No.648674

Vの追跡/ザ・ストーカーズ

i-pod男さん

さて、今回は依頼発生させちゃいます。長過ぎなきゃ良いんですが、前回はWが活躍したんで今度の出番はアクセルに・・・・

2013-12-26 20:29:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1422   閲覧ユーザー数:1392

一方、風都では・・・・・

 

「ストーカー・痴漢が多発、ねえ。」

 

翔太郎はダーツに興じながらも新聞に大きく印刷された見出しを読む。

 

「若い女の人ばっかり狙われてるんだよ?酷くない?」

 

「ああ。確かにな。ま、お前にゃ照井の奴がいるから問題はねーだろ?」

 

亜樹子の言葉に上の空で棒読みにしか聞こえない返事をする翔太郎。

 

「もう、翔太郎君てば。どうしたの?」

 

「最近刺激的な依頼がねえんだよ。大抵が身辺調査やペット探しと来たもんだ。こう、何と言うか・・・・やり甲斐のある仕事って奴?それが無いんだ。」

 

「あの〜・・・・」

 

「はい?」

 

事務所の玄関から美人が顔を覗かせた。胸元まである髪の毛をアップで纏めて、シンプルな濃紺のビジネススーツに身を包んだ薄化粧の女性だ。翔太郎は手に持った最後のダーツを投げ放ち、珍しくブルズアイを貫いた。

 

「どうぞこちらへ、美人のお姉さん。今日はどの様なご依頼で?」

 

「変わり身速っ!!」

 

「私、インフィニット・ストライプスの副編集長の黛渚子と言います。」

 

「インフィニット・ストライプス?」

 

「あれ?翔太郎君知らないの?IS操縦者のモデル雑誌だよ?特に代表候補とかはタレントみたいなもんだし。でもそんな重役さんが何でこんな所に?」

 

差し出された名刺を受け取った亜樹子は首を傾げた。

 

「実は、この事件の事で・・・・」

 

テーブルに置かれた先程の記事を指差す。

 

「これが何か?」

 

「ウチのモデルの娘が何人か被害に遭ってるんです。」

 

「詳しく聞かせて下さい。(キリッ)」

 

どこからそんな擬音が出て来るのか、翔太郎は何時も以上にカッコつけながら続ける様に促す。そこで恒例のスリッパで側頭部を殴られる。

 

「あぃてっ!?亜樹子ぉ〜〜〜、てめえなあーーー・・・!!!まあいいや。それで?」

 

「はい。全員、仕事が遅くなって夜に帰る時、必ず誰かに後を付けられている気がするって言うんです。」

 

「警察には行かなかったんですか?」

 

「最初はもし何かの間違いだったら格好がつかないんで、暫くは無視してました。でも段々エスカレートしていって、夜中に窓を割ったりドアをノックされたり・・・・・お陰で仕事も碌に手がつけられなくて。それで 警察に届けたんですけど、警戒している間は全く何も起こらなかったんです。四人の内二人は病院で療養しています。貧血でも起こしたみたいに青白くて。お願いします、助けて下さい!!」

 

「分かりました。俺達が必ず解決します。亜樹子、照井に電話。ストーカー被害の調書があるかどうか確認取ってくれ。」

 

「うん!」

 

「さてと、俺は下で遊び回っている兎と相棒の所に行くとするか。」

 

 

 

 

 

リボルギャリーの格納庫では・・・・

 

「いーじゃん、いーじゃん!」

 

「やめたまえ、篠ノ之束!」

 

『Stag』

 

「にゃぁ〜〜〜〜!!!」

 

悪ふざけをする束がフィリップにお仕置きされていた。スタッグフォンがライブモードになって束の踝を挟み込み、逆さ吊りにしていたのだ。

 

「何だこの状況は?」

 

丁度そこに翔太郎がドアを開けて現れた。

 

「あ、翔太郎。」

 

フィリップは束の手に握られている物をすかさず奪い取る。それは基盤が剥き出しになった未完成の純正のガイアメモリだった。

 

「全く、君は・・・・良いかい?これは君が触れていい様な代物ではないんだ。そして君がここにいる理由を忘れないでもらいたい。君は保護観察対象なんだよ?ここで大人しくしている事が大前提なんだ。今まではISのプログラムやその他の事に協力したりしてもらったりしたが、これは別だ。今後二度とこれを弄らないでもらいたい。」

 

「ぶ〜〜〜・・・・・ぐぇっ。」

 

スタッグフォンは束の足首を解放し、彼女は潰れた蛙の様な変な声を上げた。

 

「返事は?前みたいにまた落とすよ?」

 

「お、落としてから言っても遅いよ、フィー君・・・・・」

 

「全く。手のかかる幼稚園児を相手にしているみたいだな。」

 

翔太郎は天を仰いで溜め息混じりにそう零す。

 

「全くだよ、検索すら思う様に進まない。」

 

フィリップもこめかみを抑えながらそう呟いた。

 

「むぅ〜〜〜。何で手伝っちゃ駄目なの?何で?」

 

「ガイアメモリは君が開発したISと同じ効果がある。人の心を屈折させるんだ。メモリは人の心につけ込み、負の感情を増大させる。ISもまた、女性の心を歪ませ、自分達こそが至上と言う誤った考えを現在進行形で植え付けている。君が償いたいと言う気持ちは良く分かった。だが、それなら真っ先に償いをすべき人物がいる筈だ。僕が言わずとも、それは誰かもう分かるよね?」

 

フィリップが示唆している事に気付いた束は先程の子供の様な態度はどこへやら、一気に沈んだ表情に変わって行った。

 

「まあ、焦る事は無いが、早いとこやらないと今にデカいもん失うぞ。」

 

翔太郎の脳裏に全てのスタートラインとなった運命の夜の出来事が鮮明に蘇った。銃声、託された相棒、そして血にまみれて倒れる白スーツの師。

 

「おやっさん・・・・・」

 

「それで、何の用だい翔太郎?まさかこの茶番を見物に来た訳じゃないだろう?」

 

「ストーカー被害の調査依頼だ。ドーパントが絡んでるとは思えないが、検索頼むぜ。」

 

「もう少し後にしてくれないかい?後数分でこれが出来上がるんだよ。」

 

「それは・・・・ガジェット、とメモリか。でも何でそんなに沢山?」

 

「織斑一夏の為でもあるし僕達や照井竜の為の保険だ。君も知っていると思うが、エターナルのマキシマムは他のメモリを無力化させる事が出来る。彼にあれを使わせるわけにはいかない。前回は僕がエクスビッカーのプログラムを書き換える最中にどうにかする事が出来たが、今回はそうは行かない。使える戦術があればある程、アレのマキシマム発動の確率は下がって行く。」

 

「成る程。それでメモリの複製をしていた訳か。でも、俺達の使うメモリ以外の奴はどうすんだ?流石にブレイクせずに持ち帰るなんて事は照井が許さねえだろうし・・・・」

 

「そこが一番の問題だ。シャッフルメモリは既に幾つか作ってあるんだが、それが上手い事A to Zまで行けるかどうか・・・・何せ、」

 

「ガイアメモリとはその名の通り地球の記憶、だからな。メモリのタイプは千差万別。」

 

「そう言う事だ。よし、これで出来た。Accel, Cyclone, Fang, Heat, Joker, Luna, Metal, Trigger, そしてXtreme。およそ三分の一は手に入った。さて、検索を始めよう。翔太郎、篠ノ之束を見張ってくれないか?また僕の作業スペースに入って来たらスパイダーショックで逆さ吊りにしてくれたまえ。頭に血が上って少しはマシになるだろう。」

 

「うわーん、フィー君がいぢめる〜〜〜〜!!!」

 

何かとカオスが絶えなくなってしまった鳴海探偵事務所である。

 

「では、検索を始めよう。キーワードは?」

 

「夜。ストーキングは全て夜に行われている。」

 

「成程。夜、ストーカー。」

 

フィリップはキーワードを復唱し、該当しない本棚が除外されて行く。

 

「次は?」

 

「インフィニット・ストライプス。IS操縦者のモデル雑誌だそうだ。依頼主はそこの副編集長らしい。すげえ美人でな。」

 

「成る程、翔太郎の熱意が凄い訳だ。」

 

「うるせえんだよ。まだキーワードはある。良いか、言うぞ?」

 

翔太郎は次々と被害に遭ったモデル達の名前を言い、更に検索対象を絞り込んで行く。だが、本棚が十数個残っている。

 

「やはりまだ絞り切れないな。被害者達に共通点は?」

 

「ん〜、現状で分かるのは、全員がかなりの高級の高層マンションに住んでるらしいって事位だな。」

 

渚子が持って来た資料をぱらぱらと捲りながら翔太郎はそう呟いた。

 

「高層・・・・空?」

 

ここで一気に本が減り、残りは十冊弱となった。

 

「おお。凄い。これでかなり減ったよ。他に共通点は無いのかい?」

 

「モデル四人の内二人が入院しているらしい。青白くて、まるで貧血でも起こしたみたいな症状だと。」

 

「貧血。ビンゴだ。」

 

「何?本当か?」

 

残った一冊の黒い本に、Vampireの赤い文字が現れた。

 

「メモリの正体はヴァンパイア、つまり吸血鬼だ。夜狙うと言うのはまあ当たり前かもしれないが、筋金入りのストーカーならばもっと徹底してプライベートだろうと仕事場だろうと白昼でも付け回す筈だ。なのに夜だけ、と言うのは何か変だろう?」

 

「確かにな。伝承じゃ心臓を杭で貫いたり、日の光を浴びたら死んじまうんだっけ?けど、被害は何で尾行や窓を割ったり、ドアを叩いたりガチャガチャやったりするだけなんだ?」

 

「不幸中の幸いだが、ヴァンパイアと言うのは訪ねた家主に招かれなければ家に入る事は出来ないんだ。他にも姿を消したりする事が出来るらしい。尾行しても気付かれないのは、姿が見えないからさ。貧血の症状はヴァンパイアの有名な吸血行為によって引き起こされた物だよ。」

 

「メモリの正体は分かったが、問題はそれが誰かだ。俺は照井の所に行って来るぜ。」

 

「僕は被害者達の共通点から犯人を絞り出してみるよ。何か分かったら連絡する。」

 

「おお、頼むぜ相棒。」

 

 

 

 

 

場所は戻ってIS学園一年一組の教室。丁度昼休みを告げるベルが鳴った。一夏はベルが鳴ると同時に行動を起こす。大股で歩きながら一年四組の教室を目指す。バシュッと言う音と共に扉が開く。

 

「あ、お、織斑君だ!!

 

「どうも ladies。噂の織斑一夏で〜す。更識簪さんを探してるんだけどぅふっ!?」

 

腹に凄まじい衝撃を感じた。制御出来る様になった今、有事の際以外ではナノマシンの機能をOffにしている為、殆ど普通の人間と変わらないのだ。

 

「やっと来てくれた・・・・」

 

「簪・・・・」

 

ぶつかって来たのは、ご存知、簪である。一夏が言葉に詰まった理由は彼女が腹に強烈なタックルをかましたからなのだ。そしてそのまま抱きついたまま離れようとしない。

 

「お待たせ。んじゃ、行こうか。」

 

「ん。」

 

簪の手を取り、二人は肩を並べて歩き出した。

 

「何食べる?」

 

「屋上、行きたい・・・・・」

 

「(なるほど、そゆ事か)良いよ。行こう。」

 

そして屋上に到着するなり開口一番、

 

「あ”ー、日の光があったかい。良い天気だ。」

 

一夏は芝生にどっかりと腰を下ろして空を見上げた。欄干に背を預けて空を見上げる。簪も同じ様に座り込んで彼の方に頭を乗せる。

 

「一夏も、あったかい。」

 

(・・・・・何なんですか、この可愛い生き物は?)

 

何故かは分からないが今の一夏には、簪が狐の様なピンと立った耳とふさふさの尻尾を生やしている様に見える。それも感情とリンクしている様で耳はヘニャリと垂れており、尻尾は細かく左右に振られている。

 

(何これめっちゃ可愛いんですけど!?良いのか?こんな可愛い彼女がいていいのか?!撫でたい!めっちゃ撫でたい!)

 

「あ、お昼ご飯・・・・これ。」

 

一夏が手を伸ばした矢先、簪は姿勢を正して教室を出る時に手に持っていた重箱サイズの包みを開いた。お陰で一夏の手は空を切ってしまうが。

 

「おぉ・・・・・すげえ〜・・・・」

 

色取り取りの料理が詰まった重箱に、一夏はそう言うしか無かった。ここまで精巧にこの色合いで作るのにどれ程の時間と手間がかかったのだろうか。

 

「早起きして張り切ったのは良いけど、作り過ぎた・・・・」

 

「いや、それ位で丁度良いよ。俺も結構食べる方だし。あ、そう言えば簪の手料理食べるのってこれが初めてだよな?」

 

「うん・・・・ど、どうぞ・・・・」

 

「んじゃ、頂きます。」

 

一夏はまずオーソドックスな和食の献立であるだし巻き卵を食べた。そして飲み込んで一言。

 

「Oh, my. 美味い。これは俺も頑張らないとマジで負けるな。」

 

「良かった・・・・!もっと、食べて。」

 

「言われずともそうします。」

 

おにぎり(梅、昆布、鰹など)、唐揚げ、きんぴらごぼう、ほうれん草のおひたし、鮭の切り身などなど、二人で完食してしまった。

 

「っふ〜。ご馳走様。いや〜美味かった。」

 

「凄い食べたね。作り過ぎたの心配し過ぎちゃった。」

 

「育ち盛りの健啖振りは嘗めたら怖いぞ。ん?」

 

簪の口の端にご飯の粒がついているのを目ざとく見つける。指でそれを取ると、自分の口に持って行く。

 

「付いてたぞ。」

 

「あぅう・・・・・一夏の、馬鹿ぁ・・・・・」

 

その直後、休み時間終了十分前を告げる予鈴が鳴った。

 

「・・・・・簪、先行っててくれないか?」

 

「うん、良いけど。何で?」

 

「ん、まあ、その、景色をな。」

 

「分かった。じゃあ、後でね。」

 

「おう。」

 

簪が去ったのを確認すると、一夏の表情は一変し、懐からエターナルエッジを引き抜いた。

 

「誰かは知りませんけど、二日位前から尾行してるの、バレバレですよ?呼吸の音が聞こえるし、ベルガモットの香りが微かながらします。ゲランのシャリマーですよね?」

 

「あらら、バレちゃった。残念。」

 

扇子を持った簪と同じ水色の髪と赤い瞳を持つ生徒が現れた。制服越しでもその抜群のプロポーションは見て取れる。右手には扇子が握られており、『尾行失敗』の四文字が達筆で描かれていた。

 

「貴方、簪のお姉さんですよね?ロシアの代表候補の。」

 

「半分は正解よ。候補、じゃ無くて、今は正式な自由国籍持ちの国家代表。二年の更識楯無よ。よろしくね。」

 

「こちらこそ。(俺より一つ歳上で国家代表、ねえ。そりゃ簪が家出したくなる訳だぜ)で、そのお姉さんが僕に一体何の様ですか?大凡の察しは付きますけど。」

 

「簪ちゃんと、どう言う関係なの?どう知り合ったの?」

 

答え次第では力づくも辞さない。そう言う空気だ。一夏もそれを察してエターナルエッジを握り直す。

 

「最初の質問の答えは簡単ですよ。恋人同士です。一応。」

 

長い沈黙が続いた。

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

「えっ、て言われてもそれ以上簡潔に出来ません。だから、恋人同士。Loversです。」

 

子供に説明するかの様に両手でハートマークを作る。だが、既に脳内の情報処理が追い付かなかったのか、立って白目を剥いたまま楯無はフリーズしてしまっている。それこそ、字面の如く立ち往生した武蔵坊弁慶の様に。

 

「もしも〜し。お〜い。Esta bien (大丈夫ですか)?駄目だなこりゃ。授業戻ろ〜うっと。昨日のメールもまだ確認してねえし。」

 

一夏は処理落ちしてしまった楯無の足元にクラス代表就任パーティーで作ったカステラのあまりが入ったタッパーを『よろしければ茶菓子にどうぞ』と言う書き置きと共に残して屋上を去った。

 


 
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