No.639726

島津一刀と猫耳軍師 二週目 第10話

黒天さん

少し予定が変わって今回で話しが動きます。

2013-11-25 00:51:19 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:8541   閲覧ユーザー数:6234

今日は休日。

 

……いや、俺は休みいらないっていったんだよ?

 

仕事してるほうが気が楽だから。

 

今朝になって、とうとう華琳に休めと命令されてしまったのだ。

 

急に時間ができると持て余してしまう。

 

「暇だなぁ……」

 

結局街に出るでもなく、庭で座ってのんびりと空を見上げて時間を無駄に潰している。

 

寝るのはもったいない気がしたしなぁ。

 

「一刀様?」

 

声のしたほうを向けばそこにいたのは紫青だった。

 

「ん、あれ? 今日は紫青も休みだっけ?」

 

休憩にしては中途半端な時間だし。

 

「そうです、退屈そうですね」

 

「急に時間があくとなんか持て余しちゃってさ。どうしたもんかと考えてたんだ」

 

「紫青でよければ話し相手になりますよ?」

 

「ん、じゃあお願いしようかな? といっても最近仕事仕事の毎日だから話題もないんだよなぁ」

 

一つため息をつくと紫青がくすくすと笑う。

 

「紫青の部屋に来ませんか? お茶でも入れますよ」

 

紫青の提案に乗り、紫青の部屋へと向かう。

そういえば、紫青の部屋ってはいったこと無かったような……。

 

どんな部屋なんだろうかと、歩きながら想像してみたが、はいってみるといたって普通の部屋。

 

特に可愛い人形がおいてあったりとかするわけでもなく、わりと殺風景な部屋だった。

 

花瓶に花がいけてあるぐらいか。

 

部屋を眺めている間に紫青がお茶を持ってきて入れてくれる。

 

前と変わらない様子でお茶を入れてくれるのに安心する。

 

「なんかこうしてると懐かしいなぁ……」

 

「紫青がお茶を入れてる事がですか?」

 

「そうそう、よくこうやってお茶入れてもらったなぁって。覚えてる?」

 

「ええ、覚えてますよ」

 

「桂花が仕事でなければ呼んでくるんだけどなぁ」

 

「華琳さんに怒られてしまいますよ。……といっても、普段あれだけ頑張ってるのですから、

 

それぐらいのわがままは許してもらえるかもしれませんけど」

 

「そうだといいんだけどね、そのうち聞いてみるかな」

 

お茶をすすりつつ、一つため息。

 

「それにしても、命令されるまで休まないなんて、華琳さんが随分気に入ってるんですね」

 

「んー、俺が仕事をするのは俺のためだよ。余計な事考えないためにさ」

 

「また、振り出しに戻ってしまうと?」

 

「ん、そんなとこだよ。まぁ、今の目下の悩みは詠や月の事なんだけどさ」

 

「あの2人のことですか。紫青が一刀様の所に行った時点であの2人は居ましたから紫青には当時のことはわかりませんけど……」

 

「2人をどう助けるかだなぁ……」

 

大きくため息。紫青も首を傾げて考えている様子。

 

何かいい案でも出てくるかとしばらく口を挟まずに待ってみるも何もでてこないらしい。

 

「……」

違和感。気づかなければよかったと心底思う。

 

覚えてるなら知らないわけないじゃないか。反董卓連合をきっかけにうちの軍にはいったんだから。

 

それに月が董卓だって紫青はしってたはずだし。ということは多分、皆と同じで紫青も知ってるのは夢レベルなんだろう。

 

多分、何も思いつかないのは、月が董卓だと知らない、または反董卓連合自体知らないからなんじゃないだろうか

 

「んー、紫青でも思いつかないかぁ……」

 

「すいません、力になれなくて」

 

「ありがとう」

 

紫青の頭に手を乗せて軽く撫でる。

 

……紫青の嘘は気づかなかった事にした。

 

どうして嘘をついたか俺には分からない、俺を気遣ってくれたのか、俺の気を引きたかったのか……。

 

どっちでもいい、気づいたことを言っても、誰も得をしないから。

 

傍に居たいといってくれて、俺の傍で以前と同じように笑ってくれる。それで十分。

 

「一刀様?」

 

「ん、なんでもない」

 

紫青の頭から手を離して、小さく笑って見せる。多分普通に笑えてると思う。

 

「紫青は午後からも時間あいてる?」

 

「はい、特にこれといって予定はないですけど」

 

「なら街にでも一緒にいかない?」

 

「はい!」

 

嬉しそうに笑う紫青につられるように、俺も笑顔を浮かべるのだった。

───────────────────────

 

「紫青、居るかしら? あら、あなただったのね、一刀。こんな所にくるのはあの子ぐらいのものだとおもってたけど」

 

「華琳か。紫青なら、アレじゃないか?」

 

現在俺が居るのは屋根の上、今日も休日に指定されたのでこんな所で時間を潰している。

 

どうやらハシゴがかかってたから紫青がいる物とおもったらしい。

 

俺が指差す先は街、警邏の兵に混じって紫青らしき人影が見える。

 

「そういえば外回りの仕事があるとかいってたわね」

 

「用事なら俺から伝えとこうか?」

 

「急ぎの用でもないし、帰ってくるのを待つからいいわよ。

 

それにあなたは働き過ぎなのよ。呼び出しとかなら兵をつかえば事足りるわ。

 

仕事をしてくれるのは嬉しいけれど、それで体を壊されたりしたら元も子もないのよ?」

 

「そうならないように気をつける」

 

苦笑しながら街へと視線を戻す。俺の仕事がいくらか効果が出ているんだろうか、街には活気があるように見える。

 

「そういえば、何で俺が欲しいなんて言ったんだ?」

 

「優秀な将を欲するのは当然でしょう? 一刀の名はこちらまで届いていたわ。

 

武に優れ、政に長け、軍師としての目も持っていると」

 

「そんな大したもんじゃないと思うけど」

「そうね、実際に見た感じでは、器用貧乏といった所かしら?

 

武は季衣といい勝負、軍師としては紫青や桂花がはるか上。

 

ただ、政に関してはあなたは相当に優秀だとおもってるわ。それと、あなたの持っている間諜の隊もね。

 

あなた自身が鍛えた隊だと聞いてるわ。

 

それに、尖ってこそ居ないけれど、何でも出来るというのは大きな強みだと思うわよ」

 

華琳も屋根の上に上がってきて俺の隣に座り、街を見下ろすように視線を向ける。

 

「器用貧乏か。俺らしいな」

 

華琳の評価に小さく笑い、天を仰ぐ。

 

「そういえば、華琳は俺のことを覚えてるのか?」

 

「さぁ、どうかしら?」

 

と、そっけなくはいうものの、多分いくらか覚えてるだろうってことは分かる。

 

初めて会った時に俺の名を呼んだし、それに、街に俺が作ったのとそっくりそのまま同じデザインのお墓があったし。

 

「それで一喜一憂するのもあなたらしいけど、大事なのはこれまでよりもこれからじゃないかしらね?

 

ありきたりな言葉ではあるけど、一理あると思わないかしら?

 

だから私は夢の中の男とあなたを比べたりはしない」

 

確かにその通りではある。前の世界のことをいくら想った所であちらにはもうもどれないだろうから。

 

「ありがとう、少し気が楽になった」

 

「他にも悩みがあるように見えるけど、あまり1人で抱え込むものじゃないわよ、煮詰まったら相談するのね」

 

華琳らしくない物言いな気がする。俺が将だからなのだろうか? 考える内に華琳は屋根から降りて行ってしまう。

 

「……、相談しろ、か」

 

でも相談して聞いてくれるだろうか、董卓を生かして欲しいなんて……。

 

一人に戻ったことだし、街のほうへと視線を戻しこの先どうするかと物思いにふけることにした。

───────────────────────

 

今日は警邏の当番日なので街を巡回していると、遠くに見えるのは星と冬華と……麗ちゃん?

 

「よ、珍しい組み合わせだなぁ。というか、麗ちゃん出歩けるぐらい元気になったんだ?」

 

適切な治療を受ければやっぱり良くなるんだなぁ……。こんなに早く効果があるとは

 

「ただし、外出は温かいうちの2刻だけで、絶対に走ったりさせない、食事も油物はダメ、

 

少しでも変調があったら直ちに戻る、という厳しい制限つきよ」

 

「何、私は買い物にいくのに護衛を頼まれただけです」

 

なるほど、治安が良くなったからっていっても、冬華は文官だし、万一があったら麗ちゃんが大変なことになりかねないしな。

 

「護衛って麗ちゃんの?」

 

「そういうことよ、一刀殿は警邏かしら?」

 

「そんなとこだよ、っていってもぶらぶらしてるだけみたいなもんだけど」

 

「相変わらずねぇ、そういうところは」

 

冬華の所にいる時もある意味警邏が休暇みたいなもんだったし。

 

ぶらぶらしてるのを冬華に目撃されたこともあるし……。

 

「んー、素人目にも大分顔色とかよくなったように見えるな」

 

それに、病人服みたいなのじゃなくて、ちゃんとした服着てればかなり可愛いじゃないかこの子。

 

「一刀殿、いくらなんでも麗殿にそういう目を向けるのは如何かと……」

 

「なんでそうなるんだよ!?」

 

「あら、私は一刀殿の嫁にならあげてもいいと思ってるわよ?」

 

「冬華まで何をっ!?」

 

「私も、一刀様の所になら、行ってもいいです……」

 

「麗ちゃんまで!?」

 

みんなで寄ってたかってからかってもう……。

 

とはいっても10歳ちょっとには見えるから、昔基準なら十分アリなのかね?

「麗がここまで元気になれたのは一刀殿のおかげだもの。割りと本気よ?」

 

「ま、これぐらいの年で少し離れた者との婚姻というのも無くはないですからな」

 

「確かにそうだけど、うーん……」

 

「それに、お母さんの次に私の事を心配してくれていたのは一刀様ですから」

 

まっすぐこっちをみてそう言われると何だか気恥ずかしい。

 

「それより、買い物はもう終わったの?」

 

「ええ、昼食を取って帰ろうかといったところよ。一刀殿も一緒にどうかしら?」

 

「ん、ならご一緒させてもらおうかな」

 

警邏っていっても昼休憩はあるし。一緒に休憩するのも悪くない。

 

そんなわけで手近な店に入って。っていっても油物がダメだから結構入れる店が限られたり。

 

食欲もあるようで麗ちゃんは結構食べたように思える。よく食べられるってことはいいことだ。

 

久しぶりに外出して疲れたのか、食べるだけ食べて少し星と冬華と話してる間に寝ちゃったんだけど。

 

で、俺が麗ちゃんを背負って帰る事に。

 

「でもいいのかしら? 警邏の途中なのに」

 

「城まで戻ったら仕事に戻るし、少々さぼったところでお釣りが来るぐらい仕事してるんだから、

 

これぐらいじゃ目くじら立てないと思うよ」

 

「そう、それです。どうも一刀殿は悩みがあると仕事に逃げるきらいがあるように見える。また何かお悩みか?」

 

「確かに、そういうふうに見えるわねぇ……」

 

「まぁ悩みはあるけど、んー、実は助けたい子がいるんだよ」

「ふむ、また一刀殿らしい悩みですな。しかし一刀殿の事だ、腹の中でやりたいことは決まっている。違いますか?」

 

確かにそうだ、月と詠の所にいって、まずは話しをしてみたいと思ってる。

 

「実行するのに何か障害があるか、もしくは立場上そうできないか、といったところかしら?」

 

「大体合ってる」

 

洛陽まで行ってきたいなんていっても現状じゃ通らないだろうしなぁ……。

 

勝手にいって、麗ちゃんの治療を打ち切られでもしたら事だし。

 

せめて董卓についての噂が流れ始めてからでないと身動きが取れない。

 

「足かせはおそらく、麗の事かしらね。もし一刀殿がその子を助けるためにここを離れれば

 

治療を打ち切られてしまうかもしれない、と言うところかしら?」

 

「もしその御仁を助けにいくとして、一刀殿はここに戻ってこられるか?」

 

「それはそのつもりだけど」

 

「なら、さっさといけばよろしい」

 

「そうね、一刀殿の味方には名軍師が2人もいる。しばらく居ないぐらいなら、いくらでもごまかして持たせてくれると思うわよ?

 

それに、麗も一刀殿の足かせになんてなりたくないと思うわ」

 

「そうかな?」

 

「そうですとも、だから思うようにすればよろしい。それが私と冬華殿からの助言です」

 

「ん、ありがと。その時はよろしく」

 

───────────────────────

冬華と星の話しで覚悟はできたが、やはり筋は通しておきたかった。

 

結局悩んでいた期間が長すぎたのか董卓の噂が聞こえ始めてきたため、タイミング的にはよかったのだろうか。

 

華琳にしばらく留守にしたいと申し出ると。

 

「董卓のことを調べにいくつもりね」

 

と、アッサリ看破され、言い出したら聞かないのだから好きにすればいい、

 

ただし絶対に帰ってくるようにと言われ、華琳から調査を命じられた。

 

「帰ってくるよ、桂花や紫青、それに麗ちゃんを置いて帰ってこないわけないじゃないか」

 

そう言って俺は陳留を後にして洛陽に向かった。

 

洛陽までは難なく入り込む事ができた。街の様子を探る事しばらく、

 

街は特に寂れているという風はなく、前に来た時よりもずいぶんマシな印象。

 

「ちょっと! 何よアンタ達! 月に寄るんじゃないわよ!」

 

そんな声が路地裏から聞こえてくる。

 

聞き間違えるハズもない。詠の声だ。路地に駆け込めば、どっかで見たような三人組に絡まれて、壁に追い詰められている2人。

 

月をかばいながら男3人に立ちはだかる詠の姿があった。

 

その男達の死角から足音を殺して一気に駆けより、鉄扇を振るい、2人の頭を左右の鉄扇で殴りつけ、ついで最後の一人を蹴り飛ばし、昏倒させる。

 

突然の乱入者に呆然とする2人。

 

「大丈夫? 2人とも」

 

「え、ええ。助かったわ」

 

「ありがとうございます」

 

ぺこりと、頭を下げる月。以前と変わらない様子に一安心したのもつかの間、俺は次の言葉に打ちのめされる事になる。

 

「助けて頂いてありがとうございます……。私は董卓といいます、お名前を伺ってもいいですか……?」

 

その目と態度は、本当に初対面だと語っているように思えた。

 

あとがき

 

どうも黒天です。

 

取り敢えず慣れてくるまでは一週間に一更新を目標にやっていきたいと思ってます。

 

今回はちょっと駆け足で各人との話しを書きまして、漸く月達と再開しました。

 

ネタバレになるので月達に事についてはまた次回のあとがきで、という感じにしたいと思います。

 

さて、今回も最後まで読んでいただいてありがとうございました。

 

また次回にお会いしましょう。

 

追記:

 

修正し忘れがあったので修正を入れました。

 

天泣と共に洛陽へ⇒一人で洛陽へ


 
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