No.674717

戦国†恋姫 短編集⑨ 加藤さんの日常

戦国†恋姫の短編その9。
mokiti1976-2010様の案をちょっぴり盛り込んでみました。
双葉様を書こうと思っていたのでちょうど良かったです。
今回は、

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2014-03-30 00:55:58 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1709   閲覧ユーザー数:1491

加藤さんの日常

 

 尾張において、誰もが知る呉服屋『(とび)』。

 店主の名は加藤段蔵。またの名を『飛び加藤』という。

 彼が、とある青年の協力の下で製作する衣服はどれも余所ではお目にかかれない珍しいものばかり。『鳶』で買い物をするためだけに、日ノ本の最北端から最南端まで、各地から客が集まるという。

 さて、今回はそんな彼のお店を訪れる乙女達と店主の語らいを書き綴るとしよう。

 

 

①久遠さんの場合

 

 

「店主、邪魔するぞ」

 

 堂々と、それでいて威圧し過ぎないように入店する少女の名は織田三郎久遠信長。ここ尾張を治めるお偉いさんである。彼女のような人間が訪れれば、大抵の店はビクビクしながら接客するだろう。

 だが、この店は例外だ。店主は少しも動揺せず、「いらっしゃい」とだけ言うと新作衣装の製作を再開する。久遠も、お互いに普段通り振る舞うことを是とするため、特に気分を害した様子は見られない。

 彼女は店内の衣服をいくつか手にとってその都度目を閉じる。自分で着る姿を想像しているのだろう。時折口から溢れる涎が、少々子供っぽい。指導者としてあるまじき失態で、周りにいる客の一部がドン引きしている。ちなみに、それ以外の客は見慣れているので全く気にしていない。それでいいのかお殿様。

 久遠は店内をひと通り見て回った後、1着の服を手にとって店主の元へと向かう。

 

「これを頂こう」

 

 手に持った服の名称は『メイド服』と呼ばれる侍女用の服。これは、少し前に1人の男へと提供したものの量産型である。構造自体は変わらないが使用する素材の品質を落としているため、若干ではあるが傷つきやすくなっている。

 その分値段も良心的なので、それなりに働けば民でも手が出せる。

 

「織田さん、アンタ運がいいぜ。ちょうどそいつが今作れる最後の1着だ」

 

 

 

 ――とある男が『メイド服』を側室の1人に着せたところ、その姿はまさに天使が舞い降りたようだった。

 

 

 

 そんな噂が流れ始めると、『メイド服』の注文が殺到した。民でも手を出せる価格設定にしたことが影響したことと、新田剣丞の側室である帰蝶が着たことからこの店では『メイド服』が最も売れるのだ。

 

「だが、いいのかい? アンタみてぇなお偉いさんが侍女の服を着ちゃあ体裁が悪いんじゃねぇか?」

 

 例え相手の身分がどれ程高くとも、店主の口調が変わることはない。それが許されているからこそ、彼はこの土地に店を構えているのである。

 

「問題ない。というか今さらだ」

 

 近頃、久遠は奇行を繰り返しているため、おかしな服を着ていようと誰からも疎まれない。むしろ『殿様かわいいなぁ』と和まれる始末。尾張の民と兵は本当に良く訓練されている。

 

「そうかい。んじゃ、アンタには初回特典として特別にコイツをオマケしてやろう」

 

 店主が棚の奥から取り出したのは、小さな瓶。表面には『取扱注意』と書かれており、中には濁った緑色をした液体が入っている。

 

「これは何だ?」

「オレが特別に調合した精力剤だ。コイツを旦那に飲ませれば、今夜は一晩中楽しめるだろうさ」

「ひ、一晩中……!」

 

 『一晩中楽しめる』という魅力的な言葉に、久遠はゴクリと息を呑む。

 どうして服屋の店主が精力剤を作れるのかという疑問が浮かんだが、『飛び加藤』はなんでもできるから一々驚いていたらキリがないと美空や光璃に言われていたため、気にしないことにした。

 

「いらないってんなら別にオレは構わねぇがな。どうする?」

「いや、ありがたく頂戴しよう。

 『飛び加藤』よ、我はこの店が気に入った。今後も贔屓にさせて貰おう」

 

 久遠はそう言って懐から巾着を取り出し、銭を手渡す。その数は本来の『メイド服』の値段よりも多い。

 

「僅かばかりの礼だ。この金で新しく『メイド服』を作るための材料を買うといい」

「ほぅ、こんなに払ってくれるとは太っ腹だねぇ。年甲斐も無く小躍りしちまいそうだ。

また来てくれよ、殿様。旦那によろしく言っといてくれや」

「うむ。これにて失礼するぞ、また会おう」

 

 来た時と同じように、堂々と店を出る久遠。その手には『メイド服』と精力剤が握られており、民はそれをニヤニヤしながら見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、新田剣丞は頑張ったらしい。

 

 

②双葉様の場合

 

 

「お、お邪魔します……」

 

 久遠が店を訪れた次の日。

 ビクビクしながら暖簾をくぐって入店した少女の名は足利双葉義秋。現公方・足利一葉義輝の妹である。

 だが、身体を硬くして緊張しながら入ってきたその様子は、姉とは似ても似つかない。髪の色も身体の一部の大きさも違うため、言われなければ姉妹だとは思えないだろう。

 そんな双葉は真っ直ぐに店主の元へ歩いて行く……、目を伏せたままで。

 店主は『渋いオジサン』というのがしっくり来る風貌をしているが、見る人によっては『厳つい顔をしたオッサン』に見えてしまう。どうやら双葉は後者のようだ。剣丞以外の男に慣れていないからだろう、自分の倍もの年齢の男性と話すことにかなりの緊張を強いられてしまっている。

 

「あの、店主さん。『メイド服』を購入したいのですが……」

 

 蚊の鳴くような小さな声で注文したのは当店で最も人気の商品『メイド服』だ。しかし、昨日売り切れてしまったばかりな上に追加分を作る材料も揃っておらず、販売することはできない。

 その旨を店主から伝えられた双葉は心底落ち込んだ。

 

「そう、ですか……。材料が無いのなら仕方ありませんね……」

 

 足利双葉義秋は新田剣丞のことを『旦那様』と呼び慕う程に愛している。これは同盟国のほぼ全ての人間が知る常識である。

 また、可憐な見た目からも想像できる通り、料理や掃除といった家事に精を出し、夫への好意と愛情をこれでもかと言う程に注いでいる。

 このような『THE・お嫁さん』という言葉が似合う彼女が侍女専用の衣服である『メイド服』に興味を持つのは必然。

 更に言えば、『メイド服』を来ながら夫の身の回りの世話を焼き、夜にはその格好のまま寵愛を受けたいと願うのは女として当然のことではないだろうか。

 

「ふむ……」

 

 どんよりした気を放出し続ける双葉。彼女を見た店主は腕組みをしながら唸る。材料がない以上、望んだ服を今すぐ作ることはできない。とはいえ、目の前で悲しみに暮れる少女を無碍に扱うことなど彼には出来なかった。

 

「……お嬢さん、アンタ割烹着は持ってるか」

「え? はい、持っています。普段から料理をよくしているので」

「そうか。なら、ちょっと待ってな」

 

 疑問符を頭に浮かべる双葉にその場で待つよう頼むと、店主は店の奥から1つの装身具を持って来て手渡した。それは、頭髪の乱れを抑えるものであり、剣丞の世界では一般的にカチューシャと呼ばれるものである。

 ただし彼が手渡したそれは、ウェーブがかかった白い衣に2つの三角型の飾りが付いている。いわゆる猫耳ヘッドドレスというやつだ。

 

「コイツだけなら在庫があったからな。持って行きな」

「でも、店主さん。これって頭に付けるものですよね。これだけだと意味が無いのでは……」

「その通りかもな。だから追加分は後で城に届けよう。今日のところはヘッドドレスと割烹着で旦那を誘惑するといい」

「? すみません、仰っている意味がよくわからないのですが」

 

 箱入りお嬢様の双葉には、割烹着で誘惑するという発想に疑問を持たざるを得ない。割烹着姿でよく剣丞と顔を合わせるが、その格好で致したことは無い。それが猫耳ヘッドドレスを付けただけで変わるとは思えなかった。

 

「オイオイ、もっと柔軟な発想を持たなきゃいけねぇぜ。オレが言わんとしているのはな、ヘッドドレスと割烹着以外の衣服を纏わないってことさ」

「ええ!? それって!」

「そうだ、『裸割烹着』さ。旦那は『裸エプロン』と呼んでいるがな」

 

 裸の上に割烹着だけという、ある意味全裸よりも恥ずかしい格好をしている自分を想像した双葉の顔が真っ赤に染まる。当然の反応だ。

 店主も剣丞からこれを聞いた時はあまりの突飛な発想に驚愕し否定した。だが、その姿で家事をする女性の絵を見せられ、その考えは180°変わった。

 見えそうで見えない、見えなさそうで見える胸元。背後に回ればはっきりと見える、女性特有のしなやかな線。鼻血が止まらなかった。

 

「以前、『裸リボン』をやって風邪引いたバカ女がいるらしいが、今は春。『裸エプロン』程度なら問題ないだろう。

 それに、見たところアンタは好き好んでこんな格好をするような女じゃない。しかし逆に『裸割烹着』という扇情的な格好で誘惑すれば、旦那は普段との違いにドキドキして、イチコロだろうよ」

「わ、私が旦那様をイチコロに……!」

 

 店主に言われたような様子を思い描いているのか。双葉の顔がニヤついた。もっとも、昨日の久遠と比べればおとなしめだが。

 また、余程強く手を握りしめているのか。右手に持った猫耳ヘッドドレスが少々歪んでいる。

 

「ヘッドドレスの代金は、追加分が全部揃ってから払ってくれていい。それとコイツは、昨日も殿様に渡したのと同じ精力剤だ。旦那の料理にでもぶち込んで、しっかり励むといい」

「はい! ありがとうございます、店主さん! 今夜は――

 

 

 

 ――お姉様や鞠と一緒なので、皆でこの格好をして旦那様を誘惑してみます!」

 

 

 

「は?」

 

 唐突な爆弾発言にポカンとする店主だが、今夜のことが楽しみになった双葉はそれに気付かず意気揚々と店を出て行った。

 猫耳ヘッドドレスを頭に付けた笑顔の令嬢の姿は、道行く人々の心を片っ端から射抜いて行ったという。

 

 

 

「旦那、強く生きろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

「旦那様、今夜は『裸割烹着』でご奉仕させて頂きます……ニャン」

「どうじゃ主様。余の豊満な胸が押し上げられて、興奮するであろう?」

「剣丞、鞠のこの格好……、似合う?」

 

 剣丞の目の前に並ぶ、『裸エプロン』をした3人の美少女。

 猫耳ヘッドドレスを付け、猫のような口調で甘えてくる双葉。普段控えめな少女がこのような格好をするというだけで普段とのギャップに心が震える。

 一葉は、自身で言った通り豊満な胸が割烹着で押し上げられ、大事な部分が他の2人よりも見えやすくなっている。巨乳に『裸エプロン』とは、究極の男性殺害兵器ではないか。

 そして、鞠。幼女が『裸エプロン』だなんて、これはもう犯罪だ。

 

 剣丞の理性を崩壊させるには十分。昨日と同じく精力剤で既に臨戦態勢に入っていた剣丞は、その夜もの凄く頑張った。

 頑張りすぎた結果、翌朝は起き上がれなくなったとか。

 

 

③美空様の場合、という名のオチ。

 

 

 双葉が店に来た次の日。銀髪を左右で2つにくくった少女、長尾美空景虎がやってきた。

 

「風邪引かないようなリボンを寄越しなさい!」

 

 

 

「帰れ、痴女」

 

 

 

 どんな客にも優しく接する加藤さん。だが、自分を追い出した美空様にはキツい対応をしてしまうのだ!

 それでも商売人として、適切な価格で商品を売る心は忘れないのである。

 

 

 

 今日も『鳶』は平和です。

 

 

あとがき

 

 美空様をオチに使っているけど、作者は美空様が大好きです。

 

 久遠さんがどんどん残念になっているけど、それは人気投票で7位になってしまったからでしょう。

 

 加藤さんは、女性の喜ぶ顔が大好きなナイスミドル。彼のおかげで剣丞くんの夜の営みはバリエーションが広がった。

 

 そしてウチの剣丞くんは相変わらず変態である。

 

 


 
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