凪と零は瞬天翔でイルマが待ち構える場所から少し離れた所に着地した。それ以上は凪の持つ法力では進めないのだ。一旦立ち止まると、凪は赤い液体が入った瓶を開き、中身を口に流し込んだ。投げ捨てると、何度か頭を振って雑念を振り払う。
「凪よ、気配を感じるぞ。ホラーだ。」
「ここに来てホラーか・・・・」
二人は魔戒剣を引き抜いて互いに背を向け、構えを取る。気配を探ると、二人は左右から飛んで来た土気色の輪を投げつけた破邪の剣で弾き飛ばした。
「あの輪っか・・・・ゼロ、気を付けて!このホラー、かなり強い!!」
「カリングラだな。人間の所有欲に反応して首輪や枷、『拘束』を目的とする物をゲートとして出現する。一時は大国の王妃に憑依して侵略の限りを尽くした事もあったホラーだ。気を付けろ。」
「やれやれ、ここまで辿り着いてしまったのね。私のコレクションにしていた物を随分と葬ってくれたみたいだけど、それもここまでよ。お前達を新たにコレクションに加える。異論は、認めない!!!」
扇情的で肌を多く露出させたドレスを身に付けた妙齢の女性が妖艶な笑みを浮かべ、両手から先程の輪を射出した。だが、今度は大小様々な大きさである事に加え、その数は恐らく百を超えている。
「零、下がれ。」
凪は魔戒剣の刃を交差させて二人の周りに六角錐型の雷神壁を作り出し、飛んで来る輪は当たった側から弾け飛び、灰も残さず燃え散った。
「無駄だ。お前の能力は大体察しがつく。支配欲に反応して現れたホラーと言う事は、お前はその輪で縛り付けた物を意のままに操る事が出来る。有機物であろうと無機物であろうとな。だが、それは輪が触れればの話だ。触れさえしなければ、どうと言う事は無い。」
「あら。このコが相手でも同じ台詞を吐けるのかしら?」
カリングラは指を鳴らした。森の中から一人の人間が現れた。魔法衣に金髪碧眼。その人物を見て凪は目を見開いた。
「ララ・・・・!!」
「さあ、行きなさい。人形さん♪」
虚ろな瞳をカリングラに向けて頷くと、左手に魔戒銃、右手に魔導筆を持って二人に飛びかかって来た。雷神壁に触れては彼女が傷ついてしまう。凪は即座にそれを解いた。だが当然彼女を傷つける事も出来ない上、仲間であった者が立ちはだかると言う状況も相俟って先程まで優勢だった二人は瞬く間に防戦一方となってしまう。
「このコは私が支配している。首に輪をかければ支配は全身に及ぶの。」
「兄さん、ララちゃんを!俺はあいつを倒す。」
「だ・か・ら、こんな事も出来るのよ?」
ララは魔戒銃の銃口をこめかみに当てて、引き金に指を掛けた。
「さあ、剣を捨てて頂戴、魔戒騎士。貴方の負け。もう何をしても無駄。貴方達は所詮人間だから、大した事は出来ない。さあ、観念して私の物になりなさい。永遠に、ね・・・・」
後三歩で剣の間合いに入るカリングラは余裕たっぷりでそう要求した。歯を食い縛って悔しそうにカリングラを睨みながら、零は剣を捨てた。凪もカリングラとララを交互に見つめながらゆっくりと剣を地面に置く。
「支配か。そんな物は俺の前では何の意味も成さない。」
だが、次の瞬間、凪は下ろした両手の指をパチンと鳴らした。途端に一陣の風がララを通り過ぎた。首輪はパキンと音を立てて割れ、崩れ落ちた。
「何っ!?」
「詰めが甘かったな。 『闘破風刃・天獄』。」
先程のそよ風とは比べ物に鳴らない程の強大な風が吹き荒び、雲を巻き込みながらカリングラを中心に巨大な渦となった。それは森の木々の梢を苦も無く超える程の物だ。
「凄い・・・・これが、自然界を操る闘破の術・・・」
「くぅっ!!こんな物!!!この風も、私が全部支配してやるわ!!!」
憑依した女の姿をかなぐり捨て、鉄輪を体中に巻き付けた不気味な案山子の様な姿に戻って必死に抵抗した。だが、いくら輪を繰り出しても全ては塵となって消えて行く。
「やめておけ。お前は幾らでもその輪を生み出す事が出来るのだろう。だが、天地を巡る幾万幾億の風と雲の一体どれを支配するつもりだ?風と雲は何物にも縛られず、何物にも捉われず、地上の全てを見渡す物。お前如きの矮小な能力で捉えられる物ではない。お前は言ったな。何をしても無駄だと。人間は所詮何も出来ないと。だが、これは魔戒騎士である人間の所行だ。今のお前が置かれている様な状況を真に『無駄』と言うのだ。」
ぞっとする程底冷えする声が下した死刑の宣告に、カリングラは戦慄し、恐怖を感じた。
「冥土の土産に覚えておけ。お前の死はお前の驕りが生み出した必然だと言う事をな。」
凪は口を噤み、指先をゆっくり握り込んで平手を拳にして行く。
「 闘破風刃・天嵐。風の刃に、飲まれて消えろ。」
それに連動して竜巻も細長くなって行き、カリングラの悲鳴が聞こえた。しばらくしてからようやく治まり、カリングラは 満身創痍ではあったが、奇跡的に五体満足のまま存命していた。
「どうやら完全には殺し切れなかった様だな。威力の調整はやはり難しい。父さんの様には行かないな。」
「兄さん、行くよ!!」
「ああ。」
二人の魔戒騎士は駆け出した。進行方向に円を描き、鎧を召喚すると、互いの剣を打ち鳴らした 二人の体はフッと一瞬だけ水色の光を発し、二人の姿がもう一つ現れた。空気中の水分に己の姿を映し出す幻術、闘破水厳である。カリングラが放つ輪は悉く幻を貫いて行く。
「零、烈火炎装だ。」
刃を擦り合わせると、青い炎が銀牙騎士絶狼の銀狼剣を伝って体全体に行き渡った。波怒も同じ様に青紫の炎を全身に纏った。二人は剣を交差させて天に掲げると、炎と共に雷も二人を覆った。
「「烈火剛雷・銀天斬」」
絶狼は二本の銀狼剣を連結させてそれをブーメランの様に投げつけ、波怒も同じ様に風雲剣を投擲した。カリングラの両手両足を炎と刃が焼き切って行く。そして止めとばかりに兄弟弟子の二人は駆け出し、渾身の力を籠めてホラー・カリングラの顔面に右拳の正拳突きを叩き込んだ。当たると同時に殴られた箇所が爆発及び通電し、焦げた肉片の塊となってバラバラに吹き飛ばされた。
「所詮はホラーか。俺の誇りに刃を向けた意味の重さも知らずに。」
零は倒れたララを抱き起こして呼び掛け始めた。
「やはりあの程度のホラーじゃお前は倒せない様だな。まあ、あの程度で死なれては興ざめだが。」
白髪の頭、白衣、そして口元を覆うマスク。黒月イルマだ。両手には二つに分解した銀色の魔戒杖を携えている。
「イルマ・・・・!」
「待ちくたびれたぞ。風雲騎士波怒、雲平凪。お前は俺の手で殺す。一族の、敵!!」
イルマは両腰に固定されたホルスターの中から自作の魔戒銃を二丁引き抜き、凪に照準を定めた。だが、凪は飛んで来る銃弾を全て風の様に淀み無く、素早い太刀筋でソウルメタルの弾丸を空中で切り落とし、弾いた。
「零、ララを連れてここから離れろ!」
次の瞬間、凪は銃を捨てたイルマの魔戒杖による重い一撃を受け止めていた。一瞬足が地面に何寸か減り込んだのではないかと錯覚してしまう程の膂力に凪は冷や汗をかいた。まともに受け止め続ければ、下手をすると腕ごと持って行かれるかもしれないとすら思う程に。
「凪よ、気をつけろ。あまり此奴の攻撃を受け止めては腕が使い物にならなくなるやも知れん。ブルトスレイヴを作った男の一族だ、どんな策を仕込んでいるか分からんぞ。」
ゲルバの言葉を聞いた凪は戦法を変え始めた。振るわれる魔戒杖の間合いから少し離れた僅か半歩の距離を保って先端が体を掠るか掠らないかの距離で回避を続ける。
「何故だ!?我々は只ホラーを狩る効率を上げる為にアレを作った!ホラーさえ斬り続ける事が出来れば、法師であっても騎士と同じ力を発揮する事が出来る!なのに・・・・・何故一族を皆殺しにする必要があった?!」
「分からないか?確かにお前の言う通り、あれはホラーを狩る効率を上げるだろう。が、お前は考えなかったのか、もしこれが悪用されればどうなるか?現にお前の一族は遥か昔にその過ちを一度犯し、お前もまた同じ過ちを繰り返している。嘗てお前と同じ様に、人間を燃料としてホラーとゲートを破壊する号竜『イデア』を発動しようとした男がいた。今のお前はその男と同類、否それ以下だ。」
「言わせておけば・・・・・!!」
イルマは分割した魔戒杖を連結し、頭上と左右に合計三つの円を描いた。イルマの体に黒い鎧が定着して行く。凪が召喚する波怒の鎧よりもラインは細く、忍者を彷彿させる。額には金色の角が一本、天に向かって真っ直ぐ伸びていた。杖も月影棍に姿を変える。
「月影騎士幻無。俺は貴様を、殺す!!」
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タイトル通り、イルマとの戦いは次回から始まります。今回はBleachのウェコムンド編の白哉vsゾマリをフィーチャーしております。術は登場した物も加えオリジナルの術もオンパレードでジャンジャン出しました。ではどうぞ。