No.639219

双子物語-51話-

初音軍さん

雪乃編 先輩の卒業式話。 今まで強い感情を抱けなかった雪乃に感動というのを教えてくれた先輩がいなくなる寂しさ。そんな表現ができていたらいいなって思います。

2013-11-23 15:31:12 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:331   閲覧ユーザー数:330

双子物語51話

 

 前に先輩とお出かけしたのがまともに一緒にいられたのは最後になっていた。

引継ぎや巡回とやり方についてを記憶し、叶ちゃんや友人との時間。そして勉強。

 

 やるべきことをしている間に刻々と先輩との別れの日が近づいていく。

そのことに気づくと頭の中がスッキリしなくて勉強も仕事も捗らなくなる。

 

 そんな時、いつも隣には叶ちゃんが私の心を力強く支えてくれるように

あちこちに連れていってくれた。学園の敷地やあまり遠くない箇所を回って、

その中に私が教えた場所も入っていた。

 

「ありがとう、叶ちゃん」

 

 私が微笑むと必ず貴女は嬉しそうに返してくれた。

改めて彼女の存在の大きさを知らされる。

先輩が前に言っていたことが、今の私の身に沁みていく。

 

『雪乃ちゃん、好きな子ができたらいいわよ。がんばれるし折れそうな時は支えてくれる。

今はわからないかもしれないけれど、いつかわかる日がくるはずだから』

 

 別に恋人だけではない、親友でも何でもよかったのかもしれない。

心の底から委ねられる人ができることを先輩は望んでいたのだろう。

優しい人だから…。いつだって周りの人のことを…。

 

「先輩、私はいつだって先輩の傍から離れませんから」

 

 人懐っこい顔をして見上げてくる犬のような表情に心が和む。

手を握って一緒に歩いて行動する。今の私にとって大切で愛しい存在だった。

 

 実感すればするほど。先輩へ向けての創作活動を進めたかった。

普段通りだったらいつでも進めることはできた。だけど今はあちらこちらで

忙しくて、無理をしないと他に手を回せない状況だ。

 

 こういう時、自らの体力のなさにうんざりしてくる。

並の人の無茶をするとすぐに熱を出してしまう。

 

 だけど、今の機会を逃すと…先輩に渡したいものが渡せなくなってしまう…。

 

【叶】

 

「先輩はどうでしょうか?」

 

 ここのとこ連日部室に篭りっきりの先輩の表情が真剣すぎて怖くて話しかけ辛い。

そんな状況が続いて、親友である瀬南先輩に様子を伺ってもらったが部室から出てきて

首を横に振る。

 

 他の部員、生徒会の先輩も忙しいから活動する部室にいるのは今のところ私と

雪乃先輩の二人きりだった。二人きり…すごく嬉しいはずなのに近寄りがたいという

矛盾が私の胸の中にもやもやを作り出していた。

 

 本当はいつでも傍にいて支えてあげたいのに、してあげられないもどかしさに

私は焼かれるような気持ちでいた。でも目の前にいた瀬南先輩はカラッとした

笑顔を浮かべて。

 

「心配せんでええって。そうや、叶ちゃん。たまには私にも付き合ってよ」

「は、はぁ…」

 

 しっくりこないけれど返事をすると半ば無理に手を掴んで引っ張って私を連れ出して

いった。私の気持ちとは裏腹に本日の天気は憎たらしいほどの晴天である。

そんな中歩いていて学園内の正門側にある噴水の近くにあるベンチに腰を下ろす。

ここはいつ来ても綺麗に整備されているみたいだ。

 

「最近、先輩が無理してそうで心配で…」

「気持ちはわかるけど。ゆきのんも自分の管理くらいできるやろ…」

 

「ほんとですか?」

「本当…とは言いたいとこだけど無理するとこに思いあたりがあってなぁ」

 

「やっぱり!今から休ませます!」

「ちょい、まちぃよ」

 

 ベンチから立ち上がって走りだそうとした私の腕を掴んで止める瀬南先輩。

軽い表情や口調と違って力は痛くなるくらい強く握られていた。すごく必死に感じた。

 

「そんなことしてゆきのん喜ぶと思う?」

「…」

 

 少し間が空く。その間にも私は頭の中で今までの先輩と付き合ってきたイメージから

しても、もう答えは出ていた。

 

「いいえ…」

「せやろ。あの子はやりたいことがあったらやらせた方がええねん。

うーん、でも手伝うならいいんじゃないかな」

 

「手伝う?」

「そそ、ちょっとしたことでも積み重ねて大きく貢献できると思うよ」

 

「それはいいですね・・・」

 

 先輩に気をつかわせないで負担も軽減できるのならと、私はその提案に乗った。

話に集中していて気づかなかったけれど、話が終わった後は部活の生徒たちが

賑やかに話をしながら帰っていくのを見た。

 

「さっ、私たちも帰ろうか」

「はい…」

 

 揃って帰宅していった生徒たちが目の前からいなくなった後に

私たちも寮に向かって歩き出した。

 

 道中、空の色は赤く染まっていてとても綺麗だった。

 

 

【雪乃】

 

「なぁ、ゆきのん」

「どうしたの?」

 

 部活に打ち込んだ後、部屋に戻ると私は同室の瀬南に肩を揉んでもらってコリを

ほぐしてもらっている。そんな中で改めたように話をかけてきた。

 

 痛気持ちいいからついため息交じりの漏れるような声を出してしまい、最初の頃は

瀬南に「誘ってるつもりか」と言われてしまったが慣れてしまえば平気なようで。

今回はそっち方面の話ではなかった。

 

「叶ちゃん心配しとったよ」

「あ・・・」

 

「一つのことに夢中になるのもいいけど、誰かに頼るのも大切じゃないかね」

「うん…」

 

 私は今まで一人でやってきたことが多いから誰かに頼るとかそういうのは考え自体

あまり浮かばなかった。

 嫌というわけではなく、本当にその選択肢が見えていないということ。

言われれば「あー、その手が」っていう気持ちになった。

 

「多分美沙先輩のことなんだろうけど、うちらも世話になっとるけ

手伝わせてな」

「うん、わかった。これから何か必要があったら手伝ってもらうね」

 

「うん」

 

 私は背を向けてるから実際には相手の表情は見えていないのだがどことなく

瀬南は満足気に私の肩を再度揉み始めた。

 そうか、叶ちゃんはもしかしたら心配していたのかもしれない。

これからは彼女たち周りの人にも手伝ってもらおう。私は再びそのことを

考えて強く心に刻み込んだ。

 

 人は一人では生きてはいけない。

 

 そう誰かに教わっていたことを思い出した。あれは一体誰だったろうか…。

うろ覚えだから深く記憶を追わないで今はこの安らぎの時を満喫することにした。

「あっ、そこイイ」

「ゆきのんはエロいなぁ」

 

「そんな、一体どうしろと」

 

 そんな馬鹿なやりとりをして二人笑っていた。

 

 

「叶ちゃん」

「先輩、あの…」

 

「叶ちゃんには色々一緒に考えてもらっていたけど、もう一つ頼んでいいかしら?」

「はい!何でも仰ってください!」

 

 次の日の勉強、仕事を済ませた私は部室内で奥にある椅子に座る私の正面に

叶ちゃんが静かに立っていた。多分ずっとこの状況があったのだろう。

すまない気持ちもあるが、彼女にもやってほしいことを昨日寝る前に考えていた。

 

 創作慣れていない叶ちゃんには厳しいかもしれないけれど。

これも経験だ。下手でもいい、心さえ篭っていれば相手に通じるはずだから。

 

 私の問いかけに彼女の方も何か言いたげにしていたが私はそのまま彼女に伝えてみる。

すると叶ちゃんの瞳に輝きが宿って生き生きとして私に返事をしてくれた。

 

 多分お互い思っていたことは同じようであった。

 

「もうすぐ先輩の卒業式。叶ちゃんには思い出が少ないかもしれないけれど

先輩のために私たちの思い出に関わる一つのお話を書いてくれないかしら?」

「お話・・・?」

 

「えぇ」

「でも私は小説なんて書けませんよ」

 

「別に文字じゃなくてもいいの。とにかくここは創作部。テーマに沿っていれば

どんなモノでもかまわないわ」

「・・・雪乃先輩は小説ですよね」

「えぇ…そうなるわね」

 

 そう返すと叶ちゃんは何かを閃いたように手をポンッと叩いた。

 

「では私は絵本にします!」

 

 私は彼女の言葉を聞いてなるほどって思えた。近からず遠からずで絵本なら

どんな絵柄でも合いそうだから叶ちゃんにはいい題材かもしれない。

 

「じゃあ、無理しない程度にがんばってね。私もがんばるから」

「はい!それと他のことも手伝わせてください」

 

「大変じゃない? 柔道部の後だというのに」

「私は平気ですから!」

 

「そう、じゃあ頼りにしてるわね」

 

 彼女のやる気を見て私は嬉しそうに微笑むと少しそわそわしたような仕草を

していて可愛い。私も自分に対して少し見直す必要がありそうだ。

頼りになる子がいるのだから、できる限り手伝ってもらおう。

 

 そうすれば効率もよくなるし相手との距離も縮められるだろうし。

これは全員に当てはまることではない。信頼できる友や恋人がいなければ

できない話である。

 

 いつしか私には必要な人たちが集まってきていた。

集めてくれた先輩のためにも何かしてあげたい。それは私に限ったことではない。

 

 この創作部に入った子たちはみんな誰かのために何かを残したいという気持ちで

入部してもらっている。・・・今はかなりの少人数だけど来年は少し増えたらいいなって

思っていた。

 

 

 みんなで…特に叶ちゃんと二人でがんばって卒業式間近になってようやく完成した。

先輩へ渡す最後のプレゼントになるかもしれないものだ。

 

 卒業式当日。

 

 式が始まる前に私は生徒会室でみんなが来るのを待っていた。

 

「もうすぐ終わりかぁ…」

 

 呟くと胸が塞がれるように苦しく感じる。別に死んだとかどうこういう話ではないけど

近くにいる場所から遠くに行ってしまうだけでこんなに心細くなるなんて思わなかった。

少なくともこれまでの経験にはなかったから。

 

「先輩…泣いているんですか?」

「え…ううん。ごめんね、こんな顔先輩には見せられないわ」

 

「仕方ないですよ、ずっと近くにいた人なんですから」

 

 そう言って叶ちゃんは不意打ちも同然に私の流れそうになる涙を舌で掬うように

舐め取った。

 

「!?」

「先輩の涙おいしいです」

 

「もう、ばか…!」

 

 叶ちゃんの無邪気に笑うのを見て私の心は溺れずに済みそうだった。

そんな少しずつ気持ち穏やかになっていきそうな時にガラッという大きな音を立てて

ドアが開いたのでびっくりして振り向くと美沙先輩がニヤけながらはいってきた。

 

「もう…生徒の模範になる神聖な場所でイチャイチャしおってー。うらやましいぞお!」

「あ、済みません」

 

「ふふっ、冗談だってば。叶ちゃんも色々してくれたみたいで。ありがとね」

「い・・・いえ・・・」

 

 美沙先輩の後ろには楓と裏胡の姿もあった。二人とも笑顔ではいたが目が

赤くなっていてさっきまで私と同じ状況だったんだろうなってすぐ感じ取れる。

 

 私よりも美沙先輩と長い時間過ごしてきたのだから当然といえば当然か。

みんなから期待され信頼されてるから、この日に同じような気持ちになる後輩は

多くても不思議ではない。

 

「では、行こうか」

 

 美沙先輩の言葉と同時に校内放送が流れる。もうすぐ卒業式が始まる。

 

 他の学校と同じように粛々と事は進められ、何事もなく式は終わりを迎える。

それぞれの先輩方は後輩に惜しまれつつこの場所を去っていく。

 

 胸元には花の形をしたブローチをつけて、後輩たちから花束をもらい。

中には告白をしている子もいたりして大いに盛り上がっていた。

 

 そんな中で私たちは生徒会室にもう一度集まり、静かな中で思い出を語りながら

それぞれ用意していたものを渡す。楓は手編みのマフラー。

裏胡は気合の入った応援の言葉。そして私たちは…。

 

「へぇ、本当に創作らしい創作をしていたんだね。これだけのものを作るには

時間が必要だったろうに」

「がんばりました…」

 

 私と叶ちゃんは揃って手作り感ある二つの冊子を先輩の座っている場所のテーブルに

置いた。嬉しそうにほころばせる先輩に読んでもいい?と聞かれたが私は…。

 

「あ、後でお願いします…。何か恥ずかしいので」

「了解」

 

 ちょっと残念そうに笑いながら鞄の中にもらったものをしまい込み先輩は立ち上がった。

 

「さて、名残惜しいけれど。そろそろ私は行くよ」

「先輩・・・色々ありがとうございました」

 

 最後にもう一度私たちは先輩に感謝の気持ちを伝えた。先輩は私たちの頭を一通り

撫でてから部屋を後にし、私たちも正門まで見送りにいった。

惜しいと言いつつも正門前で私たちの顔を見て満足そうに微笑んだ後に

あっさりと私たちの前から去っていった。

 

『じゃあね。みんな、また会おうね』

 

 去り際に言った言葉が胸に染み渡る。

 

 我慢して止めていた涙が急に溢れて止まらなくなってしまった。

小さい時から泣くことがなかった分、一気に押し寄せるようだった。

 

 そしてこの感情を与えてくれた先輩に私は心の底から感謝していた。

これからは私がしっかりしないといけないんだ、という気持ちも前よりも少し

強くなった気がした。

 

 

 それから数時間経って、生徒たちはやることがなくなるとそれぞれの行動に

移していく。私は疲れが溜まってたのが一気にきたのか部屋のベッドで横になっていた。

そんな時、携帯の振動音が聞こえてきて私は携帯が置いてある場所に手を伸ばして

確認をすると。

 

「先輩…」

 

 先輩の言葉らしい、簡単だけど心に来る「感想」が書かれていた。

私たちよりも心細いであろう先輩の本音がその中に入っていた。

そうだ、先輩はこれから知らない世界でまた一から自分の世界を作っていかねばならない。

 

 そういう寂しい気持ちの際に私たちの贈り物が心の栄養になってくれたようでよかった。

泣きはらし、目元がひりひりして痛いけれど。この言葉で私がこれまでやってきたことが

報われたようでとても嬉しい気持ちになった。

 

 この一通のメールはずっととっておくことに決めた。

いつか…また先輩に会えるその日まで…。

 

 私は少しだけ胸のもやもやが晴れて携帯をテーブルに置いてあまり時を経たずに

再び眠りに就いた。何の夢を見たかはまったく覚えていないだろうけど、後に

親友から今まで見たこと無いくらい幸せな顔をしていたと言われたのだった。

 

続く


 
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