No.674436

恋姫OROCHI(仮) 一章・弐ノ弐 ~関中事変~

DTKさん

DTKです。
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、9本目です。

今回からしばらくは、翠たちにスポットを当てた話になります。
捻じ曲げられた世界の関中で、いったい何が起こったのか。

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2014-03-29 01:37:23 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4644   閲覧ユーザー数:4083

 

 

 

関中から洛陽へと続く隘路に馬蹄が響く。

先頭を騎馬武者が二騎。続いて騎馬が三十弱。そして徒歩が数人。

合計約三十ほどの部隊が駆けている。

旗はなく、行軍というには速度が速い。そして兵士はところどころ怪我をしており、覇気も感じられない。

 

「ブヒヒィーー……ンッ!!」

 

ドオッ!という音と共に馬が転倒し、騎乗していた兵士が投げ出される。

 

「大丈夫かっ!?」

 

先頭を駆けていた騎馬武者の一人、翠が馬首を返す。

投げ出された兵は受身を取れていたのか、すぐに立ち上がり、

 

「はっ!自分は大丈夫でありますっ!ただ……」

 

兵は先ほどまで乗っていた馬に目を向ける。

苦しそうに、脚をばたつかせながら、何とか立とうとしている。

その傍らには、もう一人の騎馬武者、蒲公英が下馬し、転倒した馬に寄り添っている。

 

「姉様…」

 

目を潤ませ、蒲公英は静かに頭を振った。

 

「――っ!」

 

立とう立とうと、必死になる馬。

しかし立てない。

それもそのはず。馬の前脚は、折れていた。

 

「…やれるか?」

 

静かに、翠は落馬した兵に問いかける。

やらせて下さいと、彼は愛馬に歩み寄りながら、腰に佩いていた小刀を手に取る。

暴れる馬に近付くと、優しく首を抱き、

 

「今まで、ありがとうな…お前のことは絶対に……忘れないからな」

 

相棒の最後の温もりを確かめると、馬の首に小刀をあてる。

治らない怪我を負い、苦しんでいる馬を楽にしてやる方法は、これしかなかった。

 

「……すまんっ!!」

 

グッと小刀を押し込む。

馬はビクンビクンと、二度ほど大きく身体を弾ませ、動かなくなった。

 

普段、涼州の兵は二、三頭ほど替えの馬を持っているが、今はそんな余裕はない。

長距離を駆けに駆け、どの馬も限界を迎えている。

周りを見渡せば、歩様のおかしい馬が何頭もいるようだ。

 

「もう少しだ!函谷関さえ越えれば洛陽はすぐそこだ!そこまで頑張ってくれっ!!

 ……お前も、いけるか?」

 

翠は馬の亡骸に寄り添っていた兵に声をかける。

一瞬の沈黙の後、

 

「行けます……行かせてくださいっ!」

 

その胸には愛馬の、家族の(たてがみ)が握られていた。

 

「よしっ!それじゃ行軍を再開する!今日中には洛陽の月たちと合流するぞっ!!」

「「「応っっ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

――――

――

 

 

 

数日前……

 

天水を拠点に涼州と関中の異変調査に乗り出していた、翠・蒲公英・紫苑の三人。

騎馬隊三十、輜重兼弓兵隊三十を引き連れて安定の調査を終え、街亭付近を通り、天水への帰途についていた。

どうやら『異変』はこの付近では起こっておらず、民の様子も平穏そのもの。

それどころか行く街行く街で、錦馬超の訪問に歓待の宴が催されていたのだった。

 

「なーんか拍子抜けだよねー」

 

手綱から手を離し、頭の後ろで手を組む蒲公英。

平和ボケの中、強めの刺激を求めていたようだが、肩透かしを食らったのが不満らしい。

 

「まあ、何もないなら無いのが一番良いのだけどね」

 

頬に右手を当て、困ったように苦笑いを浮かべる紫苑。

 

「そうだぞ、蒲公英。っていうか油断するなよ。まだ見つかってない異変があるかもしれないんだからなっ!」

 

翠に(たしな)められるが、蒲公英は、はーい、と生返事をするばかり。

そんな蒲公英に溜息はつくが、それ以上の小言は言わなかった。

翠にも、ここで何かあるとは思えなかったからだ。

街の人々に聞いても異変の影すら聞こえてこず、たまに心当たりがあると思えば、成都や洛陽からの行商人だったりする。

今後どうなるかは分からないが、今のところは涼州と関中には異変はない、と見るべきだろう。

 

「帰ったら都と成都に、今後の方針を尋ねる使者でも出そうか?」

「あぁ、それなら一昨日の定時連絡の使者に含めておいたわよ。多分、漢中か成都の手伝いになると思うけど…

 余計なことしちゃったかしら?」

「いやいや、助かったよ。さすがは紫苑だよなー。あたし、相変わらずそういう所は全然気が回らなくてさ…」

 

たはは、と恥ずかしげに頬を掻く翠。

 

「お姉様、脳筋だもんねぇ~」

「お前が言う、なっ!」

 

銀閃をグルンと回し、柄で蒲公英の前頭部を殴りつける。

 

「いったーーーいっ!!ちょっとお姉様!蒲公英が馬から落ちたらどうするのさ!?」

「うっさい!!手綱離して、あたしのことを馬鹿にしたお前が悪い!」

 

あっはっは!と同行している兵の間に笑いが広がる。

調査・巡回・慰問が主とはいえ、行軍というにはとてものどかな空気だった。

 

しかし、先遣隊からの使い番が、その雰囲気を壊した。

 

「馬超様っ!」

「どうしたっ!?」

 

ただならぬ雰囲気に翠が思わず声を荒げる。

 

「前方から騎馬が一騎、近付いてきております!旗はありません!」

 

一騎なら野盗や見知らぬ敵、ということはないだろう。

恐らく天水からの伝令か何か。

しかし旗がないというのが気に掛かる。

翠の心に嫌な予感が走る。

そしてその予感は、その姿が近付くにつれ、確信へ変わっていった。

 

先遣の兵に馬を引かれ、伝令と思しき兵が翠たちの前に引き連れられた。

その姿は、満身創痍。

総身に大小の傷を負い、鎧兜は所々砕かれていた。

尋常ならざる事態が起こったことは明白だった。

 

「お、おいっ!大丈夫か!?」

 

馬を下ろされ、横に寝かされた兵士に近寄る。

仰向けに寝かせないのは、背中にまるで熊にでも襲われたような、大きな爪状の傷がついていたからだ。

 

「どうした、何があった!?」

 

掴み掛からんばかりに詰め寄る翠。

 

「落ち着いて翠ちゃん。お水よ。飲めるかしら?」

 

翠を押し止め、伝令に水筒を差し出す。

かたじけない、と顔を起こし、二口三口と嚥下する。

ひとまず命に別状はないようだ。

水を飲み落ち着いたのか、それでも重そうに、口を開いた。

 

「私は昨日、城門の門番をしておりました――――」

 

 

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

昼を過ぎた頃、ある人物が城を訪ねてきたようだ。

馬超様にお目通り願いたいのですが…

そう言ったらしい。

外套を目深に着ていて顔は見えなかったが、声は女性のようだった。

 

「私は、ただいま馬超様はおられません。御用でしたら、また日を改めて…と言い掛けたとき、彼女は頭巾を外したのです」

 

頭巾の下から現れたのは、金色の頭髪、紅玉のような瞳…

天女を思わせるような見目麗しい美女。恐らく西域の女性、が顔を出した。

彼女はこう言った。

 

「馬超様がこちらにいらしてるとお聞きしましたので、献上品をお持ちしたのですが…」

 

残念そうに目を伏せた後、その女性は不思議なことを口にした。

 

「これらは馬超様へのお品でしたが、いらっしゃらないのであれば仕方がありません。

 よろしければ、こちらは城内の皆様でどうぞ」

 

馬超様への献上品は、また日を改めますので――と、大量の酒樽を置いていった。

詰めていた兵は、嬉々としてそれを城内へと持ち込み、早々に酒盛りを始めたらしい。

 

「しばらくは城内から宴席の音が聞こえてきたのですが、二刻ほど経った辺りでしょうか…

 ふと静まり返ると、突如として獣の雄叫びのようなものがし始め、同時に城内から異形のものが溢れ出てきたのです…っ」

「異形のもの?」

 

伝令、もとい門番の独白を蒲公英は遮った。

話が一足飛びに進んだように思えたからだ。

 

「城内には…酒盛りしてた兵士たちが居たんだよね?」

「そのはずなのですが……あの、あの酒を口にしたからとしか…思えない……」

 

鮮明に思い出したのか、ガタガタと恐怖で身体を振るわせ始めた。

 

「筋骨隆々の体躯に土気色の肌…獣のような牙を生やし……

 五胡などとは比べ物にならない…あれは人ではなく、化け物、でした」

 

しかも、と一度息を吸い込み、

 

「その化け物どもは…我々と同じ甲冑を、身に着けていたのです……」

「「「…………」」」

 

水を打ったように静まり返る。

 

「私と、もう一人の門番、相棒は急いで街の方へ逃げたんです。しかし…街も同じような状況で…

 何とか街を脱出し、馬超様にお知らせせねばと思い立った所に、馬を一匹だけ見つけ…

 相棒は、俺を逃がすために……うっ…うぅっ……」

 

嗚咽を漏らす門番。悲愴な体験をしたのだろう。

 

「それで…天水は?」

 

今までの話を聞けば分かり切った事だが、それでも翠は、言葉で確かめなければならなかった。

 

「天水……陥落にございます」

「…………」

 

誰が?どうやって?何のために?

疑問は残るものの、ひとまずは報告を受け止める。

 

「ご苦労だったな。ありがとう。下がってまずは傷を癒せ」

 

門番を下がらせると、紫苑、と呼びかける。

 

「えぇ。まずは陣を張りましょう。あと、遠目が利いて身軽な人を4,5人選抜しましょう」

「よろしく頼む」

 

一気に戦時態勢に入る。

まずは状況の確認。

 

「偵察隊は、あたしが指揮する」

 

翠が切り出す。

しかし、

 

「それは…ダメよ、翠ちゃん」

「何でだよ?」

「全く、分かってないなー姉様は…」

「だから何なんだよ!?」

 

ため息、苦笑いの二人に苛立つ翠。

 

「姉様はこの隊の総大将なの!そんな人が偵察隊で先頭切ってどうするの!?」

「それは……でも、そのための紫苑なんだし、あたしが馬じゃ一番速いんだし…」

「一人で行くならともかく、偵察隊で一人だけ速くても意味無いわよ?」

「うっ…」

 

何も言えなくなる翠。

 

「じゃ、蒲公英が行ってくるね!」

「えぇ、よろしくお願いするわね。くれぐれも…」

「偵察だけだよね。街が無事でも一回帰ってくるし、本当に陥ちてても手を出さないで帰ってくるよ」

「はい。よく出来ました」

「…………」

 

こうして天水偵察隊は編成され、早々に出発した。

そして翌日…

戻ってきた蒲公英の顔は暗く沈んでいた。

 

結論を言えば、門番の伝えたとおり、天水は化け物で溢れていた。

中の様子までは分からないが、街が『陥ちた』ということは間違いなかった。

この事を踏まえ、軍議が開かれた。

といっても、既に紫苑によって場合別の議題は用意されており、天水が落ちていた場合に取るべき選択肢は二つだった。

 

「長安を通り洛陽に抜けるか、五丈原から漢中に抜けるか、か…」

 

漢中へは道が険しいが距離が近く、洛陽への道は比較的ゆるやかだが、距離は遠い。

この二択であれば、取るべき道は一つ。

 

「漢中を目指そう。鈴々たちもいるし、成都への伝令も送りやすいだろ」

「そうね。漢中を防衛点に、成都から増援をもらい天水を奪還する。これが現状で取れる最善策でしょうね」

「…漢中も落ちてるって事は、ないよね?」

 

天水を目の当たりにした蒲公英が不安を口にする。

 

「天水から漢中を攻めるには陽平関を抜かなきゃならないだろ?滅多な事がなきゃ簡単には抜かれないだろうさ」

「そうね。漢中入りした時には異変もなかったし、大丈夫よね。……でも璃々も居るし。心配だわ…」

 

紫苑の娘・璃々は紫苑についていきたいと言って聞かず、漢中までは来たのだが、移動が多い関中入りはどうしてもさせられないと、何とか言い聞かせ、世話を桔梗に任せて置いてきたのだ。

こんなことになり、成都を出る時点で置いてこなかったことを、紫苑は今更ながらに後悔していた。

 

「よしっ!じゃあ漢中を目指そう!」

「えぇ」

「じゃあ、さっさと出発しよう!」

 

こうして翠一行は一路、五丈原へと馬首を向けた。

 

 

 

 

 


 
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