「是は・・・もしや毒か!」
「ええ、すみません。実はもう・・・たって・・・居るのが限界で。」
ポサッ
龍翠はそう言いながら、冥琳の方に倒れる。
冥琳の腕の中で顔色がだんだんと悪くなって来る龍翠。
「ハアハア・・・美蓮さん・・・ゴメン・・・最後に・・・かあ・・・さんって・・・。」
そう言って龍翠は、弱弱しく眼を閉じた。
~呉伝中編~
「巫山戯ないでよっ!私だって、貴方を兄と呼びたいんだからっ!!まだ死なないでよっ!」
そう叫んで蓮華は龍翠にすがり付いて泣き出した。
「蓮華、落ち着きなさいまだ死んでないわ、気を失っているだけ。冥琳、穏と一緒に龍翠に使われた毒の症状と解毒方を調べて。思春は曲者の正体を調べて、分かったら直ぐに教えて。雪蓮は蓮華と一緒に龍翠のところに行きなさい。」
「・・・美蓮様は如何なさるのでっ!?」
と思春が聞こうと美蓮の顔を見ると、戦場に居るときの猛虎の顔になっていた。
「私?私は祭と一緒に部隊を編成して、出撃の準備よ。江東の虎の尾を握るなんで無様な真似した愚か者を駆逐する準備を・・・ね。」
「そうじゃの・・・。儂も腸(はらわた)煮えくり返っておるんでな。堅殿と共に出させてもらおうかのう。」
動物は須らくして尾に触れられるのを嫌う。
それが、虎の尾ともなれば噛み殺されても可笑しくない。
そして、今正に刺客を送った賊は猛虎の尾を握り締めてしまった。
思春だけでなくそこに居た者全員が、そう思った。
それからの全員の行動は早かった。
思春は龍翠が撃った賊を2人の元に向かうと、一人は額に矢が刺さり絶命していたが、一人は木から落ちて気絶しているだけだったので、元・川賊の流儀で吐かせ、
冥琳は穏に事の次第を伝え、書物を片っ端から調べ、
雪蓮と蓮華は龍翠を床に付かせ看病をし、
美蓮は祭と共に部隊を編成して賊の元へ向かった。
SIDE~美蓮&祭~
「聞けっ!朋友よっ!今から討伐に向かう賊は非道にも私と娘を暗殺しようとした!しかし、本日を持って我が家族となった者が盾となり、我らのかわりにその身に毒を受け、生死の境をさまよっているっ!皆信じよっ!我らが勝鬨を上げたその時、我が家族も毒を跳ね除けようっ!」
「良いかっ!勝鬨を上げ、堅殿のご子息の仇を取るのじゃっ!」
美蓮と祭の鼓舞に孫呉の兵が応える。
「――――――――――っ!!」
「全軍出陣っ!」
兵の雄叫びを聞いた美連は出陣した。
SIDE~冥琳&穏&亜莎~
同時刻、毒の種類が判明した。
「・・・冥琳様。」
「これ・・・でしょうか?」
「・・・ああ、肌の黄色化等の症状から見ても間違いない、しかし鴆毒とは・・・。」
鴆毒とは、黄疸のように体が黄色くなり、五臓六腑が爛れて死に至る猛毒だ。
「厄介な品物だが、少量だったから助かる見込みはまだある。穏、貴女は屋敷内の医者にこの毒の解毒薬が無いか聞いてきて。亜莎、貴女は街中の医者の元に鴆毒を解毒できる薬は無いか当たってくれ。頼んだぞ。」
「はい。おまかせください。」
「分かりました。」
そう言って亜莎は屋敷に控えていたの何人かの兵に事を伝えて兵と共に屋敷を出た。
おとなしく待っていようとも思ったが、冥琳も結局じっとしていられなくて、事を伝えた穏と共に屋敷を出た。
コンコン。
「失礼します。雪蓮様、蓮華様、小蓮様。水と布を持って参りました。」
「ありがとう、思春。」
龍翠の寝かせてある部屋にする事の無くなった思春が水の入った桶と布を持って入ってきた。
「っく・・・はぁ、うぅ・・・。」
「・・・・・・っ。」
龍翠の毒の苦痛を悪夢に魘される様して耐える姿を見て、思春は自分の不甲斐無さを感じた。
あの時何故、自分も反応できなかったのろう。
もし私も反応できていたら、龍翠殿は助かったのでは?
そんな思いが思春の中に渦巻いていく。
「思春、そんな思いつめた顔をするのはやめなさい。その思いで居るのは、貴女だけではないわ。蓮華、小蓮、貴女も龍翠が起きた時に思いっきり泣いてやる為に涙は取っておきなさい。」
「雪蓮姉様・・・。はい。龍翠兄さんが起きた時に取っておきます。」
「うん。いまなかない。りゅうすいおにいちゃんが起きたらい~っぱい泣いてやるんだから!」
そう言って、蓮華と小蓮は龍翠の左手を握って祈るように龍翠を見つめる。
そんな二人に倣い、雪蓮は包帯を巻いている右手を握り、思春は龍翠の吹き出た汗を拭う。
そうして、一刻が過ぎようとするとき不意に雪蓮が何かに気付いたように口を開く。
「そう言えば、龍翠って何時もこの腕輪と首飾りと耳飾と髪留めを使ってるわね。」
不思議そうに言う雪蓮に思わぬ人の声がかかる。
「龍翠殿曰く、過去の自分を捨てないためと言って・・・雪蓮様、蓮華様、どうかなさいましたか?」
どうして思春が知っているのかと言う事に驚く三人。
「何で思春が、そんな事知ってんの?」
「つい先日、手合わせしていて気になったので聞いてみたのですが?」
どうしてそんな事を聞くんだと言う顔をする思春。
「クスクス。貴女が他人に興味を持つなんて珍しいと、思ったけど。龍翠兄さん相手では仕方ないのかもしれないわね。」
そう言ってクスクス笑う蓮華。
「・・・今思うと、そうかもしれません。私は、龍翠殿が倒れて生まれて初めて目の前が暗くなった。失うと言う恐怖を味わいました。」
そう言って、思春は龍翠の汗を拭う。
そんな思春を見て、またもや度肝を抜かれた三人。
「おねちゃん、ししゅんが、かわっちゃったよ?」
でもそんな変化に何故か納得してしまうのも確かだ。
「いえ、変わったのは思春だけじゃないわ。龍翠兄さんが来てから、私達は変わった・・・いえ、変えられたのね。龍翠兄さんに。」
蓮華の言葉に雪蓮も続けて、
「そうね。龍翠は私達を変えた。でも、私達は龍翠を受け入れなかったら、変われないで居たかもしれないわ。」
そんな雪蓮の言葉に、思春も蓮華も妙に納得してしまう。
「龍翠。貴方はこんなに思われているんだから、勝手に死ぬなんてダメなんだからね。」
「あら、貴女にしてはずいぶんと素直ね雪蓮?」
と、扉の方から冥琳の声が聞こえたので皆の視線が自然とそちらに向かう。
そこには、冥琳と穏それとこの屋敷の者ではない男性が一人。
「冥琳殿、そちらの人は?」
「俺は、華陀。五斗米道の教えを受けた流浪の医師だ。手術をするから、ここは、俺に任してくれ。俺に治せねえ病は無い!」
そう言って拳を握る華陀を見て四人は心の底から助かったと思った。
同時刻、江東の虎は戦場に居た。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ブオォンッ!
ザシュッ!
雄叫びと共に銘剣『南海覇王』を振るう。
美蓮が一度振るうたびに、賊の首が4~6程宙を舞う。
その強さ怒りの牙を振るう猛虎だ。
そしてその近くには
「まだまだ、こんな物かぇ!?この程度で、孫家に喧嘩を売ったんじゃないかろう!?」
ヒュヒュンッ!
ドスッ!ドスッ!
此方も、後方支援のはずの多幻双弓から至近距離で矢を放ち、美蓮の後に続いている。
美蓮が『牙』なら此方は『爪』だろう。
祭が一度に放つ矢の数は、2~4本。
だが、全ての矢が敵の急所を射抜き確実に命を散らす。
荒々しく猛る牙と、正確無比の慈悲無き爪。
正しく、『侵掠如火』『動如雷震』二人は是を体現していた。
よって賊は一人残らずその生を閉じる。
それも、500ほどの数だったが戦が終わったのは一刻と経っていなかった。
「朋友よ!勝鬨を上げよっ!」
「吾等の勝利じゃっ!」
「―――――――――っ!!!」
手術をするからと、華陀を残し全員が部屋の外に居た。
「れんふぁおねえちゃん。りゅうすいおにいちゃん、げんきになるかなぁ?」
心配で仕方が無い涙目の小蓮の声に
「大丈夫。お医者様が必ず治してくださるわ。」
そう言って、小蓮を元気付ける蓮華。
だがそういった蓮華も心配でたまらなかった。
そうして、二刻半に差し掛かったとき突然部屋の中から、
「ぬぅぅぅっ!負けんっ!」
「「「「「「「!?」」」」」」」
なにやら奇声が聞こえる。
「・・・ねぇ、冥琳。手術って奇声を上げてする物なの?」
「私に振らないで・・・。」
訳が分からないといった風な雪蓮と冥琳。
今の奇声で泣き出しそうな小蓮を必死にあやす蓮華と思春。
「病魔退散っ!賦相成・五斗米道ォォォッ!!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇっ!!」
一際大きな奇声が響いて数秒後、
「ふぅ、手ごわい病魔だったぜ・・・。」
そう言って華陀は部屋から出てきた。
「成功・・・したの?」
不安そうに聞く雪蓮に華陀は笑顔で応えた。
「ああ、成功だ。だが、麻酔と疲労で4、5日目覚めないと思うが、とりあえずは平気だ。」
その応えに皆が其々の反応を示す。
声を上げて泣き出す妹二人を涙を、浮かべながらもあやす姉。
泣き崩れる御庭番を、同じく涙を浮かべて抱きしめる軍師殿。
お互いに、抱きしめあって大泣きする文官二人。
其々、歓喜の涙を流しているのは確かだった。
そんな中、華陀が不思議な顔をしている。
「(しかし、あの男の体は、どんな造りなっているんだ・・・。自然治癒力と体力だけでも、普通の人間の何倍もある。)」
龍翠はその生まれ持つ異常な自然治癒力と体力が無かったら死んでいたのだが。
「(こんなに喜んでいるんだし、言わないで置くか。)それと周瑜。」
「なんだ?」
涙目な週瑜に華陀は小声で
「あんたも、病魔の小さい物が付いてる。」
「っ!?」
そのことに驚きを隠せない冥琳。
「だから、この後時間が空いたら呼んでくれ。直ぐに治療をする。」
「分かった。」
そう言って、華陀は食堂の方に行った。
龍翠の手術が終わって、はや五日。
今、部屋に居るのは美蓮と祭だ。
「・・・もう5日ね。早く目覚めてよ。龍翠・・・。」
心配そうに龍翠の左手を握り言う美蓮。
「そうじゃぞ。何時までも寝ておると、儂が叩き起こすぞ。」
言ってる事は物騒な祭だが、龍翠の右手に握られている手と表情からして本気でないのが分かる。
二人ともが、戦から帰って来て、直ぐに龍翠の元へ行った。
そして龍翠が助かると聞いて、二人は大泣きした。
娘達が見た事も無いぐらいの号泣だった。
「儂等が涙を流して御主の回復を喜んだと聞いたら一体どんな顔をするじゃろうのう、美蓮殿?」
「そうね~。」
そう言って、祭は美連に問いかけてみる。
それに美蓮が考えていると、
「きっとこんな顔ですよ。」
グイッ!
「「きゃ!?」」
不意に、今まで眠っていた筈の龍翠が自分達を引っ張り寄せた。
そして目の前には龍翠の眼に涙を溜め、少しやつれた顔。
「・・・ばか。起きるのが遅いのよ・・・。」
「そうじゃ、儂等とも有ろう者が寝ずに看病をしてしまったのじゃぞ?」
そう言っている二人の目には今にも零れんばかりの涙が溜まっている。
「そうですね。如何すれば、許してくれます?」
そんな龍翠の問いに二人は顔を見合わせ、
「そうね~こうかな?ん。」
「ん!?」
そう言って美蓮は龍翠に触れるだけの口付けして唇を離し
「ふふふ。では次は儂じゃ。ん。」
「ん!?」
祭も、美蓮に倣い触れるだけの口付けをして唇を離す
行き成りの事に龍翠は眼を白黒させている。
「ふふふ。では、儂等は御主の飯を作ってくるでな。」
「今度は、此処に居なさいよ?」
そう言って、二人は龍翠の部屋を出て行く。
してやられたとも思うが、でもそれが心地よい。
「・・・やられましたね。こう言うのは僕の専売特許な・・・の・・・。」
はてと思う。
どうして自分は、そんな事を思うのだろう。
『此処』に来てからこんな事していないのに?
『ココデハナイ、ドコカ?』
そんな事が頭の中をグルグル回り始めるが
「考えるのは止めましょう。今は、今ある僕を信じていきましょう。」
そう言って、龍翠は居ろと言われたのだがジッとはしていられない。
龍翠は二人の後を追うようにして、食堂に向かった。
食堂に行く途中、龍翠は、
泣き喚く三人の姫に会ったり、
泣き付いて離れない軍師と御庭番に会ったり、
同じく、泣き付いて離れない文官に会ったりした。
だが皆に総じて言った。
『ありがとう』と・・・。
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5作目です!
でもまだ魏のお話に行かないんです。
もう少し呉の話していきます。
戦闘シーンもありますが短いです。
では、作品をお楽しみください。
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