No.642673

Need For Speed TOHO Most Wanted 第四話 絶望

レミ「咲夜、このクルマ直しておきなさい」

咲「申し訳ありませんお嬢様・・・。2話のバトルで手持ちが・・・」

レミ「何か言ったかしら?」

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2013-12-04 21:08:34 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:637   閲覧ユーザー数:637

 ―現在。ブラックリストランカーとの戦い。

 

 スタート地点に待つフォードGT。私はその隣に自分のM3を並べる。

「調子はどうかしら?」

 あのスープラの女が窓から顔を乗り出す。別に私はそいつの相手をするわけもなく、目を合わせない。

 二台の間にアリスが割って入る。ミスの手から一枚の紙を受け取り、私の方へやってくる。

「あなたも渡して」

 アリスに言われるがまま、私はクルマのピンクスリップ(車検証)を彼女に渡す。そして、私は対戦相手を見る。

「・・・あのクルマ、かなりのパワーがあるわね」

 フォードGT。かつてのアメリカの名車「フォードGT40」を現代に復刻させたものだ。イートン製スーパーチャージャーで550馬力。あのクルマはそれに更なるカスタムを施してあるだろう。

「私と勝負したことを後悔させてあげるわ!覚悟しなさい!」

 ミスが窓から顔を出して私に叫ぶ。

 彼女のフォードGTは見るからにして迫力がある。まるでパイプフレームのGTマシンのようなワイドボディ、室内に張り巡らされたロールケージ。クルマの戦闘力だけでも、かなりの物だろう。

 それにミスは仮にもロックポートの一派閥の長だ。私自身も腕には自信があるとはいえ、こいつと走るには少し早過ぎたのでないかと、少し自信に影が差す。

「ちょっと、集中して!あなたなら勝てるわ、でも油断は禁物よ。頑張ってね」

 弱気になってたことがバレたのか、アリスに一喝されてしまった。そうだ、ここで何弱気になっているんだ私は。相手が誰だろうと関係ない。私は全力で相手するだけだ。

 私と相手は真ん中に立つスターターを見つめ、意識を集中させる。スターターの腕が空高く上がり、数秒の間の後、勢いよく下げられる。

 同時にフォードGTとM3は急加速。タイヤ痕を残して走る。

(速いな・・・!)

 パワーはこちらが負けている。シルエットフォーミュラもびっくりなワイドボディが飲み込む極太タイヤのトラクションと相まって、私のM3を圧倒する加速を発揮する。

 スタジアムの正面入り口から飛び出し、都心部へ向かう。交通量の多い市街地を縫うように走る二台。ボディサイズの大きいフォードGTが一般車の処理に手間取り、若干遅れをとる。私はスタートの遅れを取り戻し、M3をフォードGTの横に並べる。

 そこへ、

「!」

 突然三台のパトカーが目の前に飛び込んできた。私達を見つける前にすでに回転灯が点灯し、うるさくサイレンを鳴らしている。

『スピード違反者を追跡している!現在通報のあった車両か確認している。・・・10-4!10-4!間違いない、ヤツらだ!コード3で追跡を開始する!』

 どうやら私たちのことは事前にバレていたらしい。となると向こうの連中の誰かがサクヤの時のように警察にチクッたのだろう。余計なことを・・・。

『全車に告ぐ、現在複数の車両を追跡中です。重要任務に就いていないものは、直ちに現場へ急行願います』

『司令部!数が足りない、もっと応援を頼む!!』

 二台の間に割り込んだ一台のパトカーがミスのフォードGTのリアフェンダーにぶつける。バランスを崩しとっ散らかるフォードGTだが、直ぐに体勢を立て直し復帰する。あれだけ大パワーでガタイのでかいクルマを抑え込むあたり、ブラックリストランカーの称号は伊達ではないらしい。

 ハイウェイ料金所手前の交差点。私達は信号を無視して突っ込む。偶然通りかかった一般車が私たちを避けようと急ハンドルを取り、後方を走っていたパトカーと衝突。信号で止まっていた別の一般車を巻き込んで大事故を起こす。

 料金所のバーを破壊して私たちはハイウェイへ向かう。左車線を逆走し、正面を向く一般車を縫うようにすり抜ける。広い路肩の一車線で、私とフォードGTは向かってきた一般車を両脇からやり過ごす。驚いた一般車はバランスを崩しスピン。再びパトカー数台が巻き込まれ、追跡していたパトカーが全滅。

『全車に告ぐ、被疑者を見失いました』

 M3に載せてあった警察無線の声を聞き、邪魔者がいなくなったことを確認する。これでバトルの集中できる。

 ハイウェイを突っ走り、港へ向かう。降り口を過ぎたあたりでハンズフリーに着信が入った。アリスだ。

『あなたのクルマ、なんか変よ・・・?スタート地点にオイル漏れの跡があった。早く決着つけないとダメよ』

 通信はこれだけだった。いやな予感を胸に抱えながら、私のM3とミスのフォードGTは料金所跡の踏切を超える。

 踏切を超えればゴールは近い。後方に張り付くフォードGTを引き離そうとアクセルを踏み込んだ瞬間―!

 グッシャア!ガラガラ、グキャア!!

「っ!?」

 突然M3を衝撃が襲った。サイドを引いているわけでもないのにリアタイヤがロックし、M3は真後ろを向く。

「なんだ!?」

 それがM3のエンジンブローであることに気付いたのには、かなり時間を要した。私の真横をフォードGTがすり抜け、勝ち誇った笑みを浮かべたミスと一瞬目が合う。

 数百メートルの距離を滑走した後、M3は完全に息の根を止めた。

「くそっ!!」

 私は思わずM3のハンドルを殴った。ここに来てエンジントラブルだと・・・!?こんなタイミングで・・・!

 ミスかその仲間か、誰かが呼んだレッカー車が来たのは、それから数分後のことだった。

 レッカーで運ばれるM3。私は歯ぎしりしながらM3のキーをミスに投げる。

「クルマは頂いていくわね。私のためにどうも有り難う」

「く・・・!」

 勝ち誇ったようなミスの態度が癪に障る。だがどうあろうと私は敗者。私に反論の余地はない。

 そこへアリスが慌てて私のもとへ駆け寄ってきた。

「なに!?何があったの!?」

 アリスも動揺している様子だった。私は悔しさと虚しさのあまり、声が出せなかった。

「この女、ミスに負けたのよ。ざまぁみなさい!」

 げらげらと下衆な笑い声が響き渡る港。

「あなたが負けるなんて・・・!いったいどうしたのよ?」

「・・・・・っ」

「アリス、そんな奴放っておきなさい。貴女の情報収集能力は私達にも有益なの。そんな奴のために使いなんて宝の持ち腐れよ。だから・・・」

「警察だー!!」

 ミスの言葉を遮る叫び声。周りのレーサーは私を嘲笑うのをやめ、すぐさまクルマへ逃げ出す。

「貴女もさっさとこっちへ来なさい!」

 ミスは無理やりアリスを引っ張り、自分のフォードGTへ押し込む。

「バス停はあっちよ」

 最後まで皮肉を言い残し、フォードGTは逃げていく。

 残された私を警察が囲む。

「あんたには忠告したはずだけどね。なんて馬鹿なやつなのかしら」

 警官を引きつれて現れたレイム。あの助手席の包帯女を促すと、私のもとへ歩み寄り、強引に私を引き倒す。

「がっ・・・!」

「お嬢さん、クルマはどこへやったのかしら?」

「そんなこと関係ないわ。後でたっぷり可愛がってあげないとね」

 無抵抗のまま私はパトカーに押し込まれ、警察署へと連れていかれた。

 

 私のレース人生は、こんな最悪の形で終わってしまった。


 
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