リオンSide
「……ルイズ、昼間からフラフラとして煩わしいぞ。少しは落ち着いていられないのか」
僕は読んでいる本を閉じてルイズに声をかける。が、当のルイズには声が届いておらずベットに座ってボーっとしては立ち上がり部屋を歩き回ったと思えばまたベットへの繰り返しである。はぁ、まったく意味が分らん。
「おい、ルイズ。落ち着けと言っているんだ」
僕は先ほどよりも少し大きな声を出して注意をするがやはりルイズの耳には届かない。流石に鬱陶しくなってきたので僕は椅子から立ち上がりルイズをたしなめようとした時、部屋のドアがノックされた。ただしそれは普通のノックではなく何かの合図のように長めに2回、その後に短く3回というものだった。
「…ッ!」
するとそのノックを聞いたルイズは先ほどまでの夢遊病者のようなフラフラしていた意識を戻し、急いでドアへ近づきドアを開いた。そこに立っていたのは真っ黒な頭巾を被った娘だった。娘は辺りをうかがいながら部屋へと入ってきた。
始めは賊とも思ったが娘の動きはどう考えても一般人の物であったためとりあえずは様子を見ておくことにする。
「……あなたは?」
ルイズが頭巾の娘に驚くが、娘は口元に指を立てて静かにと言うジェスチャーをし、懐から杖を取り出し呪文を唱えようとしたので
「そこまでだ」
「…ッ!」
喉元に剣を立てて詠唱を止めた。いくら賊では無いとしても魔法までは使わせる気は無い。娘はビクリと一瞬体を震わせ硬直した、と同時に娘の頭巾が外れる。すると
「なっ!?」
ルイズが娘の顔を見て驚く。その娘は昼間、学院にやってきた王女であった。
「………」
「ひ、姫殿下!? あッ! リオン何やってるのよ! 早く剣をどけなさい!」
僕は剣を王女の喉元から剣をひき仕舞う。
「も、申しわけありません姫殿下! このバカ使い魔がご無礼を、この罪は「いいのですよ」ですが!」
「私は大丈夫です。ですが、まず先に行なっておいてしまいたいことがあるので」
ルイズのまくし立てに王女は再度杖を上げて呪文を唱えた。
「
「どこに耳が、目が光ってるかわかりませんからね。…これで大丈夫。お久しぶりね、ルイズ・フランソワーズ」
王女が魔法を使い終わったのか、ルイズに向き直り笑顔で言った。交友があるのか? まあ公爵家の人間なのだからあっても不思議でもないか。しかし、なぜ王女が護衛も付けずに一人でこんな所に? 僕が考えている間にルイズと王女は互いに抱き合いながら懐かしあったり、昔の思い出を語らったりと積もる話をしている。ハッキリ言って姦しいことこの上ない。女共はどうしてこうも無駄話が好きなんだ?
「あら? そういえばこの殿方は? あ、もしかして! あらあらわたくしったらお邪魔だったかしら」
王女が僕の事をルイズに訊ねるが一人で勝手に盛り上がり始める。はぁ、まったく。
「な、ちちち違います姫さま! 彼はただの使い魔です! 決してそういう関係では!!」
王女の言葉にルイズは顔を真っ赤にしてブンブンと首を振り必死に否定をする。
「使い魔? 人にしか見えませんが……」
「人です。姫さま」
「……そうよね。はぁ、ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」
「そ、そんなことは……その……」
ルイズの奴は王女の言葉に気まずそうに顔をそらしながら言い返そうとしたが言葉が出ないようだった。王女はそんなルイズの様子を見て微笑んだ後、タメ息をついた。
「姫さま、どうなさったんですか? 先ほどからタメ息ばかり何度も…」
「いえ、なんでもないわ。ごめんなさいね……、いやだわ、自分が恥ずかしいわ。あなたに話せるようなことじゃないのに……、わたくしってば……」
「おっしゃってください。あんなに明るかった姫さまが、そんな風にタメ息をつくってことは、なにかとんでもないお悩みがおありなのでしょう?」
「いえ、話せません。悩みがあると言ったことは忘れてちょうだい。ルイズ」
ルイズと王女のやり取りに僕は静かにタメ息をついた。話しの内容に頭が痛くなったからだ。ルイズもルイズだが、この王女も相当なものだ。よくこれで政務が勤まるものだな。
その後の展開も酷いものだった。この王女、国の機密だろう話をただ友人だという理由だけでルイズに話し始めたのだった。やれ、ゲルマニア皇帝と政略結婚をするだの、自国の政治情勢が危ないだの、あまつさえ、
「もしかして、姫さまの婚姻をさまたげるような材料が?」
「おお、始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお救いください……」
「言って! 姫さま! いったい、姫さまのご婚姻をさまたげる材料ってなんなのですか?」
「……わたくしが以前にしたためた一通の手紙なのです」
と、こんな何も盗聴の対策もしていない部屋で、それこそ一国の未来を左右するようなことを平然と喋りだす始末。考えられん。
内容は簡潔にいえば、幼い頃にアルビオンの王子に宛てた恋文があり、それが反乱軍に見つかり公表されると婚姻が破綻する、と言う事らしい。ハッキリ言えばそんなもの捏造と言い張れば何とでもなるし、政略結婚である以上、互いの気持ちなど関係ないのだが。
二人の様子を見る限り理解していないことが分る。そして、
「では、姫さま、わたしに頼みたいことというのは……」
「無理よ! 無理よルイズ! わたくしったら、なんてことでしょう! 混乱しているんだわ! 考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと頼めるはずがありませんわ!」
「何をおっしゃいます! たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、何処なりとも向かいますわ! 姫さまとトリステインの聞きを、このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけには「おい。バカなことを言ってるんじゃない!」…ッ、いきなり何よ」
流石にルイズと王女の言動を傍観する訳にはいかなくなり、僕は口を挟んだ。
「お前はバカか。戦場での知識も経験もない、ましてや軍兵としての訓練もしていないお前が行ったところでその手紙の回収などできるはずないだろ」
「なっ! バカにしなで! わたしは由緒あるヴァリエール家の…」
「だから何だ? 戦場で名を出せば相手が
「……ッ」
僕が戦争で起こりうることを簡単に説明してやるとルイズは表情を固くする。
「キサマもそうだ。一国の王女とあろうものがこんな所でペラペラと国家機密であろうことを喋るなど、何を考えている。大体、ルイズのことを友人と言いながら、その友人を死と隣り合わせの戦場へと向かわせようなどと。いくら公爵家だからと一学生程度がそんな所に向かえばどうなるかぐらい分るだろう?」
王女は僕の言葉に対しグッと口をつぐんで俯いてしまう。僕はタメ息をつき、そんな王女に呆れていると
「リオン! 姫さまに失礼じゃない! 姫さまはこの国のことを思い、こうやってわたしの所まで相談に来たんじゃない! それに姫さまは部屋に来てから話す前に
「ほう、そうか。ならこれはどう弁明するんだ」
そう言って僕は扉へ足音を立てずに近づき、一気に開け放つ。すると、
「のわっ!」
「おおっと!」
と二人の男、ギーシュとジンがそこには居た。
ルイズSide
リオンの冷たい視線が私と姫さまに向く。確かに
「あ、あんた達! 立ち聞きしてたの? 今の話を!」
わたしはリオンの冷たい視線をうけながらも、とりあえず扉に耳をつけている姿勢のギーシュと突っ立て居るジンに怒鳴りつけた。しかしギーシュはわたしの言葉など聞いていないのか姫さまのそばへと素早く移動し、頭を下げる。
「姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」
「ちょっと、ギーシュ!」
ギーシュの行動に驚き、わたしは動揺した。リオンもギーシュの言動に頭を押さえてタメ息をついている。
「グラモン? あのグラモン元帥の?」
「息子でございます。姫殿下」
姫さまの言葉にギーシュは顔を上げすぐさま返答をする。わたしの話を聞かないギーシュにどうしようかと思っていると、ジンがわたしの肩を叩いた。そうだ、ジンなら……。
「姫殿下。お久しぶりでございます。ジン・アルベルトです」
「………………え、ええ。 ジン・アルベルト、お久しぶりです」
姫さまがジンを見て呆然とした後、直ぐに我に返り言葉を返す。まあ当たり前だと思う。だって
「ジン。えっと……その……何故そんなにボロボロな姿なのですか?」
「すみません。自分の少々使い魔の教育をしておりまして。気にしないでください」
ジンの姿はまさにボロ雑巾の如くだった。服はあちこち破れ焦げ目もあり、素肌のところは切り傷火傷に打撲痕。最後に頭部から出血していたのか血を拭いた後があった。本当に何があったの?
「それより姫さま。その任務、俺も仰せつかいたいのです」
「え!」
「まあ! 本当ですか」
とわたしは驚き、逆に姫さまは表情を明るくした。
「ちょっと! 何を言ってるのよ! この任務はわたしが頼まれたのよ!」
「おい!」
リオンが叫ぶがそんなのは無視する。
「しかし、これはとても危険な任務。その、学生であるあなた達に任せてしまうのはその……」
姫さまはチラリとリオンを見て顔を伏せる。わたしもリオンを見ると彼はこちらを呆れ混じりの目で睨んできていた。そ、そんな怖い顔しなくてもいいじゃないのよ。しかし、ギーシュとジンは気づいてないのか、二人とも姫さまの為なら危険な任務ぐらいなんでもないと、声高々にアピールしはじめたのだった。
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アルビオン編その2
最後の方がいつも雑になるwww