No.663776

機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 運命を切り開く赤と菫の瞳

PHASE1 怒れる瞳

2014-02-16 10:37:55 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2797   閲覧ユーザー数:2709

C.E.73

プラント本国から離れた、中立地帯であるL4宙域に浮かぶ工業用プラント『アーモリーワン』

その一角にあるザフトの軍事工廠付近に建てられた軍用宿舎の一室に二人の少年の姿があった。

一人はベッドの上で横になって、もう一人は冷たい床の上で目をしっかりと閉じ、正座の姿勢で静かに座していた。俗に言う精神統一である。

 

それから暫くして、何回かノックが聞こえた後、彼らと同じ年頃の少年の声が聞こえてきた。

 

「お~い、ちょっといいか?」

 

「ヨウランか?まぁ入りなよ」

 

その問いかけに、正座をしていた方の少年がゆっくりと目を開いてから返事を返した。すると直ぐに一人の少年が部屋に入ってきた。

入ってきたのは、浅黒い肌と黒い髪を持つ少年、ヨウラン・ケントだ。

 

「なんか用か?ヨウラン」

 

今度はベッドで横になってた少年がヨウランに問い尋ねる。

 

「いや、買い物を頼まれたんだけどさ……一人じゃちと辛くてさ」

 

「なるほど、つまりは荷物持ちか」

 

「おおぅ、話が早くて助かるね。で、どうだ?」

 

「まぁ、特に用事も無いしな。あぁでも、タダ働きもアレだしなんか奢ってくれよ」

 

「オッケーオッケー、ジュースの一本や二本ぐらいなら奢ってやるよ!」

 

上機嫌でバンバンと背中を叩くヨウランに苦笑しながらも、二人はクローゼットに向かって上着を羽織る。

その際に正座をしていた少年は銀色に光る徽章に目を向け、少し考えた後それを制服の襟元に着けた。

旧クラブハウス大掃除から半年。士官アカデミーを卒業したシン・アスカとイチカ・オリムラはザフト・レッドとなり、新造艦のクルーに抜擢されていた。

 

 

 

軍事工廠からほど近い市街地で、シンとイチカは大きな紙袋を抱えていた。

細々とした物━━主に同僚であるルナマリアと、彼女の妹であるメイリンに加えてユーリ・エルレヴァイン、アリサ・フロリアに頼まれた物だが━━を入れた袋は、二人の顔を半分ほど隠してしまっていた。

 

……ちくしょう、騙された。

そんな感想を抱きつつ、シンは隣を歩くヨウランをジロリと睨み付けた。

 

「お、おいおい……そんなに睨むなって……」

 

「確かに荷物持ちはするとは言ったさ、でもここまで大量に持たされるなんて聞いてないぞ」

 

続けざまに追い打ちをかけるようにイチカもヨウランを睨み付けた。二つの方向から同時に睨み付けられて身震いするヨウランは、差し詰め二匹の蛇に睨まれた蛙だった。

 

「し、仕方ないだろ、俺だってこんなに買う羽目になるなんて思ってなかったんだぜ?」

 

「でもこれじゃあジュースの一本や二本じゃあ割に合わないな……よし、今日の晩飯、シンとマユのも含めてヨウランが奢れよ」

 

「げぇっ!?マジかよ……」

 

「「何か文句でも?」」

 

「イイエ、ナニモアリマセンデスヨ?」

 

二人の眼光が鋭くなるに連れ、ヨウランの顔に浮かぶ笑みが引きつっていた。何せ相手は赤服しかも片方はFAITH、次いで言えば格闘技においてはどちらも教官おも上回るような奴らだ。喧嘩になれば1対1でも絶対に自分が負ける……いや、下手すればポックリ逝ってしまうかもしれない。

そう考えたヨウランは、不機嫌そうに自分を見ながら前を歩く友人たちの機嫌を直すのに、いくら財布から消えるのかと悩んでいたが、シンの前方に人がいるのを見つけ、

 

「あっ!バカ、危ないぞ!」

 

慌てて注意を促したのだが……

 

「どうし……うわっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

その注意も虚しく、シンは前方にいた女の子にぶつかってしまった。

その時、倒れそうになるところをシンは慌てて手を伸ばし、抱き留める。

 

「だれ……?」

 

そう問いかけられたシンは抱き抱えている少女の深いすみれ色の瞳に見とれていた。が、次の瞬間、茫洋としたしよの表情が一変する。彼女は鋭い目でシンを見返し、山猫のように猛々しい動作で彼の手を振り払うその場から走り去った。

それを呆然と見ていたシンだったが、ようやく頭が再起動すると、

 

「……なんでさ?」

 

ぶつかったのはこちらに非はあるが向こうだって余所見をしていたくせに、これではまるで自分だけ悪者みたいじゃないか。

ぶつかった際に落ちた物を拾いながらそう考えていたが、不意に後ろから肩を叩かれて振り返るとヨウランが悪戯っぽい顔でシンを見ていた。

 

「……胸、掴んだな?お前」

 

「んなっ!?」

 

指摘されてシンは初めて気づき、柔らかな感触の残る両手に愕然と目を落とした。

まるで、ではなく、完全に悪者だったらしい。これでは彼女が怒るのも当然だ。

 

「こーの、ラッキースケベ!」

 

「ち、違うぞ!あれは事故だ、故意じゃない!」

 

「知ってるかシン。痴漢した奴ってな、皆そう言って罪から逃れようとするんだぜ?」

 

「俺は痴漢じゃねぇ!!」

 

イチカにまで冷ややかな視線を送られ、たまったものではないとばかりに猛抗議するシンであったが、二人は取り合ってくれない。

 

「可愛そうに……マユちゃんが聞いたらどんな顔をするのやら……」

 

「きっと『やっぱりお兄ちゃんは胸の大きい人がいいの!?』って小一時間くらい説教するんではないだろうか?」

 

「ルナマリアとアリサには耳寄りの情報だな」

 

「?よくわからんけどまずはメイリンから伝えようぜ。噂好きだし」

 

「やーめーろー!」

 

メイリンから広まった場合、情報は高確率で曲げられ、ありもしない事実を捏造されてそうでガチで怖い。

結果、それを阻止するためにシンはヨウランとイチカに晩飯を奢る羽目になってしまった。

それから宿舎に帰るまでの間、ヨウランはシンから発せられる睨むだけで殺せそうな視線をひしひしと受け続け、怯えていた。

その頃、プラントのアーモリーワン工廠地区。 すでに第一線を退き、保安部隊用に使用されているモビルスーツのジンがメタリックのボディに装飾を受けて、歩いている。そのうちの1機が道路を走行している軍用オフローダーと接触しかけた。

 

「きゃっ」

 

オフローダーの方が急ハンドルでジンをかわす。助手席に乗っていた少女が、反射的にダッシュボードに縋り付き悲鳴を上げた。

 

「ん、もう!安全確認義務違反、再講習6時間だぞ!」

 

助手席の少女、マユ・アスカは接触しかけつつすれ違ったジンを振り返り、憤ったような表情でそうしつつもおどけた様にそう言った。

 

「ははっ、厳しいなマユは」

 

隣の運転席でステアリングを握るヴィーノ・デュプレは苦笑してからかい気味にそう言った。

 

「あ、ヴィーノさん私の事、馬鹿にしてる?」

 

「いえいえ、そんなことありませんよザフト・レッド様」

 

これまた茶化すようにヴィーノはそう言った。

マユは淡い緑のキャミソールに黄色のミニスカート、ヴィーノは緑色のシャツにグレーのコットンパンツという私服姿だがこの内部にいる以上、当然ザフト軍組織の一員だった。マユはシンやイチカと共にプラントに渡った後、数ヶ月の講習を受け、教育検定で飛び級を判断されザフト軍事アカデミーに進学。入学後も驚異的な成績を示し、特にMSパイロットとして類稀なる才覚を持つとされ、教練課程を修了。その際に成績優秀者に送られる上級隊員としての証、赤服を贈呈された。とは言えマユはまだザフト正規部隊の規定年齢に達していない。

したがってザフト・レッドも名誉称号としてであり、その年の卒業者に贈られたザフト・レッドの規定人数の中にマユは含まれていない。

 

「そんな意地悪な言い方しなくたっていいじゃない」

 

マユは助手席でむくれながら、不満げにそう言った。

 

「悪い悪い」

 

ヴィーノはニタニタ笑いながら、軽口をたたく。

 

「でも、ミネルバも明日には竣工、お兄ちゃんやイチカお兄ちゃん、ヴィーノさんたちとはしばらくお別れかぁ」

 

ヴィーノは整備要員だったが、MS教練隊では教練用のMSを共用するお隣さん同士だった。加えて同じく教練隊でマユと共に訓練を受けたチームも新たに就役する大形MS搭載戦闘艦『ミネルバ』の搭乗員として配属される予定だった。マユだけが非実戦部隊の教練隊付として残ることになる。

 

「就役後は月軌道艦隊って言われてるけど、それでも戻ってこれるのは1ヶ月以上は先だな」

 

ヴィーノは薄い笑みでステアリングを握りつつそう言った。

 

「今日はせいぜい大騒ぎしなきゃね」

 

マユは笑顔になってそう言った。オフローダーは工廠地区を出て官舎街に隣接する商店街で、一旦路肩に寄せた。助手席からマユが軽やかに飛び降りる。

 

「それじゃ俺、ゲイル達拾ってくるから」

 

「うん、また後でね」

 

ヴィーノはステアリングとシフトレバーに手をかけたままマユに言う。マユは返事をすると踵を返して商店街に向かおうとする。

 

その時。

 

ドンッ

 

「きゃっ」

 

マユは衝撃を受けて後ろに弾き飛ばされ、車体に背中を打ってその場に尻餅をついた。

 

「あいたた……」

 

背中を右手で擦るようにしながら、マユは顔を上げる。そこにぶつかってきた相手が見えた。金髪の緩い癖のついた髪をショートカットにした、シンやイチカと同年代くらいの少女。

 

「おーいステラ、何やってんだ、おいてっちまうぞ」

 

彼女の連れか、2人組みの若い男性、1人は少年といっても差し支えない年恰好が少し離れたところから声を発している。

 

「あ、うん」

 

ステラと呼ばれた少女は、短く返事をするとすっと立ち上がり、マユに一瞥もくれずにたたたっと走り去ってしまった。

 

「あ、ちょ、ちょっと……」

 

マユが慌てて手を伸ばし、声をかけようとするがすでに相手の後姿は離れている。ステラは振り返りもせずに残りの2人と合流し、歩いていってしまった。

 

「なんだあいつら」

 

少し憤ったような表情でオープンの運転席から一部始終を見ていたヴィーノが不満げ言う。手を伸ばしたまま、呆気に取られていたマユだったが立ち 上がろうとしてそれに気づいた。

 

「あれ?」

 

マユの足元に鉄の棒のようなものが落ちている。マユはかがんで手を伸ばし、それを拾い上げた。

 

「あの人の落し物かな」

 

マユはそう言って探るようにその鉄の棒らしきものを撫でた。すると、棒の様に見えたそれは1点で止められた複数の板状のもので、開くことが出来た。

 

「なんだい、そりゃ」

 

ヴィーノが覗き込んでくる。

 

「鉄の……扇子?」

 

マユは扇子というものの存在は知っていた。だが、一切が金属で出来たそれを見るのは初めてだった。マユやましてやヴィーノが知る由もないがそれは鉄扇と呼ばれ、れっきとした武器のひとつだ。畳めば寸鉄として打撃に、広げれば刃として切りつけることが出来る。もっともそれほど実用性が高いわけではなく、A.D.前半期の日本の武人の装飾具のようなものだった。

 

「あのステラって人が落としたのかな?」

 

マユはステラ達が歩き去った方を見て呟くように言った。

 

「あんな人にぶつかっといて謝りもしない連中のも ん、ほっときゃ良いって。でなきゃ貰っちまえ」

 

呆れた様子でヴィーノはそう言った。

 

「そういうわけには行かないって。後で届けておかなきゃ」

 

そう言ってマユは鉄扇をポケットに差し込んだ。

 

「それよりヴィーノさん、いいの? ゲイルさん、遅れると怖いんじゃない?」

 

「わ、そうだった」

 

マユが言うと、ヴィーノはオフローダーのインパネに据えられたクロノグラフを覗き込み、げっと驚いたようにすると慌ててシフトレバーを入れた。

 

「それじゃ、30分後にここで!」

 

ヴィーノはそういいながら、車を発車させる。マユはそれを見送ってから自分も商店街に向かって歩き出した。

 

一方。 ステラ・ルーシェは同行者のスティング・オークレー、アウル・ニーダと共にマユ達とすれ違うように、徒歩でザフトの工廠地区にたどり着いていた。軍用オフローダーが出迎えるように走ってきた。運転席に 乗っていたザフトの制服を着た男は最年長の青年、スティングがカードのようなものを見せると、黙って頷いた。そして3人にオフローダーに乗り込むように指示する。

 

「? どうした? ステラ」

 

そこで、スティングはステラが落ち着かなさそうに上着のポケットを探っている事に気づいた。

 

「ないの、あれ……」

 

ステラが仕種を止めずに答える。

 

「あー、あの変な団扇みたいなやつか」

 

少年、アウルが軽口を聞くように言う。

 

「どこかに落としたのか?」

 

スティングは子供を諭すような口調でステラに訊ねる。

 

「解らない……」

 

ステラは首を左右に振った。

 

「いまさらしょうがないっしょ、予定通り行かないとネオに 怒られるぞ」

 

アウルは肩を竦めつつ、そう言った。

 

「うん……」

 

ステラは後ろ髪を引かれるような様子で、頷いた。

 

「早く乗ってください。歩哨に怪しまれます」

 

運転席の男が3人を急かす。

 

「行くぞ、ステラ」

 

「うん」

 

スティングが促し、ステラもしぶしぶと、車に乗り込んだ。

「さて、ゲイルさんにお仕置きされてるのかな?」

 

一度工廠地区に戻ったマユは軍用の腕時計を見ながら、工廠地区内のヴィーノ達との待ち合わせ場所に立っていた。私服姿からザフト・レッドの制服に着替えている。待ち人来たらず。ボーッと立ち尽くして、きょろきょろと慌ただしい周囲を見回す。

 

「あれ……」

 

ふと、きらきらと鮮やかに金髪が視界に入り、視線をそちらに向けた。

 

「あれ、ステラさん?」

 

その姿を確認して思わず声に出してしまう。制服のズボンのポケットを探る。忙しさにかまけてまだ届けていなかった鉄扇が尻ポケットに入っているの確認するとマユは迷わず駆け出した。

 

「おーい、ステラさーんちょっと待ってよー」

 

マユは声を張り上げるがMSや車両の上げる音で聞こえないのか、ステラ達は振り返ることもなく建物の影に入ってしまった。

 

「はぁ、はぁ……見失っちゃったか……」

 

ステラ達を見失った場所まで走ってきてから、辺りを見回す。

 

「?」

 

そこで、MSのハンガーの一つが扉が開けっ放しになっ ていることに気がついた。

 

「どうしてこの扉、開けっ放しなの?」

 

マユは怪訝に思いつつ、ハンガーの中を覗く。 そこには鉛色をしたMSが3体、収納されていた。PS装甲の待機状態。そして特徴的なツインアイの頭部。その存在だけは知っていた。ザフトが開発中の新型モビルスーツ3機。

 

「…………」

 

マユは立ち尽くす。自然と脳裏に浮かんだのは青と白のモビルスーツ。同じく青緑色を基調にしたMS、カラミティと乱闘を繰り広げる。 ──足元には避難民。無辜の市民のはずだった。その中に自分達もいる。携帯電話が手から零れ落ちる。我が侭を言う自分。拾いに行くと言って土手を駆け下りた二人の兄。閃光。衝撃。熱。次に視界に写ったのは、斃れている両親。

 

────もし、あの時自分があんな我が侭を言わなければ……

 

マユはぶんぶんと、激しく首を左右に振って、フラッシュバックする記憶を振り払った。

 

「こんなことしている場合じゃなかった」

 

自分に言い聞かせるように呟く。

 

「そうすると、あの3人はメーカーのテストパイロットか何かなのかな?」

 

誰に聞かせるわけでもなく呟き、小首をかしげた。 それならば軍服を着ているわけでもないのに軍の工廠施 設にいるのも説明がつく。そう考えながら、MSのコクピットに伸びるキャットウォークへと階段を上がった。

 

「ステラさーん、いないのー?」

 

キョロキョロと見回しながら2機のMSの前を通過し、マユが入ってきた方から一番奥のMSのコクピットの前まで来たとき。

 

タタタタタタ…… 突如、発砲音が聞こえてきた。

 

「えっ?」

 

音源の方を振り返る。コントロールルームの方だった。詳細はわからないが尋常ではないことが起こっている事は理解できた。

マユは様子を伺いながら、MSの影に身を潜める。

 

「丸腰……」

 

反射的に腰のホルスターに手を伸ばして拳銃を携行していなかったことに気付き、後悔する。 何か武器になるように物はないかと着衣を探ると、尻ポケッ トに固い感触を見つけた。

 

「何もないよりはマシかな……」

 

それをポケットから取り出し、握り締める。様子を伺おうと目の前のMSの胸によじ登る。発砲音は聞こえなくなったが、見下ろすと、ザフトの整備員や歩哨が血にまみれて斃れているのが見えた。そしてキャットウォークに通じる階段をカンカンと登ってくる音が響いた。並べられている2機のMSに誰かが取り付いたのが見えた。より詳しく伺おうと身を乗り出す。と、その時。ゆらりとマユが乗っているMSが揺れた。誰かがコクピットを開けようとしたのだ。

 

「わっ、え、ちょっと……きゃっ」

 

バランスを崩し、手を滑らせ、マユは頭部からまっ逆さまにキャットウォークめがけて落ちる。

 

ごいーん♪

 

かなり良い音が響いたが、マユが激突したのは硬いキャットウォークの床ではなかった。

 

「あいたたたたた……」

 

よろけながら立ち上がり、激突した何かを振り返る。 まだちかちかとする視界の中に人が倒れていた。

 

「ってえ?ステラさん!?」

 

マユは、斃れているステラに驚いて声を出した。

しかし直後に、さらに驚愕する事態が起きる。並べられていた他の2機のMSが起動したのだ。VPS装甲が鮮やかに染まり、ツインアイに光が点る。

 

そして。

 

突然その2機は腕を振るい、武器を使ってハンガーを破壊し始めたのである。

 

「ちょっ、ど、どうなってるの!?」

 

キャットウォークが目の前から先がぐにゃりと曲がって、あらぬ方向に分断されている。マユは身構えつつ困惑の声を出した。マユの困惑をあざ笑うかのように2機はハンガーの壁が破壊されるとそこから覗く向かいのハンガーに向かって発砲し、破壊しつくそうとする。

 

「いったい……なにやってんのよ!?」

 

わけが解らなかったがとにかく事態を収拾させなければならないと感じた。その為には目の前の2機を停止させなければならない。自分の近くにはMSが1機。

 

「ステラさん、ごめんね」

 

とにかく生身のままでは危ないとステラを担いでコク ピットに入り込む。気絶したままの相手に謝罪の言葉を口にしながら、なるべく身体が動かないようにデッドスペースへ押込んだ。

 

「私に扱えるかな……?」

 

シートに腰を下ろし、メインコンソールと向かい合う。疑わしそうに呟きつつ、起動スイッチを入れる。 メインディスプレィにOSの起動画面が表示された。

 

Generation

 

Un subdued

 

Nuclear power source

 

Drive

 

Assault

 

Module

 

COMPLEX

 

「設定デフォルトか……動かないよりマシってだけだね」

 

憔悴した顔で呟く。

 

ZGMF-X88S GAIA

 

「ガイア……」

 

表示された機種名をマユは口に出して呟いた。VPS装甲が起動し、全身が黒に近い灰色をベースにした色に 染まる。

 

『おいステラ、何をもたもたやってんだよ』

 

通信用ディスプレイに自分よりわずかに年上くらいの少年の顔が映し出された。ステラと一緒にいた少年だ。

 

『早くしないとネオに怒られちまうぜ』

 

『あまり急かすなアウル。全部が資料通りとは限らないんだ』

 

別のもう1機からさらにやや年上の青年の顔が映し出された。こちらも先程ステラといっしょにいた男の1人だ。

奪う? ザフトの新型MSを奪って……

マユは視線を横に走らせ、その視界にステラを捉えた。

 

「まさかステラさん達はテロリスト?」

 

怪訝そうに眉を寄せ息を呑む。だがそれも一瞬のこと。

 

『おいステラ、早くしろってば』

 

緊張感のない表情でアウルと呼ばれた少年が言う。その口調に無性に頭に血が上った。OSの画面を確認する。武器は……

 

「これかっ」

 

通信と外部スピーカーの両方をONにし、叫ぶ。

 

『いい加減に、しろぉっ!!』

 

ヴァジュラ・ビームサーベルを抜き、ガイアに構えさせる。

 

『げっ!?』

 

『何!?』

 

アウルが間抜けな声を出す。もう1人の強奪犯も驚愕の声を上げた。マユは腹の底からわきあがってきたそれを声に出し、叫ぶ。

 

「そんなに戦争がしたいの? アナタたちはっ!!」


 
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