「さてと、まずはブルトスレイヴの始末だな。魔戒騎士じゃない限り使用者はは恐らく雑魚だ。刃が持ち主に向いてホラーになってしまったら話は別だけど。」
「ブルトスレイヴか・・・・また厄介な物を。私達も助っ人を連れて来たのよ。そろそろ来る頃だと思うけど。」
暗くなり始めている空を見上げると、魔導列車が丁度真上を通過するのを目にした。そしてそこから飛び降りて来る人影が現れる。近付くに連れて三人はやがてその正体を知る。
「翼!?」
そう。魔導列車から飛び降りて来たのは山刀翼、またの名を白夜騎士打無。白を基調とした赤と黒の装飾が施されたコートを身に纏った黒髪の青年だった。右手には身の丈程もある魔戒槍を携えている。現在は魔戒騎士の子供達に騎士としての基本的な心得を教える修練場の教官をやっている若くも強く、優しい魔戒騎士である。
「翼まで呼んだのか。やっぱ邪美は抜け目無いな。」
零は感心した様子で何度も小刻みに頷いた。
「久し振りだな、零。凪も。」
「伝承にも、白夜騎士はホラーをも味方につけて操ったと言われているからね。本当はどうかは兎も角、人手は多いに越した事は無い。」
「妹の命の恩人の頼みとなれば、断るなどあり得ない。」
「じゃ、ブルトスレイヴは烈花、翼、獅子緒、そして私の四人が。終わり次第追い付く。凪と零は瞬天翔でイルマの所へ。良いね?」
全員は無言で頷いた。
「じゃあ、行く前にこれを。零。」
「ああ。」
零と凪はそれぞれポケットに手を突っ込んで、小さな長方形型の木片を取り出した。それには不思議な模様が白い背景に黒い色でで描かれている。
「あんたも、随分と古い風習を知ってるんだね。バルチャスの『騎士』の駒をくれるなんて。」
バルチャスとは魔界におけるチェスの様な遊びだ。駒を重ねて立てると、対局者同士がそれぞれ駒に念を込めて戦う。言わば精神力の強靭さを競う為の遊戯なのだ。勝った方の駒は負けた方の駒を破壊し、相手の駒が全て破壊される事で勝敗を決する。『バルチャスを制する者こそ、最強の魔戒騎士の資質あり』と言う格言まで存在する程なのだ。
「ただの験担ぎだ。それに、法師は時に騎士にも匹敵する力を発揮するから、侮れない。何かの役に立てば良いが。」
「立つさ。必ずね。」
邪美は自信たっぷりに言い切った。と言うのも、以前黄金騎士の若き継承者、冴島鋼牙も同じ事をして、結果的に彼女と魔導輪ザルバの命を救う事が出来たのだから、その言葉にも頷ける。
「じゃあ、頼むぞ。」
零と凪は瞬天翔で姿を消し、邪美達は零が渡したブルトスレイヴの探知機を頼りに行動を開始した。探知機が示した先は密集した森林地帯だ。
「ここだね。反応が強まってる。」
獅子緒は頻りに鼻をひくつかせ、顔をくしゃっと顰めた。
「嫌な臭いだ。ホラーの気配がする。」
そう言いつつ、魔戒斧を引き抜いて本来の大きさに伸長させた。頻りに辺りを見回す。
「お前、分かるのか?」
烈花も獅子緒の言動に倣って魔導筆を構える。
「山育ちだからな。夜目は利くし、鼻も犬並みなんだよ。結構な数がいるぞ。ブルトスレイヴの刃についたホラーの血が下級ホラーを呼び寄せていると思う。大した力は無い。」
「だが、大量に来られたらこの人数では太刀打ち出来ないぞ。」
翼も収納されていた魔戒槍の刃を出現させて構えた。」
「そうなる前に私達が倒せば良いだけさ。長期戦は不利になるから、アンタ達は烈火炎装なり何なりでケリをつけな。」
「翼、来るぞ!」
翼の手首についた腕輪の形をした魔導具ゴルバが嗄れた老人の声で警告を発する。次の瞬間、木陰から大漁の魔導文字が黒い水を噴き出す間欠泉の如く溢れ出した。そして大漁のホラーが姿を現す。黒い体に蹄の様な足、突出した角、肉食動物の様な鋭い歯———その姿は御伽話に登場する悪魔だった。
「うわー・・・・・凄い数。獅子緒、流石にこれはマズイんじゃない?」
「んな訳あるか。コイツらは全部雑魚だ、雑魚。」
ルルバの言葉に獅子緒は好戦的な笑みを浮かべた。
「行くぜ行くぜ行くぜ!!!」
「全く、うるさい奴だな。だが、確かにこの程度のホラーが幾ら来ようが意味は無い。」
「私達はゲートを封印する術を発動する。その間時間を稼いでくれない?」
「任せろ。」
「心得た。」
二人の魔戒騎士の得物は長物だ。それ故に大きく振り回す事で十数体のホラーを一気に倒す事が出来る。魔戒法師二人を背なに庇いながらホラーに挑んで行く。だが、いつまで経ってもホラーの数が減る気配は無い。
「だらだらとやっていると際限無いな。」
「行くぞ。烈火炎装で薙ぎ払う。」
翼は槍の穂先を空に掲げ、空中に円を描いた。その円は空間に裂け目を作り、牙が露出していない白い鎧を召喚した。背中にはマントの様な一対の背旗が靡き、槍もより長く、より豪奢な白夜槍に姿を変える。
「はいよ。」
獅子緒も魔戒斧を地面に叩き付け、円を描いた。獅子緒の体躯よりも一回り大きい金色の線が入った緑色の鎧が地面から飛び出し、獅子緒の体に纏わり付いた。
白夜騎士打無、獣身騎士戯牙。二人の魔戒騎士がホラー達の前に降り立った。打無は槍の穂先を力強く擦り、戯牙も地面との摩擦で魔導火を得物に纏わせた。緑色の炎と紫色の炎は闇に包まれた森を明るく照らし出した。炎を纏った白夜槍と獣大斧がホラー達を焼き尽くして行く。
「おい、まだか?!」
「後もう少し持ち堪えろ!」
獅子緒の言葉に烈花が叫び返す。
「翼よ、後十秒じゃ!」
「獅子緒、あんたももう時間が無い!さっさと切り上げちゃいなさい!」
「翼、お前、術使えるんだよな?」
「ああ。」
「この岩、全部飛ばせ!」
獣大斧を地面に叩き付けると、その衝撃で浮いた大小様々な岩が魔導火に包まれた。打無は耳に付いたピアスを弾き、白夜槍をホラーの群れに向かって渾身の力を籠めて投げ込んだ。槍は紫色の尾を引く彗星の如き速さで飛んで行き、そのすぐ後から緑色の炎を纏った岩が流星群となってホラーに降り注ぐ。時間切れとなる前に鎧を解除した。
「おい、まだか!?」
「行ける!」
「目ぇ潰れ、眩しくなるぞ!」
「「ハァッ!!!」」
邪美と烈花は同時に魔導筆を地面に突き立てた。すると、黄金の波紋が木々を包み込み、陰我が浄化されて行った。
「やったな。」
「あ〜あ〜。やっぱりこの程度じゃ、どうにもならないよね。僕がやるしか無いか。」
血錆色の刀を肩に担いだカズマが不気味な笑みを顔に貼り付けたまま木野梢から飛び降りて姿を消した。
「あれ?あの二刀流の騎士・・・・何て言ったっけ?風雲騎士だったかな?彼はどうしたの?てっきり僕を斬りに来ると思ってたんだけど。それに今回は綺麗なお姉さんもいるみたいだし。」
「・・・・・三人とも、先に進め。こいつは俺が倒す。イルマの奴が何の仕掛けも無しに待っているとは思えない、手薬練引いて待っている筈だ。頼む。俺にやらせてくれ。」
「分かった。」
「頼むぞ。」
翼の言葉に獅子緒は頷き、邪美を先頭に三人は先へ進もうとするが、カズマはその行く手を阻む。
「行かせると思」
だがカズマはそれ以上喋れなくなった。横合いから引き抜かれた巨木が矢の様な勢いで飛んで来て彼を押し潰したのだ。
「てめえの相手は俺だと言った筈だぞ。気ぃ取られてんじゃねえよ。」
「馬鹿力め・・・・」
「その剣、叩き折ってやる!」
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残す所後三話となりました。