一夏は千冬と並んで手をつないだ状態で帰路に着いていた。何かと誤解されてしまうのではないかと思っていたが、幸い殆ど人に会わずに済んだ。
「たまにはこう言うのも・・・・良いな。」
「うん・・・・・」
何とも微妙な空気だが、二人は笑顔だった。だが、それも長続きはしなかった。
『Salamander!』
「うぉっと!?」
巨大な炎の玉が降って来たのだ。一夏は千冬を押し飛ばし、自分もどうにか避けきる事に成功した。
「っぶないな・・・・!千冬姉、行くよ!」
一夏は千冬の手を握って走り始めた。地球の記憶が発する囁き、ガイアウィスパーを聞いた時に一夏は既に行動に移っていた。仮面ライダーでもあり、現場主義のキャリア警察官と現役の探偵でもある二人に短い間とは言え扱かれていた一夏の危機察知能力と行動力は格段に上がっている。走りながら携帯で110番通報し、ドーパント出現の旨を伝えた。だが、悲しい事に一夏は人間であり、中学生でもある為、体力も人並みだ。対して相手はドーパント、全体的な身体能力は格段に上である。逃げ切れないのは当然だった。
「一夏、あれは一体何なのだ?!」
「ドーパント。人間を狂わせる麻薬、ガイアメモリによって生み出された怪物。とりあえず、人間じゃ絶対に勝てないから逃げるべし!!」
一夏は逃げながら餞別と言われて渡されたケースの中身を引っ張りだした。
「ギジメモリとガジェット・・・・!?これなら、逃げ切れるかもしれない・・・・」
入っていたのは、腕時計、携帯電話、ICレコーダー、そして対応する三本のギジメモリだった。
『Scorpion』
『Wyvern』
『Dragonfly』
それらをそれぞれのガジェットに押し込んで空に投げ上げると、時計は『スコーピオショック』、携帯は『ワイバーフォン』、そしてICレコーダーは『キャプチャーフライ』に変形した。火の玉が飛んで来た方向に向かって飛び、電柱の上から等身大の赤黒い巨大なトカゲを叩き落とした。
「千冬姉、早く!」
自分はドーパントと戦う術は無い。精々足止めか時間稼ぎが関の山だと言う事を一夏は理解していた。大した手立ては残されていない。今は兎に角逃げる事だ。
「ここまで、くれば、暫くはどうにかなる・・・・・筈・・・・・」
「一夏、聞いても良いか?・・・・・お前はここで何を学んだのだ?」
千冬は純粋に一夏の変わり様に驚いていた。普通あの様な物を見れば腰を抜かすか驚く位のリアクションはある筈だが、一夏は全く動じずに千冬を連れて逃走を図った。
「命と、『生きる』事の概念。それと、人と物を大事にする方法。と言っても、殆ど翔太郎さんやフィリップさん、竜さんが言っていた言葉だけど。」
『見〜つけた。』
サラマンダー・ドーパントが喋りながら口から火を噴き出した。
「やっぱガジェットじゃ大して足止めは出来ないか・・・・」
『Jet!』
だが、どこからか放たれた赤い弾丸がドーパントを吹き飛ばした。その見覚えのある攻撃に、一夏はその攻撃が来た方向に目を向ける。
「て・・・・照井さん!」
赤いフルフェイスヘルメットの様な仮面、オンロードバイクの様に頑強な赤いボディー、そして肩に担がれた大型の剣、エンジンブレード。風都の仮面ライダー、アクセルだ。
「良くここまで逃げ延びた。短い間とは言え、俺や左達がお前を扱いた時間は無駄ではなかった様だ。早速お前の新しい相棒達が役に立ってくれたぞ。上手い具合に出勤途中でドーパントの位置を教えてくれてな。」
一夏の新たなガジェット、スコーピオショック、ワイバーフォン、そしてフライレコーダーがどうだ、凄いだろうとでも言いた気な動きを見せ、一夏の方へ寄って行く。
「助かったよ、ありがとうな。」
『仮面ライダー・・・・邪魔すんじゃねえよ!俺はもっともっと人を燃やし尽くしてーんだよ!いや、お前から燃やしてやんぜ!いい具合に赤色だからよおーーー!!』
サラマンダー・ドーパントの口から炎を吹き出したが、アクセルはドライバーからメモリを引き抜いてストップウォッチ型の青いメモリをスロットに押し込んだ。
『Trial!』
それをバイクハンドル型のアクセルドライバーに差し込み、右のパワースロットルを数回強く捻った。
『Trial!』
信号機の様に赤いボディーが黄色に変わり、更にもう一度その姿が変わった。全体的に余計な装甲は弾けて消え、赤かった体が一変して青に、青かったフェイスフラッシャーはオレンジ色になる。これぞ全てを振り切るアクセル、『アクセルトライアル』である。
「色が変わった・・・・!!」
「貴様の炎は、俺には届かん!」
猛スピードでドーパントの懐に突っ込み、目にも留まらぬ早さのパンチとキックを秒間数百発と言う驚異のスピードで叩き込んで再び下がった。だが、アクセルの両手から煙が上がっていた。そして、胸を押さえて地面に倒れ込む。
「体が!?くっ・・・・毒か・・・?!」
『ケケケ、その通りィィィーー!!今のは利いたぜ?俺様の皮膚は触れればタダじゃ済まねえんだよおおおお!!』
口から再び火球を放つサラマンダー・ドーパント。不幸中の幸いだったのが、アクセルトライアルの近くにエンジンブレードが突き刺さっていた事だろう。思う様に動かない体に鞭打ってそれを手元に引き寄せ、剣先を飛んで来る火の玉に向けた。
『Jet!』
赤い弾が火球を貫いて相殺する。
『ちっ・・・・・手こずらせやがってよお、カスが。まあ良い。まずはあのガキ共だ。』
サラマンダー・ドーパントは今のアクセルを戦力外と見なしたのか、踵を返して一夏達がいる方に向かって行った。
「待て、貴様・・・・(体さえ動けば、こんな奴!)」
だが、照井は意地と鍛錬の賜物である体の頑丈さに物を言わせ、エンジンブレードのトリガーを引いた。
『Engine! Maximum Drive』
そして突きのモーションと共に赤いA字型の刃が剣先から撃ち出すマキシマムドライブ、エースラッシャーが発動する。だが、それと同時にサラマンダー・ドーパントは一夏と千冬に向かって火球を放った。一夏はそれを見ると、千冬を後ろに押しのけ、その前に立った。両手を目一杯広げて楯となり、一夏の全身を凄まじい熱気と痛みが襲った。
(痛い・・・・本当に、痛い・・・・けど、ここから動いたら、別のどこかが、俺の心がもっと痛くなる。だから、死んでもこの場は絶対動かない!)
激痛に顔を歪ませはしたが、声は上げまいと必死で歯を食い縛った。そして、そのあまりの痛みに一夏は自分が倒れるのを感じて、遂に意識がなくなった。
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どんどんいくぜ。