No.663441 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 運命を切り開く赤と菫の瞳アインハルトさん 2014-02-15 09:15:12 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:3122 閲覧ユーザー数:2952 |
プラントのザフト軍士官アカデミーのクラブハウスには、わりと得体の知れない部屋が多い。
「元々、アカデミーは開校してそんなに歴史がないからな」
と、アカデミーの生徒の一人であるシン・アスカは言った。真っ直ぐな黒髪に、整った容姿。その無垢な子供のような寝顔で学内の女生徒の人気を三分する一方の主役である。
「設立された当初、学校の活性化を図るという名目でわけのわからないクラブが乱立していた時期があったみたいだぜ」
「へえ」
と、シンの言葉に感心したようにうなずいたのは、シンと同じ黒髪をしたもう一人の少年だった。
背丈はシンとそれほど変わらない。
子供のように目を輝かせたその顔は、シンと同じようにいくらか幼さを残している。同じくアカデミー生徒の一人であるシンの友人のイチカ・オリムラである、
「でも、シン。本館に入っているクラブはそれなりにまともだと思うんだけど」
友人たちの所属しているクラブを思い浮かべながらイチカはそう言う。
「だから、この別館は奇々怪々なクラブハウスの巣窟になった」
「……なるほどね」
「カオスだぞ、ここは」
言いながらシンは、濃いような淡いような、不可思議な色をしたその瞳に憂鬱そうな表情を浮かべて、前方に伸びる廊下を見やった。
窓もなく、両脇に無機質な鉄の扉だけが延々と並ぶ廊下。
明らかに薄暗い。
いや、薄暗いどころか、道の遙か先は完全に暗闇である。光が遮られている。
雰囲気はまるっきり安手のホラーハウスだ。
いや、むしろ地獄への入り口とでも言うべきか。
そんな事を思いながらシンははぁ、と溜め息を吐いた。不機嫌極まりないといったその手には大きなバケツと真新しいモップ。
隣のイチカも似たようなものだ。
違うのは、イチカがかっちりした学生服の上から律儀にエプロンを着けているのと、断固拒否したシンが申し訳程度に薄いゴム手袋をはめていることくらい。
もう一度はぁ、と溜め息を吐いて隣のイチカに振り返った。
「大体、なんだって俺たちが廃部になったクラブを掃除しなけりゃならないんだ?」
イチカが困ったような笑みを浮かべた。
「でも、創立記念日が近いし、先生たちの命令だし」
「レイはどうした」
「さあ……確か外出してたはずだけど」
「肝心な時にいないんだよなぁ、あいつは……ルナは?」
「ゴードン教官の補習」
「げっ、よりによってあの人かよ……ルナ、大丈夫か……?メイリン」
「アリサと買い物。多分ユーリも連れてると思う」
「ならユーリは苦労してるな。メイリンってルナ曰く買い物になるとかなり引っ張り回すらしいし後は……」
「ヴィーノとヨウラン」
「痔だな」
「ああ、痔だ。あのサイドカー、俺も一度乗ってみたいな」
「寿命を縮めてもいいなら、お好きにどうぞ……そうなると」
「マユは駄目だぞ、シン」
「当たり前だって。となると、やっぱり頼りはお前だけか……」
シンは深々と再三の溜め息を吐いた。一方でイチカはやけに楽しげな様子だった。
「いいじゃないか。面白そうな仕事だ。俺はわくわくしてる」
「そうか。俺は戦々恐々している」
鬼が出るか蛇が出るか。
いいや。鬼や蛇ならまだいい。可愛らしい。シンはそう思うのだ。
「イチカ、最初の部屋は?」
「ちょっと待った。ええっと……ああ、これだ。七転八倒同好会」
「……いきなり、訳が分からないな。廃部になっているのか?」
「ああ。一昨年の七月だな。でも、紹介文は残ってる。なになに━━我々は七回転んで八回倒れる、そんな後ろ向きな団体である。我々の活動に勝利の文字は無く、我々の精神に克己の文字は無い。即ち敗北主義と負け犬根性が我々のポリシーであり、常に俯いて歩く姿勢こそが我々の真価と言え」
「もういい。頭が痛くなってきた。要するに、中の物を洗いざらい放り出して焼却すればいいんだろ。それで条件はクリアと……どうせなら部屋ごと火を点けてやりたいな」
「先輩方は学園史の編集部に回したいから資料関係は保存しておいて欲しいみたいな事を言ってたけど」
「暗黒史を公表するつもりか?それこそ、まさかだな」
言いながら、シンは扉を開く。文字通り手で開く。タッチパネル式のオートではない。今時手動なのだ。重たげな音を立てて、鉄製の扉が外に向けて開く。中は……何も無かった。
白い壁面。ブラインドの下りた窓。だが、それたけだ。
部屋は決して狭くはない。しかし、十メートル四方の室内に調度品の類は一切無い。もちろん、調度品以外の物も。
ただのがらんとした空間。
「なんだ」
シンはほっと息を吐いた。手に持ったモップの柄でこんこんと肩を叩きながら、開いた部屋の扉から室内に足を踏み入れ、
「でもまぁ、こんなものだろうな。大体、もう二年も前に廃部になって……」
「シン!危ないっ!」
「え?わっ!」
突然、背後からタックルしてきたイチカがそのままシンを床へ引き倒した。そしてそのまま強引に組み伏せた。
なにを━━。
そう叫ぼうとした次の瞬間、シンの黒髪の上を何かがシュンと通り過ぎる。続いて反対側の壁から響く炸裂音。飛び散る水滴。穿たれる銃痕。そして静寂。
「…………」
「……実弾じゃないな。水撃銃だ。だが、殺傷能力は高いぞ」
あまりのことに言葉のないシンと違ってイチカの方は妙に冷静に呟いた。
そうしてイチカは組み伏せた状態のまま、制服のポケットから一枚のコインを取り出すとそれを宙に投げると……
シュン!
コインはド真ん中から見事に撃ち抜かれた。
「やっぱりか。一定の高さに異物が侵入すると、センサーが感知して撃ち出す仕組みだ。なるほど、これなら確かに『俯いて』歩くしないかな」
「いや、のんきに解説してる場合かっ!」
冷静に分析をするイチカにシンのツッコミが決まる。
「なんなんだこの部屋は……これのどこが同好会なんだよ……」
「ははは。大丈夫だよシン。俺たちはゴードン教官の訓練を受けた人間だろ?これくらいのトラップなら」
「朗らかに天然で返すなっ。いくら士官学校だからってクラブハウスに軍事用のトラップがあるなんて普通じゃないだろ!」
「でも、それがこのクラブの規則だったんだう?」
「……作った奴の頭をかち割って、中身をトレースしてやりたいな。とにかく、外に出るか」
「え?掃除は?」
「本気で言ってるのか?」
じろりとシンがイチカを睨み付ける。もしもここでYESと言ったのなら相当のど天然野郎だ。いや、こいつの場合は鈍感か
「まぁ、確かに外からシステムをオフにしてからの方がやりやすいよな」
「……そういう問題じゃない」
もうかれこれ長い付き合いになるがこいつの天然が恐ろしいことを改めて実感させられた。
シンもイチカも身を低くしたまま、匍匐前進の要領で部屋のドアを目指した。イチカが先、シンは後。完全に抜け出したところで、シンがこれ以上ない素早い動きで扉を閉めた。いや、部屋に向かって扉を叩きつけた。
バンという音が暗い廊下に木霊する。
「……ここは後回しだ。イチカ、次の部屋は?」
「待った。ええっと……あったこれだ」
「何?」
「地雷愛好会」
奇妙な沈黙が二人を包み込んだ。
やがて、シンが歯軋りを堪えて言った。
「……なあ、イチカ」
「……なんだ、シン」
「このまま、この建物を木っ端微塵に爆破して、未来永劫封鎖してしまいたいと思ってるのは俺だけか?」
「奇遇だな。俺も同意見だったりする」
それからも苦難の道のりが続いた。
どれほどの苦難だったのかというと、それはまあ二人の格好を見れば想像できそうなものである。
「……なんで、こんな目にあってるんだ、俺たちは」
真っ二つに折れたモップを手に、穴の開いたバケツを肩に、シンが魂の抜けたように呟いた。
「……大掃除だからだろ」
焼け焦げたエプロンを着けたイチカは、これまた投げやりに応じた。
「掃除?イチカ。今の所、掃除が完了した部屋は?」
「0だ」
「むしろ逆に散らかしてしまったかなーっていう部屋は?」
「十三」
「いい数字だな。なんで、俺たちは生きてる?」
「多分、聖人君子じゃないからだろう」
「いい答えだ」
重たい足取りで次の部屋の前に立った。扉の前にかかった白いプレート。
「地球文化研究会……へえ、ここはまともだな」
「待て、イチカ。カエルを愛する会が部屋中ガマ油の精製工場だったことをもう忘れたのか」
「土管クラブだけはよくわからなかったな。なんだってあんなにマイクばかりかざたてあったんだ……?」
そんな事を話しながら、扉を開いた。
いきなり中に入るようなことはしない。とっくに懲りている。
開いた扉の外から、二人は恐る恐る中を覗き込んだ。そして、
「へえ」
と、嬉しそうに声をあげたのはイチカ。
「あ、おい待てよイチカ」
と、慌ててその手を掴んで引き留めようとしたのはシン。
だが、間に合わない。
既にイチカは室内に入り、なにやら感慨深げに辺りを見回していた。仕方無く、シンもあとに続く。
「うん、ここはまともだぞシン」
「そうか?これはこれでシュールな光景に思うけど……」
二人の意見にはそれぞれ根拠も理由もある。
やや薄暗い室内。雑然と周囲に転がって……いや、廃部となって以来、放置されたままの物。地球でしか販売されていない文庫の本がぎっしりと並べられた本棚。折り重なっている般若やひょっとこのお面。古ぼけた赤ん坊のマトリョーシカ。白銀に輝く騎士の纏う鎧の百分の一スケールのフィギュア等々。
文化といえば文化だが。
がらくたの山、夢の島と呼ばれても不思議はない。
「おお、見ろよシン。けん玉だ」
「……いや、あのなイチカ」
「懐かしいなぁ……よっと」
がらくたの山から引っ張り出したそれを手に取ると、イチカは軽く手首を捻って、宙に玉を放った。
すぽっと見事な軌道を描いて玉が木の先に収まる。
しかも、それで終わらない。よっ、ほっ、と軽快な掛け声と共に、イチカは意志のない玉を意志があるかのように自由自在に操っていく。
「……相変わらず、器用だよなお前」
「そういうシンは、昔からこういうのは苦手だったな。むしろマユの方が才能はあった。よっ」
「うるせえ」
面白くなさそうに鼻を鳴らし、シンは靴を脱いで部屋の半分を占める畳の上に上がった。お面たちの横に立ち、壁に描かれたエベレスト山の絵を眺めやる。
ふと━━。
それに気付いた。
「あ……」
お面と壁の隙間に挟まっているものを
ざらざらとした手触り、ぷんと立ち込めるカビ臭い匂い。
黄ばんだ紙面。
「どうした、シン」
けん玉を弄ぶのをやめて、イチカも近寄ってきた。不意に、その顔が強張った。別人のように目が鋭くなった。
シンが手にしている紙の束は新聞である。
日付は……C.E.71年6月15日。
号外。見出しは、
『地球軍、オーブを侵攻』
静寂が室内に立ちこめる。いつの間にか、窓の外は雨になっていた。宇宙の中に漂うコロニーであるプラントでは自然の雨が降ることはない。よって変わりに人工の雨を降らせているのだ。何故だかは知らないが。
曇ったガラスの上をぽつぽつと黒い水滴が斜めに走っていく。
「………………」
「………………」
黙りこくったまま、シンが取り出した新聞を元の場所に戻した。
イチカは無言でその様子を見守っていた。
「……雨だったな」
「え?」
「あの日も……雨だった」
「シン……」
「雨は……だから嫌いだ」
「……そう、だな」
━━そして。
そこから始まったことは、確かな事実だった。
実際の士官学校って部活とかあるのかな?調べてもよくわからなかったのですが、無かったらどうしよう……(・_・;)
…………まぁなるようになるさ!どうせアカデミーの話はこれっきりなんだし!
次回からアニメ本編に入ります。
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設定の矛盾、キャラの無駄出演、機体の異常なチートにより、SEEDから離れて投稿を停止しました。