「それが、カネの地『カワルナ王国』から奪い盗ってきた新兵器の中枢部品か……?!」
真夜中の暗い海底宮殿の謁見の間で、クゥの地に拡がるヒラの沖の海底を治めていた『ラロハナ王国』のアリイ(王)は、小さく輝く三つの部品を目の前にし、黄真珠で出来た玉座の上から身を乗り出して興奮気味にうなった。
「ようやった、キパパ! 後はその部品を誰の手にも渡らぬよう、即刻ロイヒ(海底火山)に投じ、処分してしまうのだ!!」
「はっ……」
アリイの正面の下座で控えていた『キパパ』と呼ばれた一人の男は、深く頭を垂れて手にした薄絹の中に小さな中枢部品を包んで立ち上がる。
「それさえなければ『新兵器』など、ただの屑同然! 『カワルナ王国』など恐るるに足らん! これで当分の間、我が王国は安泰だ。……キパパ、我が息子よ。おまえが成功した事を、ワシは嬉しく思うぞ」
薄暗い謁見の間を下がるキパパに向かい、アリイは長い髭を満足げになで、言葉とは裏腹な冷めた笑みを浮べていた。
扉を出て、海螢でうっすらと光輝く、細く長い骨貝のような白い螺旋階段を、男は下へ下へと降りてゆく。
キパパは、この海底王国『ラロハナ』のマナイア(王子)である。
アリイに命ぜられ、敵対国『カワルナ王国』に潜入。この『ラロハナ王国』の最終兵器に対抗するため開発されたという新兵器の中枢部品を、大盗賊イワの手を借り無事盗み出す事に成功。先刻帰還したばかりであった。
しかし、見事大成功を収めたはずのキパパの心は、藍色の深海のごとく暗く深く沈んでいた……。
戦好きのアリイと違い、マナイアは心根の優しい男であった。今回の命令は、それを疎んじ自分の忠誠心を疑うアリイの企みであろう事が、彼には薄々解っていた。
(失敗しても、それはそれで、アリイにとっては都合がよかったのかもしれないな……)
白く冷たい岩壁の階段を降りながら、小窓の向こうに広がる暗闇の海の底を眺め、キパパは思った。
だが、失敗するわけにはいかなかった。王国に未練などなかったが、彼にはまだこの地で成すべき事が在ったからだ。
それに、アリイの策謀と知りつつも命を受け『カネの地』に向かったのは、命令とは別の目的が、彼の頭の中に存在していたからである。
けれども、その目的は部品の奪掠よりも難しく、たやすく達成することは出来なかった……。
手の中で虹色に閃く兵器の部品を苦々しく見つめ、彼は深い溜息をつく。
長い階段を降り、幾重にも別れた迷路のような青い砂岩の回廊を渡って、キパパの足はまっすぐ外のロイヒではなく、地下にある『カプの間』へと向かっていた。
部品の処分などすぐに出来る。アリイの命令より何よりも先に、逢いたいものが彼にはいた……。
クゥの神像がヘイアウ(斎場)のごとく仰々しく立ち並ぶ青白い地下通路の更に奥に、『カプ(禁制)の間』と呼ばれるアリイとマナイアのキパパ以外、立ち入る事の許されない特別の場所が存在していた。
廊下に陣取る厳めしい護衛の兵士をマナイアの特権で退かせると、芸術的で繊細な桃色珊瑚の透かし彫りに飾られた、宝物殿のごとき『カプの間』の大扉の前で立ち止まる。
この中に、アリイの至宝と呼ぶべきものが存在していた。
それは別の意味で、キパパにとっても同様の思いである。
リム・カラの腕飾りに仕込んだ大扉の鍵を、珊瑚にはめ込まれた巻貝にかざすと、彼の行く手を阻む大扉は音もなく静かに開き始めた……。
(To be continued.)
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ハワイ諸島の昔話をベースに、
SFファンタジーとして書いてます。