No.673106 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 運命を切り開く赤と菫の瞳アインハルトさん 2014-03-23 15:43:10 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:2564 閲覧ユーザー数:2489 |
プラント本国『アプリリウス』の一角にある軍病院。
そこにデュランダルは、捕虜として捕らえられ、手術を受けたステラ・ルーシュに会いに来ていた。勿論護衛としてハイネ・ヴェステンフル以下数名のデュランダルが最も信頼できるフェイスを連れて来ている。
受付に向かって受付嬢に用件を伝えると、番号を教わり、案内板を確認してからそちらに歩みを始める。道行く人々はどれも軍人ばかりなためか、視線はデュランダルに集中している。プラントの議長がどうしてわざわざ軍病院になど来るのか、疑問に思っているのだろう。デュランダルはそんな視線を気にもとめず、目的の部屋へと歩みを進めていく。
1021……1022……1023……1024……1025
そこでピタリと歩みを止める。
1025号室。そこがデュランダルの目的の部屋だった。
コンコン、軽くドアをノックした後、暫しの間を置いてからデュランダルはドアを開けて部屋の中へと入っていった。そこから先にフェイスは一人も入らない。
「ギル!」
病室の中で純白のベッドに横たわっていた少女がデュランダルに気付くと、途端に笑みを浮かべる。よほど室内の生活が退屈だったのだろう。以前持ってきた娯楽道具は飽きてしまったのか、ベッドの横の机の上に積み重ねられていた。
「やあステラ。元気そうで何よりだ」
少女の名はステラ・ルーシュ。マユが偶然捕らえ、イチカを保護者にしてもらい(させた)、つい数日前まで治療を受けていたのだが、今ですはすっかり元気を取り戻していた。
しかも彼女を苦しめていた薬物は全て取り除かれていた。
(まさかここまで回復してしまうとはな……)
実際の所、プラントの技術を以てしても彼女を蝕む薬物を完全に取り除く事は不可能だった。どんな薬が投与されたのか、またどんな薬が必要なのか、医師が打つ手はないと断言する程に……
(恐るべしだな、あの粒子は……)
そんな状況を打破してくれたのは数年前、地球で発見されたとある粒子を持つ機体のおかげであった。
当時発見したザフト兵の話によると、ザフト軍基地の一角の直ぐ近くにある山を捜索中に偶々掘り起こした先にあったという。他にもまだあるかもしれないと判断したプラントは、さらなる機体を求めて発掘に乗り込んだ。それらのうちの四機が、ミューミレニアムシリーズ機のモデルとなっているのである。
噂によると連合も月や連合領地でモビルスーツの発掘があったと聞く。また、そういった場所をマウンテンサイクルと呼ぶこととなったとも聞いている。
「ギル、準備できたよ」
考え事に浸っていたうちにステラはとっくに支度を終わらせてしまったようだ。緑の制服を身に包み、Gを象ったバッチを制服の首もとにはめて、必要な荷物を鞄に詰め込んだ彼女はどこか旅行を楽しみにしている学生に思えた。
「おっと、すまない」
生き生きとした笑みを浮かべながらステラは病室を出てすぐさま病院を早足で駆ける。今日ようやく退院となったステラは、デュランダルとハイネ、それともう一人と共に地球のディオキア基地に降りる事になっている。デュランダルの予測を踏まえれば、到着と同時にミネルバもやってくるはずだ。そうなったらステラとハイネはそれに乗って貰うつもりである。
(願わくば、これで戦争の早期終結を……)
人造の空を仰ぎながら、デュランダルはそう願った。
「スティング、回り込め!」
ネオはライフルを連射し飛行形態の新型と入れ替わった合体機を追い込みながら、部下に命じる。カオスが前方に回り込んでビームライフルで狙撃するが、白い機体は鮮やかに身を捻り、急上昇して双方向からのビームをかわしていく。ネオは密かに舌を巻いた。
あの白いヤツ、以前とは比べものにならないほど強くなっている!こうまで当たらないのは、まるでビームが演習用の低出力レーザーにでも変わったのではないかと思わせるほどだ。
『なんだっていうんだよ、オマエはぁっ!?』
苛立ちの籠もったスティングの声がネオの耳に届く。かなり頭に来ているようだ。このストレスを除去するのは大変だろう。
残り少ないウィンダムが白い機体に射線を集中させる。ザフト機はくるりと機体を展開させると、あっという間にウィンダムの背後を取り、無造作にライフルを向けた。短い一射を放つと離脱し、次の機体に向かうり立て続けにウィンダムが爆発し、或いは戦闘不能に陥って脱落していく。
「そろそろ限界か……
ネオはまるでゲームのように戦えば戦うほどに進化し続けている白い機体のパイロットの戦闘能力を見せつけられつつ、苦々しく一人ごちる。だがすぐに悪びれない口調で決断を下した。
「ジョーンズ、撤退するぞ!合流準備!」
付近の島影に停泊し、息を潜めていたJ.P.ジョーンズから『了解』の声が返ってくる。次いで、ネオは自分の兵士たちに呼び掛けた。
「アウル、スティング、エスト!終了だ。離脱しろ!」
ネオからの通信を聞き、ゲルググと交戦していたアウルは思わず聞き返した。
「何で!?」
既に片足を奪われ、ビームランスも使い物にならなくなっていたここで撤退命令は有り難いが、予想だにしなかった命令につい聞き返してしまったのだ。
モニターの中で彼のボスは、何でもない事のように答える。
『借りた連中が全滅だ。拠点予定地にまで入られてるしな』
「ええーっ!?何やってんだよ、ボケ!」
ゲルググのシールドスパイクを辛うじて避けながら、アウルは口汚く罵ったが、ネオは堪えた様子もない。まるで蛙の面に水だ。
『言うなよ。お前だって大物は何も落とせてないだろ?』
苦笑混じりの言葉に、アウルはうっ、と呻き声を上げてしまう。自分が落としたのは
だが、自分と何も出来ずに墜とされていったような無能者たちと一緒にされることが、アウルには屈辱だった。
「……なら、やってやるさ!」
アウルは言い返し、ゲルググの手から逃れるように素早く機体を返すり潜航形態に変形したアビスは、ゲルググと見る間に距離を開ける。その進路には巨大な腹を見せて漂う潜水艦があった。ボズゴロフ級はアビスの突然の転針に反応出来ずにいる。
(のろまなクジラめ!)
アウルは貝殻のように機体を包むシールドの左右上下に備わる魚雷発射管を開いた。高速の魚雷が僅かな泡を後に引きながら発射された頃、ようやくボズゴロフ級は回避運動に入る。だが、遅すぎる。四発の魚雷は鈍重なセンスの横っ腹に吸い込まれ、爆発する。その時には既にアビスはボズゴロフ級が墜ちたかどうかも確認せず、その場から駆け去っていた。コクピットの中でアウルは勝ち誇った高笑いに身を揺する。
(見ろ、ネオ!これでぼくの一人勝ちだ!)
所々ボロボロな上に一機しか落とせず、さらに一機のモビルスーツに叩きのめされて散々だったアウルだが、ボズゴロフ級の撃墜で幾分かは晴れたようだった。
「………………ふー……」
尤も、ボズゴロフ級がゲルググによって沈まなかった事を知れば、先ほどの倍以上のストレスが溜まっていたのは容易に想像出来ていた。
『か、艦の防衛……感謝する』
ニーラゴンゴの艦長が汗をだだ漏らししながら、ゲルググマリーンのパイロット……イチカに感謝の言葉を述べた。
魚雷を受け止める際に武器はシールドスパイク以外捨て、そのシールドスパイクも粉々に砕け散っており、さらに機体のダメージも半端ではなかった。
元々防御力を攻撃と機動性能に振り分けられているイチカのゲルググは、まともに喰らっても只では済まされないのだ。そんな機体で魚雷四発を受ければ、結果は火を見るよりも明らかだった。
(シンやマユが羨ましいや……)
実弾兵器の恐ろしさをその身を以て改めて実感したイチカは、今頃は空中で死闘を繰り広げてるであろうVPS装甲を持つインパルスやガイアを羨ましげに呟いた。
「こちらゲルググマリーン。機体の損傷か激しく、ミネルバへの帰還は難しいと推測される。貴艦への乗艦許可を願いたい」
ゲルググの状態を見て、ここからミネルバに無事辿り着ける可能性が低いと感じたイチカは繋がったままのニーラゴンゴとの回線で艦長に尋ねた。
『承知した。乗艦を許可する』
同時にニーラゴンゴのハッチが開くのを見て、イチカは安堵の笑みを浮かべた。
それは例えるなら破壊神だった。
振り下ろされるビームの刃は大地を抉り。
放たれた砲撃は未完成の基地を瓦礫と化し。
踏みつけられた脚はその下にいた兵士を、銃座を潰し粉々にした。
『マユ、何をやってるんだ!?』
カツランの声で、マユは我に返った。連合の兵士が民間人を撃ち殺したのを目撃した後、彼女は敵への怒りと憎しみに身を任せ、基地建設地を手当たり次第に破壊したのだ。辺りは燃え盛る火の海へと変わっていた。マユは少したじろいだ。
(これ、全部私がやったの……?)
『やめろ!もう彼らに戦闘力はない!』
頭上を飛行形態のセイバーが旋回していく。カツランの制止の声が、再度スピーカーから聞こえてきた。一瞬、水を差されて消えかかっていた憤りが再び胸の奥から湧き出す。
(やめろ?この人たちが何をしてたのか、知りもしないで!)
マユは僅かに残っていた建物にビームを撃ち込んだ後、怒りを全身に漲らせてガイアを引き返させる。地響きを立てて近付いてくるモビルスーツを目にして、フェンス周囲にいた人々が怯えて後退った。マユは彼らを巻き込まないように注意しながら、フェンスにガイアの手をかける。巨大な機体は彼女の意を忠実に受け、夫と妻、親と子を隔てていたフェンスを引き抜き、投げ捨てる。人の身には高すぎて越えられない壁さえも、この機体は容易く打ち壊す事が出来る。
マユの意図を疑い、物陰に隠れていた人々が、おずおずと足を踏み出し、やがて走り出す。引き離されていた家族が手を取り、抱き合い、笑いあう。
マユは暖かい思いを胸に、その光景を見下ろしていた。もう彼女は得ることの出来ないという悲しみを胸に抱きつつ。
ミネルバに返ったシンを待っていたのは、マユに向けられたカツランの冷たい視線と、問答無用の平手打ちだった。
乾いた音が、ミネルバの格納庫で響いた。その勢いでマユは後ずさりする。だが体勢を整えると自らにその平手打ちを加えた相手を軽く睨んだ。
「何やってんだよ、あんたは!?」
帰還していたルナマリアやレイ、技術スタッフらが、しんと静まりかえる中、コクピットから降りるなりシンは
真っ直ぐに妹の元へ駆け寄ると二人の間にに割り込み、マユを庇うように手を広げる。そして、マユに平手打ちを入れたカツランを睨み付けた。
「シン……当たり前じゃないか、彼女は独断であんな事をしたんだぞ!」
割り込んできたシンに、若干戸惑いながら、カツランは言い返す。
「戦争はヒーローごっこじゃない! 勝手な行動をされては困るんだ!」
シンは目の前が暗くなるほどの怒りに襲われた。『ヒーローごっこ?』だと?
「自分だけで勝手な判断をしてはいけないんだ!力を持つ者なら、その力を自覚しなくちゃいけない!」
追い打ちを掛けるように放たれた言葉が、シンの怒りを大噴火させる。
マユはただ苦しんでいた人を助けただけなのに、何故そんな事を言われなくてはいけないのだ……!
「ふざけるな!ヒーローごっこ?非武装の民間人を救うことの、何が悪いって言うんだよ!?」
「救う?俺達はずっとここにとどまるわけには行かないんだぞ!もし、連合がまた戻ってきたら、彼らはどうなるんだ!」
高圧的な口調で言い放つカツラン。しかしシンはそれ以上に力のある言葉でそれを覆い尽くす。
「だから助けないっていうのかよ!?オー ブみたいに、救いを求める手を振り払って!」
「っ!そうは言ってない!!」
「そう言うことだろうが!!」
「お、お兄ちゃん……」
カツランを睨みつけ、言い争うシンの姿に、庇われたマユの方が気後れしたように声をかける。
「大体、力を持つ者なら、その力を自覚しろとか、何様のつもりだよ!…………
「っ!」
その一言が、シンとカツランの間に明確な溝を生み出すきっかけとなった事は、その場にいた全員にはっきりと読み取れていた 。
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