No.647715

三匹が逝く?(仮)~日常編~

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この作品は私、北の大地の西ローランドゴリラこと峠崎ジョージと、
小笠原樹(http://www.tinami.com/creator/profile/31735
YTA(http://www.tinami.com/creator/profile/15149
赤糸(http://www.tinami.com/creator/profile/33918

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2013-12-23 23:49:37 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:4929   閲覧ユーザー数:4370

『磊落豪宕』~"A joyful evening may follow a sorrowful morning"~

 

 

 

 

”あの一件”から、ジム=エルグランドという人物について、少し調べてみた。

冒険者ギルド”アルカンシェル”所属。正式なコードネームは”命獣(キマイラ)”だが、弱冠10歳にしてランク”黄”として登録される理由となった”とある事件”の転末より広まった通称”壊し屋(クラッシャー)”の方がどちらかといえば知名度は高い。

身長2m越えの筋骨隆々な強面巨漢。アルビノを彷彿とさせる褐色の肌と真っ白な髪をしており、顔の真ん中には酷く生々しい大きなさんま傷がある。

能力及び得意とする魔術は”変身”。肉体を他の生物のそれへと自由に変化させることができ、その条件は”実在していること”と”奴が知っていること”というだけなのだから、ほとほと反則(チート)だろうと思う。また、その能力の行使の際には両の瞳が真紅に煌くという、自分でも制御できない特徴があるらしく、そのためにこの森には”赤眼の怪物”が棲んでいる、という噂がここら一体の地域に根付いている。とはいえ、その正体を奴と知る者はごく僅かであり、民衆の間では生態未確定な新種の生物では、と囁かれ続けているだけだったりするので、本人も自分の生活が脅かされるような事態にならない限りは放置する気でいるようだ。そもそも、そのような能力及び特異体質の副産物として、桁外れの運動神経や反射速度、再生力に鋭敏な感覚、あらゆる自然発生的な毒物に対する免疫力など、様々な”恩恵(ギフト)”も齎されているとかで、そんじょそこらの日和見連中では『暖簾に腕押し』『糠に釘』だと思う。蟻が巨像に勝とうと思うのならば、千や万でもまず足りないだろうし。

兎に角、そのようなずば抜けるにも程がある身体的特徴とは裏腹に家庭的な一面が強く、趣味は読書や観劇だというのだから、少なからず驚いた。”壊し屋”としての奴しか知らないのであれば、まず間違いなく躊躇いや戸惑いを隠しきれない事実であろう。俺自身、こうして目の当たりにするまで、このプレミアチケットが奴に対する交渉材料になりうるのかどうか、半信半疑だった。まぁ、事実だったからこそ、十中八九奴にとっての”お気に入り(ベストプレイス)”であろう暖炉前の安楽椅子をこうして陣取れているのだから。

 

(意外にいい趣味してやがるな、この野郎……)

 

”15少年漂流記””海底2万マイル””80日間世界一周””ガリバー旅行記”。嘗てこの地を訪れた被召喚者によって齎された、見るも懐かしい冒険譚の数々が、すぐ手に届く場所にある本棚に所狭しと詰め込まれている。紐解く度に鼻腔をくすぐる古い紙の匂い。鼓膜を震わせるのは石造りの暖炉の中で弾ける火の粉と、微風に揺れる木々や小鳥たちの囀りと、小屋の直ぐ側を流れる川のせせらぎと、規則正しく回る水車の舟を漕ぐような程よい軋み。後は精々、指が軽やかに捲る(ページ)と、

 

「あいよ」

「ん。サンキュ」

 

空になったカップに注がれる珈琲くらいのものか。スローライフ、という言葉の意味がよく理解できる。元より”この世界”は自分の故郷よりも時流がずっと緩やかに感じられるのだが、この丸太小屋はまるで世界から切り抜かれたり、ぽつんと取り残されてしまったかのような、そんな感覚すら覚える。竜宮城、なんて洒落たものではないが、家具どころか家屋そのものまで手製というだけあって、なんとも独特の暖かみがある。天窓から射し込む陽光で柔らかく照らし出される木目から、豆の香りに混じって木々が仄かに香るような錯覚。

厭人癖であろうとなかろうと、多少なりとも”波長”が合ったならば、これはまず”外”に出たがらない。日常の(しがらみ)や戒めから完全に隔りされた空間。良い意味でも悪い意味でも、これは人を”駄目”にしてしまうかもしれない。何の連絡もなしに、突然押しかけてきたわけだが、

 

(まぁ、ある意味”らしい”っちゃ”らしい”か。しかしコイツ、本当に年頃の健康な男の子かよ。艶本の一冊もねぇとか)

 

これがもう少しだけでも”俺好み”のラインナップであったなら、それこそ丸一日読書(こう)していられる確信すらある。加えて、腕白にも程があるお転婆お嬢様強烈な蹴りや説教を喰らうこともなければ、文字通り側にくっついて離れない獣人女中の苛烈な愛情表現(スキンシップ)に頭を悩ますことも、ここではまず心配の必要がない。別段、彼女たちを本気で煩わしいと思っているわけではないのだが、自分のためだけに費やす時間というものは殊の他重要であり、自分で思っている以上に必要だったりもするものである。それがほんの少しでもあるだけで、日常に乙張(めりはり)がつくからだ。張り詰めたままの糸はいつ何時、千切れてしまうか解らないのだから。

 

「これで給仕してくれんのがメイズちゃんみたいな美人なら、言うことなしなんだがなぁ」

「煩ぇ、黙ってろ」

 

おっと、聞こえてたか。ぼそりと呟いた程度の小声だったはずなのだが。おちおち内緒話もできないほど、聴覚が優れているということか。事実、他の誰もこちらに気づいていないようだし。

時刻は間もなく昼時という頃合。予定外の来客たちを含めた人数分の昼食を拵えている台所の家主を、苦笑しながら横目でそっと見やる。

先程までは何やら考え事に耽っていたようだが、基本的にこの男、隙がない―――いや、と言うよりは、

 

(こいつにとって、”これ”が自然体ってことか……)

 

”銀の月”の常連であるこの青年、確か名前はジャン・ベアールだったか、居心地悪そうに口を噤んだまま、台所のジムと俺の間で視線を彷徨わせては俯いて縮こまり、をひたすらに繰り返している。恐らく彼と同じように、大抵の人間がジム=エルグランドに対して抱いているであろう畏怖の原因でもある、この姿勢(スタンス)。他人を寄せ付けない、近寄らせない、剥き身の刀や燃え盛る炎のような、この男の”縄張り”。恐らく食事中、もしかすると就寝中であったとしても、攻撃を仕掛けようとした瞬間、この男は驚異的な速度で反射的に反撃してくることだろう。しかもこれを意識的にでなく、自然体で発しているというのだから、殊更に呆れる。

心理学用語に、パーソナルスペース、という言葉がある。これは端的に言うならば”他人に近づかれると不快に感じる空間”のことで、一般に親密な相手ほど狭く、敵視している相手ほど広い。そして、こいつのそれは恐らく、”万人に対して””際限なく”広いのだと思う。

低く重い唸り声、鼻が曲がる様な異臭、鋭く逆立てた鱗や針、単純に巨大な肉体など、生物が自身を脅かす”敵”に対する示威行為は数多く存在する。それこそ、種族の数に等しいと言って差し支えないほどに。それだけ”無防備な生物”というものは元来有り得ないし、そもそもからして生物というものは基本、排他的である。体内に黴菌が入れば吐き出したり殺そうとする自浄作用が働くし、それ以上の侵入を許さないように傷口は自動的に閉じようともする。

話を戻そう。それだけ生物は”異なる存在”を嫌うものであり、それは人間にしても顕著に確認出来ることである。強力なコミュニティは調和を最優先し、より多くの賛同を求め、少数派を切り捨て、自分の安寧を図ろうとする。そして、それは時に何よりも冷酷で、残忍な行為をも許容させる。

 

(実験の被害者であり、唯一の生存者、ね)

 

『―――俺を”こう”したのが、そのギルドだからさ』

あの言葉がどうにも気にかかったのが、こいつを調べた最たる理由だった。そして、その想像以上の壮絶さに胸糞悪くなって、吐き気を催した。

約15年前、王立魔術研究所(ロイヤル・アカデミア)所属の”赤”の魔術師”魂喰い(ソウルイーター)”を中心とした大規模な人体実験があったという。隠されているというより、明らかな抹消の形跡が確認されたため全容を掴むことは出来なかったが、被害者の総数は優に3桁以上に昇り、中には被召喚者も多数含まれていた可能性が高い。そして、例外なく死亡したはずの被検体(モルモット)の唯一の生き残りにして”正体不明の身(ジョン=ドゥ)”の少年は事件を解決した”赤”の一人に保護されたという。

 

(まず間違いなく、こいつだよな……)

 

噂程度の信憑性しかないが、”魂喰い”の得意とする魔術は文字通り”魂”を喰らい我がものにする、という情報がある。そして、彼の研究施設には幾度となく召喚が行われた形跡もあるらしく、となればまず間違いなく”爵位持ち”の関与が疑われる。つまり、これは国家規模で行われた実験である可能性が高く、彼はその生き証人ということになる。

『―――自分を弄繰り回した挙句、こんな身体に作り変えた相手を、どうして信用出来る?』

 

「…………」

 

背もたれに深く体重を預け、読書へと意識を戻す。

常日頃より降りかかる不運を嘆くことが多いが、こいつよりはマシなのかもしれないと、少なからずそう思う。非人道的な人体実験の被害者である齢10にも満たない少年。人間不信に陥るな、という方がまず不可能だろう。

そんな身空でありながら、この男はあの時、自分に向かってこう言ったのだ。

『俺一人が恥をかくだけでいいなら、幾らでも頭を下げるし、何なら”実験台”にだってなってやるさ』

 

「くははっ」

「……?」

 

長々と語ったが、要するに俺はこの野郎が気になり始めているのだ。

おいそれと他人を信じず、受け入れないくせして、困った奴を見過ごせない。それはこいつの性根が、年端も行かないガキのように真っ直ぐであることの何よりの証明だろう。世の中の常識、理屈、そんなものなどお構いなしに、自分が正しいと信じる選択肢を迷いなく選ぶ、その気質。その為ならば”赤”だろうが、ギルドだろうが、国家だろうか、敵対することを躊躇わない、その度胸。本当に、ただただガキがそのままデカくなっただけの馬鹿野郎。

突然笑い声を漏らした自分が気がかりなのだろう、フライパンを揺する手を止めないまま、再び微かにこちらを振り返るジム。自惚れた事を言うのなら、この野郎もまた、俺に興味を持ち始めているはずだ。でなければ、プレミアチケットの威力を鑑みたとしても、初対面にも等しい俺をこうして自宅(テリトリー)に入れるなんて真似はしないはずだろうから。

 

(まぁ、突っ突きたい”矛盾点”は多々あるがね……―――お)

 

そんな事を考えていると、台所より空腹を促進させる甘酸っぱい香りがゆっくりと漂ってきた。プライパンは野菜を炒めていた油の弾ける音から随分と水分を帯び、何かが煮込まれているような音へと変化している。こっそりと本越しに盗み見ると、ジムの傍らに置かれたガラス瓶の中に、何やらドロリとした赤い液体が見えた。その右隣、いつの間にやらリサが沸き立った鍋の中身を時折かき混ぜながら何かの茹で加減を確認しているし、アルは人数分の食器の用意に勤しんでいた(というか、人数分あることに少し驚いた)。

 

(こりゃあトマトのケチャップか? で、炒めた野菜に絡ませて、横でゆでてるのは多分、麺類……はっはぁ、読めた)

 

この香りとあの調理法なら、献立は間違いなく”アレ”だ。無作法と解っていながら、たっぷりの粉チーズをぶちまけて思いっきり頬張りたくなる”アレ”だ。

”銀の月”クラスの料理、と冗談半分で言ったが、アルとリサ曰く”兄ちゃんの料理が自分たちにとって何よりのご馳走”なのだとか。身内贔屓もあるのだろうが、そうまで言われてしまっては俄然、期待してしまうし、そもそもからしてこの香りで不味いとは到底思えない。

 

(……割と勢いで一週間とか言っちまったけど、太っちまったりしねぇよな?)

 

そんな下らない心配をしている間に、予想通りの料理を乗せた大皿を手にしたジムがやって来たので、相伴に預かるべく本を閉じ、随分と居座り続けていた安楽椅子から腰を持ち上げつつ、厄介になる間は自主トレの量を気持ち増やしておこうと心中で誓うのだった。

 

 

 

後書きです、ハイ。

 

何ゆえに年末までこんな多忙に見舞われなければならぬのか。今週末までは実験に勤しまねばなりませぬ。就活もいよいよ始まりまして、んっとに日々の潤いが欲しい。あぁ、ピザやチキンが食いたいが無駄遣い出来ないし、この辺は旨いラーメン屋とかもないし、新規開拓しようにも探す時間取れないし……うむ、今日も空いた時間はココドラの厳選だな。”ゆうかん”HABV、S逆Vの最高の個体を手に入れたときは喜びの余り思わずベッドの上でフライングボディプレスした瞬間にベッドのバネが弱冠嫌な音を(ry

 

 

本年度中に更新は恐らくきついかと思われますので、今年の更新は恐らくこれが最後と思われます。多足の草鞋にして遅筆の私の更新を未だに心待ちにして下さっている方々が何人もいらっしゃるようで……ほんに有難いこってす。なまら嬉しい。まぁ、一応残り約1週間の間に書けるだけ書いてみますけどね、盲目。

随分短かったですが、今回はこの辺で。

皆様、よいお年を。

でわでわノシ

 

 

 

 

 

………………さて、ポケムーバーが解禁されたら鋼岩地の砂嵐パーティ再降臨だな(キリッ


 
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