最近、こいしが楽しそうである。そう思っていた、姉の古明地さとりは不満であった。
なぜ?
それは自分のおかげで嬉しそうにはなっていないことは分かっていたからであった。
しかし、妹の笑顔を見るのは至福だったのでとりあえずはよしとしたさとりはこいしの部屋へ入った。
愛している妹の部屋に入るものじゃないが、いつもいないことの方が多いので勝手に入っては下着を拝借して感傷に浸る。
それがさとりの趣向である
部屋を開けて珍しくこいしがいたので余計満足である。
・・・
とここまではよかった。こいしが手にしているものを見るまでは・・・
「あら、こいしに何見てるのかしら」
さとりが不思議そうにこいしの持っているものを見てみると
「!?」
こいしはさとりに呼ばれてなぜかびっくりしていた。
「これは写真?それもあの吸血鬼の妹と・・・。!?こいしと仲良く写っている?」
こいしの驚く理由がわかった
(こいしがあの忌々しい吸血鬼の妹と・・・!!!)
さとりにとって吸血鬼の妹、フランドール・スカーレットがこいしと仲良くすること自体腹ただしいことである。
それなのに仲良く写真なんか撮っていることはもっと腹ただしい。
さとりは言い切れない怒りで奥歯を噛み締め表情を歪めて始めた。
「お、お姉ちゃん・・」
こいしが恐る恐る姉の様子を伺うと
「これはどういう事こいし?」
さとりの顔が一変して疑いの表情になった
「そ、それは」
「お姉ちゃん以外の人と仲良くしちゃダメよって言ったじゃない。どうしてそれが守れないの?お姉ちゃんね・・・悲しいの」
「お、お姉ちゃん?」
こいしはさとりの言っていることが理解できなかった。怒りから一転して悲しみを出してるからである。
「なんでこいしはそうやってお姉ちゃんを悲しませるの?ねえ?ねえ!?」
「ご、ごめんなさいお姉ちゃん・・・」
今度は急に迫られてしまいこいしは流れで謝ってしまう
「ごめんなさい?ならまずはその写真を破りなさい」
「えっ?」
謝る前に写真を捨てろと訴えてくるさとりにこいしはきょとんとしてしまう。
「ほらできないの?やっぱりあの子が恋しんだ?どうせ無意識で忘れ去られるのに」
さすがに馬鹿にされて続けてこいしも我慢が限界であった。
「ひどい・・・い、今のは許せないよ!私が無意識だからってそういうこと言っていいわけじゃないよ!!お姉ちゃんひどい!」
「お姉ちゃんが悪いのかしら?なら・・・こんな妹はいらないわ。いや、あの子を殺せばいいんだわ。そうに決まっている。うふふふ」
今の不敵な笑いをとるさとりに恐怖したこいしは怯えてしまった。体をガタガタ震わせさとりの袖を掴み
「や、やめてフランちゃんを殺すのだけはやめて!お願いだから何もしないで!」
しかし、こいしが必死に懇願したのをいいことにさとりはどんどん責め始める
「忘れられるのは怖いよねー。でも、好きな子を殺されるのはもっと嫌よね。そう言えば、あの子気が触れているじゃない?時々暴れまわるのでしょ。それでもこいしは好きなの?私は好きにはなれないなー」
さとりの非情な発言に屈しそうになりながらもこいしは抵抗をやめなかった。
「ふ、フランちゃんはそんな子じゃない。お、お姉ちゃんが思っているような変な子なんかじゃない!」
いくら揺さぶっても崩れないこいし。それだけフランのことを大事に思う気持ちがさとりには嫌というほど伝わってしまう。
それが悔しい、悔しかった。
そしてなによりその悔しさがこいしを独り占めしたいという感情をより強く突き動かす。
「・・・お姉ちゃんね、ずっとこいしが羨ましかったのよ」
さとりの口からこいしが羨ましいという言葉がでてきた。それはなによりもこいしに対する様々な好意が混ざり合った結果の一つと言える。
「こいしは第3の目が閉じてしまった後、無意識で行動しているけど他の人と同じ立場に立つ事ができる。それがお姉ちゃんはとっても羨ましいのよ!ああ!心が読むことも読まれることも気にしないで接することができる、そんなありふれたことがお姉ちゃんにはできないのよ!!でもね、そんな私にもこいしとなら話は別。こいしには心が読めない!つまりそれはみんなと同じ所に立てれるのよ。そんなこと嬉しいじゃない。だけど、そんな私の嬉しさを邪魔する泥棒吸血鬼はいらないわ」
「だからってお姉ちゃんが言ってる事は正しいの?」
「ええ、正しいわ。あの子は存在を破壊してこいしは存在を記録されない。あの子が果たしてこいしのことを覚えているのかしら?」
「でもフランちゃんは私の事を覚えてくれたよ。お姉ちゃんみたいに自分勝手じゃないし私を壊したりなんかしない」
折れるどころか信じあう事実ばかり出てきてさらに否定までされてしまう。
さとりも苛立ちが隠せなくなってきた。
「ちっ。ああ!こいしも頭がどうかしたんですね。全く苛立ちます」
「お姉ちゃんの言ってることがよくわからないよ。なんで私とフランちゃんを別れさせたいの?」
「なんで?それは私がこいしと結ばれたいからよ?簡単な事じゃない」
「やっぱり・・・自分勝手だよお姉ちゃんは。そんなお姉ちゃんなんか大嫌い!」
「大嫌い?私のことが?」
「そうだよ」
もはや、何かを通り越して吹っ切れてしまった。
―そう、どんな手段を使ってでもこいしを手に入れたい
それを人は歪んだ感情と呼ぶだろう。
今のさとりにはもう歪みきった愛情しか残っていない。
こいしさえ
妹さえ
自分のものになれば―
「あらそう、いいわ。代わりにこいしはお姉ちゃんの妹をやめさせてもらうわ」
「え?な、何を・・・!??」
それは狂気だった
そう、こいしには姉の目から狂気しか感じられなくなった。
「今からこいしの使えないもの(第3の目)を潰すわ」
「いや、いや!」
今度こそこいしは本当にさとりに屈してしまった。
それでもさとりからはやめる気配など微塵もない。
「なんで?別にあの子と別れろなんて言わないから代わりに第3の目を潰すだけじゃない」
「お姉ちゃんそれだけはやめて・・・」
「嫌」
短くて冷たい返事だけが返される。
やがてさとりの両手がこいしの閉じている第3の目を掴むと
「や、やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!」
こいしは大声をあげるもののさとりの両手を払おうとするだけの気力などなかった。
「愛してるわ、こいし」
「・・・いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
さとりの告白と同時にこいしの第3の目がトマトが潰れたような音とともに大量の血を吐き出した。
「ああ、あああ・・・」
こいしはボロボロに打ち砕かれて泣き崩れて目の焦点が合わず、さとりはそんなこいしを気もせず飛び散ってついた血を堪能していた。
「ああこの血の味は紛れもなくこいしのものだわ。第3の目なんかなくてもこいしはやっぱりかわいいわ。でもあの子の所に行かれても困るから今日から監禁します。・・・でも狂乱したこいしもきっとかわいいに決まっているわ。閉じ込められて感情が抑えきれなくて私を陵辱、・・・なんてことを考えるだけでゾクゾクするわ・・・」
こいしが完全に自分のものになりご満悦になったさとりは恍惚の表情で震え上がっていた。
一方のこいしはもう姉の手からは逃れられないことを知ると仲良しのフランに申し訳なかった。
「・・・フランちゃんごめんね。会いに行けなくなっちゃったよ・・・」
未だにフランの心配をするこいしにさとりはとどめを刺す。
「もう忘れなさい。時間が経てばみんな忘れてしまう。それが自然の摂理よ。あはははははははは!!」
こいしは生きる希望を全て略奪され死の望みだけが全てとなった。
「もう死にたい、死にたいよ。殺して、殺してよ・・・ねえ、いいでしょ!!?!??」
「ダメよだってこいしはかわいいもの。それに私の愛する妹を殺すなんて趣味はないわよ。大丈夫、こいしの面倒は見続けるし無意識も関係ないからお姉ちゃんはずっと幸せだわ。ふふふ、それじゃあ扉を閉めるわ」
さとりはこいしの懇願をあっさり拒否して扉を閉めた。
すぐに扉越しに姉の狂気しか感じられない高笑いが聞こえてきた。
それさえ止むとそこはなにもない空虚な世界があった。
それだけでもこいしの心を蝕むには十分であった。
「・・・私もお姉ちゃんが言ってたみたいにフランちゃんと同じようにおかしくなるのかな・・・。なんだがもう明日がなくなったみたい。なんで私が生きているのか分からない。誰か教えてよ。ねえ教えてよ!!ねえ・・・。誰か助けて。本当に私第3の目だけじゃなくて心そのものが壊れちゃうよ・・・」
もうその扉はさとり以外が開くことはしないだろう。
こいしは孤独と姉の蹂躙に苛まれることになってしまった―
完
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どういうわけかさとりさんにデレを見出した。
病んでるの方のデレだけど