ運転シテモイインデスヨ?」

「ハンドル握ってる方が好きなんだよ俺は……」

 そう悪態をつきながらも、俺はそのまま軽く眠ってしまっていたようだ。

 

 ウトウトと、まどろんでいたいた俺は……何かの夢を見た。

 微妙に夢と現実が混じった状態で……

 俺は何者かの声を聞いた。

 それが誰なのか、何なのかは分からない。

 

 聞いたことのない、その声は…

 言葉にならない言葉を吐きながら、こことはまた違う空間を彷徨っているようだった。

 雲だか空だか、そんなモノを引き裂きながら、何かを探しているようだった。

「何を…している?」

 俺は尋ねてみた。

 しかしその一切は無視された。

 俺の言葉が分からないのか、俺の存在を認識出来ないのか……

 

 俺は再び声を上げようとしたが……

 徐々に世界が薄暗くなり……

 そのまま俺の意識は沈んでいった。

 

 

 気がつくと、マシンはミュートシティの銀河連邦支部の建物の前に止まっていた。辺りは既に薄暗く、夜になろうとしている時間帯だった。

「…ん……着いたんなら、起こしてくれても良かったんだぞ…?」

「イエ、今着イタバカリデスヨ」

 そうQQQは言うが、本来の到着予定時刻から計算すると…一時間くらい寝てた感じだな…

 

 俺は頭を手で軽く叩くと、あの誘拐事件はどうなったのか聞いて来ようと思い、風防を開けようとした……その時、俺のマシンの隣に腕を組んで立つジョディと目と合った。

「…ぇ?」

 思わず変な声が漏れる。その瞬間まで、俺はジョディがそこにいる事に気付かなかったからだ。

 何故ここにジョディが…?あ、いや別に銀河連邦の人間だから、ここにいる事自体は変でも何でもないが……何故わざわざ俺のマシンの隣に……?

「貴方のマシン、赤くて目立つから入って来たのはすぐに分かったわ。私もたまたま戻って来た所だったから出迎えてあげたケド、急ぎの用じゃなかったら1時間くらい後に来てくれって、そこのロボット君がね」

「だからそう言う時はさっさと起こせよ!!」

「急ギノ用デハナイト言ワレマシタノデ……」

「いやあのな、だからって!!」

 

「ハイハイ、兄弟喧嘩はそこまで」

 パンパンと、両手を叩いてピシャリと言う彼女の前に、俺もQQQも言葉を失う。

 いや、勿論兄弟ではないんだが……多分そこは突っ込む所じゃない……それに、確かにここでグダグダやってる場合じゃないよな……俺とQQQは決まり悪そうにマシンから下りる。

「頑張る事も悪くないけれど、休める時に休む事も大事よ。貴方は単身でここに来てて、代わりがいないのだから尚更ね」

 更に一言そう付け加えられて、俺としては言い返す言葉が無い。いやまあ確かにそうなんだが、俺としてはやっぱり、ちょっと気まずいんだよな……

 そう思いながらも、建物に向かってツカツカ歩いて行くジョディの後を黙ったまま付いて行くより他になかった。

 

 何やら人々が行き交って慌ただしい廊下を通り、ある一室に通される。

 そこには先に来ていたであろうファルコンの姿もあった。

 

 誘拐沙汰の件は、ジョディを始めとする銀河連邦の方で上手く片付けたようだ。誘拐されていた子供達の監禁場所も、自首してきた(?)売人の言う通りの場所にあったらしく、相手も、最終的には銀河連邦と喧嘩するくらいなら手放した方が楽と言う判断を下したようで、探索及び保護は楽だったようだ……子供達は銀河連邦が責任を持って保護し、しかるべき場所に帰してやるとの事……

 

 そうだな……無事に戻れた子供達もいるんだよな……

 それは素直に良かったと思えるよ。

 …俺の方ももう少し、首尾良く事を運べれば良かったんだが……

 

 ここに同席しているファルコンは、ジョディに頼まれて作戦行動の手伝いをしていたらしい。

 あの誘拐された子供達の保護に同行……していた訳ではなく、BS団やジーニー達が惑星ズーの方に来られると色々と面倒な事になりそうだから、来られないようにミュートシティの方で足止めをしていたらしい。陽動作戦と言う訳だ。

 

「その時に気になる話を耳にしたから、お前にも伝えておこうと思ってな。ジーニー財閥は、麻薬取引で得られた大金を使って発掘調査を行っているらしい」

「…発掘調査?」

「厳密に言うと、BS団が麻薬を売り、それをジーニー財閥に支払って発掘調査をさせているようだ」

 

 俺とファルコンがそんなやりとりをしている間に、ジョディは仮想モニターを広げる。そこにあるのはジョディが作成した今回の事件の報告書だ。見覚えのある惑星の名前と、ジーニー財閥が作成し、各役所に提出したと思われる発掘調査の許可証のコピーがそこには映っている。

「不正に調査してるんじゃなくて、みんなしっかり許可貰ってるのよね。BS団がこんなに派手にボーリング調査とかしたら私たちが飛んで来る事も出来るのだけれど、ジーニー財閥は表向きは一応全うな財団だから……

 財閥が何を調査しているのか調べてはみるけれど、一流財閥相手にどこまで立ち入れるか……」

 流石のジョディもお手上げの様子で軽くため息をつく。

 その話を聞いて、俺も軽くため息をついた。

 確かに金の流れが怪しいと言うだけでは、捜査出来ない案件だ。

 

 ファイアフィールドやビッグブルーとか、資源な豊富な場所なら調査する理由も分かる。

 だが、レッドキャニオンとかは治安が悪いだけだし、デスウィンドも土地が痩せてて何も無いと言っても過言ではない過酷な環境だ。

 そんな所を調べてどうするんだ?

 と財団に問い合わせした所で「企業秘密です」と言われるのがオチなんだが……

 

 調べられているのは、本当に様々な惑星の、様々な場所だ。

 海底だったり山奥だったり、共通点になりそうなものが何一つ無い。

 原油や金脈を探しているのかも知れないが、BS団には未来から来たデスボーンがいるんだ……そう言った資源なら、大体の場所が分かる筈なのに……そう言った類いが出てくるような場所でも無い。

 

 ひょっとして“何か”を探しているのか……?

 

 本当に脈絡も共通点も無く、ただ思いつくままにあちこち掘り進めていると思われるその様子に、フとその単語が頭に浮かんで来る。

 

 恐らく、デスボーンが“何か”を探している。

 それが何なのかは分からないが、極力この時代に干渉しない方法で探しているのだろう。

 

 “それ”がどこにあるのか…ひょっとしたらデスボーン本人も分かっていないのか……?

 

「……」

 腕を組んだまま、俺は押し黙る。

 こう言った話になると、ジョディにもファルコンにも、もはや話せない。

 デスボーンを捕まえるのは俺の仕事だ。

 いや、頼りに出来る出来ないの話ではなく、相手が悪いし何より危険すぎる。

 

 しかし本当に、奴は何を探しているのだろう。

 

 未来から来たデスボーンにも分からないモノ……その時代、歴史上に本来存在しないモノ……

 

 例えば、時空の狭間から突如投げ込まれて、俺たちの世界に存在するようになったモノ……?

 逆に、時空の狭間に落ちて、突如時の流れから消えてしまうモノ……?

 

 もしそうだとすると、俺の方で先に見つける事も難しいかも知れない。

 時空を移動したモノではなく、狭間から突如現れたモノは、突如その時代に生まれた事になり、歪みが感知出来ないからだ。

 

 まあ、それは相手も同じ条件……か……

 

 

 その後、結局三日くらい経過したが……残念な事に、話の進展は特に見られなかった。

 

 ジーニー財団の発掘調査は(一応合法的に行っているので)遠巻きに見守る程度の事しか出来ず、BS団も特にこれと言った動きを見せず……

 俺は俺で、デスボーンの形跡を探ってはいたのだが、ビッグブルーで大きな歪みが感知されたので行ってはみたものの、感知出来たのは本当に一瞬で、奴に会う事は出来なかった。

 

 そうして事態が沈着する中、ミュートシティでのF-ZEROグランプリの予選が始まる前日になった。

 

「今回ハ景品ガ増エルソウデスヨ」

「……は?」

 

 F-ZEROに関するニュースの中から、QQQがそんな記事を拾ってくる。

 

 元々F-ZEROの景品と言えば、莫大なる賞金と名声くらいなもの…いや、それで十分なんだが…時々、実行委員会や出資しているメーカーによって副賞と言うか景品が増える事がある。それは出資者の気まぐれだったり、新製品のキャンペーンがてらだったり、まぁ色々とあるようだ。

 

「…で、何が貰えるんだ?」

「何カヨク分カラナイ宝石ラシイデス」

「…いや、よく分からないって何だよ。宝石って言ったって色々あるだろ?ダイヤモンドとかルビーとか……」

「本当ニヨク分カラナイラシイデスヨ」

 

 何だそりゃ!?と思いつつ、埒が開かないので俺もニュースサイトの記事に目を通す。

 記事には写真も掲載されていて、見てみると、20cmくらいある大きな楕円形でオレンジ色の物体だった。キャッツアイ効果と言うのだろうか、中央部分だけ何だか白く輝いて見える。

 

 美しい宝石だが……何故だろう、大きすぎるせいか、奇麗と言うより浮世離れした印象を受ける。

 

 そしてQQQの言う通り、何の宝石か…までは書かれていなかった。

 ただ、実行委員会の粋な計らいで景品が増えたとしか……

 

 俺が記事に目を通している間に、QQQはネットのあちこちから情報を拾って来たようだ。

 複数の関係者のネットの書き込みを総括すると、宝石の正体…は相変わらず不明だが、どこから出て来たものかは分かった。恐らく本気で伏せる気は無く、思わせぶりにしておいた方が話題になって面白いだろう的な理由で伏せているのだろう。

 

 発掘されたのは三日くらい前……俺たちがサンドオーシャンでデスボーンと対峙していた時に、それはビッグブルーの海底で見つかった。

 

 見つけたのはBS団でもジーニー財閥でも無い、とても小さな会社の社長だった。

 以前はF-ZEROチームを運営していたが、4年前の大事故でレースそのものが開催されなくなった一時期があり、その間に何故かパイロット達が行方不明になってしまった。活躍する舞台も人材も無くしてしまい、資金繰りは立ち行かなくなってしまった……このままでは破産するしか無い。

 ヤケクソになった社長は、地下資源で一山当ててやる!!とF-ZEROマシンを売っぱらって潜水艇を購入し、ビッグブルーの海に潜って闇雲にあちこち掘りまくってたら本当に何か出て来ました、と……

 

 所が、その宝石は値段がつかなかった。

 取引所には持って行ったが、値段がつかなかったのだ。

 どう足掻いても削れず、加工出来ず、不思議に思って取引所の人が分析センターに持って行ったら『今まで観測した事のない物質が含まれている可能性がある。これはぜひ研究したいので良かったら寄付して下さい』と言われて社長は猛烈ダッシュして逃げ出し、その時にたまたま目に入ったF-ZEROのサーキットに飛び込み、買い取ってくれ!!!と懇願したらしい。

 

 普通だったら、そんな訳が分からない人が持って来た訳の分からない品など見向きもされない筈なのだが、珍しいものには変わりないし、話のタネにはなるだろう的なノリで実行委員会がキャッシュで買い取ってやったそうだ。

 

 所が、一日としないうちに、ジーニー財閥がその鉱石を買い取りたいと言い出して来たらしい。

 それも破格の値段で。

 普通だったら、そんな大金で欲しがっているのなら売ってやろうと簡単に手放すんだろうが、実行委員会は大富豪達の集まり……あいにく、大金を積まれて動くような連中ではない。

『そんなモノは見飽きているのだよ。私たちが欲しいのは、刺激だ、スリルだ、胸が躍る感覚だ。欲するのならば、それらを私たちに指し示すが良い。そうすればこれを手に入れる事が出来るだろう』

 ……と、何だか物々しく言っているが、要するにF-ZEROに参加して一位だったら差し上げますよと丁重にお断りしたそうだ。良くも悪くも、実行委員会はレースを盛り上げる事しか考えてないからな。

 

 そして肝心の社長は現在行方不明のようだ。

 誰に消されたのかは…まあ察しが付く。

 ジーニー財団が買い取ろうとしていた、欲しがっていたと言う事は、恐らくBS団……デスボーンが欲しがっていたモノに間違いないだろう。正体不明の宝石って時点で十分に怪しい。

 

「シカシ…価値ガヨク分カラナイものガ、景品トシテ成立スルノデスカ?」

「確かに今はまだ価値が無い。奇麗だが単なる石ころと変わらない。だが、これから“F-ZEROの景品”と言う付加価値が付く。更に授与されたパイロットが有名なら“あのパイロットが手にした”と言う付加価値も付く。有名なパイロットなら皆が欲しがるだろうし、万が一無名なパイロットが勝ったとしても、それはそれでレアだからな」

「何カ、きゃらくたー商法ミタイデスネ」

「それ、あながちデタラメじゃないと思うぞ」

 

 価値が分からなければ、価値が無ければ、それを作ってしまえばいい。

 その辺、実行委員会は商売が上手い。と言うか、そうでなければ大富豪にはなれないと言う事か。

 

 いや、今はそんな事を感心している場合ではない…その宝石が奴らの狙いだとすると、奴らの手に渡らせる訳にはいかない…しかし、俺が一人でノコノコ掛け合った所で、実行委員会が素直に宝石を寄越すとはとても考えられない。ジーニー財閥は丁寧にお断りされたようだが、俺なら確実に門前払いだろう。

 下手な国家並の財力と権力がある実行委員会を敵に回すのは得策ではない……

 

 デスボーンなら時空の狭間を発生させて好き勝手出来ると思うのだが……

 それをしない、やらない理由は何だろうか?

 

 意図は読めなかったが、それをやってこないと言う事は、実行委員会が望むように、サーキットで戦おうと言う事なのか?

 あいつはマシンを持っているのか?

 あ、いや…本人が出なくても、ジーニーやブラックシャドーが出場すればいいのか……

 俺のサイドに立てるパイロットはファルコンやジョディがいるが、俺はその戦いを、その走りを、ただ、見ている事しか出来ないのか…?

 勿論、二人の腕を信用していない訳ではない。ファルコンは優勝経験があるし、ジョディだって優勝候補に挙げられる事もある、優秀なパイロットだと言う事は分かってはいる。分かってはいるが…

 

 本来、俺が片付けなければならない懸案を、何だか現地の人間に押し付けているような感じだ。

 不用意に俺の懸案に巻き込んでいるような感じだ。

 これで…いいのか?

 これでいいのか!?

 いいのかも知れないが、何だか胸の中が物凄くモヤモヤする。

 対峙しなければならないものは何だ?守らなければならないものは何だ!?

 俺はどうするべきだ?どうするべきなんだ!?

 もう少しで、時の流れは壊れてしまう。そうなったら全てはおしまいな訳で……

 レースだって一発勝負だ、やり直す事なんて出来ない。

 少々強引な手段を用いても、あの宝石は死守しなけれはならない……

 

 …………

 

 正解なんて、無い、か……

 理詰めで考えても仕方がない。

 こうなったら、腹をくくってやるしか無い…

 俺はそう自分に言い聞かせる。

 

「QQQ、F-ZEROの予選っていつまでエントリー可能なんだ?」

「……厳密ニ言ウト開始2時間前デスガ、5分前ニ行ッテモ参加出来タト言ウ話モアルヨウナノデ、割トあばうとナヨウデス。激シイ展開ガ欲シイノデ、割ト来ルモノ拒マズノ状態カト」

「ふーん…………」

「…………」

「…………」

 

 俺はハンドルに肘をつきながら明後日の方向を向いてQQQの答えを聞いていた。

 QQQは俺の質問に的確に答え……

 そして、俺が何を考えているのか、恐らくもう気付いていると思う。

 

 だからこそ、この妙な沈黙なのか。

 QQQは敢えて何も言わないのか、それとも、呆れて何も言えないのか……

 

 正直、俺だってこんな手段は取りたくないが、他の方法が何も思い浮かばない……

 

「仕方ないだろ。これ以上放っておいたら時空間の崩壊は避けられないし、この不安定な時空では時空警察の援護は期待出来ない……でも、デスボーンと言うかBS団がレースに勝つ事は何としても阻止しなければならない。

 とにかく、時空間の崩壊…世界の崩壊だけは、絶対に食い止めなければならない……そんな事をされてしまったら、修復は絶対に不可能だから。

 かと言って、俺が好き勝手やっちゃいけないと言うのも分かるんだよ。分かるんだが……でも、好き勝手やったとしても、時の流れが無事なら、修復作業で多少は“無かった事”にできるだろ?」

 俺はそう一気にまくし立てる。

「……報告書ニ嘘八百書ク訳ニモイキマセンノデ、本部ニ正直ニ報告シマスヨ?」

「いいよ別に…それがお前の仕事だからな。世界が崩壊するくらいなら、始末書くらい喜んで書くさ」

「果シテ始末書デ済ミマスカネ?」

「…………」

 

 俺は軽くため息を付いた。QQQの言っている事は分かる。頭に血が上って判断力が鈍った時にガツンとやるのもナビゲーションロボの仕事だからな。でも、残念ながら俺は正気だ。

 

 奴らにサーキットで好き勝手させない為に、俺は敢えて奴らと同じ土壌に立つ。

 

 レースにエントリーしようと言っているんだ。

 

 我ながら無謀な提案だ。

 実は俺はレースの経験が全く無い訳じゃない。過去……20世紀の時に潜入捜査の一環で、現地の車を動かしてサーキットに出た事はある…のだが、マシンの挙動的な意味でどこまでその経験が生かせるか……20世紀のマシンにはタイヤと言うものがあったしな。

 

 まあ極端な話、俺が勝つ必要は無い。

 ファルコンかジョディが勝てば、俺の事情を話して宝石を譲ってもらうと言うか、預かる事くらいは出来るだろう。その為に、BS団やジーニーに勝たせる訳にいかない。そいつらの足止めと言うか、妨害くらいはやっておきたい。勿論、F-ZEROのレギュレーション範囲内で。

 もし万が一、デスボーンが突然やってきてレギュレーション外の事をしても、俺がその場に入れば対処も出来る。まあ実行委員会に力づくの手を今までしなかったのだから、レースの中でその手段に出る可能性は低いだろうが…用心するに超した事は無い。

 

「本当ニ出ル気ナノデスカ?出ルトシタラ、ましんノ事ヲ考エナイトイケナイデスネ。えふぜろノ参加基準ハ割トあばうとデスガ、ましんノちぇっくハ厳格ノヨウデス」

 

 それはそうだろう。あの規模のレースになるとテロの心配もあるし、以前、相手を殺すつもりでマシンに機関銃を取り付けたバカがいたらしいので、マシンチェックは流石に怠らないようだ。

 

 マシンは今ここにあるレインボーフェニックスを使えばいいのだが、本気を出すと、この時代のマシンでは有り得ない程の高速で走れてしまう…そう、次元を突き抜けて行く程度の速度に。

 チェックが厳格となると、当然マシンの中と言うか、エンジン等の駆動回りも調べが入るんだろうな……

 

「うーん、リミッターとカモフラージュで乗り切るしか無いだろうな…時間もないし、今から作業して間に合う……と言うか間に合わすぞ」

 

 俺は「正直乗り気じゃない」と言う雰囲気を讃えまくっているQQQと一緒に、マシンのエンジンルームに手を伸ばした。

 

 

 そしてレースの日がやって来た。

 

 今日が決勝の日……

 ミュートシティのサーキット……

 そこは偉く狭くてタイトなテクニカルコース……

 半分崩壊したような、お世辞にも整っていると言えない路面状況だ。

 

 4年前の大きな事故……それを忘れない為に、わざとその状態を保存したままのコースにした…と言われているらしいが真相は不明。

 F-ZEROには珍しく、ダメージゾーンもある極めて攻撃的なコース……正直、完走するだけでも難しいコースと言えよう。

 

 実際、予選では多くのマシンがリタイアした……

 

 俺はその、幸い残ったと言うか勝ち上がってしまったと言うか……

 

 え?マシンの方はどうしたって?

 安心してくれ、時空警察は現地に馴染む為の技術を色々持っている。それが具体的に何なのか、残念ながら教える事は出来ないが、現地のモノに合わせ、ちゃんと未来の技術が漏れないようになっているんだ。それが時空能力者としての礼儀作法だからな。

 

 走りの方は、以前20世紀のレースマシンを操った時の感触が、まだ俺の身体に残っていたようで……頭で考えるより先に手が動く……それがまた違和感無くマシンを動かせたのだ。

 

 …我ながら上手く行きすぎて戸惑うLvだ。

 

 ともかく俺は予選を突破した。

 そして今日は決勝の日……

 予選を突破出来たものが集い、そしてレースの頂点を目指す。

 

 レースが開催されるまでまだ数時間ある。

 こんなに早くサーキットに入る必要も本来なら無い。だが俺は、色々と見張りたいものがあるからな。

 ピットの脇に立ち、改めてコースを眺めてみる。

 レースの関係者がポツリポツリといるだけの観客席。まだマシンが並んでいないグリッドゾーン。

 “嵐の前の静けさ”と言う言葉が、これほどピッタリな場所も無い。

 まだ何も無いはずなのに、空気がピリピリすると感じるのは気のせいだろうか?

 

 こういった大きな勝負の舞台には魔物がいるとよく言われる。

 心に作用するプレッシャーと言う名の魔物。

 予選の時に既に走っているコースなのに、緊張感はその時の比ではない。

 俺は静かに息を吐きながら空を見上げる。

 

 魔物に飲み込まれるな。

 俺は自らにそう言い聞かせる。

 文字通り、これは……

 この世界の“未来を守る”為の戦いなんだ。

 

 そんな事を思っていると、突如背後に誰かの気配がする。

 振り向くと、そこにはファルコンの姿があった。

 こうやって顔を合わせるのは、あの時……サンドオーシャンから帰って来た時以来だ。

 俺がこのレースに出る事は、俺が話す前に参加リストの更新で知る事になった筈……

 ジョディには話を通したか、ファルコンには何も話をしていない…事前に言えれば一番良かったんだろうが、彼が雲隠れしてしまって連絡の取りようがなかったのだ。

 

「目的は何だ?」

 俺が声をかけるより早く、ファルコンは手短にそれだけを聞いてきた。

 だから俺も手短に、俺が追いかけている奴の目的が今回の副賞である宝石の可能性があると伝える。実行委員会の手に渡ってしまった今は、とにかくレースに勝たなければならない、と。

 彼はパイロットとしての経歴は長いので、理由はさておき状況だけは納得してもらえたようだ。

 

 その肝心のレースの参加者なのだが、ブラックシャドーやブラッドファルコン、ドン・ジーニーの名前はあったのたが、デスボーンの名前は無かった。

 …当の本人は、あくまで直接手は下さないと言う訳か…?

 

「あら、おはよう。二人とも早いわね」

 そんな俺たちの背後から、今度はジョディが近づいてくる。

 

「早いと言うか、私はあれから直接ここに来たからな」

「それにしても良かったわ、貴方が無事で。流石に今回は身がもたないかも…って思ったから」

 そのままジョディとファルコンはそんな会話をしているが、俺には話が見えずに若干戸惑う。

 

 そんな俺を察してか、ジョディが軽く一言添える。

「殺されかけたのよ、私たち」

 

 …………いや、そんな重大な出来事を世間話でもするかのように軽く言われても……

 

「レース前に命を狙われるのは、割とよくある話だから。サーキットの中は互いに手出し出来ないけれど、なら外でやってしまおうと言う話になる訳」

 ジョディはそう続けるが、いや、よくある話と言われても……

 

 言われて俺は思い返す。

 そう言えば、昨日は街がやけに騒がしかった。

 BS団が発電所を襲撃して大騒ぎになっていた。

 

 そこでジョディもファルコンも危うく死ぬ所だったらしい。

 爆発寸前の発電所に取り残されていたジョディをファルコンが救ったが、その後、ブルーファルコンに爆弾をつけられたりして大変だったようだ。

 

「大変だったんだな……あ、そうだ、俺から聞きたいことがあるんだが……その時に見慣れない奴がいなかったか?」

「見慣れない奴?」

「えーっと、何かいかついマスクみたいなものを被って……」

 口で説明するより写真を見せた方が早いと、QQQは自分が広げた仮想モニターにデスボーンの姿を映し出す。

 

 二人は黙ったまま、神妙な面持ちで写真に見入るが……

「……あいにく私が直接対峙したのは、ブラックシャドーとブラッドファルコンだけだ」

 ファルコンはそう言い、ジョディは無言のまま首を横に振る。

 二人の様子から察するに本当に知らないようだ。

 

 俺も発電所が襲われた事は知っていた。ニュースでライブ映像も流れていたくらいだから。

 だが、俺が直接そちらに行かなかったのは、“歪み”が感じられなかったから。

 つまり、デスボーンがいなかったからだ。

 どこか他の場所に現れるかも知れないと注視してたが、結局、この日まで奴を観測する事はできなかった。

 

 そうなると、ますます疑問が湧く。

 

 奴の目的が宝石で、それを手に入れるのに現地の人間を利用すると言うのも分からなくはない。

 だが、だとしたら一番邪魔になる筈のジョディとファルコンに直接手を下さなかったのは何故だ?

 いくら二人が優秀と言えど、時空の狭間に落としてしまえば一貫の終わりだと言うのに……

 

 サーキットの中は互いに手出し出来ない。なら外でやってしまおうと言う話になる。

 先ほどジョディがそう言った。外の出来事なら実行委員会も感知しないと……

 だが、奴はそれすらもしなかった事になる。

 

 何だ、この意味が分からないダブルスタンダードなやり方は…

 あくまで現地の人間を尊重するのなら、麻薬工場にいた連中を工場ごと時空の狭間に落としたりはしない…

 

 パイロットには手を出したくないのか…?

 

 訳が分からない。

 意図が分からない。

 何か、矛盾してないか?

 何故だ?

 どうしてだ?

 何故そんなに気を使う?

 何故そんなに、この時代にあるものに対して、腫れ物に触るような態度を取る?

 

 そんな事を思いながら、俺はサンドオーシャンで見たデスボーンの姿を思い出す。

 

 そう言えば、奴は、あの時、俺とも対峙しなかった……

 

 あの時は「貴様とは格が違う」「戦うだけ無駄だ」と、態度で示したのだろうと思っていた。

 だが、今思い返すと、それは違うようにも思う。

 

 …まさか…

 

 俺とは戦いたくなかった…?

 

 理由は…分からない。

 分からないが……

 

 俺は頭を軽く振り、気を取り直す。

 

 今はそんな事を考えている場合ではない。

 ともかく、ここに来た目的はただ一つ…

 BS団の連中に優勝させない事。そして、あの変な宝石を無事に手にする事。

 

 その宝石を手にする掴む事が、現状を打破する鍵になる筈だ。

 

 もう、時間は無い。

 ここまで来てしまったら後には引けない。

 やるしか無いんだ……

 

「……?」

 

 俺が意を決した時、突如、唐突に、あの変な夢の事を思い出した。

 何かが、あり得ないモノを引き裂きながら探し物をしている、変な夢……

 

 何だあれは…?

 

 お前は一体、誰なんだ…?

 

To be continued.→ http://www.tinami.com/view/676260


 
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