昔々、あるところでは疫病が流行っていたのか多くの人が死んでいました
そこに一人のお坊さんがやってきました
病気や飢えで死んでしまった人を見るや、その場で手を合わせて供養をしました
そうして歩き回っている内に一人の男を見つけました
その男は倒れてはいるものの息をしっかりしており空腹さえ満たせばまた動けるくらい状態がよいものでした
この場所では多くの人は救える状態ではなかったのでお坊さんは一人でも助けようと思いその男を介抱してやりました
その男を疫病の届かない場所まで運び、包みにあったまんじゅうを一つ食わせてやりました
男は少し意識を取り戻すやお坊さんに感謝をしました
「お坊さんよ、ありがてぇや。おらにまんじゅうをあげるなんて。自分が食べたかったやつじゃねぇのか?」
「確かにこのまんじゅうは私のものでしたがあの村ではおそらくあなたしか生きていないので尊い命の為にあなたに授けたのです」
「お坊さんや、ありがてぇ。こんな惨めなおらの為に食べたかったまんじゅうを差し出すなんて・・・」
「これも善行の一つです。それにこのまんじゅうには昔から言い伝えがあります」
「言い伝え?」
お坊さんのくれたまんじゅうに男は視線を向けました
「・・・むかしむかし、このまんじゅう、草津まんじゅうには死や災いを知らせそれを持つものに何かの試練を与えるというそうな」
「この・・・草津まんじゅうに死や災い、試練?」
「そうですとも、このかくいう私もかつて盗みを働き、その時草津まんじゅうを食べ罰を受けました」
「えっ、お、お坊さんもですか?」
「そのあと、神様の巡りあわせかもう一度草津まんじゅうを食べこの道に立っているというわけです」
「つまり・・・おらがこうやってお坊さんに草津まんじゅうを食べているのは何かの試練ということでしょうか?」
男は未だに自分の命をつなげたまんじゅうの事が信じられなかった
そんな言い伝えのまんじゅうに恐ろしささえも出てきません
「まあ、信じるか信じないかはあなた次第ですよ」
お坊さんはもう大丈夫だと思い立ち去ろうとしました
しかし、男がそれを阻止しました
疫病やらで村がダメになっている今、男には行く場所も帰る場所もありません
「おらもお坊さんと一緒についていきたい。そこで修行をしたい」
「しかし、あなたには畑や田んぼがあるではありませんか」
しかし、疫病で畑や田んぼがやられていることは男の明日がないのと同じことです。
それなら、お坊さんと一緒に修行し善行に励んだ方がいいのではと考えていました
「おらにはもう何もないんだ・・・だから修行をしておらと同じような目にあった人を救いたい」
これにはお坊さんも困りました
寺に申すこともありましたがそれ以上に自分と同じ境遇の人に頼まれるのはこれほど拒み難いことだと思いませんでした
お坊さんはこれ以上言うのはあきらめ男を寺へ入れさせました
寺に入った男はその後一生懸命修行をし、世間から評価されるようになってきました
ある日、寺のお偉いさんが男を呼びつけました
「おまえはこの寺に入ってから一生懸命修行をしみんなが評価するほどのよい僧を成長した。ほれ、なんだ都へ行って修行してみんか?あそこはよい僧がいて勉強になる」
都はこの辺り、いや僧やお坊さんなら誰しもが憧れる場所でした
よい僧が集まるだけでなくよいお経や本がいっぱいあり修行もよいものばかりだといううわさは男の耳にも届いていました
「よりよい修行をすれば、救える人が増えるかもしれない。よし、師匠私は都に行ってまいります」
「そうか、お前ならきっと成せるであろう」
そう言うとお偉いさんは棚からお金を男に渡しました
男は手に渡されたお金を強く握り都へ行く決心をしました
長い旅の末、男は都へつくとその様子にたいそう驚きました
かつて男が住んでいた村とは比較にならないほど人が行き交いをし賑わっていました
「やはり、都というだけあって人は賑わうな。しかしこれも修行するにはよい一貫であろう」
男は早速都のお寺を探すことにしました
都を歩くと見たこともないものがたくさんありました
男にはどれも新鮮で欲しいものばかりでしたが寺へ向かうことが先なので左右を見ながら歩いていきました
男が歩く内に腹がすいたのでさすがに食べるものだけはとっておいてよいだろうと思い近くにあった出店へ向かいました
その店に行くとなにやら見覚えのあるまんじゅうがありました
それは草津まんじゅうでした
男はこれも何かの縁だと思い一つ買って腹を満たし、それから寺へつきました
寺へお願いするとそこへ立っていた僧が男をみるなりびっくりし始めました
「おお、あなたはこの辺でもうわさになっていました。よい僧だとお聞きしております。あなたであれば入ることもよい僧になることもできましょう」
そういって見張りの僧は入れさせてくれました
見張りの僧が言った通り男は都の寺でもどんどん磨き都の中でも上の僧へたっていました
都でも外れの方には貧しい人達がいたので僧は直接貧しい人達に会い善行を尽くしていました
そうして、男はよい僧と評判になりました・・・
みなが宝物を男に譲り渡してくるようになるまでは・・・
男はもちろん最初は断っており、それでも受け取って欲しいと願ってくるものなので仕方なく受け取りお金に変えて貧しい人達のために使っていました
しかし、そのうちにお金や都のものの欲しさに負けていくようになりました
欲しいものは毎日お金で買い、お金は宝物で手に入れていきました
しかし、みなは男をよい僧だと言って来ます
男は最初こそは善行に励んでいましたがそのうちしなくなってきました
それでも、人は男をよい僧だと言いました
男には騙して悪いという気持ちもなくなっていました
それからというもののなにやら世間では疫病がまた流行りだしていました
それは都まで来ているらしく寺の僧はあたふたし始めましたが男は何も思わずただただ毎日を過ごしていました
そうして都まで疫病がくると当然、人が飢え死んでいきました
寺にも疫病がやってきて僧達がどんどん亡くなってしまいました
しまいには男しか寺に残っていません
男はやっと今自分の置かれている状況に気づくと死を覚悟し都をふらりふらりとさまよいました
周りには飢えで倒れている人がいる
しかも都の中でも中心すなわち栄えている場所である
貧しい人達のところへ行けばもっと人が倒れていると男はそう考えていました
しかし、貧しい人は誰も死んではいませんでした
男は大いに驚き一人に聞いてみると
「ほら、あなた様が草津まんじゅうの話をしたではありませんか。ある時ここの一人が思い切って草津まんじゅうを食べたわけです。すると本当に災いがくるもんだから近くの寺に頼んで厄を避けてくださいました」
「私がか・・・」
男は都で善行していくいうちにどこか自分にタカをくくっていたことに気づいていました
そんな自分の言葉を信じてくれた人達になんと申し訳ない気持ちになったことか
「いやあ、都で売られている草津まんじゅうにそんなことがあるなんて知る余地もなかったので助かりました」
「みんな生きてよかった。私にあった人が生きていてよかった。ここの人達が生きてよかった」
男はむしろ感謝したくなりました
かつて自分を救ってくれたお坊さんに草津まんじゅうに
「しかしこれからどうしますか。都が疫病でダメにましてここにもいるわけにはいかないでしょう」
「なら渡り歩き善行をするだけじゃ」
男は自信もって答えました
今度は欲に負けぬように己をもっと磨く必要とも考えていました
そのためには世をもっと知る
それが今の男に必要な事だと考えました
そうして男は世を渡り歩く旅へ行きましたとさ
おしまい
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すいません、3ヶ月前にトゥギャにあげたものです